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日常
第四百六十二話 スイーツビュッフェ
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父さんからスイーツビュッフェの招待券をもらったので、せっかくだから行くことにした。全部で四枚あるので、咲良と、スイーツ好きの百瀬、そんで朝比奈を誘った。
「この店だな」
デパート内にある、非常におしゃれな店だ。大人っぽくて、きらきらしていて、何というか……普段では絶対に近づくことがないであろう洗練された店だ。
おっかなびっくり、入店する。
「いらっしゃいませ」
受付……受付? カウンター? レジ? よく分からないけど、そういう場所でチケットを渡したら、きっちりした格好の人が窓際の席まで案内してくれた。開店してすぐのせいか、人は少ない。
「ごゆっくりどうぞ」
案内してくれた人が立ち去ってから、揃って深い息をつく。
「あー……入店だけでこんな緊張するもんなんだな……」
そうつぶやけば、隣に座る咲良が落ち着かない様子できょろきょろとあたりを見回す。
「天井たっけぇ……え? ここ最上階だろ? 中庭に滝あるんだけど?」
「どんな味すんだろうね、こういうとこのお菓子って。あ、スイーツって言った方がいいのかな」
百瀬は並んでいるスイーツに気を取られているようだった。
そんな中で平然としているのは、俺の向かいに座る朝比奈だ。慣れた様子で上着を脱ぎ、足元のかごに入れる。そして立ち上がると、こちらを不思議そうに見て言ったものだ。
「取りに行かないのか?」
「へっ、あっ、そうだな!」
咲良が勢い良く立ち上がったものだから、椅子が倒れそうになる。咲良は慌てて椅子を受け止めて苦笑した。百瀬はそろっと立ち上がり、俺も音を立てないよう慎重に椅子を引く。そんな俺たちを見ていた朝比奈が首をかしげる。
「なんでそんなに緊張しているんだ? 普通のビュッフェだろう?」
「あのなあ、一般小市民はビュッフェになんて慣れてないの。そんな堂々としてられっかよ、ボンボンがよぉ」
咲良の言い方もあれだが、一理ある。ビュッフェなんぞ、生活していく中で選択肢に出てくることすらない。なんか突発的に飛び込んでくる感じだ。
しかし朝比奈はぴんと来ていない様子だ。だが気にするのはやめにしたらしく「とりあえず行くぞ」と言った。
朝比奈の後ろをついていくように、スイーツが並ぶエリアに行く。
「すっげー……これ全部食っていいんだなあ」
たちまち百瀬の瞳が輝きだす。
これは、スイーツ好きではなくてもテンションが上がりそうな光景だ。色とりどりのスイーツが、これでもかと並んでいる。ケーキ、マカロン、タルトにミニパフェ。はぁー、こりゃすげえ。いいもん貰っちまったなあ。ありがとう、父さん。
「と、取ってくか?」
咲良が緊張した様子で聞いてくるので、逆に落ち着く。
「そうだな」
真っ白な皿に、自分の好きなようにスイーツをのせていく。サツマイモのタルト、かぼちゃのプリン、モンブラン、シャインマスカットのタルト。おっ、これはベリーのパフェかあ……よし、食おう。できれば全種類制覇したいものだ。
ドリンクバーには見たこともない装置とか、聞いたこともないような横文字が並んでいた。しかし、一つだけ見知った顔があったので、それにする。緑茶、その文字だけでほっとする。
席に戻ったら、幾分落ち着いた。ではさっそく。
「いただきます」
まずはサツマイモのタルトから。表面がカリッとしているのは、あれか、キャラメリゼってやつか。ねっとり濃厚な舌触りにコクのある味、そんでミルク感。表面のパリパリが香ばしくて甘くて、タルト生地はバターの風味が上品だ。
「すげえ、俺、栗苦手と思ってたけど、これなら食えるわ」
やっと落ち着いたらしい咲良が、嬉しそうに言う。百瀬の皿はずいぶんにぎやかだったが、気持ちのいい食べっぷりで、サクサク減っていく。
「まさかこんなのが食べられるとは……」
「うん、おいしいな」
朝比奈も満足そうだ。高いもん食い慣れてそうだからちょっと心配だったが、よかったよかった。
さて今度はかぼちゃのプリンだ。お、種がのってる。香ばしい。プリンはかためで、サツマイモとはまた違うほっくりとしたうま味がある。ミルク感が控えめなのが、バランス良しである。
モンブラン、なんかおしゃれな感じする。内側はホイップクリームだ。すっきりした甘さの真っ白なクリームはすっと溶け、こっくりとした甘みの栗のクリームがいい後味だ。少しだけのった甘露煮みたいなのもうまい。金粉、味無いけど、なんかうまい気がする。
シャインマスカット、またお前に出会えるとは。サクサクのタルト生地はサツマイモのやつと比べてバターの風味控えめで、あっさりめのカスタードクリームに、みずみずしいシャインマスカットがよく合う。
そんでそこで緑茶。はーっ、ほっとした。
「おかわりいこーっと。春都は?」
「あ、俺も」
咲良と連れ立って、おかわりに行く。百瀬は朝比奈と一緒に、先に言っていたみたいだ。
そうだなあ、今度はどれにしよう。スイートポテトとかいいなあ。シャインマスカットのももう一つ……いや、二つ取ろう。いやあ、好きなものを好きなだけ食っていいって、いいなあ。
お、なんだこれは。フロランタン……うまそうだ。チョコムースもある。へえ、トッピング自由なのか……キャラメルと、ナッツと、あとオレンジピールかけよう。チュロスもうまそうだ。チョコレートのマカロンも食べたい。
さあ、第二陣、食うぞー。
スイートポテトは濃厚だ。香ばしく、ほくっとしていて、食べ応えがある。サツマイモのお菓子は緑茶に合う、と、思うのは俺だけだろうか。
シャインマスカットの安定のおいしさを楽しんだら、今度はムースを食べよう。んー、濃厚なチョコレートの甘味、コク、深い苦み。それを包み込むようなねっとりとしたカラメルソース、そして香ばしいナッツ。オレンジピールの風味もたまらなく爽やかだ。
チュロスは、カリもちっとした食感がうまい。シナモン味ってのがまたいいよなあ。スーッとするような感じが好き嫌い分かれるが、俺は好きだ。
フロランタンはカリッとしている。噛むほどにねっとり感が増し、ナッツの半端ない香ばしさがあふれてくる。キャラメルとはまた違う香ばしさとほろ苦さがたまらなくうまい。
マカロン……サクッとしつつもどこかねっちりとした歯ごたえがあり、香ばしさとチョコレートのコクがたまらない。マカロンって、こんなにうまいんだなあ。挟まっているクリームみたいなのはガナッシュっていうんだろ、俺、知ってる。ほんのりとした苦みが、すっきりとした口当たりにしてくれる。
どれもこれも、うんまいなあ。
「いやあ、うまいなあ」
咲良はチョコレートムースにバニラアイスを添え、特製のパフェみたいなのを作っている。チョコソースもかかってるし、甘そうだ。
「幸せ……」
しみじみとつぶやく百瀬はいったい何皿目だろうか。かくいう俺も、もう結構食ってる。
「今日は誘ってくれてありがとうな」
終始冷静かつ、上品な盛り付けをしていた朝比奈は、落ち着き払った様子で言った。それを聞いて、咲良も百瀬も「あざっす!」とスイーツを食べながら言う。
「いや、俺も一人で来れるような場所じゃないし、来ることができてよかったよ」
もし、次もあるのなら、もうちょっと落ち着いて入店したいものだな。
帰りにデパ地下にでも寄って行きたいなあ。確か、期間限定でフェアがやっているはずだ。
気を張っていて疲れてはいるが、もうちょっとこの喧騒と熱気の中にいたい。なんとなくそう思った。
「ごちそうさまでした」
「この店だな」
デパート内にある、非常におしゃれな店だ。大人っぽくて、きらきらしていて、何というか……普段では絶対に近づくことがないであろう洗練された店だ。
おっかなびっくり、入店する。
「いらっしゃいませ」
受付……受付? カウンター? レジ? よく分からないけど、そういう場所でチケットを渡したら、きっちりした格好の人が窓際の席まで案内してくれた。開店してすぐのせいか、人は少ない。
「ごゆっくりどうぞ」
案内してくれた人が立ち去ってから、揃って深い息をつく。
「あー……入店だけでこんな緊張するもんなんだな……」
そうつぶやけば、隣に座る咲良が落ち着かない様子できょろきょろとあたりを見回す。
「天井たっけぇ……え? ここ最上階だろ? 中庭に滝あるんだけど?」
「どんな味すんだろうね、こういうとこのお菓子って。あ、スイーツって言った方がいいのかな」
百瀬は並んでいるスイーツに気を取られているようだった。
そんな中で平然としているのは、俺の向かいに座る朝比奈だ。慣れた様子で上着を脱ぎ、足元のかごに入れる。そして立ち上がると、こちらを不思議そうに見て言ったものだ。
「取りに行かないのか?」
「へっ、あっ、そうだな!」
咲良が勢い良く立ち上がったものだから、椅子が倒れそうになる。咲良は慌てて椅子を受け止めて苦笑した。百瀬はそろっと立ち上がり、俺も音を立てないよう慎重に椅子を引く。そんな俺たちを見ていた朝比奈が首をかしげる。
「なんでそんなに緊張しているんだ? 普通のビュッフェだろう?」
「あのなあ、一般小市民はビュッフェになんて慣れてないの。そんな堂々としてられっかよ、ボンボンがよぉ」
咲良の言い方もあれだが、一理ある。ビュッフェなんぞ、生活していく中で選択肢に出てくることすらない。なんか突発的に飛び込んでくる感じだ。
しかし朝比奈はぴんと来ていない様子だ。だが気にするのはやめにしたらしく「とりあえず行くぞ」と言った。
朝比奈の後ろをついていくように、スイーツが並ぶエリアに行く。
「すっげー……これ全部食っていいんだなあ」
たちまち百瀬の瞳が輝きだす。
これは、スイーツ好きではなくてもテンションが上がりそうな光景だ。色とりどりのスイーツが、これでもかと並んでいる。ケーキ、マカロン、タルトにミニパフェ。はぁー、こりゃすげえ。いいもん貰っちまったなあ。ありがとう、父さん。
「と、取ってくか?」
咲良が緊張した様子で聞いてくるので、逆に落ち着く。
「そうだな」
真っ白な皿に、自分の好きなようにスイーツをのせていく。サツマイモのタルト、かぼちゃのプリン、モンブラン、シャインマスカットのタルト。おっ、これはベリーのパフェかあ……よし、食おう。できれば全種類制覇したいものだ。
ドリンクバーには見たこともない装置とか、聞いたこともないような横文字が並んでいた。しかし、一つだけ見知った顔があったので、それにする。緑茶、その文字だけでほっとする。
席に戻ったら、幾分落ち着いた。ではさっそく。
「いただきます」
まずはサツマイモのタルトから。表面がカリッとしているのは、あれか、キャラメリゼってやつか。ねっとり濃厚な舌触りにコクのある味、そんでミルク感。表面のパリパリが香ばしくて甘くて、タルト生地はバターの風味が上品だ。
「すげえ、俺、栗苦手と思ってたけど、これなら食えるわ」
やっと落ち着いたらしい咲良が、嬉しそうに言う。百瀬の皿はずいぶんにぎやかだったが、気持ちのいい食べっぷりで、サクサク減っていく。
「まさかこんなのが食べられるとは……」
「うん、おいしいな」
朝比奈も満足そうだ。高いもん食い慣れてそうだからちょっと心配だったが、よかったよかった。
さて今度はかぼちゃのプリンだ。お、種がのってる。香ばしい。プリンはかためで、サツマイモとはまた違うほっくりとしたうま味がある。ミルク感が控えめなのが、バランス良しである。
モンブラン、なんかおしゃれな感じする。内側はホイップクリームだ。すっきりした甘さの真っ白なクリームはすっと溶け、こっくりとした甘みの栗のクリームがいい後味だ。少しだけのった甘露煮みたいなのもうまい。金粉、味無いけど、なんかうまい気がする。
シャインマスカット、またお前に出会えるとは。サクサクのタルト生地はサツマイモのやつと比べてバターの風味控えめで、あっさりめのカスタードクリームに、みずみずしいシャインマスカットがよく合う。
そんでそこで緑茶。はーっ、ほっとした。
「おかわりいこーっと。春都は?」
「あ、俺も」
咲良と連れ立って、おかわりに行く。百瀬は朝比奈と一緒に、先に言っていたみたいだ。
そうだなあ、今度はどれにしよう。スイートポテトとかいいなあ。シャインマスカットのももう一つ……いや、二つ取ろう。いやあ、好きなものを好きなだけ食っていいって、いいなあ。
お、なんだこれは。フロランタン……うまそうだ。チョコムースもある。へえ、トッピング自由なのか……キャラメルと、ナッツと、あとオレンジピールかけよう。チュロスもうまそうだ。チョコレートのマカロンも食べたい。
さあ、第二陣、食うぞー。
スイートポテトは濃厚だ。香ばしく、ほくっとしていて、食べ応えがある。サツマイモのお菓子は緑茶に合う、と、思うのは俺だけだろうか。
シャインマスカットの安定のおいしさを楽しんだら、今度はムースを食べよう。んー、濃厚なチョコレートの甘味、コク、深い苦み。それを包み込むようなねっとりとしたカラメルソース、そして香ばしいナッツ。オレンジピールの風味もたまらなく爽やかだ。
チュロスは、カリもちっとした食感がうまい。シナモン味ってのがまたいいよなあ。スーッとするような感じが好き嫌い分かれるが、俺は好きだ。
フロランタンはカリッとしている。噛むほどにねっとり感が増し、ナッツの半端ない香ばしさがあふれてくる。キャラメルとはまた違う香ばしさとほろ苦さがたまらなくうまい。
マカロン……サクッとしつつもどこかねっちりとした歯ごたえがあり、香ばしさとチョコレートのコクがたまらない。マカロンって、こんなにうまいんだなあ。挟まっているクリームみたいなのはガナッシュっていうんだろ、俺、知ってる。ほんのりとした苦みが、すっきりとした口当たりにしてくれる。
どれもこれも、うんまいなあ。
「いやあ、うまいなあ」
咲良はチョコレートムースにバニラアイスを添え、特製のパフェみたいなのを作っている。チョコソースもかかってるし、甘そうだ。
「幸せ……」
しみじみとつぶやく百瀬はいったい何皿目だろうか。かくいう俺も、もう結構食ってる。
「今日は誘ってくれてありがとうな」
終始冷静かつ、上品な盛り付けをしていた朝比奈は、落ち着き払った様子で言った。それを聞いて、咲良も百瀬も「あざっす!」とスイーツを食べながら言う。
「いや、俺も一人で来れるような場所じゃないし、来ることができてよかったよ」
もし、次もあるのなら、もうちょっと落ち着いて入店したいものだな。
帰りにデパ地下にでも寄って行きたいなあ。確か、期間限定でフェアがやっているはずだ。
気を張っていて疲れてはいるが、もうちょっとこの喧騒と熱気の中にいたい。なんとなくそう思った。
「ごちそうさまでした」
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