雪降る夜はあなたに会いたい【本編・番外編完結】

文字の大きさ
45 / 196
第一部

それぞれの決断 2

しおりを挟む


「……俺も、食いたかったな。おまえの作った焼きそば」

ぽつりとそう呟いた創介さんに、またも私の胸は疼く。本当にそれは、いつもの創介さんで。そんな創介さんと最後の時を過ごしたいと願っていたから、神様が私の願いを叶えてくれたのだろうか。そんな馬鹿なことを考えてしまう。

「創介さんに食べさせられるようなものではありません。どうせ弟のだし、本当に適当です」

どういうつもりで創介さんは私と会おうと思ってくれたのか――。

「あの、今日は、ありがとうございます」
「ん? 何が?」
「せっかくのお休みなのに、こうして時間を作ってくれて」
「そんなことか。この前は、勝手に取り乱しておまえに酷いことをしたからな。その詫びも兼ねてる」

創介さんが、不器用な笑みを浮かべた。

「……嬉しいです。本当に」

私がこの三年間で想いを募らせたように、創介さんも私への情がそうさせるのか。
 あの雪の日、創介さんが私に『ごめん』と言った。それは、私といながら縁談を進めていた創介さんなりの苦悩からなのかもしれない。

 その苦悩から、もう解き放ってあげなければならない。創介さんも、そして私も。

「雪野……?」

俯いて黙ったままの私に不思議に思ったのか、創介さんが私を呼びかける。いろんな思いを飲み込むように、明るい声を出した。

「今日は、どこに?」
「行きたいところはあるか? 遠出してもいいし、何か食べに行くのでも。今日は雪野の行きたいところに連れて行くよ」
「だったら……二人きりになれるところがいいです。他に、誰もいないところ」

創介さんと私の二人だけの場所に行きたい。他に行きたい場所なんてない。そう言った私の顔は、きっと、酷く悲壮感に満ちた顔をしていただろう。

「え……? それは――」

そんな私に、創介さんが驚いたような声を上げた。

「お願いします」
「……わかった」

何も聞かずに創介さんはそう言ってくれた。踏み込んだアクセルが、車を加速させる。


 六本木駅からすぐの高層ビル。世界的チェーンの高級ホテルだった。奇しくもそこは、創介さんと縁談のお相手を見つめた場所だった。

 まだ太陽が高いうちから、私はなんてことをお願いしたのだろう。もう一人の自分がそう思うけれど、もう一人の自分は、どうしようもないほどに創介さんを求める。
 じりじりと込み上げる哀しみと、一刻も早く触れたいと思う気持ちで何も言葉に出せずにいた。
 チェックインを済ませエレベーターが昇っていく間、すぐ隣にいる創介さんの体温が私の感情を昂ぶらせた。

 だから、部屋の扉が閉じた瞬間にその広い背中に飛びついていた。

「雪野……?」

他愛もない会話をしたいと思った。でも、そんな器用なこと、私にできるはずもなかったのだ。創介さんが私に向けてくれる優しい声なんて、聞いていられるはずもない。

「……このまま、抱いてください」

必死に創介さんの胸に回した腕に力を込める。苦しくて、その分力が入る。創介さんの背中に顔を押し付けた。

「雪野、どうした?」

その背中に力が入ったのに気付く。

「どうもしません。私から、こんなことを言うのは嫌ですか……? はしたないと思いますか……?」

声が震えてしまう。

どうかお願いだから、何も聞かずに抱いて――。

「……思わねーよ。俺は、いつでも雪野が欲しいって思ってるんだから」

創介さんは、私の腕を振り解くと、強く抱きしめた。

しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

溺愛ダーリンと逆シークレットベビー

吉野葉月
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。 立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。 優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?

灰かぶりの姉

吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。 「今日からあなたのお父さんと妹だよ」 そう言われたあの日から…。 * * * 『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。 国枝 那月×野口 航平の過去編です。

元カノと復縁する方法

なとみ
恋愛
「別れよっか」 同棲して1年ちょっとの榛名旭(はるな あさひ)に、ある日別れを告げられた無自覚男の瀬戸口颯(せとぐち そう)。 会社の同僚でもある二人の付き合いは、突然終わりを迎える。 自分の気持ちを振り返りながら、復縁に向けて頑張るお話。 表紙はまるぶち銀河様からの頂き物です。素敵です!

肉食御曹司の独占愛で極甘懐妊しそうです

沖田弥子
恋愛
過去のトラウマから恋愛と結婚を避けて生きている、二十六歳のさやか。そんなある日、飲み会の帰り際、イケメン上司で会社の御曹司でもある久我凌河に二人きりの二次会に誘われる。ホテルの最上階にある豪華なバーで呑むことになったさやか。お酒の勢いもあって、さやかが強く抱いている『とある願望』を彼に話したところ、なんと彼と一夜を過ごすことになり、しかも恋人になってしまった!? 彼は自分を女除けとして使っているだけだ、と考えるさやかだったが、少しずつ彼に恋心を覚えるようになっていき……。肉食でイケメンな彼にとろとろに蕩かされる、極甘濃密ラブ・ロマンス!

身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~

椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」 私を脅して、別れを決断させた彼の両親。 彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。 私とは住む世界が違った…… 別れを命じられ、私の恋が終わった。 叶わない身分差の恋だったはずが―― ※R-15くらいなので※マークはありません。 ※視点切り替えあり。 ※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。

あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜

瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。 まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。 息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。 あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。 夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで…… 夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。

あまやかしても、いいですか?

藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。 「俺ね、ダメなんだ」 「あーもう、キスしたい」 「それこそだめです」  甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の 契約結婚生活とはこれいかに。

愛のかたち

凛子
恋愛
プライドが邪魔をして素直になれない夫(白藤翔)。しかし夫の気持ちはちゃんと妻(彩華)に伝わっていた。そんな夫婦に訪れた突然の別れ。 ある人物の粋な計らいによって再会を果たした二人は…… 情けない男の不器用な愛。

処理中です...