【R18】名ばかりの妻を押しつけられた公女は、人生のやり直しを求めます

yukiwa

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第四章 相愛の竜

32.パウラ、契約の夜 *

 セスランの長い指が、パウラの唇に触れる。
 愛おしむように幾度か行き来して、その後そうっと触れるだけのキスを落とした。
 優しい唇が触れてはわずかに離れ、また触れて。

 くっと喉を鳴らして、セスランは顔を上向ける。
 きつく目を閉じて、浅い呼吸を繰り返す。

「優しくしてやりたいと思っていたが、どうも無理らしい。許せ」

 苦し気な声。
 ほぼ同時に、抱きしめられていた。
 再び重ねられた唇は、パウラに呼吸さえ許さない。
 吐く息すべて吸い取って、熱をもった舌がねろりと口内に侵し入る。
 
 本能的な恐怖に逃げ惑うパウラの舌を、セスランは捕らえて離さない。
 口内すべてくまなく撫でまわされて、苦しさに後ずさるがそれさえ許されない。
 パウラの背はしっかり抱きしめられて、わずかの身じろぎもできないほどだ。
 
 酸素を求めてはふはふと開く唇から、どちらのものともわからない唾液がこぼれる。
 唇の離れたわずかの間に、つうと細く銀の糸をひいた。
 むせかえるような薔薇の香り。唇の重なる濡れた音。
 
 どくどくと煩い心臓は、きっと二人のものだ。
 これはこの先に起こることの前触れだと、パウラにもわかった。
 思わず身を固く縮こまらせると、宥めるように優しい手がパウラの頬を撫でた。

「どうか私を拒まないでくれ」

 焦れて切なげな翡翠の瞳が、間近にあった。
 何をされるのか、知識としてはパウラも理解している。
 けれど実践となると、不安でたまらない。
 
「もう待てぬのだから」

 暗い微笑に、さらに身を固くする。
 いつもは優しい翡翠の瞳に、ちらちらと見え隠れする小さな火。
 まるでかまど熾火おきびのようだ。
 こんな表情かおのセスランを、見たことがない。
 
 がちがちに固まった身体を、セスランはぎゅっと抱きしめる。
 パウラの半身を起こすと左腕で背を支えながら、もう片方の手でパウラの銀色の髪をすくい上げて唇を落とす。
 そのまま唇は首筋へ移り、小さなキスを幾度も降らせた。
 
 時折きゅっと強く吸い上げられる度、ちりっと小さな痛みがパウラを痺れさせる。
 追いかけるように、温かい舌がその痛みを拭った。
 丁寧に丁寧に幾度も舐めとって、いつかそれが心地良いとパウラが感じるようになった頃、濡れた温もりは胸元にあった。

「ひ……」

 反射的にはねのけようとする。未知の感覚が、パウラには恐ろしくて。
 その突っぱねた腕を、セスランは難なく抑え込む。
 まるでそんな抵抗などなかったかのように、セスランの舌がパウラの両のふくらみを丁寧に丁寧に舐めてゆく。
 猫がミルクをなめとるようにチロチロと動く舌が、パウラの下腹におかしな変化をもたらした。
 
 ――――じれったい。
 ――――もっと強く。
 
 我知らず浮かんでくる言葉に気づいて赤面した。

(今、何を思ったの?)

 セスランの形の良い唇が、意地悪い曲線を描く。
 ふ……と息だけで笑った。
 胸のふくらみ、その頂を口に含まれて、今度こそパウラははっきりと高い声をあげた。

「あっ……!」

 待ち焦がれていた刺激は、これだったのか。
 下腹がじんじんとしびれるようで、いつのまにか腰が揺れていた。

「煽るな。私の自制心が、焼けきれる」

 掠れた声は、知らない男のものだった。
 ほの暗く重い、オスの匂いがする。
 けれど嫌ではない。
 セスランにそんな声を出させているのはパウラなのだ。
 それがとても嬉しくて、腕を伸ばしてセスランの首をしっかり抱きしめた。

「煽ってない。身体が……勝手に……」

 パウラの腹部に、ぬるりとなにかが零れる。
 あおむけのパウラの上には、セスランがいる。
 ちょうどパウラの下腹のあたりに、熱くて硬い何かが当たっていた。こ
 ぼれた何かはそこからあふれ出ているようで、そっと指を伸ばして手探りでそこに触れる。
 セスランの身体がびくりと震えた。

「っ…………!」

 美しい眉間に皺を寄せて、セスランは何かに耐えているように見えた。
 痛かったのかと、慌てて引っこめようとする指を、セスランが強い力で掴む。

「こんなことをして、ただで済むとでも?」

 余裕をかなぐり捨てたセスランが、パウラの両脚を抱え込む。

「え? 何をす……る……」

 両脚を大きく広げられて、パウラは焦った。

「や! やめて、セスラン」

 必死で拘束から逃れようともがくが、強い力で抑え込まれて微動だにしない。
 はしたない格好を見られたくなくて、涙がこぼれる。
 
「放して、お願い」
 
「静かに。私にまかせていれば良い。パウラをできるだけ傷つけたくない」

 声と同時に、太ももを温かく湿った舌が行き来して。
 指がパウラの下着にかかる。
 一息に引きずり降ろされて、悲鳴を上げた。
 
 恥ずかしかった。
 こんなに恥ずかしいのに、身体はセスランを受け入れる準備をしていた。
 こぷりと音をたてて、パウラの中から温かいぬめりがあふれ出る。

「み、見ないで。お願い、セスラン」

 こぼれる涙を、愛し気にセスランは吸い取った。

「なぜ? パウラが私を求めてくれた証を、見ないでいられるとでも?」

 耳元で囁く声は、蕩けるように甘い。
 ああ、少しいつものセスランに戻った。
 けれど、甘かった。
 再びパウラの脚を開かせたセスランは、あろうことかその間に顔を沈めた。
 彼の目の前には、間違いなくパウラの潤みきった秘所がある。
 
 死ぬほど恥ずかしい。
 
「私のパウラ……」

 名を呼ばれると同時に、ぬるりと温かい感触が秘所を這う。
 音をたてて、セスランは吸い上げる。
 恥ずかしくて、恥ずかしくて、もう消えてしまいたい。
 なんとか逃げようと無駄な抵抗を続けたけれど、先ほどよりもがっちり抑え込まれて身動きひとつできないでいる。
 身体が、いやセスランの舌が這う箇所が熱い。
 でももっと熱くなっている一点があって、そこがひくひくとうごめいているのがわかる。

「ここか?」

 指先でつんと触れられただけで、背筋に快感が突き抜けた。
 
 ――――何、これ。
 
 息を乱すパウラを見降ろして、セスランはそこに唇を落とす。

「うわっ……」

 吐息と共に、耐え切れなくなった涙がこぼれた。
 ちろちろと動く舌がその一点の周りをぐるぐると廻り、焦れて焦れてパウラが自ら腰を持ち上げた時、待ち焦がれた刺激が与えられた。
 何度も何度も行き来する厚い肉感のある温みに、だんだんに高みにのぼりつめて。
 
 弾ける。
 
 真っ白になった頭。
 全身の力がすべて抜けた。

「愛しているよ、私のパウラ」

 甘く蕩ける声が名を呼んで、大きく熱い昂ぶりがぐずぐずになったパウラの中に侵し入る。
 ひきつれる痛みにパウラが身をよじると、宥めるようにセスランがパウラの身体を抱いた。

「私につかまっていろ。痛ければ私の肩を噛め」

 セスランがそろそろと腰を進めると、焼けた鉄杭をねじ込まれるような痛みが襲う。
 
 ――――痛い、熱い、痛い。
 
「き……つ……」

 痛いのはパウラだけのはずなのに、セスランの眉間には皺が刻まれて、まるで耐えているのは彼のように額には玉の汗が浮かんでいた。
 紅いうねった髪が汗で貼りついた額、苦し気に細められる翡翠の瞳。
 はぁはぁと上がる息。
 
 パウラは自分の痛みを忘れて、見惚れた。
 なんて艶めかしいのだろう。
 こんな表情かおをするのか、この人は。
 ぼんやり見上げるパウラの視線にセスランが気づく。

「私を観察しているのか? では手加減は、ここまでだ」

 パウラ……と切なげに名を呼んで、セスランは一気に腰を沈めた。
 
 貫かれる。
 
 頭の先まで貫かれるような衝撃が、パウラを襲う。
 ぐちゃぐちゃと湿った水音と肌のぶつかる乾いた音が続いて、セスランの息がさらに荒くなる。

「ぐ……」

 小さく震えて呻いたセスランが、ほうと大きく息をついた。

「よく耐えた」

 そう言って、パウラを抱きしめて頭を撫でてくれる。

「痛かっただろう。すまない。余裕がまるでなかった」

 ほんの少し肩を落としたセスランに、パウラは首を振って見せた。
 痛いのは当たり前のことだと聞く。
 だからセスランのせいではない、多分。
 
 それよりも嬉しかった。
 あのいつも貴公子然としたセスランが、パウラのために余裕をなくしてオスになった。
 その姿を見られるのは、パウラ一人なのだ。
 嬉しくて誇らしくて、幸せだ。

「セスランがくれたものだから、痛みだって嬉しい」

 胸の思いを要約すると、そんな言葉になった。
 翡翠の瞳が大きく見開かれ、紅く長いまつ毛がばさりと下ろされて。
 大きな形の良い手が、まだ上気したままのセスランの顔を覆う。

「パウラ、私を殺す気か……」

 艶やかなテノールで、小さくそう呟いた。
 

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