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Intermission
11.だってわたしはヒロインだから
聖女試験が始まって、ちょっとだけ時間が経った頃のこと。
ここのところ、エリーヌの成績はとても良い。
お作法はまだまだだと言われてる。
でも歴史とか文化とかは、まあまあいけている。
「セスラン様、わたし今日先生にほめられました! ずいぶんがんばったねって」
褒めて褒めてのオーラ全開で、セスランの周りをくるくると回ってみせる。
自慢の髪は白に近いふわふわの銀色だ。
セスランにはきっと、雪色の子猫がじゃれているように愛らしいと見えてるはず。
確か「エルドラ」のセスランルートで、そんなセリフがあった。
「いたずらな子猫のようだ」
とかなんとか。
ミントのソーダ水がはじけるような、元気な緑の瞳をいっぱいに見開いて、セスランの胸元にぎりぎりまで近づく。
そして見上げるのだ。
自慢の瞳で。
白銀の長いまつ毛を幾度か上下させることも、もちろん忘れない。
「これもセスラン様が、ずっとそばで励ましてくださったおかげです。わたし、うれしくって」
「成績が上がったのなら、それは良いことだ。よ……く……、がんばった……な」
難しい言葉ばかり使うセスランが、こんなわかりやすい誉め言葉を口にするなんて滅多にない。
たとえそれが、つっかえつっかえの棒読み状態のものだとしてもだ。
それはセスランがツンデレだから。
「エルドラ」、ゲームの中でもそうだった。
「でもぉ……」
しゅんと、エリーヌは眉を下げる。
「パウラにちょっと悪いなぁって思うんです。わたしばかり、こうして応援してもらって。いいのかなぁって」
パウラを呼び捨てにして、セスランを試してみる。
初めての聖女謁見で、呼び捨てにして叱られた。
あのくやしさを、エリーヌは忘れていない。
今、セスランはほぼ毎日のようにエリーヌの様子を見に来てくれる。
ゲームと違って好感度のパラメータは見えないけど、きっとかなり上がっているはずだ。
「パウラ、きっと寂しい思いをしてるんだろうな」
上目づかいでセスランをうかがった。
すると、ぎこちないひきつった微笑が返って来る。
「エリーヌ、お前はよく努力している。だが礼儀作法は、今少し努力が必要だな」
そしてゆっくりと続ける。
「パウラが特に許さない限り、名前を、まして呼び捨てで呼ぶなど礼儀に反することだ」
「わかってますよぉ」
ふっくらとした頬をぷうっとふくらませて、エリーヌはそっぽを向いた。
パウラをまだかばうとは。
ゲームのとおりなら、パウラ呼びを注意などされなかったのに。
「でもぉ、もっと身分の高い聖使様たちは、みんな名前で呼んで良いと言ってくれますよ。なのにパウラは、名前で呼んでいいと言わないんです。わたしはただ……、いっしょに頑張るお友達として仲良くなりたいだけなのに」
はぁ……と、セスランがため息をつく。
見事な赤毛の頭を振って、そこから先は何も言わなかった。
でもこれだって、テれてるからに違いない。
同じことを、エリーヌは他の三人の聖使にもやって見せた。
感触は上々で、三人が三人とも、エリーヌの頑張りをほめてくれる。
好感度のパラメータは二百がマックスだ。
セスランの好感度は、多分百四十を超えているはず。
(狙いどおりよ。セスランは押さえたわよね。ホントならここでセーブしたいとこだけど。リアルではセーブできないからな)
本気で推しの攻略にとりかかろう。
セスランルートは試験後半の、実践課題で好感度がマックスになったはず。
セスランの故郷ゲルラに降りて、そこを視察する。
それが実践課題だった。
同行者はセスランと地の聖使アルヴィド、それにパウラの三人だった。
白虎と竜族のトラブルがあって、それを解決しろみたいな。
(課題の内容とか、どーでもいいわ~)
大事なのはキャンプみたいな場所で、焚火を前にセスランと話すイベントがある。
ここだ。
このイベントに成功すると、二人が抱き合う美麗スチルがあった。
あれをリアルで体験できるのだ!
そのスチルが出た後、好感度はマックスになって、セスランからの告白可能性がぐっと上がる。
(どうしても成功させなくちゃ)
大丈夫よ。
きっとうまくいく。
だってエリーヌはエルドラのヒロインだ。
セスランルートの攻略法は、頭に入っている。
ふ……と、微かな不安がよぎる。
ほとんどのことはシナリオどおりだ。
四人の聖使はエリーヌの味方で、毎日のように彼女のもとへ来てくれる。
パウラには課題を出す時以外、話しかけたりする様子はない。
ゲームのとおり。
だけど微妙に、ほんのわずかに、ゲームのシナリオと違うことが起こる。
たとえばセスランにパウラ呼びを注意されたこと。
たとえばエリーヌにだけ、補講が課されたこと。
小さなことでゲームの進み方がそんなに変わるわけじゃない。
でもシナリオ外のできごとには違いない。
(まぁ良いわ。セスランルートでラブラブエンディングになるんだから)
もうじきあの大甘な、溺愛たっぷりのセスランが見られるはず。
エリーヌに夢中になって、昼夜問わず彼女の部屋へおしかけて愛を囁くのだ。
あのセスランを、もうじき。
にへらっと、唇が緩む。
明日の課題の予習などすっかり忘れて、正しい選択肢の確認にエリーヌは励む。
攻略法をまとめたマル秘ノートは、既に何度も読み込んだ。
ボロボロになったこのノートを見ている時が、一番楽しい。
万が一にも負けたくない。
何もかも全て持っていて、当然のようにエリーヌを見下してくるパウラには。
最後には笑いながら言ってやる。
「聖女には、パウラの方がずっと相応しいんだもん」
きっと胸がすく。
ここのところ、エリーヌの成績はとても良い。
お作法はまだまだだと言われてる。
でも歴史とか文化とかは、まあまあいけている。
「セスラン様、わたし今日先生にほめられました! ずいぶんがんばったねって」
褒めて褒めてのオーラ全開で、セスランの周りをくるくると回ってみせる。
自慢の髪は白に近いふわふわの銀色だ。
セスランにはきっと、雪色の子猫がじゃれているように愛らしいと見えてるはず。
確か「エルドラ」のセスランルートで、そんなセリフがあった。
「いたずらな子猫のようだ」
とかなんとか。
ミントのソーダ水がはじけるような、元気な緑の瞳をいっぱいに見開いて、セスランの胸元にぎりぎりまで近づく。
そして見上げるのだ。
自慢の瞳で。
白銀の長いまつ毛を幾度か上下させることも、もちろん忘れない。
「これもセスラン様が、ずっとそばで励ましてくださったおかげです。わたし、うれしくって」
「成績が上がったのなら、それは良いことだ。よ……く……、がんばった……な」
難しい言葉ばかり使うセスランが、こんなわかりやすい誉め言葉を口にするなんて滅多にない。
たとえそれが、つっかえつっかえの棒読み状態のものだとしてもだ。
それはセスランがツンデレだから。
「エルドラ」、ゲームの中でもそうだった。
「でもぉ……」
しゅんと、エリーヌは眉を下げる。
「パウラにちょっと悪いなぁって思うんです。わたしばかり、こうして応援してもらって。いいのかなぁって」
パウラを呼び捨てにして、セスランを試してみる。
初めての聖女謁見で、呼び捨てにして叱られた。
あのくやしさを、エリーヌは忘れていない。
今、セスランはほぼ毎日のようにエリーヌの様子を見に来てくれる。
ゲームと違って好感度のパラメータは見えないけど、きっとかなり上がっているはずだ。
「パウラ、きっと寂しい思いをしてるんだろうな」
上目づかいでセスランをうかがった。
すると、ぎこちないひきつった微笑が返って来る。
「エリーヌ、お前はよく努力している。だが礼儀作法は、今少し努力が必要だな」
そしてゆっくりと続ける。
「パウラが特に許さない限り、名前を、まして呼び捨てで呼ぶなど礼儀に反することだ」
「わかってますよぉ」
ふっくらとした頬をぷうっとふくらませて、エリーヌはそっぽを向いた。
パウラをまだかばうとは。
ゲームのとおりなら、パウラ呼びを注意などされなかったのに。
「でもぉ、もっと身分の高い聖使様たちは、みんな名前で呼んで良いと言ってくれますよ。なのにパウラは、名前で呼んでいいと言わないんです。わたしはただ……、いっしょに頑張るお友達として仲良くなりたいだけなのに」
はぁ……と、セスランがため息をつく。
見事な赤毛の頭を振って、そこから先は何も言わなかった。
でもこれだって、テれてるからに違いない。
同じことを、エリーヌは他の三人の聖使にもやって見せた。
感触は上々で、三人が三人とも、エリーヌの頑張りをほめてくれる。
好感度のパラメータは二百がマックスだ。
セスランの好感度は、多分百四十を超えているはず。
(狙いどおりよ。セスランは押さえたわよね。ホントならここでセーブしたいとこだけど。リアルではセーブできないからな)
本気で推しの攻略にとりかかろう。
セスランルートは試験後半の、実践課題で好感度がマックスになったはず。
セスランの故郷ゲルラに降りて、そこを視察する。
それが実践課題だった。
同行者はセスランと地の聖使アルヴィド、それにパウラの三人だった。
白虎と竜族のトラブルがあって、それを解決しろみたいな。
(課題の内容とか、どーでもいいわ~)
大事なのはキャンプみたいな場所で、焚火を前にセスランと話すイベントがある。
ここだ。
このイベントに成功すると、二人が抱き合う美麗スチルがあった。
あれをリアルで体験できるのだ!
そのスチルが出た後、好感度はマックスになって、セスランからの告白可能性がぐっと上がる。
(どうしても成功させなくちゃ)
大丈夫よ。
きっとうまくいく。
だってエリーヌはエルドラのヒロインだ。
セスランルートの攻略法は、頭に入っている。
ふ……と、微かな不安がよぎる。
ほとんどのことはシナリオどおりだ。
四人の聖使はエリーヌの味方で、毎日のように彼女のもとへ来てくれる。
パウラには課題を出す時以外、話しかけたりする様子はない。
ゲームのとおり。
だけど微妙に、ほんのわずかに、ゲームのシナリオと違うことが起こる。
たとえばセスランにパウラ呼びを注意されたこと。
たとえばエリーヌにだけ、補講が課されたこと。
小さなことでゲームの進み方がそんなに変わるわけじゃない。
でもシナリオ外のできごとには違いない。
(まぁ良いわ。セスランルートでラブラブエンディングになるんだから)
もうじきあの大甘な、溺愛たっぷりのセスランが見られるはず。
エリーヌに夢中になって、昼夜問わず彼女の部屋へおしかけて愛を囁くのだ。
あのセスランを、もうじき。
にへらっと、唇が緩む。
明日の課題の予習などすっかり忘れて、正しい選択肢の確認にエリーヌは励む。
攻略法をまとめたマル秘ノートは、既に何度も読み込んだ。
ボロボロになったこのノートを見ている時が、一番楽しい。
万が一にも負けたくない。
何もかも全て持っていて、当然のようにエリーヌを見下してくるパウラには。
最後には笑いながら言ってやる。
「聖女には、パウラの方がずっと相応しいんだもん」
きっと胸がすく。
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