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第三章 我が唯一は
16.望んで堕ちたのだから(SIDE セスラン)
**ご注意**
冒頭部にヒロイン以外との行為シーンが入ります。
ヒーローはヒロイン以外NGの方は、自衛をお願いいたします。
******
「セスランさ……ま……」
途切れがちの甘ったるい声。
女の使う安手の香料が身体にまとわりついて、気持ちが悪い。
闇にぼんやりと浮かんだ白い身体は、案外ふっくらとまるみがあって柔らかだった。
たっぷりとした胸を掌で覆うと、わざとらしい嬌声が上がる。
「き……もち……いい」
枕辺に散らばる白銀の髪。
陶器のようになめらかな肌。
見上げる緑の瞳は、みだらに潤んでその先をと促す。
「もっと下を……。ほしいんです。セスラン様が」
白い太ももを自ら開いて、淡い銀の茂みを惜しげもなくさらし出す。
すっかり濡れて潤ったそこが、セスランのオスを誘い惑わせる。
「お願い。名前……、名前を呼んで」
緑の瞳、紅い唇が、懇願する。
「わたしだけが、セスラン様を救ってあげられるんだから」
目の前の少女とは、似て非なる緑。
最も美しいエメラルドの緑。
ヘルムダールの高貴な血を継ぐ証であるその瞳を思い出して、セスランはきつく目を閉じた。
けして届かぬ人だと、そうあきらめたはず。
「エリーヌ」
脳裏に浮かぶ笑顔を振り切るように、目の前の女の名を呼んだ。
「きて……」
誘われるままに、その白い足の付け根に腰を沈めた。
南の大陸にある大公家ゲルラは、初代黄金竜の弟が人の世に降りて興したという。
東のヴァースキー、西のヴェストリー、北のヴォーロフと並んで四大公家と呼ばれる名門である。
セスランはそのゲルラに、七歳になったその日引き取られた。
竜族が蛮族と蔑む白虎の里の外れ。
そこでセスランは生まれた。
綿のように白い美しい髪にサファイヤの瞳をした母と二人、人目を避けるようにしてひっそりと暮らしていた。
「セスランの髪や瞳の色はとっても珍しいの。人と違えば目立つから。いじめられたりしないように、ここでお母さまと一緒に暮らしましょうね」
遠い昔竜族に敗れてから、白虎の一族は険しい山に囲まれた貧しい土地に住んでいた。
その里からさらに外れた地であれば、食糧や水の調達さえ難しい。
セスラン親子の暮らしは、それは貧しいものだった。
からからに乾いた麦を挽いて作った団子には、小石や虫が混ざっていた。
水だって遠い川まで汲みに行くから、毎日の飲み水はけして新鮮なものではない。
けれど生まれた時からそうであれば、特に不幸だとは思わなかった。
美しく優しい母がいつも一緒にいてくれた。
それだけで幸せだ。
本気でそう思っていたから。
森へ入って、何か食べられそうなものを探す時でさえ、紅い髪や緑の瞳を隠すフードを被らなくてはいけなかった。
それだって嫌だとか惨めだとか、そんなことは少しも思わなかったものだ。
「おまえさえ生まれなければ、こいつももう少しはマシな暮らしができたのに」
ある時突然やってきた男が、セスランを見て眉を顰めて言った。
彼は母と同じ白く綺麗な髪を背中で1つに結わえ、やはり母と同じサファイヤの瞳をしていた。
その彼が時々セスランたちの家に出入りするようになって、食糧や衣類を運んでくれた。
母の兄だと名乗ったその人が、白虎の王族だとは後で知った。
ということは、母も王族なのだろうか。
それがどうしてこんなところに隠れ住むのか。
幼いセスランには、伯父の言う「おまえさえ生まれなければ」の意味がよくわからなかった。
七歳になった日、セスランは自分の生まれを初めて知った。
竜族の、それも四大公家のひとつ。
ゲルラ大公を父に、白虎の王族を母としてセスランは生まれたのだ。
白虎族にはいない紅い髪も緑の瞳も、ゲルラの血を継ぐなによりの証だった。
遠い昔竜族に敗れてから、白虎の一族は竜を心底憎んでいる。
それなのに王族の血を継ぐ女が、仇敵の子を産んだ。
白虎の一族にとって、耐え難い屈辱だった。
だからセスランは、隠れて暮らさなくてはならなかった。
だから母は、一族を追われた。
それがわかった時、セスランは母との別れを了見する。
伯父が言ったとおりだと思ったから。
「おまえさえ生まれなければ」
セスランさえいなければ、母はきっと一族の元へ帰れる。
王族として、今よりはマシな暮らしができる。
忌まわしい出自の息子を愛してくれた母に、せめてものそれが恩返しだと。
「母上、どうかお元気で」
どうか幸せになってほしい。
涙も見せずに、セスランは母と別れた。
迎えの飛竜に乗せられて、そのまま父の城へと向かった。
石造りのいかめしい城。
黒塗りの鉄柵でぐるりと要所を固められた要塞のような城が、ゲルラ大公家の本城だった。
城への出入りには、必ず堀の上にかけられた橋を通らねばならない。
その橋の両端には衛兵が詰めていた。
飛竜はその上をばさりと飛び越えて、城内に着陸した。
広い中庭には、紅い髪の男とメイドらしき女性が数人立っていた。
「初めてお目にかかります。セスラン様付きの執事レイノーと申します。今後はわたくしが、あなたさまのお身の周りのお世話一切をいたします。なんでもお申しつけくださいますように」
幼いセスランにはその男が何者か、わからなかった。
執事とは何をするものかすら。
ただ彼の紅い髪を見て、ほっとしたことだけはよく憶えている。
初めて見る、セスランと同じ色の髪だったから。
セスランの居室には、跡継ぎ公子のために用意された部屋があてられた。
重厚で見るからに贅沢で、食うや食わずの暮らしをしていたセスランには、かえって居心地が悪く落ち着かない。
「そのうち慣れますよ」
初対面の挨拶時より幾分くだけた調子で、レイノーは笑った。
そしてこれから長い付き合いになるのだからと、自分の年齢は二十七歳でゲルラ公家の傍流にあたる子爵家の次男だと説明してくれた。
次男であればどこかへ養子に行くか、そうでなければ何かしらの役目について自立せざるをえない。
彼の場合、幼いうちにゲルラ公家へ出仕することを希望して、今に至るのだそうだ。
「地方の子爵家の、しかも次男ですからね。さっさと割り切ってしまった方が人生楽しめます」
レイノーはさっぱりした気性のようで、セスランの警戒心を気にした風もない。
膝をついて、セスランと目線の高さを合わせる。
「セスラン様は、間違いなく嫌な思いをなさるでしょうね。母君のこと、セスラン様ご自身のこと、聞き苦しいことをきっと耳になさるでしょう。覚悟しておかれますように。けれどセスラン様には聖紋がおありです。ゲルラの翡翠の瞳と聖紋を持つあなたは、次の当主。それをお忘れにならなければ、案外楽しくやってゆけるはずです」
レイノーは、そうしてにっこりと笑った。
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