火の国と雪の姫

さくらもっちん

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結ばれた絆の行方

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あれは白雪が、三歳の時だろうか。
炎天下の夏の日に、白雪は、家の庭先に、涼みに来ていた、子猫を、過失で、殺してしまう。

カチンコチンに固まった子猫は、氷の小さな塊《かたまり》の中、眼を見開いたまま、だった。単語ルビ
遠くでセミの声がして、朝の出来事だった、と、思う。

幼い頃の白雪には、力の制御が出来ずに、眼にしたもの、触れたものを、片っ端から、凍結させていた。
白雪は、白い大陸の産まれで、本来は、白い子だ。
しかし、白い大陸では、民が使う力は、風に、特化している。
……雪人は、産まれないのだ。

白雪の出生には、疑問が残されているが、育て親の茜は、親の出身を知っている。白い民の印を、持っていたからだ。
白雪は訳ありで、茜に、預けられたのだ。
山に捨てられたのは、表向きの話である。
無論、白雪は、事情を知らず、捨て子だと、信じている。
茜は、白雪に、事実を伏せていた。
白雪と、健在の白雪の親を、守る為だ。

白雪の力を、暴走から守る様にと、茜は、力を封じる事にした。
つまり、茜が、術を用いて、白雪の能力を、制御しているのだ。
それから、白雪の情操教育をした。
むやみに、生き物を、命を、奪わない事。守る為に、力を使う事。

結果、白雪は、華貴《かき》を守った。単語ルビ
皮肉にも、茜の教えが、白雪の中に、根付いている。
良い事ではあるが、時には、厄介だ。

そんな訳で、白雪は、親鳥の茜に、懐くと共に、従っている。

微笑ましい、白雪と茜の親子関係を、闘夜《とうや》は、幼い時から、側で、見守って来た。単語ルビ
時として、茜は、あえて、白雪を厳しく、叱る時もあるが、愛情があるゆえだ。
突き放されても、白雪は、茜を、慕《した》っている。単語ルビ

闘夜は、妹として、白雪に構い、大事にしてきた。
すごく甘やかして、甘やかして、甘やかして……、白雪から、うっとうしがられている。
仮にも、異性の白雪は、闘夜には、常に、危険から守る対象で、野犬に、噛まれたりもしていた。
全然、怒らない闘夜に、白雪は、呆れながらも、側にいる。

たまには、怒っても良いのにと、白雪に言われても、闘夜は、優しくした。
根底に、白雪に嫌われるのを、闘夜は、怖《おそ》れていた。単語ルビ
三人の関係性は、どこかいびつで、眼に見えない絆はある。

ミィンミィンミィンミン。

うるさいセミの大合唱に、白雪が、気だるそうに、眼を覚ました。
頭は重く、喉もカラカラだ。

ふと、カレンダーの日付を見ると、時が三日、進んでいた。

あれだ。茜に、力を封じられた反動が、身体に、影響を及《およ》ぼした。
無理に、力を使ったせいで、寝込んでいる。疲労が大きく、蓄積されたのだ。

軽く回復した、手足を動かすと、白雪が笑った。
苦労はしたが、華貴を、守れて、満足だ。
おまけに、友達が増えて、浮き浮きしていた。
茜に内緒だが、白雪は、外に、友達を作っていた。茜に言わないのは、白雪の存在を、友から、消されない様にだった。

ともかく、華貴は、茜の家に入れば、安全だ。
ここは、結界が、張られている。外部からの侵入は、難しい。

ニマニマする白雪の部屋に、闘夜が、やってきた。

「おはよう、白雪。……ねぼすけだな。心配したぞ」

畳に膝を落とし、目線を合わせると、闘夜が、白雪のほっぺたをつまんだ。

「うん。たくさん寝たから、もう、平気だよ。お腹が空いたぐらいかな。闘夜の顔をみたら、ホッとしたよ。いつも、ありがとう」

白雪は、素直な良い子だ。
そして、屈託なく笑う。警戒心もゼロだ。

「守るのは、当たり前だ。家族なんだから。それ以前に、オレは、個人的に、白雪の英雄みたいな位置に、居たいんだよ。か弱い妹を、全力で、守りたい。幸せにしたいんだ!」

強く両方の手を握られて、白雪が、凝り固まった。

「……嬉しいけどね。と、闘夜。求婚みたいだよ」

「……。……。……‼︎    ち、ち、違うんだ。間違った。幸せを見守りたいと、言うつもりが。あー、恥ずかしい。スス、スイカ、持ってくるよ」

全身、真っ赤の、闘夜を見て、白雪がクスクス笑った。白雪はどこか、嬉しそうだ。くすぐったい気分だった。
闘夜は、嘘がつけない。
白雪を、妹だけで、見ている訳では、無かった。

おそらく、さっきのは、本音も、入っている。


しばらく間があってから、闘夜が、頭を冷やして、戻って来た。
スイカが入った、お皿を、持って。キレイにカットしてある。

無言で、二人がスイカを食べると、闘夜が片付けてから、白雪の部屋に、戻ってきた。



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