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日常
第七十八話 朝ごはん
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休日だというのにずいぶん早く目が覚めてしまった。
うめずはまだ寝てるし、朝食にもまだ早い。
「ん~……」
二度寝しようと思ったが、どうにももう眠れそうにない。観念して起き上がる。
スマホを見れば、五時半。うん、早いな。たまにこうやって早く目が覚めるのは何だろう。別に眠りにつくのが早いわけでもないのに。
カーテンを開けてベランダに出る。日が昇り始めた空は薄赤く、そよぐ風が涼しい。
「……いい天気だなあ」
せっかく起きたんだし、散歩にでも行くか。
ずいぶん涼しくなったものだ。Tシャツでいいかと思ったけど、ちょっと肌寒い。薄手のパーカーが活躍する季節になったんだなあ。
冬のピンと張った空気よりは柔らかく、夏のじっとりとした空気よりは引き締まったような感じだ。まるで透き通った水にぷかぷかと浮いているような気分になる。車の通りも人通りも少ないし、道路の真ん中を歩きたくなる。
静まり返った町に俺の足音だけが響く。こんな世界では呼吸音すら大きく感じる。
そうだなあ。できれば大通りには出たくないし、学校の方まで歩いて行ってみようか。高校ではなく、小学校の方。そのあたりは住宅街で、小さな病院とかもある。
日々の営みが始まる前の、まどろみにも似た静かな空気が好きだ。人の気配がありながらも止まってしまったような不思議な空気。活動を終えて眠りについた夜の静けさとは違う。夜はさみしいが、朝は少しワクワクする。
小学校の前は桜の木が並んでいる。今は葉がほんのり色づいていて、足元には落ち葉がたまっていた。
「おっと」
目の前を一枚、枯葉が落ちていく。
視線を学校のグラウンドにやる。日中は子どもたちの声でにぎわうそこは、今は静寂に包まれた水底の様だった。砂が朝陽を受けてきらきらと金色にきらめき、遊具はまるで色を失っているようだ。人は来ているらしく、校門は開いていた。
小学校の前には等間隔でベンチや、テーブルなんかが置かれている。それはどれも木製で、ずいぶん朽ちていたが、座れないこともない。
あ、そうそう。石でできたやつもあったっけ。高さがばらばらで、ベンチとしてというより遊具として使っていた記憶がある。落ち葉を払って、そのうちの一つに座る。
ふと、深呼吸をしてみる。
「気持ちいいなあ」
まるで全身の空気が入れ代わるようだ。頭がさえてすがすがしい。
あー、そういえば咲良がなんかメッセージ送ってきてたな。確か、街の方に行くんだったか。いつだっけ。
都会の朝は、やっぱりこっちの朝とは違うんだろうか。賑やかなのか、それともめちゃくちゃ静かなのだろうか。テレビとかで見る限り、都会は朝よりも夜の方がにぎわっているように思う。
平日か休みかでも違うよな。この辺は休みになると昼間ですらひっそりとしている。日曜日なんて人通りは全くない。
そうだ。街に行ったら何食おうかな。どうせなら普段食わないような、この辺にないようなものが食べたい。
飯のことを考えていたら腹が減ってきた。そろそろ帰るか。
「……あれ」
桜の木の枝、こんなに近かっただろうか。顔に当たりそうなほどだ。昔はもっと高かったような気がする。学校で一番背の高いやつがベンチの上に立ってやっと届くぐらいだった気が。
あ、そうか。俺の背が伸びたのか。
「ただいまー……」
うめずか起きないようにそっと帰る。
どうやらまだ眠っているらしい。扉を開けて俺の部屋を見ると、すうすうと気持ちよさそうに俺のベッドの上で寝息を立てている。
さて、朝飯の準備をするわけだが、せっかくだし丁寧に準備したい。
「何にしようかな~」
冷蔵庫の中にあるものを確認する。卵、豆腐、調味料類にジュース。野菜室には数種類の野菜。冷凍庫にはキノコとか鶏肉、豚肉、鶏のつくね、あとは弁当用の冷凍食品とか。
とりあえず卵焼きは作るとして、みそ汁は何にしよう。豆腐とわかめでもいいけど、ちょっと贅沢に具沢山にしてみるか。具はまあ、卵焼きを作っている間に考えよう。
卵は三つぐらい割って、カラザを取ったら混ぜる。味付けは砂糖と塩少々。
卵焼き用のフライパンに油をひいて、折りたたんだキッチンペーパーで広げる。温まったところに卵液を注ぎ入れて、火が通ったら端から少しずつ巻いていく。よしよし、いい感じだ。砂糖を入れると焦げやすいから火加減には要注意。
それを何回か繰り返したら、卵焼きの完成だ。卵焼きがうまくできた日は、いい日だ。結構でかいし、余ったら昼も食うか。
で、みそ汁の具材は、鶏のつくねと野菜、そしてキノコにしよう。
「わふっ!」
「お、起きたか、うめず」
くわっとあくびをして、うめずはゆったりとしっぽを振る。そして台所には来ず、ソファに座って外を眺めだした。そのまま二度寝しそうだな。
使う野菜はニンジン、キャベツといったところか。ニンジンはいちょう切りに、キャベツはざく切り。
冷凍すると、キノコの栄養価が上がるらしい。今日入れるのはブナシメジとえのき。
鍋でお湯を沸かし、そこに粉末の出汁を入れる。そして、野菜と鶏のつくね、キノコを入れ、火が通ったところで味噌を溶かす。
「よし、こんなもんか」
と、その時、軽快な音楽が鳴った。どうやらご飯が炊けたらしい。
炊き立てご飯とみそ汁、いいね。
「ほら、うめず」
別に茹でて少し冷ましておいたキャベツとニンジンをうめずの皿に盛る。
「わふっ」
「さて、俺も……いただきます」
まずは卵焼きから。程よい甘さがいい。卵焼きは弁当に入っている方がなじみ深いから、朝ごはんとして焼いて食べるのはなんだか新鮮だ。
みそ汁、いろんなうま味が染み出している。
ほくっとしたニンジン、程よく食感の残ったキャベツ。ブナシメジはみそ汁をたっぷり含んでジューシーだ。エノキの風味が強い。
鶏のつくねもおいしい。肉のうま味が鼻に抜けて、食感もいい。少し軟骨も入っているみたいだ。
炊き立てご飯とみそ汁はいい。うま味たっぷりのみそ汁がご飯と相まってたまらない。
「うん、おいしい」
散歩というか、動いた後のご飯っておいしいよな。
これなら毎日散歩してもいいかもしれない。いや、でも、寝ていたい気持ちもある。まあ、気分がのったらすることにしよう。
そろそろ外も明るくなり、気温も上がってきたようだ。
さあ、今日も頑張るとしますか。
「ごちそうさまでした」
うめずはまだ寝てるし、朝食にもまだ早い。
「ん~……」
二度寝しようと思ったが、どうにももう眠れそうにない。観念して起き上がる。
スマホを見れば、五時半。うん、早いな。たまにこうやって早く目が覚めるのは何だろう。別に眠りにつくのが早いわけでもないのに。
カーテンを開けてベランダに出る。日が昇り始めた空は薄赤く、そよぐ風が涼しい。
「……いい天気だなあ」
せっかく起きたんだし、散歩にでも行くか。
ずいぶん涼しくなったものだ。Tシャツでいいかと思ったけど、ちょっと肌寒い。薄手のパーカーが活躍する季節になったんだなあ。
冬のピンと張った空気よりは柔らかく、夏のじっとりとした空気よりは引き締まったような感じだ。まるで透き通った水にぷかぷかと浮いているような気分になる。車の通りも人通りも少ないし、道路の真ん中を歩きたくなる。
静まり返った町に俺の足音だけが響く。こんな世界では呼吸音すら大きく感じる。
そうだなあ。できれば大通りには出たくないし、学校の方まで歩いて行ってみようか。高校ではなく、小学校の方。そのあたりは住宅街で、小さな病院とかもある。
日々の営みが始まる前の、まどろみにも似た静かな空気が好きだ。人の気配がありながらも止まってしまったような不思議な空気。活動を終えて眠りについた夜の静けさとは違う。夜はさみしいが、朝は少しワクワクする。
小学校の前は桜の木が並んでいる。今は葉がほんのり色づいていて、足元には落ち葉がたまっていた。
「おっと」
目の前を一枚、枯葉が落ちていく。
視線を学校のグラウンドにやる。日中は子どもたちの声でにぎわうそこは、今は静寂に包まれた水底の様だった。砂が朝陽を受けてきらきらと金色にきらめき、遊具はまるで色を失っているようだ。人は来ているらしく、校門は開いていた。
小学校の前には等間隔でベンチや、テーブルなんかが置かれている。それはどれも木製で、ずいぶん朽ちていたが、座れないこともない。
あ、そうそう。石でできたやつもあったっけ。高さがばらばらで、ベンチとしてというより遊具として使っていた記憶がある。落ち葉を払って、そのうちの一つに座る。
ふと、深呼吸をしてみる。
「気持ちいいなあ」
まるで全身の空気が入れ代わるようだ。頭がさえてすがすがしい。
あー、そういえば咲良がなんかメッセージ送ってきてたな。確か、街の方に行くんだったか。いつだっけ。
都会の朝は、やっぱりこっちの朝とは違うんだろうか。賑やかなのか、それともめちゃくちゃ静かなのだろうか。テレビとかで見る限り、都会は朝よりも夜の方がにぎわっているように思う。
平日か休みかでも違うよな。この辺は休みになると昼間ですらひっそりとしている。日曜日なんて人通りは全くない。
そうだ。街に行ったら何食おうかな。どうせなら普段食わないような、この辺にないようなものが食べたい。
飯のことを考えていたら腹が減ってきた。そろそろ帰るか。
「……あれ」
桜の木の枝、こんなに近かっただろうか。顔に当たりそうなほどだ。昔はもっと高かったような気がする。学校で一番背の高いやつがベンチの上に立ってやっと届くぐらいだった気が。
あ、そうか。俺の背が伸びたのか。
「ただいまー……」
うめずか起きないようにそっと帰る。
どうやらまだ眠っているらしい。扉を開けて俺の部屋を見ると、すうすうと気持ちよさそうに俺のベッドの上で寝息を立てている。
さて、朝飯の準備をするわけだが、せっかくだし丁寧に準備したい。
「何にしようかな~」
冷蔵庫の中にあるものを確認する。卵、豆腐、調味料類にジュース。野菜室には数種類の野菜。冷凍庫にはキノコとか鶏肉、豚肉、鶏のつくね、あとは弁当用の冷凍食品とか。
とりあえず卵焼きは作るとして、みそ汁は何にしよう。豆腐とわかめでもいいけど、ちょっと贅沢に具沢山にしてみるか。具はまあ、卵焼きを作っている間に考えよう。
卵は三つぐらい割って、カラザを取ったら混ぜる。味付けは砂糖と塩少々。
卵焼き用のフライパンに油をひいて、折りたたんだキッチンペーパーで広げる。温まったところに卵液を注ぎ入れて、火が通ったら端から少しずつ巻いていく。よしよし、いい感じだ。砂糖を入れると焦げやすいから火加減には要注意。
それを何回か繰り返したら、卵焼きの完成だ。卵焼きがうまくできた日は、いい日だ。結構でかいし、余ったら昼も食うか。
で、みそ汁の具材は、鶏のつくねと野菜、そしてキノコにしよう。
「わふっ!」
「お、起きたか、うめず」
くわっとあくびをして、うめずはゆったりとしっぽを振る。そして台所には来ず、ソファに座って外を眺めだした。そのまま二度寝しそうだな。
使う野菜はニンジン、キャベツといったところか。ニンジンはいちょう切りに、キャベツはざく切り。
冷凍すると、キノコの栄養価が上がるらしい。今日入れるのはブナシメジとえのき。
鍋でお湯を沸かし、そこに粉末の出汁を入れる。そして、野菜と鶏のつくね、キノコを入れ、火が通ったところで味噌を溶かす。
「よし、こんなもんか」
と、その時、軽快な音楽が鳴った。どうやらご飯が炊けたらしい。
炊き立てご飯とみそ汁、いいね。
「ほら、うめず」
別に茹でて少し冷ましておいたキャベツとニンジンをうめずの皿に盛る。
「わふっ」
「さて、俺も……いただきます」
まずは卵焼きから。程よい甘さがいい。卵焼きは弁当に入っている方がなじみ深いから、朝ごはんとして焼いて食べるのはなんだか新鮮だ。
みそ汁、いろんなうま味が染み出している。
ほくっとしたニンジン、程よく食感の残ったキャベツ。ブナシメジはみそ汁をたっぷり含んでジューシーだ。エノキの風味が強い。
鶏のつくねもおいしい。肉のうま味が鼻に抜けて、食感もいい。少し軟骨も入っているみたいだ。
炊き立てご飯とみそ汁はいい。うま味たっぷりのみそ汁がご飯と相まってたまらない。
「うん、おいしい」
散歩というか、動いた後のご飯っておいしいよな。
これなら毎日散歩してもいいかもしれない。いや、でも、寝ていたい気持ちもある。まあ、気分がのったらすることにしよう。
そろそろ外も明るくなり、気温も上がってきたようだ。
さあ、今日も頑張るとしますか。
「ごちそうさまでした」
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