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日常
第二百三十話 豚骨ラーメン
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前日の晩には確かにあったやる気も、翌日の朝になればしぼんでいる。そういうことは多々ある。
現に、図書館に行こうと思っていた気分がついえそうだ。
「ん~……」
窓から見える空は曇り。きっと寒いだろうことは分かる。こういう日は一日家でゆっくりするのがいい。明日からはまた学校だし。
しかし、返却期限が一週間過ぎてんだよなあ。
「どうしたの?」
「図書館に行こうか行くまいか」
「今日寒いよ」
ゆっくりしたらー? とソファに座ってテレビを見ながら母さんが言う。
「いや、でも、返却期限が一週間ほど……」
「過ぎてる?」
「うん」
「じゃあ、行った方がいいねえ」
ですよね。
「……行ってくる」
「あ、じゃあ着いて行っていい?」
と、母さんは楽しそうに笑って聞いてきた。
「ん、別にいいけど。なんか行くとこあるん?」
「せっかくだし外でご飯食べようよ。そしたら一食、準備しなくていいでしょ?」
母さんはいそいそと立ち上がると廊下の扉を開け「お父さーん」と声をかけた。
扉を一枚隔てたようなくぐもった声で「はーい」と聞こえたと思えば、自室から父さんが出て来た。
「なに?」
「今忙しい?」
「いや、全然。どうかした?」
母さんが説明すると、父さんは快く頷いた。
「いいね。そうしようか。車出す?」
「春都はいつも電車で行ってるんでしょ?」
「ああ、うん」
「じゃ、電車で行きましょう」
かくして、家族総出で図書館に向かうこととなったのだ。
本を返している間、父さんも母さんもそれぞれ興味のある本棚に向かったようだった。
「久しぶりに来たけど、ずいぶんきれいになってるね」
海外文学の翻訳されてないハードカバーの本を手に取り、父さんが小さい声で言った。確かに、数年前に改修工事がされてから明るい雰囲気になった。
「それ、読めるんだ」
「読めるよー」
「すげー」
英語は読めなくもないが、まだ本を楽しむレベルにまで達していない。いつかすらすらと読める程度にはなりたいものだ。
「父さんって、どんな本が好きなの」
「んー、そうだなあ」
父さんは手に持っていた本のページをぺらぺらとめくり、本棚に戻し、少し場所を変えて何冊か手に取った。
「こういうのかな」
それはがっつり日本文学だった。時代も多岐にわたる。
「外国の本じゃないんだ」
「もちろん海外文学も面白いと思うよ。でも、なんだかんだいってずっと読んでるのはこういう本かなあ」
「ふーん……」
「色々おもしろい本があるよ。春都も読んでみるといい」
とりあえず、渡された本の中で一番とっつきやすそうなものを借りることにした。
母さんは児童書の本棚付近にいた。
「なんかあったー?」
「最近はこんな本もあるのね」
いろいろと手に取りながら、母さんは楽し気に本を眺める。
「絵が今どきだわ」
「何その感想」
まあ、分からなくもないけど。自分が幼い頃に読んだ覚えのある絵本とか教育漫画とかも随分絵柄が変わったもんな。
「あ、まだこういう本もあるのね。小さい頃よく読んだわ~。お店の二階探したらあるんじゃない?」
じいちゃんばあちゃんの店の二階は昔、母さんの寝室だったらしい。今はきちんと整頓され掃除も行き届いたうえで物置のような状態になっている。こないだなんか用事があって行った時、物は古いのに埃一つなくてびっくりしたものだ。
確かに、本らしきものが入った段ボール箱があったような気もする。
「今度行って探してみよう。春都、読んだことある?」
「ない」
「一回読んでみてよ。面白いよ」
そう言って母さんは本を渡してきた。
どうやら今日は、父さん母さんのおすすめ本を借りることになりそうだ。
昼飯は駅にあるラーメン屋に行くことにした。いつも行っている店の支店が新しくできたらしい。
ぴかぴかと新しい店内には客がちらほらといた。テーブル席が多いようで、俺たちはそこに通された。
まあ、店が新しいからといって頼むものは変わらないんだけど。
「おまたせしましたー」
ラーメン、麺はバリカタでご飯と餃子、ホルモンも頼んだ。
「いただきます」
まずはスープから。お、なんとなくさっぱりしている気がする。薄いとかではなく、あっさり系というか。やっぱり同じ系列の店でもちょっとずつ味が違うんだなあ。
「スープ、飲みやすいね」
「私こっちのスープの方が好きかも。向こうは向こうでおいしいけどね」
スープの味は日によって好みが変わるし、日が立てば味も変わる。それが面白いところだと思う。
麺はしっかりバリカタだ。舌触りが心地よく、スープの風味とよく合う。
ご飯には細かく切ったたくあんをのせて。たくあんは同じ味だ。ちょっとほっとする。甘みが強くて、黄色が少し移った白米と一緒に食うのがうまい。
ホルモンも店によってやわらかさが違う。ここのはだいぶほろほろだ。これはこれでご飯となじんでうまい。
「春都、ラー油とって」
「ん」
「私も後で頂戴」
ここの餃子はラー油がよく合う。たれだけでも肉のうま味が感ぜられていいが、ラー油をちょっと加えると香ばしさが段違いだ。これがまたご飯に合う。
ラーメンのトッピングはチャーシュー、ネギと潔いものだ。
淡白なチャーシューはスープをたっぷり含んでジューシーだ。脂身が少ないのであっさりしている。ネギのささやかな風味もいい。
当然、替え玉もする。
替え玉は小麦の風味がちょっと強く感じる気がする。替え玉用のたれをかけてよく混ぜ、スープでほぐしながら食べる。また違った味が楽しめて最高だ。
あっさりしたスープも特製の薬味を溶かせば、ピリッと辛く引き締まりラーメンらしい濃さになる。
やっぱラーメン、相当好きだな。
さて、帰ったらさっそく本を読んでみよう。まったく自分の知らない本を読むのは緊張する半面、ワクワクも計り知れない。
あ、なんだ。こっちの店限定のメニューとかあったのか。今度はこれ、頼んでみようかな。
「ごちそうさまでした」
現に、図書館に行こうと思っていた気分がついえそうだ。
「ん~……」
窓から見える空は曇り。きっと寒いだろうことは分かる。こういう日は一日家でゆっくりするのがいい。明日からはまた学校だし。
しかし、返却期限が一週間過ぎてんだよなあ。
「どうしたの?」
「図書館に行こうか行くまいか」
「今日寒いよ」
ゆっくりしたらー? とソファに座ってテレビを見ながら母さんが言う。
「いや、でも、返却期限が一週間ほど……」
「過ぎてる?」
「うん」
「じゃあ、行った方がいいねえ」
ですよね。
「……行ってくる」
「あ、じゃあ着いて行っていい?」
と、母さんは楽しそうに笑って聞いてきた。
「ん、別にいいけど。なんか行くとこあるん?」
「せっかくだし外でご飯食べようよ。そしたら一食、準備しなくていいでしょ?」
母さんはいそいそと立ち上がると廊下の扉を開け「お父さーん」と声をかけた。
扉を一枚隔てたようなくぐもった声で「はーい」と聞こえたと思えば、自室から父さんが出て来た。
「なに?」
「今忙しい?」
「いや、全然。どうかした?」
母さんが説明すると、父さんは快く頷いた。
「いいね。そうしようか。車出す?」
「春都はいつも電車で行ってるんでしょ?」
「ああ、うん」
「じゃ、電車で行きましょう」
かくして、家族総出で図書館に向かうこととなったのだ。
本を返している間、父さんも母さんもそれぞれ興味のある本棚に向かったようだった。
「久しぶりに来たけど、ずいぶんきれいになってるね」
海外文学の翻訳されてないハードカバーの本を手に取り、父さんが小さい声で言った。確かに、数年前に改修工事がされてから明るい雰囲気になった。
「それ、読めるんだ」
「読めるよー」
「すげー」
英語は読めなくもないが、まだ本を楽しむレベルにまで達していない。いつかすらすらと読める程度にはなりたいものだ。
「父さんって、どんな本が好きなの」
「んー、そうだなあ」
父さんは手に持っていた本のページをぺらぺらとめくり、本棚に戻し、少し場所を変えて何冊か手に取った。
「こういうのかな」
それはがっつり日本文学だった。時代も多岐にわたる。
「外国の本じゃないんだ」
「もちろん海外文学も面白いと思うよ。でも、なんだかんだいってずっと読んでるのはこういう本かなあ」
「ふーん……」
「色々おもしろい本があるよ。春都も読んでみるといい」
とりあえず、渡された本の中で一番とっつきやすそうなものを借りることにした。
母さんは児童書の本棚付近にいた。
「なんかあったー?」
「最近はこんな本もあるのね」
いろいろと手に取りながら、母さんは楽し気に本を眺める。
「絵が今どきだわ」
「何その感想」
まあ、分からなくもないけど。自分が幼い頃に読んだ覚えのある絵本とか教育漫画とかも随分絵柄が変わったもんな。
「あ、まだこういう本もあるのね。小さい頃よく読んだわ~。お店の二階探したらあるんじゃない?」
じいちゃんばあちゃんの店の二階は昔、母さんの寝室だったらしい。今はきちんと整頓され掃除も行き届いたうえで物置のような状態になっている。こないだなんか用事があって行った時、物は古いのに埃一つなくてびっくりしたものだ。
確かに、本らしきものが入った段ボール箱があったような気もする。
「今度行って探してみよう。春都、読んだことある?」
「ない」
「一回読んでみてよ。面白いよ」
そう言って母さんは本を渡してきた。
どうやら今日は、父さん母さんのおすすめ本を借りることになりそうだ。
昼飯は駅にあるラーメン屋に行くことにした。いつも行っている店の支店が新しくできたらしい。
ぴかぴかと新しい店内には客がちらほらといた。テーブル席が多いようで、俺たちはそこに通された。
まあ、店が新しいからといって頼むものは変わらないんだけど。
「おまたせしましたー」
ラーメン、麺はバリカタでご飯と餃子、ホルモンも頼んだ。
「いただきます」
まずはスープから。お、なんとなくさっぱりしている気がする。薄いとかではなく、あっさり系というか。やっぱり同じ系列の店でもちょっとずつ味が違うんだなあ。
「スープ、飲みやすいね」
「私こっちのスープの方が好きかも。向こうは向こうでおいしいけどね」
スープの味は日によって好みが変わるし、日が立てば味も変わる。それが面白いところだと思う。
麺はしっかりバリカタだ。舌触りが心地よく、スープの風味とよく合う。
ご飯には細かく切ったたくあんをのせて。たくあんは同じ味だ。ちょっとほっとする。甘みが強くて、黄色が少し移った白米と一緒に食うのがうまい。
ホルモンも店によってやわらかさが違う。ここのはだいぶほろほろだ。これはこれでご飯となじんでうまい。
「春都、ラー油とって」
「ん」
「私も後で頂戴」
ここの餃子はラー油がよく合う。たれだけでも肉のうま味が感ぜられていいが、ラー油をちょっと加えると香ばしさが段違いだ。これがまたご飯に合う。
ラーメンのトッピングはチャーシュー、ネギと潔いものだ。
淡白なチャーシューはスープをたっぷり含んでジューシーだ。脂身が少ないのであっさりしている。ネギのささやかな風味もいい。
当然、替え玉もする。
替え玉は小麦の風味がちょっと強く感じる気がする。替え玉用のたれをかけてよく混ぜ、スープでほぐしながら食べる。また違った味が楽しめて最高だ。
あっさりしたスープも特製の薬味を溶かせば、ピリッと辛く引き締まりラーメンらしい濃さになる。
やっぱラーメン、相当好きだな。
さて、帰ったらさっそく本を読んでみよう。まったく自分の知らない本を読むのは緊張する半面、ワクワクも計り知れない。
あ、なんだ。こっちの店限定のメニューとかあったのか。今度はこれ、頼んでみようかな。
「ごちそうさまでした」
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