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1.神様は天然系
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「最近、供物が減ったのではないか?」
お供えの柿をがぶりとやった後は、ここのところ毎日の文句が続く。
拝殿奥、ご神体の前で長々寝そべるなんて罰当たりこの上ないけど、罰は当たらない。
だってそうしているのは、他ならぬ神様だから。
「塩と水だけか?」
眉間に皺を寄せて不平をならしていても、見てくれだけはとびきりお美しい。
神がかり的な……、いや神様だからいいのか。
とにかくあきらかに人間離れした、美しい青年の姿をしておいでになる。
艶やかな長い黒髪に透き通る肌、切れ長の目にすっと高い鼻梁。
その超絶美青年神が、少し着崩れた白い狩衣姿で片肘をついている。
しどけなく艶めかしいったらないのだ。
(そう思ってたわよ。以前はね)
ぬか袋で床をごしごしやりながら、咲耶子は視線を上げることもしない。
わざと大げさにため息をついてやった。
「仕方ないでしょ? 今、このあたりは大変なんだから」
社の娘の咲耶子だって、混じり物のない白いご飯を食べたのはいつのことか憶えていない。
多分、お正月には食べたような気がするけど。
それもかなりあやしい。
「十日前にお米お供えしたわ。召し上がったでしょ?」
戦争に疫病に物の値上がり。
ここ何年も悪いことばかり続く。
働き手が少なくなるのだから、村はどんどん貧しくなって食べるにもみんな事欠く有様だ。
「文句ばっかりいわないの」
寝そべったままの神様に、咲耶子は言い聞かせる。
ほんとこの神様は、子供のようだ。
見てくれだけはとびきり良いのに。
「ふ……む。そなたの衣、ずいぶん古びているな」
柿を手にしたまま、神様は表情も変えず咲耶子を眺めている。
見たままを言葉にした感じに、もう最近ではすっかり慣れてしまった。
このあたりの産土神、氏神様の姿を、初めて見たのは咲耶子が十二歳の時だ。
母が亡くなって五十日が過ぎた夜、神様が咲耶子の頭を撫でてくれた。
「泣くな、咲耶子」
それから十七歳になる今までずっと、神様は咲耶子の側にいてくれる。
けどこの神様、なんというか口が悪い。
(着物がボロだなんて、年頃のオトメに言う? これで悪気はまったくないんだから)
掃除用の着物は、もう何回も継をあてたお古だ。
元々は母が嫁入りの時に持ってきた普段着だった。
薄手の木綿地だから、洗って干してもすぐ乾く。
使い勝手が良いので、今ではかなり着萎えてよれよれになった。
たすきでたくし上げた袖口をつまんで、咲耶子はそっとため息をついた。
お供えの柿をがぶりとやった後は、ここのところ毎日の文句が続く。
拝殿奥、ご神体の前で長々寝そべるなんて罰当たりこの上ないけど、罰は当たらない。
だってそうしているのは、他ならぬ神様だから。
「塩と水だけか?」
眉間に皺を寄せて不平をならしていても、見てくれだけはとびきりお美しい。
神がかり的な……、いや神様だからいいのか。
とにかくあきらかに人間離れした、美しい青年の姿をしておいでになる。
艶やかな長い黒髪に透き通る肌、切れ長の目にすっと高い鼻梁。
その超絶美青年神が、少し着崩れた白い狩衣姿で片肘をついている。
しどけなく艶めかしいったらないのだ。
(そう思ってたわよ。以前はね)
ぬか袋で床をごしごしやりながら、咲耶子は視線を上げることもしない。
わざと大げさにため息をついてやった。
「仕方ないでしょ? 今、このあたりは大変なんだから」
社の娘の咲耶子だって、混じり物のない白いご飯を食べたのはいつのことか憶えていない。
多分、お正月には食べたような気がするけど。
それもかなりあやしい。
「十日前にお米お供えしたわ。召し上がったでしょ?」
戦争に疫病に物の値上がり。
ここ何年も悪いことばかり続く。
働き手が少なくなるのだから、村はどんどん貧しくなって食べるにもみんな事欠く有様だ。
「文句ばっかりいわないの」
寝そべったままの神様に、咲耶子は言い聞かせる。
ほんとこの神様は、子供のようだ。
見てくれだけはとびきり良いのに。
「ふ……む。そなたの衣、ずいぶん古びているな」
柿を手にしたまま、神様は表情も変えず咲耶子を眺めている。
見たままを言葉にした感じに、もう最近ではすっかり慣れてしまった。
このあたりの産土神、氏神様の姿を、初めて見たのは咲耶子が十二歳の時だ。
母が亡くなって五十日が過ぎた夜、神様が咲耶子の頭を撫でてくれた。
「泣くな、咲耶子」
それから十七歳になる今までずっと、神様は咲耶子の側にいてくれる。
けどこの神様、なんというか口が悪い。
(着物がボロだなんて、年頃のオトメに言う? これで悪気はまったくないんだから)
掃除用の着物は、もう何回も継をあてたお古だ。
元々は母が嫁入りの時に持ってきた普段着だった。
薄手の木綿地だから、洗って干してもすぐ乾く。
使い勝手が良いので、今ではかなり着萎えてよれよれになった。
たすきでたくし上げた袖口をつまんで、咲耶子はそっとため息をついた。
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