っておい

シロ

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二、違いにご用心

2ー4、誰も認めないだろう。

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 こっちにいる獣人は少ない上に隠しているので滅多に接触しない。理からすると、別世界の住人である獣人がこの世界にいること自体おかしいのだ。雲長とタイラは玄劉がそれぞれの時界を護る護りの神子に粘り強く頼み込んで了解を取ったおかげで今ここにいる。孟起も見た目はタイラより年上に見えるが、実際は百年ほど年下である。それに彼は入社してまだ日が浅い。元々態度がでかいためそう見えないが、漢蜀の正社員で新参者である。ただ、年功序列ではなく能力別で、個性を大切にする社風のため、全然そう見えないのだ。タイラの方が入社が早かったのだが、今では誰も認めないだろう。
「学校一のイケメンと言われる武田先輩でもバッサリとふられたが、それはきっと彼女の好みに合わなかったからだ」
「違う違う。あれは純天然だって。いっつもあの調子だし」
その言葉はタイラだけでなく彼女が好きな人全員にとってとてつもなく大きな壁に聞こえた。壊しがたい厄介な壁である。
「まぁ、頑張れ」
「そうだ。おまえだって青春スポーツ青年としてなかなかいけるぞ」
「当たって砕けろ!」
「へ?」
何か似たようなことを最近聞いたことがある。しかも、似た状況で。
「違った。砕けるつもりでドンとイケだ」
話題になっている人物が教室に戻ってきて席に着いたのは丁度そのときだった。タイラには無言で教科書を開いた彼女が少し疲れているように見えた。
「ほら、行ってこいよ」
背をドンと押され、タイラは教科書を読み始めた井上の机に突っ伏した。顔を上げると目の前に井上の顔がある。見れば見るほどサードと名乗った男装の少女によく似ている。背丈、腕の細さ、顔立ち。特にレンズの向こうから覗く黒曜石のような瞳はそっくりだ。だが、切り揃えられていないボサボサな髪と違い、彼女の黒髪は丁寧に三つ編みが作られている。そのそっくりな目でジーッと見られ、タイラは慌てて身を起こした。
「何か御用ですか?」
口からは何も話さなかった彼女と違い、普通に話しかけてきた。声は・・・似ていないこともない。
「え、えっと。その・・・・・・」
尋ねたいことは数え切れないほどあるのだが、焦りでタイラの脳中が真っ白になってしまい、なんと言葉にすればいいのか全く思い浮かばなくなってしまっていた。
「何かわからない問題があったのでしょうか?」
何も言えないでいるとタイラの手に教科書が見えたからかそう尋ねてきた。
「いえ、そうではないような・・・そうなような・・・・・・」
ここであなたは昨日の少女幽霊ですかと聞くには人目がありすぎる。たとえ本人だとしてもこれだけ他人がいるのにはいそうですとは答えないだろう。ここで機転を利かせて授業中に出た問題の一つでも言えれば良かったのだが、白くなった頭は何一つ思い出そうとしない。どうすればいいんだとタイラがオロオロしているときだった。
「禍が起こる時、走るは赤き鳥、潜るは黒き亀。野に放すは虎の子、龍に与えるは何ぞ?」
「え!?」
そう言うと井上はすぐに読んでいた本を持って教室から出て行った。一瞬重なった瞳はもう一度と焦がれた深海色の瞳。本人だったのか。慌てて後を追ったが、廊下の人混みに紛れたのか、すでにその姿はなかった。
「どういう意味なんだ?」
訳もわからず戻ってきたタイラに山下が尋ねる。しかし、タイラ自身にも何が何だかサッパリで、誰よりも自分が謎めいた言葉の意味を知りたいくらいだった。
「ナゾナゾだよな」
「何が何だかサッパリでござる」
「やんわりと断られたんじゃないのか」
「にしては大回り過ぎないか?先輩の時は即答だったぞ」
「随分婉曲した断り方だし。意外と答えの場所で待っていたりして」
「だったら、気があるってことだろ・・・まぁ、謎解き頑張れ」
ナゾナゾを解き明かせば面と向かって話せる。タイラのやる気がメラメラと燃えた。
「この辺りの地図ってどこでござる?」
待っていると言うことはさっきの言葉は待ち合わせ時間と場所を表していると考えるのが妥当である。
「図書室にあるんじゃねーの」
「ありがとう。よかったらこれ、食べてくだされ」
まだ手をつけていなかったカレーパン×4を四人に手渡すと廊下を走っていった。
もらった四人は思った。他にもいろいろあったのになんで同種のカレーパンを四つも買ったのか、と。

                       続く
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