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日常
第百九話 たこ焼き
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うちの町には本屋が少ない。昔からある小さな本屋が一つと、この町唯一のショッピングモールに入っている本屋が一つ。それだけだ。まあ、どっちも同じ系列の本屋だからあまり変わらない。ただ若干、ショッピングモールの方が品ぞろえは豊富かな。
参考書なんかを買いに行くときは大きい本屋まで出るけど、漫画とかは地元で買う。まあ、こっちまで流通してこない漫画とかもあるけどな。
「新刊出てっかな~……」
今日は小さいほうの本屋に来た。こっちの方が人も少なくて、ゆっくり見られるんだよな。
二重扉になっていて、まず迎えるのは雑誌類。さらに店内に入るとすぐ、最近映像化されたり、話題になったりしている本が並べられている。
さて、新刊コーナー。確かそろそろこっちでも発売になるはずなんだが……。
「あったあった。お、こっちも出てんじゃん」
ラッキー。もう一冊新刊見っけ。あるはずじゃなかった本の新刊を見つけるとテンション上がるよな。
新刊コーナーの近くには雑誌コーナーもあるので見ていく。攻略本、非公式考察本、画集、週刊誌、アニメ雑誌。
推しが表紙になってたり好きなアニメの特集が組まれてたりして、それを目的に買ったら他のアニメも好きになったとか、その時はそこまで興味なかったけど何年か後にドはまりして雑誌見返してたら特集組まれてて「買っといてよかった」と思うとか、そういうこと、結構ある。
俺はどっちかというと世間より少し遅れてか、あるいは先にドはまりすることが多くて、タイムリーに好きであることがあまりないので、この現象が起きやすい。
「うーん、今日はいいや」
雑誌も決して安いものじゃないからなー。
既刊のやつで面白い作品を見つけるのも好きだな。それがシリーズものだったら楽しみが増えるのでいい。でもそろそろ本棚がパンクしそうなんだよ。一回整理しないとなあ。
小説は図書館で一度読んで買うことが多い。一回、表紙の絵が好みで、裏表紙に書いてあるあらすじもいい感じだったから買って、読んでみたらトラウマ級に怖い内容だったことがあって、それ以来、見た目だけで判断するのはやめた。
逆に、見た目とタイトルが奇抜で、絶対好きにならないと思っていたら内容はそうでもなくて、むしろめちゃくちゃ好きになった、ということもあるからなあ……。
児童書コーナーも、子どもさえいなければ見て回る。
子どもが読む本だからと侮ってはいけない。結構深い内容のものもあるし、考察のしがいのある話も多い。ただ、全力でホラーな話もあるのでその辺は、まあ、見極める必要がある。表紙から恐ろしいのはちょっと勘弁してほしい。
児童書が並ぶ向かい側には、料理本なんかがある。
普通の料理本だけでなく、喫茶店の料理を紹介していたりテーマに合わせた料理の写真集みたいなのがあったりする。
「屋台飯、か」
そういや夏祭りもなかったし、屋台の飯は食ってないな。
りんご飴、チョコバナナ、焼きそば……たこ焼き。
「たこ焼き食いてえなあ」
でも、わざわざ一人でたこ焼き機出すのもなあ。買いに行ってもいいけど、店はここから遠いし……。
なんかうまい方法ないかな。あとで調べてみよう。
こないだ図書館からもらってきた雑誌に載っていた広告に、お料理アプリなるものがあった。作る過程も見られて、いい暇つぶしになるので入れてみたのだ。それで見てみよう。
さて、買い忘れはないかな……。
「あ」
そういえば気になってた本があるんだった。えっと、漫画コーナーにもっかい戻ろう。
ネットで試し読みが公開されていて、それでめっちゃ面白かったから書籍版を買おうと思ったんだ。
「……ないなあ」
出版社ごとに分かれた本棚を探す。うーん、こういうところから探すの下手なんだよな……。聞いた方が早いか。
店の後ろの方には作業台があって、そこでは一人、店員が作業していた。この店の制服である深緑色のエプロンをつけているその人の髪はカラメル部分が栗色のプリン頭だ。ちょっと聞きづらい。
ん? でも、どっかで見たことあるような……?
「あっ」
その人が顔を上げて分かった。山下さんだ。
「あれえ、一条君」
山下さんはにかっと笑うとこちらに来てくれた。
「こんにちは」
「はい、どーも。なに? なんか探してるの?」
この人が本屋でバイトか……ちょっと意外というか。てか、結構ここの本屋には来てたつもりだけど、覚えてないもんだなあ。まあ、ここには本を買いに来るわけだし、そんなもんか。
「あー、はい。この本探してて」
スマホに示したスクリーンショットを「どれどれ」と井上さんはのぞき込む。
「はいはい、これね。確かここに……」
そう言って井上さんは、本棚の下の引き出しを開けた。なるほど、ここに本の在庫があるわけだ。
「これかな?」
差し出された本は確かに俺が探していた本だった。本棚にないのなら見つけようがなかったってわけだ。聞いてよかった。
「ありがとうございます」
「それねー、俺も読んでる。面白いよね」
「まだ試し読みだけなんですけど」
「そっかそっか。じゃ、読んだら感想聞かせてよ」
まあ、確かに、この愛想のよさは接客業向きかもしれないな。
たこ焼き粉はうちにあるし、たこだけ買って帰る。
帰ってすぐ例のアプリで調べてみた。
「『たこ焼き 簡単』……っと」
やっぱたこ焼き機つかうレシピばっかりだよなあ。……ん? これ、たこ焼き機じゃない?
「フライパンたこ焼き」
どうやらオムレツの要領でたこ焼きを作るらしい。
おお、これなら簡単そうだ。
たこ焼き粉のパッケージに書いてある手順で生地を作る。たこはぶつ切りにして、紅しょうが、ネギ、天かすも準備しよう。キャベツはフードプロセッサーでみじん切りにする。楽だなあ。
で、ここからが普通のたこ焼きとは違う。
フライパンに生地を流し入れ、たこ、キャベツ、紅しょうが、天かす、ネギを散らす。そしたらふたをして中火で焼く。
しばらくしてからこれを半分に折る。で、焼き色がつくまで焼いたらひっくり返す。おお、確かに香りはたこ焼きだなあ。
中まで火が通って、全体に焼き色がついたらオッケー。
ソース、マヨネーズ、青のり、かつお節をかけて完成だ。なんかどう見てもお好み焼きだぞ。
「いただきます」
箸入れた感じはたこ焼きだな。
焼き目はいい感じにサクッと香ばしく、お店のようにいかないまでもやわらかい中身。紅しょうがのさわやかさと天かすの風味がいい。たこもまんべんなく散らされているので、うま味が偏っていない。ソースとマヨの味が濃くておいしい。
これいいな。おいしい。青のりの風味とかつお節の味もまたいい。ちゃんとたこ焼きだ。
「んー、いける」
これならたこ焼きが食いたい時、いつでも作れそうだな。
いっそ弁当に入れるのもありか。腹持ちがよさそうだ。今度はチーズとか入れてみよう。
見た目はお好み焼きだけど、食ってみたらちゃんとたこ焼きだ。今まで知らなかったのがもったいないくらいである。
またたこ焼き粉買ってきておこう。
「ごちそうさまでした」
参考書なんかを買いに行くときは大きい本屋まで出るけど、漫画とかは地元で買う。まあ、こっちまで流通してこない漫画とかもあるけどな。
「新刊出てっかな~……」
今日は小さいほうの本屋に来た。こっちの方が人も少なくて、ゆっくり見られるんだよな。
二重扉になっていて、まず迎えるのは雑誌類。さらに店内に入るとすぐ、最近映像化されたり、話題になったりしている本が並べられている。
さて、新刊コーナー。確かそろそろこっちでも発売になるはずなんだが……。
「あったあった。お、こっちも出てんじゃん」
ラッキー。もう一冊新刊見っけ。あるはずじゃなかった本の新刊を見つけるとテンション上がるよな。
新刊コーナーの近くには雑誌コーナーもあるので見ていく。攻略本、非公式考察本、画集、週刊誌、アニメ雑誌。
推しが表紙になってたり好きなアニメの特集が組まれてたりして、それを目的に買ったら他のアニメも好きになったとか、その時はそこまで興味なかったけど何年か後にドはまりして雑誌見返してたら特集組まれてて「買っといてよかった」と思うとか、そういうこと、結構ある。
俺はどっちかというと世間より少し遅れてか、あるいは先にドはまりすることが多くて、タイムリーに好きであることがあまりないので、この現象が起きやすい。
「うーん、今日はいいや」
雑誌も決して安いものじゃないからなー。
既刊のやつで面白い作品を見つけるのも好きだな。それがシリーズものだったら楽しみが増えるのでいい。でもそろそろ本棚がパンクしそうなんだよ。一回整理しないとなあ。
小説は図書館で一度読んで買うことが多い。一回、表紙の絵が好みで、裏表紙に書いてあるあらすじもいい感じだったから買って、読んでみたらトラウマ級に怖い内容だったことがあって、それ以来、見た目だけで判断するのはやめた。
逆に、見た目とタイトルが奇抜で、絶対好きにならないと思っていたら内容はそうでもなくて、むしろめちゃくちゃ好きになった、ということもあるからなあ……。
児童書コーナーも、子どもさえいなければ見て回る。
子どもが読む本だからと侮ってはいけない。結構深い内容のものもあるし、考察のしがいのある話も多い。ただ、全力でホラーな話もあるのでその辺は、まあ、見極める必要がある。表紙から恐ろしいのはちょっと勘弁してほしい。
児童書が並ぶ向かい側には、料理本なんかがある。
普通の料理本だけでなく、喫茶店の料理を紹介していたりテーマに合わせた料理の写真集みたいなのがあったりする。
「屋台飯、か」
そういや夏祭りもなかったし、屋台の飯は食ってないな。
りんご飴、チョコバナナ、焼きそば……たこ焼き。
「たこ焼き食いてえなあ」
でも、わざわざ一人でたこ焼き機出すのもなあ。買いに行ってもいいけど、店はここから遠いし……。
なんかうまい方法ないかな。あとで調べてみよう。
こないだ図書館からもらってきた雑誌に載っていた広告に、お料理アプリなるものがあった。作る過程も見られて、いい暇つぶしになるので入れてみたのだ。それで見てみよう。
さて、買い忘れはないかな……。
「あ」
そういえば気になってた本があるんだった。えっと、漫画コーナーにもっかい戻ろう。
ネットで試し読みが公開されていて、それでめっちゃ面白かったから書籍版を買おうと思ったんだ。
「……ないなあ」
出版社ごとに分かれた本棚を探す。うーん、こういうところから探すの下手なんだよな……。聞いた方が早いか。
店の後ろの方には作業台があって、そこでは一人、店員が作業していた。この店の制服である深緑色のエプロンをつけているその人の髪はカラメル部分が栗色のプリン頭だ。ちょっと聞きづらい。
ん? でも、どっかで見たことあるような……?
「あっ」
その人が顔を上げて分かった。山下さんだ。
「あれえ、一条君」
山下さんはにかっと笑うとこちらに来てくれた。
「こんにちは」
「はい、どーも。なに? なんか探してるの?」
この人が本屋でバイトか……ちょっと意外というか。てか、結構ここの本屋には来てたつもりだけど、覚えてないもんだなあ。まあ、ここには本を買いに来るわけだし、そんなもんか。
「あー、はい。この本探してて」
スマホに示したスクリーンショットを「どれどれ」と井上さんはのぞき込む。
「はいはい、これね。確かここに……」
そう言って井上さんは、本棚の下の引き出しを開けた。なるほど、ここに本の在庫があるわけだ。
「これかな?」
差し出された本は確かに俺が探していた本だった。本棚にないのなら見つけようがなかったってわけだ。聞いてよかった。
「ありがとうございます」
「それねー、俺も読んでる。面白いよね」
「まだ試し読みだけなんですけど」
「そっかそっか。じゃ、読んだら感想聞かせてよ」
まあ、確かに、この愛想のよさは接客業向きかもしれないな。
たこ焼き粉はうちにあるし、たこだけ買って帰る。
帰ってすぐ例のアプリで調べてみた。
「『たこ焼き 簡単』……っと」
やっぱたこ焼き機つかうレシピばっかりだよなあ。……ん? これ、たこ焼き機じゃない?
「フライパンたこ焼き」
どうやらオムレツの要領でたこ焼きを作るらしい。
おお、これなら簡単そうだ。
たこ焼き粉のパッケージに書いてある手順で生地を作る。たこはぶつ切りにして、紅しょうが、ネギ、天かすも準備しよう。キャベツはフードプロセッサーでみじん切りにする。楽だなあ。
で、ここからが普通のたこ焼きとは違う。
フライパンに生地を流し入れ、たこ、キャベツ、紅しょうが、天かす、ネギを散らす。そしたらふたをして中火で焼く。
しばらくしてからこれを半分に折る。で、焼き色がつくまで焼いたらひっくり返す。おお、確かに香りはたこ焼きだなあ。
中まで火が通って、全体に焼き色がついたらオッケー。
ソース、マヨネーズ、青のり、かつお節をかけて完成だ。なんかどう見てもお好み焼きだぞ。
「いただきます」
箸入れた感じはたこ焼きだな。
焼き目はいい感じにサクッと香ばしく、お店のようにいかないまでもやわらかい中身。紅しょうがのさわやかさと天かすの風味がいい。たこもまんべんなく散らされているので、うま味が偏っていない。ソースとマヨの味が濃くておいしい。
これいいな。おいしい。青のりの風味とかつお節の味もまたいい。ちゃんとたこ焼きだ。
「んー、いける」
これならたこ焼きが食いたい時、いつでも作れそうだな。
いっそ弁当に入れるのもありか。腹持ちがよさそうだ。今度はチーズとか入れてみよう。
見た目はお好み焼きだけど、食ってみたらちゃんとたこ焼きだ。今まで知らなかったのがもったいないくらいである。
またたこ焼き粉買ってきておこう。
「ごちそうさまでした」
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