156 / 893
日常
第百五十六話 ハムエッグ
しおりを挟む
「う~、寒い……」
布団から出るのがつらい季節になった。
しんと冷たい板張りは靴下を履いていても触れるのをためらう。布団の中で上着を羽織り、覚悟を決めて立ち上がる。
ファンヒーターの電源をつけ、パパッと身支度を終わらせる。
朝飯の準備をする前にこたつのスイッチも入れておこう。冷えたこたつは外気温より冷たいように感じるときがあるのだ。
とりあえず弁当の準備だ。
卵焼き……は、今日は作る気力がないので目玉焼きを焼いて折り曲げる。間に塩コショウを振っておくとおいしい。
あとはハンバーグ温めて、昨日の晩にとっておいたブロッコリー茹でたのと冷凍のスパゲティナポリタン。こんなもんか。ふりかけは卵にしよ。
電気ケトルで湯を沸かし、今日の分の味噌玉を準備する。わかめでいいか。
それと今日は目玉焼きにしよう。がっちりかたいのもいいが半熟もいい。うーん、今日は半熟の気分だ。
油をひいて熱したフライパンに卵を二つ落とす。ジュワアァ……といい音がして、黄身がゆったりと動く。白身にある程度火が通ったら水をちょっと入れてふたをする。あー、ハムとかベーコン、買っときゃよかったなあ。
ま、いいや。
目玉焼きは塩コショウを振って、ご飯の上に直接のっけて、味噌玉に湯を注いだら朝飯完成。せっかくだし、漬物でも出すか。コンビニのたくあん。これが何気にうまい。
しっかり温まったであろうこたつにもぐりこんで、テレビをつけて、と。
「いただきます」
半熟の目玉焼きは余すことなく食べたいものだ。箸で穴開けて醤油を垂らす。切るようにして混ぜたら黄身がとろりとあふれ出す。
白身のプリッとした食感がかなり好きだ。黄身は端の方が少しかたまっていて、とろりとした部分と二つの食感を楽しめる。もうちょっと醤油かけよう。うん、やっぱ醤油ちょっと多めの方が好きだなあ。
みそ汁もほっとする。たくあんも程よい塩気と甘さがおいしい。
『今朝はずいぶんと冷え込みますが、お昼からはどうでしょう? それではお天気です』
朝のローカルなニュース番組。冒頭には天気予報があるんだ。
『昼は日差しが出ますが、風は冷たいでしょう。調節のきく服装で……』
まあ、そうだよな。この時期の天気予報はそれが決まり文句みたいなものだ。
『そろそろ防寒具が活躍しそうですね』
ネックウォーマー、そろそろはめてくかあ。風邪ひくのはやだもんなあ。
「ごちそうさまでした」
「春都はさー、朝飯何派?」
昼休み、向かいに座った咲良が、菓子パンを食べながら聞いてきた。
「何派って、何」
ハンバーグは冷えているがおいしい。オーロラソースがよく合う。目玉焼きの塩気もたまらない。朝の半熟とは違い、しっかり焼けているのもおいしい。
「米かパンか」
「ああ、そういうこと」
ブロッコリーもしんなりしているが、それがまたいい。小分けにしながら食うのが好きだ。
「米」
「迷いねえなあ」
「一時期パンにはまってたけど、基本米」
冷凍のナポリタンは甘い。具は彩りを重視してか、コーンや、赤や黄色のパプリカ。そして薄っぺらいウインナーが何枚か。その具材も甘い。
「咲良は?」
「俺も米」
「なんだそれ」
「でもたまに食うパンがうまい」
その気持ちは分からないでもない。咲良は「それがさあ」と一つ目のパンを食べ終え、袋を結んでぽいと俺の机の上に放り出した後、二つ目のパンの袋を開けながら言った。
「今日の朝飯、パンだったんだよね」
「そうか」
「それがめちゃくちゃうまくてさあ~」
思いっきりほおばったパンを咀嚼して飲み込み、咲良は目を輝かせながら続けた。
「食パンなんだけど、それにケチャップ塗って、たっぷりチーズのせて……」
「ピザトースト?」
「いや違う。似てるけど違う」
卵味のふりかけが甘くしっとりとしている。ピザトースト、最近食ってねえなあ。
「そんでさ、チーズとケチャップの間にはベーコンが挟まってて。しかもチーズのくぼみには卵が落とされてんの」
「ほう」
確かにそれはボリュームがありそうだ。咲良は心底それを気に入ったらしく、その気持ちがそのまま表情に出ているような感じだった。
「卵は半熟で、チーズもいい溶け具合で。あれはうまかった……」
「よっぽど気に入ったみたいだな」
「明日も食えたらいいなあ~」
でも冷蔵庫の中身次第なんだよな、と咲良は笑った。
「めっちゃ豪華かと思えば、めっちゃ質素ってこともあるし」
「明日はどの可能性が高いんだ」
「質素」
咲良はバナナオレを飲む。甘いものと甘いもの、よく合わせられるなあと感心しながら、誰かが朝飯を作ってくれるんだな、などとぼんやり思った。
相変わらず朝の空気は冷たい。布団の中はホカホカとしているが、頬がそれはもう冷えている。
さて、今日もいつも通り朝の準備だ。ファンヒーターの電源を入れ、身支度をさっと終わらせ、こたつの電源を入れてから台所に向かう。
今日は弁当休みの日なので、朝飯の準備に取り掛かる。
昨日買ってきておいた薄切りハム。これを三枚フライパンにのせて、その上に卵を落とす。脂がはじけるいい音がして、香ばしい香りが漂った。
電気ケトルでお湯が沸ける音が響く。今日はポタージュでも飲もう。
よし、いい感じに焼けたみたいだ。ハムエッグを皿に移してスープを作る。こぽこぽといい音がするなあ。この音、なんか好きだ。
「いただきます」
卵一つとハム一枚をうまいことすくってご飯にのせる。きれいにのったらちょっとうれしい。
箸を入れたらぷつりと音がするように黄身が割れ、半熟の中身があふれ出す。醤油を垂らし、ハムと一緒にご飯とかきこむ。
ハムの塩気に醤油の香ばしさ、卵のまろやかな口当たりのバランスがいい。ご飯とよくなじんでいいな。
ポタージュはまったりとイモの味。ほくほくだ。
そしてご飯とは合わせず、ハムと卵だけでも食べてみる。これもまたいい。ハムだけで食うのも好きだ。
でもやっぱご飯と一緒に食うのいいな。朝飯って感じする。
母さんが作る朝飯は、いつもこれだもんな。
決して豪華ではないけど、これがいい。これが、俺にとって一番力の出る朝飯だ。
「ごちそうさまでした」
布団から出るのがつらい季節になった。
しんと冷たい板張りは靴下を履いていても触れるのをためらう。布団の中で上着を羽織り、覚悟を決めて立ち上がる。
ファンヒーターの電源をつけ、パパッと身支度を終わらせる。
朝飯の準備をする前にこたつのスイッチも入れておこう。冷えたこたつは外気温より冷たいように感じるときがあるのだ。
とりあえず弁当の準備だ。
卵焼き……は、今日は作る気力がないので目玉焼きを焼いて折り曲げる。間に塩コショウを振っておくとおいしい。
あとはハンバーグ温めて、昨日の晩にとっておいたブロッコリー茹でたのと冷凍のスパゲティナポリタン。こんなもんか。ふりかけは卵にしよ。
電気ケトルで湯を沸かし、今日の分の味噌玉を準備する。わかめでいいか。
それと今日は目玉焼きにしよう。がっちりかたいのもいいが半熟もいい。うーん、今日は半熟の気分だ。
油をひいて熱したフライパンに卵を二つ落とす。ジュワアァ……といい音がして、黄身がゆったりと動く。白身にある程度火が通ったら水をちょっと入れてふたをする。あー、ハムとかベーコン、買っときゃよかったなあ。
ま、いいや。
目玉焼きは塩コショウを振って、ご飯の上に直接のっけて、味噌玉に湯を注いだら朝飯完成。せっかくだし、漬物でも出すか。コンビニのたくあん。これが何気にうまい。
しっかり温まったであろうこたつにもぐりこんで、テレビをつけて、と。
「いただきます」
半熟の目玉焼きは余すことなく食べたいものだ。箸で穴開けて醤油を垂らす。切るようにして混ぜたら黄身がとろりとあふれ出す。
白身のプリッとした食感がかなり好きだ。黄身は端の方が少しかたまっていて、とろりとした部分と二つの食感を楽しめる。もうちょっと醤油かけよう。うん、やっぱ醤油ちょっと多めの方が好きだなあ。
みそ汁もほっとする。たくあんも程よい塩気と甘さがおいしい。
『今朝はずいぶんと冷え込みますが、お昼からはどうでしょう? それではお天気です』
朝のローカルなニュース番組。冒頭には天気予報があるんだ。
『昼は日差しが出ますが、風は冷たいでしょう。調節のきく服装で……』
まあ、そうだよな。この時期の天気予報はそれが決まり文句みたいなものだ。
『そろそろ防寒具が活躍しそうですね』
ネックウォーマー、そろそろはめてくかあ。風邪ひくのはやだもんなあ。
「ごちそうさまでした」
「春都はさー、朝飯何派?」
昼休み、向かいに座った咲良が、菓子パンを食べながら聞いてきた。
「何派って、何」
ハンバーグは冷えているがおいしい。オーロラソースがよく合う。目玉焼きの塩気もたまらない。朝の半熟とは違い、しっかり焼けているのもおいしい。
「米かパンか」
「ああ、そういうこと」
ブロッコリーもしんなりしているが、それがまたいい。小分けにしながら食うのが好きだ。
「米」
「迷いねえなあ」
「一時期パンにはまってたけど、基本米」
冷凍のナポリタンは甘い。具は彩りを重視してか、コーンや、赤や黄色のパプリカ。そして薄っぺらいウインナーが何枚か。その具材も甘い。
「咲良は?」
「俺も米」
「なんだそれ」
「でもたまに食うパンがうまい」
その気持ちは分からないでもない。咲良は「それがさあ」と一つ目のパンを食べ終え、袋を結んでぽいと俺の机の上に放り出した後、二つ目のパンの袋を開けながら言った。
「今日の朝飯、パンだったんだよね」
「そうか」
「それがめちゃくちゃうまくてさあ~」
思いっきりほおばったパンを咀嚼して飲み込み、咲良は目を輝かせながら続けた。
「食パンなんだけど、それにケチャップ塗って、たっぷりチーズのせて……」
「ピザトースト?」
「いや違う。似てるけど違う」
卵味のふりかけが甘くしっとりとしている。ピザトースト、最近食ってねえなあ。
「そんでさ、チーズとケチャップの間にはベーコンが挟まってて。しかもチーズのくぼみには卵が落とされてんの」
「ほう」
確かにそれはボリュームがありそうだ。咲良は心底それを気に入ったらしく、その気持ちがそのまま表情に出ているような感じだった。
「卵は半熟で、チーズもいい溶け具合で。あれはうまかった……」
「よっぽど気に入ったみたいだな」
「明日も食えたらいいなあ~」
でも冷蔵庫の中身次第なんだよな、と咲良は笑った。
「めっちゃ豪華かと思えば、めっちゃ質素ってこともあるし」
「明日はどの可能性が高いんだ」
「質素」
咲良はバナナオレを飲む。甘いものと甘いもの、よく合わせられるなあと感心しながら、誰かが朝飯を作ってくれるんだな、などとぼんやり思った。
相変わらず朝の空気は冷たい。布団の中はホカホカとしているが、頬がそれはもう冷えている。
さて、今日もいつも通り朝の準備だ。ファンヒーターの電源を入れ、身支度をさっと終わらせ、こたつの電源を入れてから台所に向かう。
今日は弁当休みの日なので、朝飯の準備に取り掛かる。
昨日買ってきておいた薄切りハム。これを三枚フライパンにのせて、その上に卵を落とす。脂がはじけるいい音がして、香ばしい香りが漂った。
電気ケトルでお湯が沸ける音が響く。今日はポタージュでも飲もう。
よし、いい感じに焼けたみたいだ。ハムエッグを皿に移してスープを作る。こぽこぽといい音がするなあ。この音、なんか好きだ。
「いただきます」
卵一つとハム一枚をうまいことすくってご飯にのせる。きれいにのったらちょっとうれしい。
箸を入れたらぷつりと音がするように黄身が割れ、半熟の中身があふれ出す。醤油を垂らし、ハムと一緒にご飯とかきこむ。
ハムの塩気に醤油の香ばしさ、卵のまろやかな口当たりのバランスがいい。ご飯とよくなじんでいいな。
ポタージュはまったりとイモの味。ほくほくだ。
そしてご飯とは合わせず、ハムと卵だけでも食べてみる。これもまたいい。ハムだけで食うのも好きだ。
でもやっぱご飯と一緒に食うのいいな。朝飯って感じする。
母さんが作る朝飯は、いつもこれだもんな。
決して豪華ではないけど、これがいい。これが、俺にとって一番力の出る朝飯だ。
「ごちそうさまでした」
14
あなたにおすすめの小説
月弥総合病院
僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる