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第一部
それぞれの決断 2
しおりを挟む「……俺も、食いたかったな。おまえの作った焼きそば」
ぽつりとそう呟いた創介さんに、またも私の胸は疼く。本当にそれは、いつもの創介さんで。そんな創介さんと最後の時を過ごしたいと願っていたから、神様が私の願いを叶えてくれたのだろうか。そんな馬鹿なことを考えてしまう。
「創介さんに食べさせられるようなものではありません。どうせ弟のだし、本当に適当です」
どういうつもりで創介さんは私と会おうと思ってくれたのか――。
「あの、今日は、ありがとうございます」
「ん? 何が?」
「せっかくのお休みなのに、こうして時間を作ってくれて」
「そんなことか。この前は、勝手に取り乱しておまえに酷いことをしたからな。その詫びも兼ねてる」
創介さんが、不器用な笑みを浮かべた。
「……嬉しいです。本当に」
私がこの三年間で想いを募らせたように、創介さんも私への情がそうさせるのか。
あの雪の日、創介さんが私に『ごめん』と言った。それは、私といながら縁談を進めていた創介さんなりの苦悩からなのかもしれない。
その苦悩から、もう解き放ってあげなければならない。創介さんも、そして私も。
「雪野……?」
俯いて黙ったままの私に不思議に思ったのか、創介さんが私を呼びかける。いろんな思いを飲み込むように、明るい声を出した。
「今日は、どこに?」
「行きたいところはあるか? 遠出してもいいし、何か食べに行くのでも。今日は雪野の行きたいところに連れて行くよ」
「だったら……二人きりになれるところがいいです。他に、誰もいないところ」
創介さんと私の二人だけの場所に行きたい。他に行きたい場所なんてない。そう言った私の顔は、きっと、酷く悲壮感に満ちた顔をしていただろう。
「え……? それは――」
そんな私に、創介さんが驚いたような声を上げた。
「お願いします」
「……わかった」
何も聞かずに創介さんはそう言ってくれた。踏み込んだアクセルが、車を加速させる。
六本木駅からすぐの高層ビル。世界的チェーンの高級ホテルだった。奇しくもそこは、創介さんと縁談のお相手を見つめた場所だった。
まだ太陽が高いうちから、私はなんてことをお願いしたのだろう。もう一人の自分がそう思うけれど、もう一人の自分は、どうしようもないほどに創介さんを求める。
じりじりと込み上げる哀しみと、一刻も早く触れたいと思う気持ちで何も言葉に出せずにいた。
チェックインを済ませエレベーターが昇っていく間、すぐ隣にいる創介さんの体温が私の感情を昂ぶらせた。
だから、部屋の扉が閉じた瞬間にその広い背中に飛びついていた。
「雪野……?」
他愛もない会話をしたいと思った。でも、そんな器用なこと、私にできるはずもなかったのだ。創介さんが私に向けてくれる優しい声なんて、聞いていられるはずもない。
「……このまま、抱いてください」
必死に創介さんの胸に回した腕に力を込める。苦しくて、その分力が入る。創介さんの背中に顔を押し付けた。
「雪野、どうした?」
その背中に力が入ったのに気付く。
「どうもしません。私から、こんなことを言うのは嫌ですか……? はしたないと思いますか……?」
声が震えてしまう。
どうかお願いだから、何も聞かずに抱いて――。
「……思わねーよ。俺は、いつでも雪野が欲しいって思ってるんだから」
創介さんは、私の腕を振り解くと、強く抱きしめた。
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