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二、違いにご用心
2ー3、言葉が口からこぼれた。
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結局別のとこで食べるということになり階段を下りようとしたときだった。ドアが凄い勢いで開き、誰かが慌てて飛び出してきた。まさかドアの向こうに人がいると思わなかった生徒はタイラたちにぶつかり、そのまま五人とも階段を転げ落ちた。
「佐藤殿、田中殿、山下殿、関殿、申し訳ありません」
慌てて身を起こしたのは話に合った通りの人物だった。確かにあまり目立たなく大人しそうな娘である。制服も校則通りに着こなしているのが拍車をかけている。ただし、今は眼鏡をかけていない。こけた時に落としたのだろう。
眼鏡は・・・・・・タイラの手元近くに転がっていた。彼女の素顔を見て、三人はドキッとした。タイラは同じ意味と共に別の意味でドキッとした。忘れもしない黒曜石に似た漆黒の瞳。黒髪はキチンと梳かれて三つ編みに結わわれているが、解いた長さは銀髪と同じくらいだろう。似ている、あの人に。もう一度会いたいと願った顔が心の準備をする暇もなく突然目の前に現れた。自分の心臓が壊れそうなほど大きく脈打った。
「あ、あの、ごめんなさい。怪我はありませんか?」
ちゃんと文を話している。あの人は単語でしか話せなかった。演じている印象はない。もしそうだとしたら、その手の事に人一倍敏感な孟起が昨日の内に気付いていたはずだ。
「平気平気、俺ら部活で鍛えてるし。そっちこそ大丈夫か?」
「は、はい。あ、眼鏡は何処へ?」
眼鏡を手渡そうとして彼女の顔が目の前に迫り、無意識に声が出ていた。
「サードでござるか?」
他の人に聞こえないように声をかけるが返答は得られなかった。タイラの手から眼鏡を受け取り、もう一度四人に綺麗な一礼をすると急いで階段を駆け下りていった。
あの四人に頼まれた物を買いに。
「マジだったんだな。眼鏡を取ったら可愛いってやつ」
「着飾ったらさぞかし綺麗なんだろうな」
「いや、三つ編みを解くだけでも印象がガラリと変わると思うぞ」
結局教室で昼食を食べることになった四人だが、話題は屋上前の階段での出来事だった。つまり、井上 久美子のことばかり。彼らの話をぼんやりと聞きながらタイラはため息を吐いた。そして、ポロリと言葉が口からこぼれた。
「彼女と話すにはどうすればいいでござるか?」
「何だ惚れたのか」
「お、一目惚れか」
「いえ、拙者はただ・・・」
「おいおい、隠すなよ」
「てか、今更だろ。さっきから様子が変だし」
昨晩といい今といい何故こうも早くばれるのだろうか。自分の心に解いても誰も答えるものはいない。
そして、タイラは気づいていない。もし、二人が別人だった場合、二股かけるつもりなのだろうか。よくよく見れば、サードが持っていた凛とした表情が先程の少女になかったこと、体内を巡る気質が違うことなどがわかりそうなのだが。
まぁ、青春真っ盛りで自分の気持ちを抑えきれていない今の状態で気づいたら、彼女が初恋であるタイラの事だ。知ったら知ったでもっと苦悩するに決まっている。
「話がしたいんならこっちから話しかけないと一生話せないぞ。向こうからは絶対ありえないからな」
自分から女の子に話しかける。タイラが最も苦手で最も情報を手に入られない方法である。今のところ成功経験は少ない。小学生くらいの子供ならまだいい。女子学生になるとキャイキャイと話してくれるが、すぐに別の話題に逸れて修正が効かなくなってしまう。大人の女性も難解で、キャー可愛いと騒ぐばかりで、またタイラの話を全然聞いてくれない。三時間かけてようやく情報を得られたなんてことが常である。悲しいことだが、事実だ。これらは全てタイラから話しかけた場合だったとタイラは記憶している。
実際、どちらが声をかけたからといってタイラの収集情報に変化は少なかったり、全くなかったり。今回の相手は大人しいのでリードを取られることはないだろうが、逆に話が続かなくって困りそうだ。この年頃の少年少女がどんな話題で盛り上がるのか、学校に行けず同年代と交流がなかったタイラはサッパリわからなかった。
「話の内容にも注意だ。芸能人やドラマや映画、テレビ番組の話はダメだな。どんなに有名な人、番組でも返答はこう。「申し訳ありませんが、そのことについては何も存じません。よければ教えていただけませんか。」で会話は終了。あとはこっちが喋りっぱなしだ」
それは願い叶ったりだが、念のため理由を聞いてみた。
「どうしてでござる?そのまま話は続くでござろう??」
「それがさー。彼女、大した聞き上手でさ。こっちが一方的に話していつの間にか時間切れってのが毎回のパターン。どんな奴でもそうなるからできるだけ避けたほうがいい」
「お互いに話がしたいんなら、これが無難だ」
そういって田中が取り出したのは数学の教科書だった。
「でも、気をつけないとわからない問題を教えてもらってそれで終わりなんてことになるぜ。わかった、ありがとうって言ったら会話終了のベルを自分で鳴らしたと思え」
「こいつも三回試して全部そうなった口なんだ」
「秘密にしとけっていったろ」
佐藤が山下の頭を軽く叩く。山下も佐藤も田中も笑った。タイラも笑った。
これはタイラにとって学生生活は初めての体験であった。授業を受け、団体スポーツを楽しみ、(人型の際の見た目年齢)同年代の学生と話す。人間にとってなんでもない日常がこんなにも楽しいとは。生活に慣れきった人間にはちっとも魅力的でないことでも、父親に連れられてこの世界に来てから同年代と仲良くなる機会は少なかったタイラにとって夢のような時間であった。
続く
「佐藤殿、田中殿、山下殿、関殿、申し訳ありません」
慌てて身を起こしたのは話に合った通りの人物だった。確かにあまり目立たなく大人しそうな娘である。制服も校則通りに着こなしているのが拍車をかけている。ただし、今は眼鏡をかけていない。こけた時に落としたのだろう。
眼鏡は・・・・・・タイラの手元近くに転がっていた。彼女の素顔を見て、三人はドキッとした。タイラは同じ意味と共に別の意味でドキッとした。忘れもしない黒曜石に似た漆黒の瞳。黒髪はキチンと梳かれて三つ編みに結わわれているが、解いた長さは銀髪と同じくらいだろう。似ている、あの人に。もう一度会いたいと願った顔が心の準備をする暇もなく突然目の前に現れた。自分の心臓が壊れそうなほど大きく脈打った。
「あ、あの、ごめんなさい。怪我はありませんか?」
ちゃんと文を話している。あの人は単語でしか話せなかった。演じている印象はない。もしそうだとしたら、その手の事に人一倍敏感な孟起が昨日の内に気付いていたはずだ。
「平気平気、俺ら部活で鍛えてるし。そっちこそ大丈夫か?」
「は、はい。あ、眼鏡は何処へ?」
眼鏡を手渡そうとして彼女の顔が目の前に迫り、無意識に声が出ていた。
「サードでござるか?」
他の人に聞こえないように声をかけるが返答は得られなかった。タイラの手から眼鏡を受け取り、もう一度四人に綺麗な一礼をすると急いで階段を駆け下りていった。
あの四人に頼まれた物を買いに。
「マジだったんだな。眼鏡を取ったら可愛いってやつ」
「着飾ったらさぞかし綺麗なんだろうな」
「いや、三つ編みを解くだけでも印象がガラリと変わると思うぞ」
結局教室で昼食を食べることになった四人だが、話題は屋上前の階段での出来事だった。つまり、井上 久美子のことばかり。彼らの話をぼんやりと聞きながらタイラはため息を吐いた。そして、ポロリと言葉が口からこぼれた。
「彼女と話すにはどうすればいいでござるか?」
「何だ惚れたのか」
「お、一目惚れか」
「いえ、拙者はただ・・・」
「おいおい、隠すなよ」
「てか、今更だろ。さっきから様子が変だし」
昨晩といい今といい何故こうも早くばれるのだろうか。自分の心に解いても誰も答えるものはいない。
そして、タイラは気づいていない。もし、二人が別人だった場合、二股かけるつもりなのだろうか。よくよく見れば、サードが持っていた凛とした表情が先程の少女になかったこと、体内を巡る気質が違うことなどがわかりそうなのだが。
まぁ、青春真っ盛りで自分の気持ちを抑えきれていない今の状態で気づいたら、彼女が初恋であるタイラの事だ。知ったら知ったでもっと苦悩するに決まっている。
「話がしたいんならこっちから話しかけないと一生話せないぞ。向こうからは絶対ありえないからな」
自分から女の子に話しかける。タイラが最も苦手で最も情報を手に入られない方法である。今のところ成功経験は少ない。小学生くらいの子供ならまだいい。女子学生になるとキャイキャイと話してくれるが、すぐに別の話題に逸れて修正が効かなくなってしまう。大人の女性も難解で、キャー可愛いと騒ぐばかりで、またタイラの話を全然聞いてくれない。三時間かけてようやく情報を得られたなんてことが常である。悲しいことだが、事実だ。これらは全てタイラから話しかけた場合だったとタイラは記憶している。
実際、どちらが声をかけたからといってタイラの収集情報に変化は少なかったり、全くなかったり。今回の相手は大人しいのでリードを取られることはないだろうが、逆に話が続かなくって困りそうだ。この年頃の少年少女がどんな話題で盛り上がるのか、学校に行けず同年代と交流がなかったタイラはサッパリわからなかった。
「話の内容にも注意だ。芸能人やドラマや映画、テレビ番組の話はダメだな。どんなに有名な人、番組でも返答はこう。「申し訳ありませんが、そのことについては何も存じません。よければ教えていただけませんか。」で会話は終了。あとはこっちが喋りっぱなしだ」
それは願い叶ったりだが、念のため理由を聞いてみた。
「どうしてでござる?そのまま話は続くでござろう??」
「それがさー。彼女、大した聞き上手でさ。こっちが一方的に話していつの間にか時間切れってのが毎回のパターン。どんな奴でもそうなるからできるだけ避けたほうがいい」
「お互いに話がしたいんなら、これが無難だ」
そういって田中が取り出したのは数学の教科書だった。
「でも、気をつけないとわからない問題を教えてもらってそれで終わりなんてことになるぜ。わかった、ありがとうって言ったら会話終了のベルを自分で鳴らしたと思え」
「こいつも三回試して全部そうなった口なんだ」
「秘密にしとけっていったろ」
佐藤が山下の頭を軽く叩く。山下も佐藤も田中も笑った。タイラも笑った。
これはタイラにとって学生生活は初めての体験であった。授業を受け、団体スポーツを楽しみ、(人型の際の見た目年齢)同年代の学生と話す。人間にとってなんでもない日常がこんなにも楽しいとは。生活に慣れきった人間にはちっとも魅力的でないことでも、父親に連れられてこの世界に来てから同年代と仲良くなる機会は少なかったタイラにとって夢のような時間であった。
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