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第二部

立ちはだかる試練 4

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 貫く快感のあと、この身体はくたりと果てた。

「雪野……」

汗ばんだ顔にへばりついた私の髪を優しくかき上げると、創介さんがそっとキスをした。さっきまでの激しい動きが嘘のような優しいキスに、今度は胸が締め付けられる。

「もう、余計な不安は、消えたか……?」

まだ整わない呼吸の合間で、優しい目で私に問い掛けた。

「最初から、不安なんてなかったはずなのに。変なこと言って、ごめんなさい……」

創介さんの切れ長の鋭い目が優しく細められれば、それだけで幸せを感じる。その目を見られるだけで幸せなのに、私はどうして不安なんて感じてしまったんだろう。

「変なことでも何でも構わない。今日みたいに思ったことは言えばいい。その方が、俺は嬉しいよ。それに――」

まだ息の上がる私の身体を抱き寄せ、少し汗ばんだ創介さんの胸に抱いてくれた。

「さっきのあの発言は、かなり、キた」

嬉しそうにそう言うから、私はまた不思議に思う。

「雪野が、女がどうのとか言い出すの、初めてだろ?」
「そう、ですか……?」

柔らかく私を抱きしめながら、創介さんが言った。

「――今日、神原と接して、それで急にあんなこと言い出したんじゃないのか?」

創介さんの指摘に、自分でも何かがストンと胸に落ちた。

やっぱり、そうなのかな――。

余計なことを考えないようにしようと決めたつもりでも、心の中ではまだ何かが残っていた。だから、無意識のうちにあんなことを言ってしまったのかもしれない。

「もしそうだったら、雪野には悪いが、俺はかなり嬉しい」
「どうして?」

私の背中をとんとんと優しく叩く。まるで、小さい子をあやしているみたいに。

「心配したんだろう? 神原に目が行くんじゃないかって。雪野が他の女のことで心配してくれたのなんて、初めてのことだな。女の嫉妬なんて見苦しいと思っていたけど、おまえにされるのはたまらなく楽しい」
「そんなっ!」
「仕方ない。雪野が可愛いことを言うから悪いんだ。あんな、意味不明な嫉妬の仕方があるか」
「もう、さっきの言葉は忘れてください!」

創介さんの胸を叩く。でも、その手を創介さんの手のひらが包み込むようにして止めた。

「――てっきり、俺があまりに求め過ぎて、雪野がうんざりしているんじゃないかと心配になったんだぞ? そんなところに、おまえにあんなこと言われたら、余計に嬉しくて」
「創介さん……」

私が、拒んだように思ってしまったということ――?

思わず創介さんの胸から顔を上げると、少しだけ歪んだ笑みがそこにあった。

「俺は、雪野が思っている以上におまえに惚れてるんだ。そのうち、雪野を困らせてしまうかもしれない。俺も不安だよ。雪野に嫌われたらどうしようかって」
「そんなこと、あるわけないです!」
「今はそうかもしれないけど、そのうち俺に愛想を尽かすかもしれないだろ? 俺はおまえのことになると見境がなくなるからな」

創介さんが私をきつく抱きしめた。

「――だから、おまえも無理はしないでくれ」

創介さんの腕に力が込められる。

「何よりも雪野が大事だから」
「創介さん……」
「雪野の心が離れてしまうことが、何より怖い」

きつく抱きしめられた腕の中で私は激しく頭を横に振った。

「何か不安なこと嫌なことがあったら、すぐ俺に伝えてくれ。雪野に少しの苦しみも与えたくない。全部、俺の手で解消していきたいんだ」

こんなに愛してもらえているのに、私は自分を信じられないのだろうか。何に怯え、何を怖いと思っているのか。

「雪野の口から出る言葉なら、どんなものでも可愛いと思う」
「そんなこと――」
「そうなんだよ。それほど、おまえに狂ってるってことだ」

今日の創介さんはいつにも増して言葉がストレートだ。それはきっと、私があんなことを言ったから。私の不安を全部取り除こうとしてくれてる。

「雪野と出会って五年経っても変わらないんだ。もう、これは中毒だな。一生抜け出せない中毒だ。雪野中毒」
「創介さん……」
「抜け出したくない中毒だ」

そんな優しいことばかり言って、私を甘やかしてくれる。

「雪野」

真剣になった声が頭上から降って来る。

「俺の目に映るのは、おまえだけだ」
「創介さん、ありがとう」

愛してくれてありがとう――。

その胸に顔を埋める。この匂いも、肌も、愛おしくてたまらない。この人を守るためなら、何だってしてみせる。
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