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日常
第四百七十話 具だくさんみそ汁
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今日はまた一段と、返却本が多い。ジャンルもばらばらだから、戻すのに苦労しそうだ。
「えーっと……これは小説、エッセイ、文庫本と新書。脈絡ねえなあ」
「はは、最初の方は仕分けていたんだがなあ」
漆原先生が、市立図書館から借りた本の返却手続きをしながら言った。
「途中から追いつかなくなってやめた。たまにあるんだよな、こういう時が」
「ありますよねえ、何なんでしょうね」
「何なんだろうな」
まあ、文句を言っていても何も進まないし、片づけよう。戻しに行く度に仕分ければいい話だ。この作業は割と苦ではない。むしろ楽しい。ただ、大きい本と小さい本が入り乱れてると抱えるのがちょっと大変だ。
「ハードカバーから片づけていくか」
図書館は奥にハードカバーの本や郷土資料とかがあって、入り口付近には文庫本が並んでいる。途中には心理学とか料理とか辞書とかがジャンルごとに並んでいるが、小説ほどきっちり分けられていなくて、戻すのに苦労する。
「うげ、ぎっちり」
本棚の上段と真ん中はぎっちぎちだが、下段はスッカスカだ。バランスを取りづらいのは分からないでもないが、この状態の本棚に本を戻すのは結構しんどいから、気を付けてほしいなあという気もしなくもない。
ちょっとずつ本をずらしていき、やっと目当ての場所に本を戻す。この地味な作業が結構くるんだ。
「えーっと次は……」
「や、一条。頑張ってる~?」
「おぉ、びっくりした」
山崎と中村が来ていたようだ。誰もいないと思っていたので結構驚く。山崎はケラケラと笑った。
「全然びっくりしてないテンションで言うじゃん」
「よく言われる」
「やっぱり?」
一方、中村は借りたい本があるらしく、本棚を眺めていた。
「お前も図書館とか来るんだな」
山崎に聞けば、「んーいや」といつものごとくよく読めない、へらへらとした笑みを浮かべて答えた。
「俺はそんなに来ないよ。てか、年に何冊借りてんのかなー。活字はあんまり読まないんだよね。すぐ眠くなる」
「ああ……」
なんとなく思い当たる節があって、思わずそんな反応になる。
こいつ、いつも国語の時間、眠そうにしてるか寝てるかだもんなあ。成績はどんなもんかは知らないが。
「英語は寝てないよな」
「そもそも活字って認識してないところあるからね」
「ほぉん……?」
「あんまり真剣に捉えるな、一条。こいつ、適当なところあるぞ」
本を探しながら、中村が言う。「ひどいなあ」と山崎は言うが、堪えていない様子で、相変わらずへらへらとしていた。
山崎は早々に図書館に飽きたのか「先に帰るー」と言って行ってしまった。そもそも勝手についてきていただけらしいので、中村も止めない。
「お、あった。これこれ」
目的の本を見つけたらしい中村が、本棚からその本を引っ張り出す。そこの本棚もぎちぎちだったのか、取り出すのに苦労していた。
「お前は、本読むんだな」
聞けば中村は頷いた。
「少なくとも、あいつよりは読むな」
「漫画とかも?」
「まあ、そうだな。姉さんも読んでるし、うちに結構あるぞ」
それは興味深い。自分では絶対読まないような本とかきっとあるんだろうなあ。買うまでには至らないけど、ちょっと中身が気になる本って結構あるんだよ。ああ、読んでみたいなあ。でも、苦手なやつばっかりかもしれないなあ、とも思う。趣味の違いもあるし、結構自分の趣味嗜好があらわになっている部分があるので、他人の本棚事情には首を突っ込まない方がいいこともある。難しいなあ。
「どんなん読んでんの?」
試しに聞いてみると、中村はじっくり考えこむ。そして難しそうな顔をし、ハッとし、また首をひねり……なんか、聞いちゃいけないこと聞いたかなあ。
「……いろいろだ」
さんざん考えた結果それかよ。
「いろいろかあ」
「うちの本棚はなんというか、無秩序だぞ」
めちゃくちゃ真剣な顔で言うなあ。
「文庫本サイズから大判まで。姉さんの本棚もまあ……うん、なあ」
なんか歯切れ悪いな。
「どうした」
「いや、姉さんの本棚の内容を口外したら、俺の命がないから、言わない」
何だ何だ、物騒だな。
人には隠しておきたいことの一つや二つあるだろうから、それも分からなくはないけど、命が関わってくるとは穏やかではないな。
そういうのには、関わらないのが吉である。
さて、今日はばあちゃんから大量にもらった野菜があるので、みそ汁を作る。キャベツにニンジン、里いも、そしてうちにあるまいたけ。里いもはすでに皮をむいてくれていたので助かった。あっ、そうだ。最後に卵を落とそう。これだけで十分立派なご飯だ。
「いただきます」
とりあえず汁を飲む。
っはあ~、やっぱきのこ入れるとうま味が違うなあ。じんわりと広がるかつお出汁のさっぱりとした風味に、奥深いきのこのうま味。まいたけは特に、いいうま味を出してくれるように思う。
しかし、まいたけそのものもしっかりうまい。程よいシャキっとした歯ごたえに、ふうわりと香るきのこの香り。あんまりきつい匂いじゃないのがいいんだろうな。
ニンジンもホックホクだ。甘さは程よく、味噌によく合う。ニンジンって、野菜の中ではどちらかといえばそこまで得意じゃない部類に入っていたのだが、すっかり好きになったものだ。ほんと、おいしく食べられるものが増えるって、幸せだなあ。
里芋のとろみがたまらない。冬の寒さに嬉しい。表面は少しプチッとはじける感じがして、モチモチとした食感は食べ応えがあって、口に広がる芋の風味が優しい。
キャベツ、シャキシャキだ。四角っぽく切ったから食べやすい。加熱したキャベツはたまに独特な匂いがしてちょっと苦手な時もあるが、これはうまい。香りが控えめでみずみずしいキャベツだ。生食向きのキャベツもあるからなあ、うまく見極めておいしくいただきたいものである。
プチッと卵を割る。おお、いいとろけ具合。白身のプルプルもいいんだなあ。
卵が溶けだすことで、より、味噌の香ばしさが分かるようになった。卵はまろやかで、具材をトロリと包み込む。
これだけで十分なおかずになるのだから、すごいものである。
また作ろう。今度は肉を入れてみてもいかもしれない。海鮮系のみそ汁も作ってみたいんだよなあ。
ああ、みそ汁って、奥が深い。
「ごちそうさまでした」
「えーっと……これは小説、エッセイ、文庫本と新書。脈絡ねえなあ」
「はは、最初の方は仕分けていたんだがなあ」
漆原先生が、市立図書館から借りた本の返却手続きをしながら言った。
「途中から追いつかなくなってやめた。たまにあるんだよな、こういう時が」
「ありますよねえ、何なんでしょうね」
「何なんだろうな」
まあ、文句を言っていても何も進まないし、片づけよう。戻しに行く度に仕分ければいい話だ。この作業は割と苦ではない。むしろ楽しい。ただ、大きい本と小さい本が入り乱れてると抱えるのがちょっと大変だ。
「ハードカバーから片づけていくか」
図書館は奥にハードカバーの本や郷土資料とかがあって、入り口付近には文庫本が並んでいる。途中には心理学とか料理とか辞書とかがジャンルごとに並んでいるが、小説ほどきっちり分けられていなくて、戻すのに苦労する。
「うげ、ぎっちり」
本棚の上段と真ん中はぎっちぎちだが、下段はスッカスカだ。バランスを取りづらいのは分からないでもないが、この状態の本棚に本を戻すのは結構しんどいから、気を付けてほしいなあという気もしなくもない。
ちょっとずつ本をずらしていき、やっと目当ての場所に本を戻す。この地味な作業が結構くるんだ。
「えーっと次は……」
「や、一条。頑張ってる~?」
「おぉ、びっくりした」
山崎と中村が来ていたようだ。誰もいないと思っていたので結構驚く。山崎はケラケラと笑った。
「全然びっくりしてないテンションで言うじゃん」
「よく言われる」
「やっぱり?」
一方、中村は借りたい本があるらしく、本棚を眺めていた。
「お前も図書館とか来るんだな」
山崎に聞けば、「んーいや」といつものごとくよく読めない、へらへらとした笑みを浮かべて答えた。
「俺はそんなに来ないよ。てか、年に何冊借りてんのかなー。活字はあんまり読まないんだよね。すぐ眠くなる」
「ああ……」
なんとなく思い当たる節があって、思わずそんな反応になる。
こいつ、いつも国語の時間、眠そうにしてるか寝てるかだもんなあ。成績はどんなもんかは知らないが。
「英語は寝てないよな」
「そもそも活字って認識してないところあるからね」
「ほぉん……?」
「あんまり真剣に捉えるな、一条。こいつ、適当なところあるぞ」
本を探しながら、中村が言う。「ひどいなあ」と山崎は言うが、堪えていない様子で、相変わらずへらへらとしていた。
山崎は早々に図書館に飽きたのか「先に帰るー」と言って行ってしまった。そもそも勝手についてきていただけらしいので、中村も止めない。
「お、あった。これこれ」
目的の本を見つけたらしい中村が、本棚からその本を引っ張り出す。そこの本棚もぎちぎちだったのか、取り出すのに苦労していた。
「お前は、本読むんだな」
聞けば中村は頷いた。
「少なくとも、あいつよりは読むな」
「漫画とかも?」
「まあ、そうだな。姉さんも読んでるし、うちに結構あるぞ」
それは興味深い。自分では絶対読まないような本とかきっとあるんだろうなあ。買うまでには至らないけど、ちょっと中身が気になる本って結構あるんだよ。ああ、読んでみたいなあ。でも、苦手なやつばっかりかもしれないなあ、とも思う。趣味の違いもあるし、結構自分の趣味嗜好があらわになっている部分があるので、他人の本棚事情には首を突っ込まない方がいいこともある。難しいなあ。
「どんなん読んでんの?」
試しに聞いてみると、中村はじっくり考えこむ。そして難しそうな顔をし、ハッとし、また首をひねり……なんか、聞いちゃいけないこと聞いたかなあ。
「……いろいろだ」
さんざん考えた結果それかよ。
「いろいろかあ」
「うちの本棚はなんというか、無秩序だぞ」
めちゃくちゃ真剣な顔で言うなあ。
「文庫本サイズから大判まで。姉さんの本棚もまあ……うん、なあ」
なんか歯切れ悪いな。
「どうした」
「いや、姉さんの本棚の内容を口外したら、俺の命がないから、言わない」
何だ何だ、物騒だな。
人には隠しておきたいことの一つや二つあるだろうから、それも分からなくはないけど、命が関わってくるとは穏やかではないな。
そういうのには、関わらないのが吉である。
さて、今日はばあちゃんから大量にもらった野菜があるので、みそ汁を作る。キャベツにニンジン、里いも、そしてうちにあるまいたけ。里いもはすでに皮をむいてくれていたので助かった。あっ、そうだ。最後に卵を落とそう。これだけで十分立派なご飯だ。
「いただきます」
とりあえず汁を飲む。
っはあ~、やっぱきのこ入れるとうま味が違うなあ。じんわりと広がるかつお出汁のさっぱりとした風味に、奥深いきのこのうま味。まいたけは特に、いいうま味を出してくれるように思う。
しかし、まいたけそのものもしっかりうまい。程よいシャキっとした歯ごたえに、ふうわりと香るきのこの香り。あんまりきつい匂いじゃないのがいいんだろうな。
ニンジンもホックホクだ。甘さは程よく、味噌によく合う。ニンジンって、野菜の中ではどちらかといえばそこまで得意じゃない部類に入っていたのだが、すっかり好きになったものだ。ほんと、おいしく食べられるものが増えるって、幸せだなあ。
里芋のとろみがたまらない。冬の寒さに嬉しい。表面は少しプチッとはじける感じがして、モチモチとした食感は食べ応えがあって、口に広がる芋の風味が優しい。
キャベツ、シャキシャキだ。四角っぽく切ったから食べやすい。加熱したキャベツはたまに独特な匂いがしてちょっと苦手な時もあるが、これはうまい。香りが控えめでみずみずしいキャベツだ。生食向きのキャベツもあるからなあ、うまく見極めておいしくいただきたいものである。
プチッと卵を割る。おお、いいとろけ具合。白身のプルプルもいいんだなあ。
卵が溶けだすことで、より、味噌の香ばしさが分かるようになった。卵はまろやかで、具材をトロリと包み込む。
これだけで十分なおかずになるのだから、すごいものである。
また作ろう。今度は肉を入れてみてもいかもしれない。海鮮系のみそ汁も作ってみたいんだよなあ。
ああ、みそ汁って、奥が深い。
「ごちそうさまでした」
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