雪降る夜はあなたに会いたい【本編・番外編完結】

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第一部

それぞれの決断 3

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 その抱きしめ方があまりにも優しくて、込み上げて来るものを逸らすように、目一杯背伸びをして自ら唇を重ねた。

 その時、持っていたバッグが落ちた音が響く。
 そんなことに構わず腕を創介さんの首に絡めて、必死にその唇をこじ開ける。
創介さんの手のひらが戸惑うように私の腰を掴んだ。

「ゆき……」

唇の角度を変える時に漏れ出た創介さんの声を消し去るように、また唇を塞ぐ。
 口内で懸命に舌を絡ませてみたけれど、創介さんが掴んだ腰を引き離し私の顔を見下ろした。

「今日はどうしたんだ……? 随分積極的だな」

創介さんが不思議に思っても仕方ない。
こんなことをしたのは、初めてなのだ。
 とにかく今は、何も考えずにいたかった。

「ダメ、ですか……? 私から、欲しがっちゃダメ……?」

息が上がって上擦った声。既にこんな声になっている自分を恥ずかしいと思うのに、何もかも忘れてしまいたいという気持ちの方が大きくて、創介さんに身体を寄せた。

「雪野に求められているって思うだけで、もうイキそうだ。もっと見せろよ。もっと、乱れたおまえを見せてくれ」

創介さんの掠れた声が、私の脳に響く。

「創介……さんっ」

一刻も早く、創介さんで一杯にして――。

創介さんを力の限りでベッドに押し倒した。

「そんなに、待てないのか?」
「待てません。めちゃくちゃにして。今すぐ」

感情なんていらないから。ただ乱暴に身体を繋げるだけでいい。

貪り合うように抱き合って、全てを忘れさせて――。

大きな身体にまたがって、創介さんを見下ろす。
 肩に手を置いて顔を近付けたら、素早く引き寄せられた。

「雪野……っ」

そのまま唇を塞がれる。私の後頭部に手のひらを這わせ、奥の奥まで届くように力の限り抑え込まれた。
 荒っぽい舌の動きにだけ意識を集中させる。

 創介さんも私を欲しいと思ってくれている。

 肩から滑り落ちて行く黒い髪が私の首にまとわりつく。その髪をかき上げる余裕もない。すべて吸い尽されそうなほどの力で舌を吸われて、私もその奥まで侵入させる。全部食べ尽されてしまいたい。

 創介さんの身体は、今は全部私だけのもの。ここには私と創介さんの二人しかいない。

 私の頭を押さえつけているのとは反対の手で、創介さんが私のコートをひったくる。ワンピースの背中のファスナーを勢いよく外され、肩を剥き出しにされる。

私も、創介さんの肌に触れたい――。

強烈に欲求が溢れて来る。激しい舌の動きを受けながら、夢中で創介さんのシャツのボタンを外して行く。

「……んっ、んん」
「ふっ……はっ……」

荒い吐息が広い部屋に響いて、明るい中で交わり合うのを曝け出す。
 ボタンを一つ一つ外していくのがもどかしくて、途中まででそのシャツの胸元を広げた。創介さんの引き締まって厚い胸板を手のひらに感じる。

この胸も、今だけは私のもの――。

 もっと触れたい。もっと深く。私の露わになった肩に、創介さんの唇が這う。唇が解放された瞬間に、声を上げた。

「あぁ……ん、い、やっ」

舐めるように滑る唇が、少しずつ胸元に近付いて行く。ずり下ろされたワンピースから、二つの膨らみが零れ落ちる。

 まだ触れられてもいないのに、物欲しげに蕾をとがらせている。知られたくないと一瞬思ってしまったけれど、今日の私にはこれくらいがいい。淫乱だと思われたっていい。

その分、乱暴にしてくれたらいい――。

創介さんの胸に唇を寄せようとした時、晒された私の膨らみに創介さんの手のひらが這う。

「あ……んっ」

張り詰めたように敏感になっていた膨らみは、ただ触れられただけでも背をのけぞらせるほどに快感が走る。恥ずかしく身をよじらせて、その膨らみを創介さんの手のひらに押し付ける。
 それなのに、創介さんの骨ばった手のひらは、全然乱暴になんか掴んでくれなくて。柔らかく揉みしだくように手のひらで包み込むから、私は何度も頭を振った。

「もっと、乱暴にして」
「雪野……っ」

私の背中に当てられた手のひらも、優しく撫でる。

「そう、すけさん……っ。そんな、優しくしないで……。優しく抱いたりしないでっ」

お願いだから。その手に感情を込めないで。ただ、欲望だけを灯してくれればいい。

「お願い……っ」

絞り出すように声を上げて、創介さんの身体に唇を滑らせ始める。
 創介さんの激しい欲情を引き出したくて、私はこれまで一度だってしたことのないことをする。既にシャツのボタンを全部はだけさせていた。その身体に顔を近付けて、舌を下へ下へと滑らせていく。

 コートさえ脱がせていない乱れた着衣のままで、私の舌が臍のところまで到達すると、熱に浮かされたみたいにベルトに手を掛けた。
 創介さんの身体がピクリと反応する。

「雪野、そんなこと、しなくていい――」

創介さんの掠れた声を無視してズボンのファスナーを下ろし、既に立ち上がっていたそれを口に含んだ。

「雪野……っ?」

創介さんの呻き声が聞こえて、その手のひらが私の肩を掴む。それでも、私は舌を動かすことを止めなかった。
 こうすることが、創介さんにとって気持ちいいことなのか分からないけれど、夢中になって舌を這わせる。口の中で大きくなっていくそれが口内を埋め尽くしそうになる。奥深くまで咥えたせいで、涙目になる。

「やめっ……、ゆき――っ」

創介さんから漏れる声が、乱れた吐息に混じる。その声を聞いているだけで、身体の中心が疼いて。

このままずっとしていたくなる――。

「きゃっ……!」

それなのに、突然私の身体は持ち上げられた。

「そんなことしなくていい。おまえは、俺が欲しかったんだろう?」

ゾクリとするような低く濡れた声が耳元で聞こえたかと思うと、クイーンサイズのベッドにうつぶせに寝かされる。そのまま後ろから抱きしめられた。

「いやっ……。あっ……あぁ……っ!」

首筋に、肩甲骨に、創介さんがいくつもキスを降らせるから、はしたなく大きな声を上げる。どれだけ喘いでも、創介さんは止めてはくれなかった。

 後ろから回された手のひらが私の膨らみを掴み、人差し指が真ん中をこねくり回すように押し潰す。ピンと立っているそこは、嬉しそうに更に尖らせて。
 脚の付け根に滑って行くもう片方の手のひらが、触れるか触れないかくらいの切なくなるほどのじれったさで私をいたぶる。
 この身体は快感を欲して、自ら腰を揺らしその手を押し付けようとする。

 もう呼吸をするのもままならなくて、ただ喘ぐだけだった。

「いつもの恥ずかしがる雪野も可愛いけど、自分からねだって乱れまくるおまえも可愛いな」

嫌と言うほど焦らされた秘部に、くちゅりと指をねじ込みながら創介さんが耳元で囁く。

「創介さん、もう、私――」

まだ指をいれられたばかりで、そこはほとんど愛撫もされていないというのに潤み切っている。早くのみ込みたいといやらしく濡らしている。

「どうしてほしいんだ? 言えよ、ちゃんとおまえの口で」

背中に感じる創介さんの体温。その顔を見たくて、懸命に顔を逸らした。口元からはだらしなく唾液を零して、欲しいと目で創介さんに訴える。

「何が、欲しい?」

それでも、創介さんは分かってくれなくて、意地悪な目で聞いて来る。

早く。お願いだから――。

「ほしい……、創介さんの」

我を忘れてそう言っていた。

 創介さんが切なげに顔をしかめると、一気に貫いた。

「はぁっ……、あぁっ」

熱くて硬いものが私の中に一杯に広がって行く。寸分の隙間もなくぴったりとくっついて最奥へと挿入された。

 奥の奥にある、私の理性を吹き飛ばす場所を、何度も何度も創介さんが突く。

「雪野は、ここがいいんだろ? 何度でも突いてやる……っ」

腰を高く突き出して、もっともっとと訴えて。恥ずかしい声を何度も上げる。

 快感に溺れてどこまでも堕ちて行きそうで、私は咄嗟に真っ白なシーツを噛みしめた。

「……いいんだ。声、我慢するな。もっと、乱れていい」
「……あぁ、そうすけ、さんっ」
「雪野の、いやらしい声、もっと聞かせろ……っ」

切羽詰まったその声が、また私の中をきゅっとさせる。

「いやぁ……、あ……んっ」
「気持ちいのか? 俺を締め付けて……可愛いな。おまえの声、聞いてるだけで、興奮する」
「創介さんっ、もっとくっつきたい」

もっと肌を重ねたい。もっと近くで、その声を聞きたい。

「俺も、雪野の顔を見ながらしたい」

抱き上げられて、創介さんの膝の上にまたがればそこに腰を落とされる。

 この体勢は、より深く奥まで入って来て、また私は声を上げた。
 いつの間にか着ていたものを脱いでいた創介さんの身体とぴたりとくっつき、何度も激しく腰を突き上げられる。創介さんの脚と手で激しく揺さぶられて、私の胸は淫らに上下する。

「そうすけ、さ――」

たまらなくなって名前を呼ぶと、唇を塞がれた。私の中をうねるようにさらに熱く大きくなっていく。

 これまで、何度も何度も抱かれて馴染んだ熱が、私の感情を掻き乱す。

 舌先だけで絡めていれば、一瞬たりとも離れないように執拗に舌を押し付け合う。唇の端から淫らに唾液が零れ落ちて行くのも構わない。
 腰を支えられて、胸は激しく揉みしだかれる。
 口も胸も身体の真ん中も同時に犯されて、もう意識が飛んでしまいそうなほどの快感に呑み込まれて。お互い、息を乱して、ひたすらにその身体に触れる。

「ゆき、の……、おまえは、俺だけのものだ。ずっと、この先も、俺だけのもの」

やめて――。

「ずっと、俺の傍に――」

そんなこと言わないで。

「そう、すけさん……っ!」

たまらなくなって私は声を張り上げた。そうでもしないと涙がこぼれてしまいそうで。食いしばるように涙をこらえて、創介さんの肩に顔を押し付けた。










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