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《番外編 新しい常務がやって来た!!》
1.広報室広報誌係 広岡広史の場合 ⑫
しおりを挟む「次は――」
次のは、重量級だな、おい。
これ、俺の口からは言いたくない。言えないっ――。
そんな俺を察したのか、三井が顎で俺に指図して来る。
まさにあいつの質問だ。
「本当に、申し訳ございません」
俺は、最初に深々と頭を下げた。そして勢いに任せて質問を放った。
「お、奥様の、どんなところを一番可愛いと思いますか――」
「ちょ、ちょっと待って」
初めての、榊常務からの”待った”が出た。
「これは、実は、俺に対する何かの罰ゲームだったりするのか? 一体あとどれくらい続くんだ?」
「え、ええと、まだ、もう少しあります――」
「まだ、妻に関することが続くのか? これ、社内報の記事にするんですよね? こんな砕けた内容でいいのか?」
常務がいた丸菱グループ本社なら考えられないだろう。
本当にふざけている。
「いいんです! 社員皆が常務のことを知りたいと思っています。社員が知りたいと思っていることを掲載する。それでこそ、社内の広報誌だとは思いませんか? 常務ではあっても同じ会社で働く方。例え会うことはなくても、身近な人なんだと思いたいんです!」
もはや広報誌係でもない三井の意味不明な演説が効いたのか、榊常務が、額に手をやりながら懸命に言葉にした。
「――分かった。妻の可愛いところだな?」
「はい。奥様の可愛いと思われるところです!」
三井が身を乗り出す。
「私にとって、妻は、その存在自体が可愛いというか、彼女のすることはなんでも可愛いと思う。笑っても怒っても、黙っていても話していても、どんな姿も可愛い。そうだな、私の趣味は、妻だと言ってもいい。それくらい、可愛い」
常務はそう言い終えると、手のひらで顔を覆い出した。
確かに、心では思っていてもそんなことを言うのは、男ならなおさら気恥ずかしいに決まっている。
でも、それでも、そう言える常務を、俺はかっこいいと思った。
「――常務! もう、女子社員をどうされるおつもりですか? 皆、ぶっ倒れてしまいますよ」
三井が悲鳴に近い声を張り上げる。
「なら、ここはカットしてくれ」
「カットなんてするはずがありません! 黒字太文字にして掲載します! 特に、『妻が趣味』のところは!」
「おまえはいつから広報誌係になったんだ!」
そう言いながらも、男の俺でも惚れてしまいそうになるのだから、三井がそんな風に興奮するのも無理はない。なんて気がしてきたから困る。
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