46 / 196
第一部
それぞれの決断 3
しおりを挟むその抱きしめ方があまりにも優しくて、込み上げて来るものを逸らすように、目一杯背伸びをして自ら唇を重ねた。
その時、持っていたバッグが落ちた音が響く。
そんなことに構わず腕を創介さんの首に絡めて、必死にその唇をこじ開ける。
創介さんの手のひらが戸惑うように私の腰を掴んだ。
「ゆき……」
唇の角度を変える時に漏れ出た創介さんの声を消し去るように、また唇を塞ぐ。
口内で懸命に舌を絡ませてみたけれど、創介さんが掴んだ腰を引き離し私の顔を見下ろした。
「今日はどうしたんだ……? 随分積極的だな」
創介さんが不思議に思っても仕方ない。
こんなことをしたのは、初めてなのだ。
とにかく今は、何も考えずにいたかった。
「ダメ、ですか……? 私から、欲しがっちゃダメ……?」
息が上がって上擦った声。既にこんな声になっている自分を恥ずかしいと思うのに、何もかも忘れてしまいたいという気持ちの方が大きくて、創介さんに身体を寄せた。
「雪野に求められているって思うだけで、もうイキそうだ。もっと見せろよ。もっと、乱れたおまえを見せてくれ」
創介さんの掠れた声が、私の脳に響く。
「創介……さんっ」
一刻も早く、創介さんで一杯にして――。
創介さんを力の限りでベッドに押し倒した。
「そんなに、待てないのか?」
「待てません。めちゃくちゃにして。今すぐ」
感情なんていらないから。ただ乱暴に身体を繋げるだけでいい。
貪り合うように抱き合って、全てを忘れさせて――。
大きな身体にまたがって、創介さんを見下ろす。
肩に手を置いて顔を近付けたら、素早く引き寄せられた。
「雪野……っ」
そのまま唇を塞がれる。私の後頭部に手のひらを這わせ、奥の奥まで届くように力の限り抑え込まれた。
荒っぽい舌の動きにだけ意識を集中させる。
創介さんも私を欲しいと思ってくれている。
肩から滑り落ちて行く黒い髪が私の首にまとわりつく。その髪をかき上げる余裕もない。すべて吸い尽されそうなほどの力で舌を吸われて、私もその奥まで侵入させる。全部食べ尽されてしまいたい。
創介さんの身体は、今は全部私だけのもの。ここには私と創介さんの二人しかいない。
私の頭を押さえつけているのとは反対の手で、創介さんが私のコートをひったくる。ワンピースの背中のファスナーを勢いよく外され、肩を剥き出しにされる。
私も、創介さんの肌に触れたい――。
強烈に欲求が溢れて来る。激しい舌の動きを受けながら、夢中で創介さんのシャツのボタンを外して行く。
「……んっ、んん」
「ふっ……はっ……」
荒い吐息が広い部屋に響いて、明るい中で交わり合うのを曝け出す。
ボタンを一つ一つ外していくのがもどかしくて、途中まででそのシャツの胸元を広げた。創介さんの引き締まって厚い胸板を手のひらに感じる。
この胸も、今だけは私のもの――。
もっと触れたい。もっと深く。私の露わになった肩に、創介さんの唇が這う。唇が解放された瞬間に、声を上げた。
「あぁ……ん、い、やっ」
舐めるように滑る唇が、少しずつ胸元に近付いて行く。ずり下ろされたワンピースから、二つの膨らみが零れ落ちる。
まだ触れられてもいないのに、物欲しげに蕾をとがらせている。知られたくないと一瞬思ってしまったけれど、今日の私にはこれくらいがいい。淫乱だと思われたっていい。
その分、乱暴にしてくれたらいい――。
創介さんの胸に唇を寄せようとした時、晒された私の膨らみに創介さんの手のひらが這う。
「あ……んっ」
張り詰めたように敏感になっていた膨らみは、ただ触れられただけでも背をのけぞらせるほどに快感が走る。恥ずかしく身をよじらせて、その膨らみを創介さんの手のひらに押し付ける。
それなのに、創介さんの骨ばった手のひらは、全然乱暴になんか掴んでくれなくて。柔らかく揉みしだくように手のひらで包み込むから、私は何度も頭を振った。
「もっと、乱暴にして」
「雪野……っ」
私の背中に当てられた手のひらも、優しく撫でる。
「そう、すけさん……っ。そんな、優しくしないで……。優しく抱いたりしないでっ」
お願いだから。その手に感情を込めないで。ただ、欲望だけを灯してくれればいい。
「お願い……っ」
絞り出すように声を上げて、創介さんの身体に唇を滑らせ始める。
創介さんの激しい欲情を引き出したくて、私はこれまで一度だってしたことのないことをする。既にシャツのボタンを全部はだけさせていた。その身体に顔を近付けて、舌を下へ下へと滑らせていく。
コートさえ脱がせていない乱れた着衣のままで、私の舌が臍のところまで到達すると、熱に浮かされたみたいにベルトに手を掛けた。
創介さんの身体がピクリと反応する。
「雪野、そんなこと、しなくていい――」
創介さんの掠れた声を無視してズボンのファスナーを下ろし、既に立ち上がっていたそれを口に含んだ。
「雪野……っ?」
創介さんの呻き声が聞こえて、その手のひらが私の肩を掴む。それでも、私は舌を動かすことを止めなかった。
こうすることが、創介さんにとって気持ちいいことなのか分からないけれど、夢中になって舌を這わせる。口の中で大きくなっていくそれが口内を埋め尽くしそうになる。奥深くまで咥えたせいで、涙目になる。
「やめっ……、ゆき――っ」
創介さんから漏れる声が、乱れた吐息に混じる。その声を聞いているだけで、身体の中心が疼いて。
このままずっとしていたくなる――。
「きゃっ……!」
それなのに、突然私の身体は持ち上げられた。
「そんなことしなくていい。おまえは、俺が欲しかったんだろう?」
ゾクリとするような低く濡れた声が耳元で聞こえたかと思うと、クイーンサイズのベッドにうつぶせに寝かされる。そのまま後ろから抱きしめられた。
「いやっ……。あっ……あぁ……っ!」
首筋に、肩甲骨に、創介さんがいくつもキスを降らせるから、はしたなく大きな声を上げる。どれだけ喘いでも、創介さんは止めてはくれなかった。
後ろから回された手のひらが私の膨らみを掴み、人差し指が真ん中をこねくり回すように押し潰す。ピンと立っているそこは、嬉しそうに更に尖らせて。
脚の付け根に滑って行くもう片方の手のひらが、触れるか触れないかくらいの切なくなるほどのじれったさで私をいたぶる。
この身体は快感を欲して、自ら腰を揺らしその手を押し付けようとする。
もう呼吸をするのもままならなくて、ただ喘ぐだけだった。
「いつもの恥ずかしがる雪野も可愛いけど、自分からねだって乱れまくるおまえも可愛いな」
嫌と言うほど焦らされた秘部に、くちゅりと指をねじ込みながら創介さんが耳元で囁く。
「創介さん、もう、私――」
まだ指をいれられたばかりで、そこはほとんど愛撫もされていないというのに潤み切っている。早くのみ込みたいといやらしく濡らしている。
「どうしてほしいんだ? 言えよ、ちゃんとおまえの口で」
背中に感じる創介さんの体温。その顔を見たくて、懸命に顔を逸らした。口元からはだらしなく唾液を零して、欲しいと目で創介さんに訴える。
「何が、欲しい?」
それでも、創介さんは分かってくれなくて、意地悪な目で聞いて来る。
早く。お願いだから――。
「ほしい……、創介さんの」
我を忘れてそう言っていた。
創介さんが切なげに顔をしかめると、一気に貫いた。
「はぁっ……、あぁっ」
熱くて硬いものが私の中に一杯に広がって行く。寸分の隙間もなくぴったりとくっついて最奥へと挿入された。
奥の奥にある、私の理性を吹き飛ばす場所を、何度も何度も創介さんが突く。
「雪野は、ここがいいんだろ? 何度でも突いてやる……っ」
腰を高く突き出して、もっともっとと訴えて。恥ずかしい声を何度も上げる。
快感に溺れてどこまでも堕ちて行きそうで、私は咄嗟に真っ白なシーツを噛みしめた。
「……いいんだ。声、我慢するな。もっと、乱れていい」
「……あぁ、そうすけ、さんっ」
「雪野の、いやらしい声、もっと聞かせろ……っ」
切羽詰まったその声が、また私の中をきゅっとさせる。
「いやぁ……、あ……んっ」
「気持ちいのか? 俺を締め付けて……可愛いな。おまえの声、聞いてるだけで、興奮する」
「創介さんっ、もっとくっつきたい」
もっと肌を重ねたい。もっと近くで、その声を聞きたい。
「俺も、雪野の顔を見ながらしたい」
抱き上げられて、創介さんの膝の上にまたがればそこに腰を落とされる。
この体勢は、より深く奥まで入って来て、また私は声を上げた。
いつの間にか着ていたものを脱いでいた創介さんの身体とぴたりとくっつき、何度も激しく腰を突き上げられる。創介さんの脚と手で激しく揺さぶられて、私の胸は淫らに上下する。
「そうすけ、さ――」
たまらなくなって名前を呼ぶと、唇を塞がれた。私の中をうねるようにさらに熱く大きくなっていく。
これまで、何度も何度も抱かれて馴染んだ熱が、私の感情を掻き乱す。
舌先だけで絡めていれば、一瞬たりとも離れないように執拗に舌を押し付け合う。唇の端から淫らに唾液が零れ落ちて行くのも構わない。
腰を支えられて、胸は激しく揉みしだかれる。
口も胸も身体の真ん中も同時に犯されて、もう意識が飛んでしまいそうなほどの快感に呑み込まれて。お互い、息を乱して、ひたすらにその身体に触れる。
「ゆき、の……、おまえは、俺だけのものだ。ずっと、この先も、俺だけのもの」
やめて――。
「ずっと、俺の傍に――」
そんなこと言わないで。
「そう、すけさん……っ!」
たまらなくなって私は声を張り上げた。そうでもしないと涙がこぼれてしまいそうで。食いしばるように涙をこらえて、創介さんの肩に顔を押し付けた。
2
あなたにおすすめの小説
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
Emerald
藍沢咲良
恋愛
教師という仕事に嫌気が差した結城美咲(ゆうき みさき)は、叔母の住む自然豊かな郊外で時々アルバイトをして生活していた。
叔母の勧めで再び教員業に戻ってみようと人材バンクに登録すると、すぐに話が来る。
自分にとっては完全に新しい場所。
しかし仕事は一度投げ出した教員業。嫌だと言っても他に出来る仕事は無い。
仕方無しに仕事復帰をする美咲。仕事帰りにカフェに寄るとそこには…。
〜main cast〜
結城美咲(Yuki Misaki)
黒瀬 悠(Kurose Haruka)
※作中の地名、団体名は架空のものです。
※この作品はエブリスタ、小説家になろうでも連載されています。
※素敵な表紙をポリン先生に描いて頂きました。
ポリン先生の作品はこちら↓
https://manga.line.me/indies/product/detail?id=8911
https://www.comico.jp/challenge/comic/33031
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
財閥御曹司は左遷された彼女を秘めた愛で取り戻す
花里 美佐
恋愛
榊原財閥に勤める香月菜々は日傘専務の秘書をしていた。
専務は御曹司の元上司。
その専務が社内政争に巻き込まれ退任。
菜々は同じ秘書の彼氏にもフラれてしまう。
居場所がなくなった彼女は退職を希望したが
支社への転勤(左遷)を命じられてしまう。
ところが、ようやく落ち着いた彼女の元に
海外にいたはずの御曹司が現れて?!
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
深冬 芽以
恋愛
交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。
2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。
愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。
「その時計、気に入ってるのね」
「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」
『お揃いで』ね?
夫は知らない。
私が知っていることを。
結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?
私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?
今も私を好きですか?
後悔していませんか?
私は今もあなたが好きです。
だから、ずっと、後悔しているの……。
妻になり、強くなった。
母になり、逞しくなった。
だけど、傷つかないわけじゃない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる