一条春都の料理帖

藤里 侑

文字の大きさ
50 / 893
日常

第五十話 わがまま飯

しおりを挟む
 今日は朝からセミがやかましい。

 カンカン照り、入道雲、蝉時雨、クーラー。これでもかというほどに夏を凝縮した日だ。十倍希釈ぐらいしてくれていいんだけどなぁ。

『不要不急の外出は控え、こまめな水分補給を――』

 気象予報士もそう言ってることだし、今日は一日家にいよう。

 いつもであれば何をしようか考えるのだが、今日はもうやることは決めている。というか、昨日からずっと準備してきた。

 今日は食いたいもんを食いたい時にただ食う日だ。

 特に理由はない。ただ、たまにそうしたくなる時がある。しょっちゅうはできないが、せっかくの長期休みだし、そういう日があってもいいだろう。

 たいていは食いたいもんを食いたいときに食ってるんだが、なんかそれとはちょっと違う。普段はお菓子とかは我慢するというか、悩んだら買わない、というスタンスを取っている。今日は逆だ。悩んだもんは全部食う。

 そして、手間を惜しまない。手の込んだものが食べたくなったらとことん手をかけるつもりだ。

「さて、と」

 朝飯はサバの塩焼きと、カボチャともやしのみそ汁。そしていんげんのごま和え。しかもサバはただの塩サバではなく、昆布締めの柚子風味だ。スーパーで見つけて食いたかったから買った。ご飯はもちろん炊きたてだ。

「いただきます」

 まずはみそ汁を一口。カボチャともやしのみそ汁は昔っから好きだ。ほろっとした食感のカボチャは味噌の風味と相まって、煮物とはまた違った風味がする。もやしもしゃきっとしていてみずみずしい。

 そしてサバ。パリッとした皮目に箸を入れれば、否が応にもテンションが上がる。ほくっとしたような身の部分を食べてみる。昆布締めしているからなのか、塩気がマイルドだ。柚子の風味は……おぉ、結構するな。めっちゃ柚子じゃん。正直ちょっと期待してなかったけど、いい風味。

 さて、脂ののった部分をいただく。じゅわーっとうま味が染み出す、というかあふれ出してくる。ご飯をそこにかきこめば理想的だ。

 いんげんの胡麻和えは結構好きで、冷凍食品のやつを弁当に入れることもある。豆の味とすりごま、醤油の味がよくなじんでおいしい。

 朝からこんな最高の飯が食えるとか、この時点でほぼ満足だ。しかし今日は己の食欲に素直になる日だ。さて、次は何を食べようか。

「ごちそうさまでした」



 腹ごなしにうめずの相手をしたら、ちょっと小腹が空いた。うめずは満足したようにソファで眠っている。

 昨日のうちにお菓子は買っておいた。ポテチ、チョコレート、アイス、その他もろもろ。ジュースもより取り見取り、コーラ、サイダー、オレンジ、メロンソーダ……使うコップは使い捨て。かち割り氷をたっぷり入れて、メロンソーダを注ぎ入れる。

 わざとらしい緑色が目にまぶしい。普段なかなか買わないから新鮮だ。そして今日はそこにアイスクリームをのせてクリームソーダにする。なんと今日は缶詰のサクランボも買ってきている。刺激的な緑に少しとろけたクリーム色、そしてシロップ漬けの赤。

 想像していたクリームソーダだ。まずはアイスを崩さずにジュースを飲む。

 シュワッとした甘さにぱちぱちはじける爽快感。メロンソーダは炭酸が少し強い気がする。そこにアイスを一口。若干表面が凍っている。シャリシャリしていながらも、ちゃんとクリーミーでいい。

 少し混ぜて飲んでみる。おわー、甘ぁ。なんか歯が浮いた感じするけど、おいしい。サクランボの甘さがかすみそうだ。でもシロップ漬けの威力たるや。うにうにした食感、わずかな歯ごたえ。これを食べると運動会を思い出す。弁当に絶対入ってたんだよなぁ。

 そして余ったアイスはポテチと一緒に食べる。うすしおとコンソメ、どっちもおいしい。うすしおはイモとアイスって感じで、コンソメはしょっぱさと甘さのバランスがちょうどいい。

 ナッツ入りのチョコレートをアイスに埋め込んでみる。一口で食べるにはちょっと量が多いか……うお、やっぱキーンッてする。チョコレートのとろける甘さととアイスのすっきりとしたバニラの風味にナッツの香ばしさがおいしい。

 クリームソーダを飲み干した後の氷にはアイスが少し雲の様にまとわりついている。これをなめるのがちょっと楽しみだ。水っぽい甘さだけど、癖になる。

「……さて」

 冷えた口にポップコーン。フライパンで作ったやつだ。ポンポン、ボンボンはじける様子は見ていて飽きなかった。塩味とカレー味。塩は安定のおいしさで、カレーはスパイスの風味が強くて食欲を増進させる。あ、そういや今度映画の時に食うんだったか。ま、いっか。

 そういえば撮り溜めていたドラマがあった。普段はあまりドラマを見ないし、ましてや今回録画したのは医療ものだ。いつもであれば医療ものは特に見ない。

 しかし、アニメの録画予約を消し忘れてたまたま録画されていたのだが「せっかく撮れてるしもったいねえな」という気持ちで見てみたら、これが面白かった。なんとなく展開が少年漫画っぽくてかっこいいんだ。

 新しいお菓子とジュースを開けて、準備万端だ。

 ちなみに用意したお菓子はカステラ、ジュースはオレンジだ。カステラは底にザラメが引いてあって、紙をはがすのがちょっと難しい。ふわんとした生地にジャリッとしたザラメ。うんうん、このザラメが好きなんだ。

 しかも今日は普通のやつだけじゃなくて、抹茶とチョコも買った。抹茶は風味がよく、チョコは意外とほろ苦くてさっぱりしている。むしろ抹茶の方が甘いんじゃなかろうか。

 さて、再生再生。録画はCMを飛ばせるのがいいよな。



「あ~、よく見た」

 ぶっ通しで見たからちょっと疲れた。ぐーっと伸びをして立ち上がる。

 昼飯はホットサンドを食べた。挟んだのはキャベツの千切りとレトルトのハンバーグ。味は照り焼きだ。かりっともちっと香ばしい食パンにシャキッとしたキャベツ。ハンバーグは甘辛くておいしかった。パンにもたれが染みてよかった。

 そしてもう一つ作ったのはチーズインハンバーグ。こっちはデミグラスソースである。トロっとしているというより、ほろほろっとした感じのチーズは結構香りが強かった。

 さて、お菓子やら何やらを食べていたので晩飯は控えめに――するわけもなく、しっかり腹が減っているのでがっつり食べる。

 今日の晩飯はから揚げ。もう下ごしらえはしている。キャベツの準備もばっちりだ。しかも今日は、もも肉と胸肉、どっちも準備した。贅沢だなあ。

 やっぱり揚げている途中に食べたくなるのだ。それも仕方ないよな。だってニンニクと醤油のにおいがスゲーんだもん。ちょっと一つ味見。……んー、おいしい。もも肉はめちゃくちゃジューシーだ。胸肉はさっぱり、肉の味がよく分かる。

 あー、早くご飯と一緒に食べたい。

 盛り付けは手際よく。今日はから揚げとご飯で腹を満たしたいのでみそ汁とかはなしである。

「いただきます」

 そのまま、まずはもも肉のから揚げ。カリッと香ばしい衣、プルンと、かつ、もっちりとした身。肉汁があふれ出し、飲めそうなほどだ。皮は焦げたニンニクの風味がする。

 もも肉は噛み応えがいい。レモンをかければよりさっぱりだ。

 ここでキャベツを一口。オリーブたっぷりのドレッシングがよく合うな。

 そして今日は、ポン酢をつけて食べてみる。さて、どうなるか。……お、結構いける。酸味でさっぱりしつつもうま味が加わっておいしい。へー、ポン酢結構合うなあ。今まで何でやらなかったんだろう。

 そうそう、マヨネーズも忘れないようにな。

 そしてやっぱりご飯に合う。月並みな表現だが、これに尽きる。

 あー、おいしい。最高に幸せだ。朝からずっと食べたいものを食欲のままに食べて、なんだか罰が当たってしまいそうだ。

 でも、たまにはいいよな。めいっぱい幸せ補充して、また頑張れたらそれで上々だ。



「ごちそうさまでした」

しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

月弥総合病院

僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...