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日常
第五百三十二話 いちごチョコクレープ
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無性に甘いものが食いたい時がある。
疲れてるとか、そういうこともあるんだろうけど、何も関係なしに甘いものがとにかく食いたいという時がある。ケーキをショーケースの片っ端から食いたいとか、アイス樽ごととか、チョコレートを大袋でいくつもとか。
まあ、それは財布が許してくれないし、度が過ぎると後で気分悪くなるからやんないんだけど。どうせ食うなら、おいしく食べたいものだ。
そんな時、俺は、タピオカとかクレープが思いつくわけだ。なんでかわかんないけど。腹にたまるからいいのかな。でもタピオカの店は、この辺にない。バスを乗り継いでまで行こうとも思わない。
ましてや、平日だ。そうそう遠出もできない。
「クレープ食いてぇ~……」
昼食後、教室でだらだらしながら言えば、同じくぼーっとしていた咲良が天井から俺に視線を移動させた。
「急に春都が女子みたいなことを言いだした」
「うるせぇ、クレープは老若男女に開かれたスイーツだ」
「なんか春都がそう言うと壮大に聞こえるな」
「はぁー、クレープ食いてぇ」
甘味が充実してきた学食にも、あいにく、クレープは売っていない。ミルクレープとやらは売っているが、俺は今、クレープが食いたいのだ。
生クリープたっぷりで、カスタードが入っていることもあって、ソースはいろいろ選べる。新鮮なフルーツが惜しげもなく散りばめられ、薄い生地はおいしさでパンパンになる。包装紙の上からでも伝わる、生地の温かさとトッピングの冷たさのコントラスト。アイスがのっているとなお最高だ。
おかず系でもいいが、今は甘い方が食いたい。
「クレープなあ」
咲良は言うと、パックジュースのストローが入っていた袋をねじりながら話し始めた。
「なんかテレビで見たけど、最近は色んなクレープがあるんだな。何だっけ、クレームブリュレ? 生クリームに砂糖振って、ガーッて炙るの」
と、咲良は身振りを交えて説明する。
「絶対うまいじゃん、それ」
「後はー、折りたたんだ感じのやつ。四角いやつでさー、食べやすそうだった」
「それは駅とかで売ってるやつだな。お土産とかにに人気のやつだろ」
「よく知ってんなあ」
咲良は面白そうに笑った。
「後は、皿の上にのってるやつ。ガレット」
「それはまた似て非なる料理だな。そば粉でできたやつだ」
「そうそう、確かそんなこと言ってた。あれはクレープじゃないの?」
「……食ったことないから分からん」
でもうまそうなんだよなあ。そば粉で作ったクレープ、って感じなのだろうか。目玉焼きとか野菜とかのってて、うまそうなんだよなあ。どんな味がすんだろ。
でも俺は、とにかく、甘いクレープが食いたいのだ。咲良は袋をねじり、ほどき、伸ばしながら言う。
「クレープといえば、ネットでも色々上がってたぜ。映えとか何とかいって」
咲良がいじっていた袋はしわしわのくちゃくちゃになっていた。それでもなお、咲良は袋をいじり続ける。
「あー、なんか見たことある」
「あれって、見た目重視で味は二の次って感じしねえ?」
「どうだろうな」
食ったことのないものだから、それこそ分からない。着色料盛りだくさんって感じのやつは、ものによっては確かに、粉っぽい感じがすることもあるけど、好奇心がくすぐられるものだ。
ただまあ、見栄えを気にしすぎると、写真だけ撮って満足する人たちも出てくるもんで。それはちょっと悲しいよなあ。
「なんかね、真っ青なのとかあった」
写真見せたいなあ、と咲良は笑った。
「真っ青か……」
「ね、みんないろいろ思いつくよね~」
「アメリカンな色合いのお菓子も興味ある」
「それは分かる」
いかん。そんな話してたら余計にクレープ食いたくなってきた。クレープ、クレープ……
「プレジャス行くか」
そうだよ、プレジャスのアイス屋。あそこのクレープうまいんだよ。そうだ、食いたいなら買いに行けばいい。
「お、クレープ食いに行くのか?」
咲良の問いに頷くと、咲良はやっと手に持っていた袋をゴミ袋に入れた。
「じゃ、俺も行く」
「一緒に行くのか」
「俺もクレープ食いたくなってきた」
そうと決まれば、店に着く前にメニュー決めとくか。鞄から、アイスとクレープのメニュー表を取り出す。こないだ本買いに行ったとき、最新版のやつをもらってきていたのだ。
「持ち歩いてんのか、それ」
咲良が楽しそうに笑いながら言う。そして自分もワクワクした様子で、メニューをのぞき込んだ。
今はいちごフェアとかいうのをやっているらしい。もうそんな季節か。だとすれば、それに乗るほかないだろう。
「いちごチョコクレープを一つ。アイスは、二つともチョコレートで」
シンプルな生地に生クリームが山盛り絞られて、チョコソースがかけられていく。刻まれたイチゴがトッピングされ、最後に、ブラウニーとアイスが添えられる。クレープってのは、作られる様子も楽しいものだ。
「咲良は何にしたんだったか」
「俺も一緒。アイスはチョコチップとバニラにした~」
クレープを受け取り、近くのベンチに座る。
「いただきます」
ああ、包装越しに伝わる温かさと冷たさよ。付属のスプーンがなんともかわいらしい。
生地の縁はパリパリと香ばしく甘い。もっちりとした生地がやっぱり、クレープらしくていいなあ。冷たくひんやりとした、濃厚な味わいのチョコレートアイス、次いで、チョコソースがあふれ出てくる。生クリームは少し温まっていてとろとろだ。
冷たい部分はもこもこしていて、もちもちの生地とよく合う。ああ、甘酸っぱいいちご。プチプチとはじけるような食感に、爽やかな甘み。いちごとチョコは、間違いない組み合わせである。
ブラウニーの、コクのある甘さとほろ苦さ、しっとりとした口当たりがたまらない。
「あー、うまい」
「久々に食ったけど、うまいな、クレープって」
咲良はアイスだけをスプーンですくって食べた。ああ、その食い方もいいよな。アイスだけを食いたいタイミングってあるもんな。
スプーンですくって、ひんやりしたアイスを堪能し、また、もちもちに戻る。クレープはうまく食べるのが難しいものの一つのように思う。トッピングも何もかも無駄なく、しっかり、食べきりたいから、慎重に、でも大胆に食べる。
あ、もう最後の一口。この最後の折り目もまた、おいしさが詰まってるんだよなあ。
食いたい時に食いたいものを食う。なんて贅沢なんだろう。
「ごちそうさまでした」
疲れてるとか、そういうこともあるんだろうけど、何も関係なしに甘いものがとにかく食いたいという時がある。ケーキをショーケースの片っ端から食いたいとか、アイス樽ごととか、チョコレートを大袋でいくつもとか。
まあ、それは財布が許してくれないし、度が過ぎると後で気分悪くなるからやんないんだけど。どうせ食うなら、おいしく食べたいものだ。
そんな時、俺は、タピオカとかクレープが思いつくわけだ。なんでかわかんないけど。腹にたまるからいいのかな。でもタピオカの店は、この辺にない。バスを乗り継いでまで行こうとも思わない。
ましてや、平日だ。そうそう遠出もできない。
「クレープ食いてぇ~……」
昼食後、教室でだらだらしながら言えば、同じくぼーっとしていた咲良が天井から俺に視線を移動させた。
「急に春都が女子みたいなことを言いだした」
「うるせぇ、クレープは老若男女に開かれたスイーツだ」
「なんか春都がそう言うと壮大に聞こえるな」
「はぁー、クレープ食いてぇ」
甘味が充実してきた学食にも、あいにく、クレープは売っていない。ミルクレープとやらは売っているが、俺は今、クレープが食いたいのだ。
生クリープたっぷりで、カスタードが入っていることもあって、ソースはいろいろ選べる。新鮮なフルーツが惜しげもなく散りばめられ、薄い生地はおいしさでパンパンになる。包装紙の上からでも伝わる、生地の温かさとトッピングの冷たさのコントラスト。アイスがのっているとなお最高だ。
おかず系でもいいが、今は甘い方が食いたい。
「クレープなあ」
咲良は言うと、パックジュースのストローが入っていた袋をねじりながら話し始めた。
「なんかテレビで見たけど、最近は色んなクレープがあるんだな。何だっけ、クレームブリュレ? 生クリームに砂糖振って、ガーッて炙るの」
と、咲良は身振りを交えて説明する。
「絶対うまいじゃん、それ」
「後はー、折りたたんだ感じのやつ。四角いやつでさー、食べやすそうだった」
「それは駅とかで売ってるやつだな。お土産とかにに人気のやつだろ」
「よく知ってんなあ」
咲良は面白そうに笑った。
「後は、皿の上にのってるやつ。ガレット」
「それはまた似て非なる料理だな。そば粉でできたやつだ」
「そうそう、確かそんなこと言ってた。あれはクレープじゃないの?」
「……食ったことないから分からん」
でもうまそうなんだよなあ。そば粉で作ったクレープ、って感じなのだろうか。目玉焼きとか野菜とかのってて、うまそうなんだよなあ。どんな味がすんだろ。
でも俺は、とにかく、甘いクレープが食いたいのだ。咲良は袋をねじり、ほどき、伸ばしながら言う。
「クレープといえば、ネットでも色々上がってたぜ。映えとか何とかいって」
咲良がいじっていた袋はしわしわのくちゃくちゃになっていた。それでもなお、咲良は袋をいじり続ける。
「あー、なんか見たことある」
「あれって、見た目重視で味は二の次って感じしねえ?」
「どうだろうな」
食ったことのないものだから、それこそ分からない。着色料盛りだくさんって感じのやつは、ものによっては確かに、粉っぽい感じがすることもあるけど、好奇心がくすぐられるものだ。
ただまあ、見栄えを気にしすぎると、写真だけ撮って満足する人たちも出てくるもんで。それはちょっと悲しいよなあ。
「なんかね、真っ青なのとかあった」
写真見せたいなあ、と咲良は笑った。
「真っ青か……」
「ね、みんないろいろ思いつくよね~」
「アメリカンな色合いのお菓子も興味ある」
「それは分かる」
いかん。そんな話してたら余計にクレープ食いたくなってきた。クレープ、クレープ……
「プレジャス行くか」
そうだよ、プレジャスのアイス屋。あそこのクレープうまいんだよ。そうだ、食いたいなら買いに行けばいい。
「お、クレープ食いに行くのか?」
咲良の問いに頷くと、咲良はやっと手に持っていた袋をゴミ袋に入れた。
「じゃ、俺も行く」
「一緒に行くのか」
「俺もクレープ食いたくなってきた」
そうと決まれば、店に着く前にメニュー決めとくか。鞄から、アイスとクレープのメニュー表を取り出す。こないだ本買いに行ったとき、最新版のやつをもらってきていたのだ。
「持ち歩いてんのか、それ」
咲良が楽しそうに笑いながら言う。そして自分もワクワクした様子で、メニューをのぞき込んだ。
今はいちごフェアとかいうのをやっているらしい。もうそんな季節か。だとすれば、それに乗るほかないだろう。
「いちごチョコクレープを一つ。アイスは、二つともチョコレートで」
シンプルな生地に生クリームが山盛り絞られて、チョコソースがかけられていく。刻まれたイチゴがトッピングされ、最後に、ブラウニーとアイスが添えられる。クレープってのは、作られる様子も楽しいものだ。
「咲良は何にしたんだったか」
「俺も一緒。アイスはチョコチップとバニラにした~」
クレープを受け取り、近くのベンチに座る。
「いただきます」
ああ、包装越しに伝わる温かさと冷たさよ。付属のスプーンがなんともかわいらしい。
生地の縁はパリパリと香ばしく甘い。もっちりとした生地がやっぱり、クレープらしくていいなあ。冷たくひんやりとした、濃厚な味わいのチョコレートアイス、次いで、チョコソースがあふれ出てくる。生クリームは少し温まっていてとろとろだ。
冷たい部分はもこもこしていて、もちもちの生地とよく合う。ああ、甘酸っぱいいちご。プチプチとはじけるような食感に、爽やかな甘み。いちごとチョコは、間違いない組み合わせである。
ブラウニーの、コクのある甘さとほろ苦さ、しっとりとした口当たりがたまらない。
「あー、うまい」
「久々に食ったけど、うまいな、クレープって」
咲良はアイスだけをスプーンですくって食べた。ああ、その食い方もいいよな。アイスだけを食いたいタイミングってあるもんな。
スプーンですくって、ひんやりしたアイスを堪能し、また、もちもちに戻る。クレープはうまく食べるのが難しいものの一つのように思う。トッピングも何もかも無駄なく、しっかり、食べきりたいから、慎重に、でも大胆に食べる。
あ、もう最後の一口。この最後の折り目もまた、おいしさが詰まってるんだよなあ。
食いたい時に食いたいものを食う。なんて贅沢なんだろう。
「ごちそうさまでした」
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