【R18】名ばかりの妻を押しつけられた公女は、人生のやり直しを求めます

yukiwa

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Intermission

11.だってわたしはヒロインだから

 聖女試験が始まって、ちょっとだけ時間が経った頃のこと。
  
 ここのところ、エリーヌの成績はとても良い。
 お作法はまだまだだと言われてる。
 でも歴史とか文化とかは、まあまあいけている。

「セスラン様、わたし今日先生にほめられました! ずいぶんがんばったねって」

 褒めて褒めてのオーラ全開で、セスランの周りをくるくると回ってみせる。
 自慢の髪は白に近いふわふわの銀色だ。
 セスランにはきっと、雪色の子猫がじゃれているように愛らしいと見えてるはず。
 確か「エルドラ」のセスランルートで、そんなセリフがあった。

「いたずらな子猫のようだ」

 とかなんとか。
 
 ミントのソーダ水がはじけるような、元気な緑の瞳をいっぱいに見開いて、セスランの胸元にぎりぎりまで近づく。
 そして見上げるのだ。
 自慢の瞳で。
 白銀の長いまつ毛を幾度か上下させることも、もちろん忘れない。

「これもセスラン様が、ずっとそばで励ましてくださったおかげです。わたし、うれしくって」
「成績が上がったのなら、それは良いことだ。よ……く……、がんばった……な」

 難しい言葉ばかり使うセスランが、こんなわかりやすい誉め言葉を口にするなんて滅多にない。
 たとえそれが、つっかえつっかえの棒読み状態のものだとしてもだ。
 それはセスランがツンデレだから。
 「エルドラ」、ゲームの中でもそうだった。

「でもぉ……」

 しゅんと、エリーヌは眉を下げる。

「パウラにちょっと悪いなぁって思うんです。わたしばかり、こうして応援してもらって。いいのかなぁって」

 パウラを呼び捨てにして、セスランを試してみる。
 初めての聖女謁見で、呼び捨てにして叱られた。
 あのくやしさを、エリーヌは忘れていない。
 今、セスランはほぼ毎日のようにエリーヌの様子を見に来てくれる。
 ゲームと違って好感度のパラメータは見えないけど、きっとかなり上がっているはずだ。

「パウラ、きっと寂しい思いをしてるんだろうな」

 上目づかいでセスランをうかがった。
 すると、ぎこちないひきつった微笑が返って来る。
 
「エリーヌ、お前はよく努力している。だが礼儀作法は、今少し努力が必要だな」

 そしてゆっくりと続ける。

「パウラが特に許さない限り、名前を、まして呼び捨てで呼ぶなど礼儀に反することだ」
「わかってますよぉ」

 ふっくらとした頬をぷうっとふくらませて、エリーヌはそっぽを向いた。
 パウラをまだかばうとは。
 ゲームのとおりなら、パウラ呼びを注意などされなかったのに。

「でもぉ、もっと身分の高い聖使様たちは、みんな名前で呼んで良いと言ってくれますよ。なのにパウラは、名前で呼んでいいと言わないんです。わたしはただ……、いっしょに頑張るお友達として仲良くなりたいだけなのに」

 はぁ……と、セスランがため息をつく。
 見事な赤毛の頭を振って、そこから先は何も言わなかった。
 でもこれだって、テれてるからに違いない。

 同じことを、エリーヌは他の三人の聖使にもやって見せた。
 感触は上々で、三人が三人とも、エリーヌの頑張りをほめてくれる。
 
 好感度のパラメータは二百がマックスだ。
 セスランの好感度は、多分百四十を超えているはず。

(狙いどおりよ。セスランは押さえたわよね。ホントならここでセーブしたいとこだけど。リアルではセーブできないからな)

 本気で推しの攻略にとりかかろう。
 セスランルートは試験後半の、実践課題で好感度がマックスになったはず。
 セスランの故郷ゲルラに降りて、そこを視察する。
 それが実践課題だった。
 
 同行者はセスランと地の聖使アルヴィド、それにパウラの三人だった。
 白虎と竜族のトラブルがあって、それを解決しろみたいな。
 
(課題の内容とか、どーでもいいわ~)

 大事なのはキャンプみたいな場所で、焚火を前にセスランと話すイベントがある。
 ここだ。
 このイベントに成功すると、二人が抱き合う美麗スチルがあった。
 あれをリアルで体験できるのだ!
 そのスチルが出た後、好感度はマックスになって、セスランからの告白可能性がぐっと上がる。

(どうしても成功させなくちゃ)

 大丈夫よ。
 きっとうまくいく。
 だってエリーヌはエルドラのヒロインだ。
 セスランルートの攻略法は、頭に入っている。

 ふ……と、微かな不安がよぎる。
 
 ほとんどのことはシナリオどおりだ。
 四人の聖使はエリーヌの味方で、毎日のように彼女のもとへ来てくれる。
 パウラには課題を出す時以外、話しかけたりする様子はない。
 ゲームのとおり。
 
 だけど微妙に、ほんのわずかに、ゲームのシナリオと違うことが起こる。
 たとえばセスランにパウラ呼びを注意されたこと。
 たとえばエリーヌにだけ、補講が課されたこと。
 小さなことでゲームの進み方がそんなに変わるわけじゃない。
 でもシナリオ外のできごとには違いない。

(まぁ良いわ。セスランルートでラブラブエンディングになるんだから)

 もうじきあの大甘な、溺愛たっぷりのセスランが見られるはず。
 エリーヌに夢中になって、昼夜問わず彼女の部屋へおしかけて愛を囁くのだ。
 あのセスランを、もうじき。
 にへらっと、唇が緩む。
 明日の課題の予習などすっかり忘れて、正しい選択肢の確認にエリーヌは励む。
 攻略法をまとめたマル秘ノートは、既に何度も読み込んだ。
 ボロボロになったこのノートを見ている時が、一番楽しい。

 万が一にも負けたくない。
 何もかも全て持っていて、当然のようにエリーヌを見下してくるパウラには。
 最後には笑いながら言ってやる。

 「聖女には、パウラの方がずっと相応しいんだもん」

 きっと胸がすく。

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