火の国と雪の姫

さくらもっちん

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24 悪意ある者、善意ある者

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「灯《あかり》さんを殺すなんて、最低ですね……」単語ルビ

ふつふつとわいてくる、怒り。白雪が、大切に、灯の亡骸を抱《いだ》いた。単語ルビ
眼前のほむらに、反省の色は、見られない。むしろ、せせら笑っている。

「よもや、死霊使いの灯に、善意が、芽生えるなんてね。
今まで、平気で、人を殺してきたのに、お笑い種だ」

嫌な言い方だ。
死者を、完全に、愚弄《ぐろう》している。単語ルビ

言い返そうとした、白雪だが、体に、力が入らず、強い眠気を感じた。

「灯は、自分の役目は、果たした様だね。
さて、白雪。自由の利かない体で、どうする気だ?
その状態では、華貴《かき》を守れないよ」単語ルビ

鶯《うぐいす》の目を、意地悪に細めると、ほむらが白雪に、にじり寄った。単語ルビ

「貴方の思い通りには、させないわ。
絶対に、友を、渡したりしない!」

強気な態度を見せる、白雪だが、足にも、力が入らなくなっている。声がかすれた。
山小屋の壁に、どうにか、背中をもたれさせた、白雪。
危機なのは、確かだ。抵抗しようにも、まぶたが重い。

「白雪には、手出ししないで。もし危害を加えたら、私は、ここで死ぬわ」

白雪の前に立つと、華貴が、台所にあった包丁を、首筋に、当てている。

「ふぅ。厄介だな。依頼主は、貴方の捕獲を望んでいる。
個人的には、勝手にどうぞだが、良いよ。条件は飲む。
……ただでは、引かないよ。分かるだろう?」

包丁を降ろすと、華貴がチラリと、白雪に視線をやった。
歩き出そうとする、華貴の手を、白雪が、必死に、掴んだ。

「言いなりになっては、いけないよ。何をされるか、分からないわ」

懸命に引き止める白雪に、華貴が、迷いを覗《のぞ》かせた。単語ルビ

「白雪は最初から、ある意味で、貴方に、利用されただけだ。
言わば、被害者だよ。……けれど、見逃すには、惜しいな」

華貴の腕を、強めに掴んだ後で、ほむらの眼差しは、白雪にそそがれている。
意識が朦朧《もうろう》とする白雪の頬に、ほむらが、触れようとした。単語ルビ

かっとなった華貴が、もう片方の手に、包丁を握り変えると、ほむらの空いた手に、切りつけた。

「アナタに、白雪はあげないわ。この人は、私の恩人。そして、友だもの」

歯向かう華貴に、苛立ちを感じて、ほむらが、拳を振り上げた。

ヒュンヒュンヒュン。

ほむら目掛けて、無数のおびただしい量の火矢が、放たれた。

ほむらが怯《ひる》んだ隙に、左脚に軽傷を受けた、燈麗《ひれい》が、駆け付けた。単語ルビ
立て続けに、星芒《せいぼう》と、苺も、山小屋に、揃った。単語ルビ

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