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日常
第六百十七話 そうめん
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「朝から暑いなあ」
自分の部屋のカーテンを開けると、容赦ない日差しが差し込んでくる。テレビなんかじゃ残暑だといっているが、これからいったいどれだけこの暑さが続くのだろう。
こんな日はカーテンを閉めて、クーラーの効いた居間でゴロゴロするに限る。
ひんやりしたソファに横になり、傍らに漫画を山積みにする。ゲームも持って来ておこうか。テーブルにはスマホとお茶。これこそ夏休みだ。
「春都、夏休みの間部活は?」
台所でコーヒーを入れている父さんが聞いてくる。
「後半の課外が始まってからかなあ、本格的に始まるのは」
「そうなんだ」
「体育祭の役決めが終わってから……あー、体育祭。体育祭があるのか~」
「嫌そう」
と、買ってきていたチョコ菓子を食べながら母さんが笑う。
「放送の仕事でこき使われるのはいいけど、あの雰囲気が苦手」
「こき使われるのは良いのね」
「うん」
そうかあ、課外後半からは体育祭の練習が始まるんだった。ま、参加しなくていいのはラッキーと思うしかない。体育祭独特のあの雰囲気にはどうにも慣れないけど。競技決めとか役決めに参加しなくていいのは助かる。
機材を運ぶのにも随分慣れたことだし、うまくやれるだろう。さ、そんなことより今はのんびりしたい。余計なことは考えずに。
まあ、余計なことではないんだろうけど……
あ、もうこれが最後の本か。いやあ、夢中で読んでいるとあっという間に読んでしまうんだなあ。さて、じゃあ、ゲームでもしようか。それともアニメを見ようか。うーん……よし、両方やろう。
本を片付け、携帯ゲーム機のカセットを持ってくる。やりたいのがいくつもあるからな。そんでテレビは、このアニメDVD。
もう三十年ちょっとになるのかな、このシリーズ。最近になってはまって……そしたらもう、ドはまりしてなあ。いやあ、自分でもここまで一生懸命になるとは思わなかった。グッズはまだそろってないけど、原画集とイラスト集は買ってしまった。もうちょっと早くにはまってたらなあ、なんて思うこともある。
ま、今出会っただけでも十分だ。
大好きなアニメを見ながらゲームをする。なんて贅沢だろう。アニメを見ながらやるなら……このゲームかな。
充電もばっちり。小学生の頃は、電源入れっぱなしで持ち歩いて、気づいたら電源切れてたってこともあったなあ。カセットが飛び出していたこともある。
「最近ずっと見てるねー、このアニメ」
オープニングが流れ始めて、父さんが言った。
「うん」
「面白い?」
「面白いよ」
どこが面白いかって……いやいや、一言じゃ表せないね。基本ギャグだけどたまにしんみりするし、真剣なシーンもあって、ずっと見ていても疲れないし。これは、一度見てもらった方がいい。
今はシリーズを最初から見ているが、これももう何巡目だろう。映画も見たくなってくるんだよなあ。
映画はもう何百回と見た気がする。セリフ、覚えたもん。
おっといけない。ゲームもしなければ。リセットして最初からやり直したくなる衝動に駆られるが、いざ始めると、やっぱこのままでいいやってなるんだよなあ。ここまで進めといて、やれること増えて、不自由なく進められるようになっていたら惜しいというか、最初からやり直すのは手がかかるというか。
ゲームして、アニメ見て、またゲームに目を戻してアニメを見て。忙しい。忙しいが、こういう忙しさは幸せだ。
「春都、春都」
楽しく忙しいループをいったん止めたのは、母さんの声だった。
「なにー?」
「昼ご飯はそうめんでもいい?」
「いいよー」
ありゃ、もうこんな時間か。さっき朝ごはん食べた気がするんだけどなあ。全然動いてないや。
「わうっ」
ゲームをいったんセーブして電源を切ると、うめずが足元にやってきた。
「遊ぶか」
「わふ」
ちょっと動いて、お腹空かせるか。動かなくても腹は減っているが、ちょっとくらい動かないとな。
ボールやら他のおもちゃやらでうめずと遊んでいたら汗かいた。涼しい部屋とはいえ、動くと暑い。
着替えて洗濯物を洗濯機に入れて居間に戻ると、テーブルに昼食が準備されていた。
好きなことやってる間にご飯の準備ができてるって、幸せだ。
「いただきます」
麺つゆにねぎ、それとしょうがを入れる。薬味はたっぷり目が好きだ。
そうめんは細く、つゆに入れるとひらひら揺れる。その様子を見るだけでもう口当たりとか味が想像できる。
つるんとした口当たり、冷たくて口に入れた瞬間から体が冷え、つゆの甘味があとから来る。かつおだしのうま味がふわりと鼻に抜け、ひりりとしつつ爽やかなしょうがが心地よい。シャキシャキするくらい入れるのが好きだ。
ねぎの風味もいいなあ。新鮮なねぎは辛いくらいだ。
そうめんは噛むと小麦の風味が際立つ。いろんな太さのそうめん、あるいはひやむぎがあるものだが、俺は細めが好きだ。食べ応えが欲しいときは太めでもいい。
茹でるときは暑くてどうしようもないそうめんだが、やっぱり、夏に食べるにはいいんだよなあ。暑いときに、食欲があるかないか微妙なときとかでも食べられる。
特に今日は自分で茹でたわけじゃないから、余計に涼しくていい。
夏休みって最高だ。
「ごちそうさまでした」
自分の部屋のカーテンを開けると、容赦ない日差しが差し込んでくる。テレビなんかじゃ残暑だといっているが、これからいったいどれだけこの暑さが続くのだろう。
こんな日はカーテンを閉めて、クーラーの効いた居間でゴロゴロするに限る。
ひんやりしたソファに横になり、傍らに漫画を山積みにする。ゲームも持って来ておこうか。テーブルにはスマホとお茶。これこそ夏休みだ。
「春都、夏休みの間部活は?」
台所でコーヒーを入れている父さんが聞いてくる。
「後半の課外が始まってからかなあ、本格的に始まるのは」
「そうなんだ」
「体育祭の役決めが終わってから……あー、体育祭。体育祭があるのか~」
「嫌そう」
と、買ってきていたチョコ菓子を食べながら母さんが笑う。
「放送の仕事でこき使われるのはいいけど、あの雰囲気が苦手」
「こき使われるのは良いのね」
「うん」
そうかあ、課外後半からは体育祭の練習が始まるんだった。ま、参加しなくていいのはラッキーと思うしかない。体育祭独特のあの雰囲気にはどうにも慣れないけど。競技決めとか役決めに参加しなくていいのは助かる。
機材を運ぶのにも随分慣れたことだし、うまくやれるだろう。さ、そんなことより今はのんびりしたい。余計なことは考えずに。
まあ、余計なことではないんだろうけど……
あ、もうこれが最後の本か。いやあ、夢中で読んでいるとあっという間に読んでしまうんだなあ。さて、じゃあ、ゲームでもしようか。それともアニメを見ようか。うーん……よし、両方やろう。
本を片付け、携帯ゲーム機のカセットを持ってくる。やりたいのがいくつもあるからな。そんでテレビは、このアニメDVD。
もう三十年ちょっとになるのかな、このシリーズ。最近になってはまって……そしたらもう、ドはまりしてなあ。いやあ、自分でもここまで一生懸命になるとは思わなかった。グッズはまだそろってないけど、原画集とイラスト集は買ってしまった。もうちょっと早くにはまってたらなあ、なんて思うこともある。
ま、今出会っただけでも十分だ。
大好きなアニメを見ながらゲームをする。なんて贅沢だろう。アニメを見ながらやるなら……このゲームかな。
充電もばっちり。小学生の頃は、電源入れっぱなしで持ち歩いて、気づいたら電源切れてたってこともあったなあ。カセットが飛び出していたこともある。
「最近ずっと見てるねー、このアニメ」
オープニングが流れ始めて、父さんが言った。
「うん」
「面白い?」
「面白いよ」
どこが面白いかって……いやいや、一言じゃ表せないね。基本ギャグだけどたまにしんみりするし、真剣なシーンもあって、ずっと見ていても疲れないし。これは、一度見てもらった方がいい。
今はシリーズを最初から見ているが、これももう何巡目だろう。映画も見たくなってくるんだよなあ。
映画はもう何百回と見た気がする。セリフ、覚えたもん。
おっといけない。ゲームもしなければ。リセットして最初からやり直したくなる衝動に駆られるが、いざ始めると、やっぱこのままでいいやってなるんだよなあ。ここまで進めといて、やれること増えて、不自由なく進められるようになっていたら惜しいというか、最初からやり直すのは手がかかるというか。
ゲームして、アニメ見て、またゲームに目を戻してアニメを見て。忙しい。忙しいが、こういう忙しさは幸せだ。
「春都、春都」
楽しく忙しいループをいったん止めたのは、母さんの声だった。
「なにー?」
「昼ご飯はそうめんでもいい?」
「いいよー」
ありゃ、もうこんな時間か。さっき朝ごはん食べた気がするんだけどなあ。全然動いてないや。
「わうっ」
ゲームをいったんセーブして電源を切ると、うめずが足元にやってきた。
「遊ぶか」
「わふ」
ちょっと動いて、お腹空かせるか。動かなくても腹は減っているが、ちょっとくらい動かないとな。
ボールやら他のおもちゃやらでうめずと遊んでいたら汗かいた。涼しい部屋とはいえ、動くと暑い。
着替えて洗濯物を洗濯機に入れて居間に戻ると、テーブルに昼食が準備されていた。
好きなことやってる間にご飯の準備ができてるって、幸せだ。
「いただきます」
麺つゆにねぎ、それとしょうがを入れる。薬味はたっぷり目が好きだ。
そうめんは細く、つゆに入れるとひらひら揺れる。その様子を見るだけでもう口当たりとか味が想像できる。
つるんとした口当たり、冷たくて口に入れた瞬間から体が冷え、つゆの甘味があとから来る。かつおだしのうま味がふわりと鼻に抜け、ひりりとしつつ爽やかなしょうがが心地よい。シャキシャキするくらい入れるのが好きだ。
ねぎの風味もいいなあ。新鮮なねぎは辛いくらいだ。
そうめんは噛むと小麦の風味が際立つ。いろんな太さのそうめん、あるいはひやむぎがあるものだが、俺は細めが好きだ。食べ応えが欲しいときは太めでもいい。
茹でるときは暑くてどうしようもないそうめんだが、やっぱり、夏に食べるにはいいんだよなあ。暑いときに、食欲があるかないか微妙なときとかでも食べられる。
特に今日は自分で茹でたわけじゃないから、余計に涼しくていい。
夏休みって最高だ。
「ごちそうさまでした」
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