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王子と従兄弟の生活
従兄弟1
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「今日からこちらにお世話になります、ヴェルナード様にございます。奥様、何卒よろしくお願いします」
城から来た執事はそう言うと、子供を置いて、名残惜しそうにしながら、乗ってきた馬車と共に来た道を引き返していった。
僕はそれを見送って、いつもより少しだけ困った顔になりながら隣にいた女性に声をかける。
「母様、どうしますか?」
中くらいのトランク一つしかない荷物を持った子供は今にも泣き出しそうな顔をしていた。
僕がそんなありきたりな問いを投げかけてしばらく、彼女は動くことがなかった。しかし、急にギロリと目の色を変えて僕を見ると、次の瞬間には乾いた音が響いて僕は倒れていた。
「ああ、もう、忌々しい。どうして私がこんな、どうしようもない子供の面倒を見なきゃいけないの!」
この人の癇癪にはもう慣れているけど、今日は少し荒れそうだな。
僕は立ち上がりながら、呆然とこちらを見る子供に目をやる。
服は上質。家を追い出されたにしてはおかしいし、家出でもないだろう。だってこの子は馬車に乗ってきた。馬車だったら絶対に足がついてしまう。
–––つまり、彼は僕と同じ“訳あり”なんだろう。
僕はゼウス。母親曰く、僕はクロノス陛下との間にできた子供らしい。
誰もそんなの信じてないし、僕も信じてない。
一度、あの人は僕を陛下に会わせたことがある。
その時の記憶は昨日のことのように思い出せる。
最悪だった。僕の誕生日だったから、尚更。
…そういえば、陛下とヴェルナードはそっくりだ。
じゃあ、ヴェルナードは陛下の子供?
いや、そんな子供が僕の家みたいなところに送られてくることはないだろう。
「お前、何が出来る?」
僕はさっさと屋敷に入っていってしまった母親を追いかけることはせず、彼の相手をしてあげることにした。
今追ったところで、痛い目にあうだけだ。
「…………」
ヴェルナードは今にも泣き出しそうな顔をして首を小さく横に振った。けど、ハンカチを僕に差し出してきた。・・・頬を張られた時に口の端が切れたみたいだ。差し出されたハンカチを押し返し、手の甲で乱雑に拭う。
……まぁ、これには正直驚いたけど、出来ないことは出来るようになってもらうしかない。
「……まぁ、なるようになる、か?」
僕はそう呟くと、ヴェルナードを連れて屋敷の中を回った。やれやれ、これから泣き虫の面倒を見なきゃならないなんてね。
あの人はまた<素敵な殿方>とやらの元に行って、帰ってこなくなった。
大体1週間感覚で帰って来てたはずだけど、既にヴェルナードが来て1週間が過ぎている。その間僕はヴェルナードと一緒に礼儀作法の勉強をしていた。
彼はまだ何も詰め込まれていなかったのだろう。異様なまでに早いスピードで、スポンジが水を吸うようにいろんな知識を吸収していった。
教えるのは僕と、日に一度やってくる家庭教師。
この家庭教師はお祖父様が雇ってくれているものだ。
僕は家庭教師の説明でヴェルナードがわからない部分を簡単に説明している。ヴェルナードの覚える速度は僕よりも早いから、すぐにそのお役目もなくなりそうだ。
「兄様?」
僕がヴェルナードを見つめていると気付いたようだ。こちらを吸い込まれそうなアメジストの瞳でじっと見つめ返してくる。
ヴェルナードが僕を兄様と呼ぶようになったのはつい最近だ。むずむずするような感覚が気持ちが悪いから、人前では僕を呼ばないようにした。
視線で訴えかけられても無視だ。
「に……、ゼウス兄様?」
…そうきたか。
これでは一応名前を呼ばれているわけだし、無視するわけにもいかない。
まったく、僕はこんな泣き虫の兄ではないと言うのに。
「僕とお前は兄弟じゃない。血の繋がりはない。」
「……」
俯いたヴェルナード。僕はまたため息を漏らした。
「……それで、なんの用だ?」
「!」
僕は嬉しそうに輝く紫の瞳を見つめながら、幼く賢い義弟の話を聞いてやることにした。
全く、どうして。
こんなに純粋な子供を放っておくんだ。
僕みたいに捻くれても仕方ないからな?
国王…いや、
クロノス・ロゼ・レヴァルティエ。
城から来た執事はそう言うと、子供を置いて、名残惜しそうにしながら、乗ってきた馬車と共に来た道を引き返していった。
僕はそれを見送って、いつもより少しだけ困った顔になりながら隣にいた女性に声をかける。
「母様、どうしますか?」
中くらいのトランク一つしかない荷物を持った子供は今にも泣き出しそうな顔をしていた。
僕がそんなありきたりな問いを投げかけてしばらく、彼女は動くことがなかった。しかし、急にギロリと目の色を変えて僕を見ると、次の瞬間には乾いた音が響いて僕は倒れていた。
「ああ、もう、忌々しい。どうして私がこんな、どうしようもない子供の面倒を見なきゃいけないの!」
この人の癇癪にはもう慣れているけど、今日は少し荒れそうだな。
僕は立ち上がりながら、呆然とこちらを見る子供に目をやる。
服は上質。家を追い出されたにしてはおかしいし、家出でもないだろう。だってこの子は馬車に乗ってきた。馬車だったら絶対に足がついてしまう。
–––つまり、彼は僕と同じ“訳あり”なんだろう。
僕はゼウス。母親曰く、僕はクロノス陛下との間にできた子供らしい。
誰もそんなの信じてないし、僕も信じてない。
一度、あの人は僕を陛下に会わせたことがある。
その時の記憶は昨日のことのように思い出せる。
最悪だった。僕の誕生日だったから、尚更。
…そういえば、陛下とヴェルナードはそっくりだ。
じゃあ、ヴェルナードは陛下の子供?
いや、そんな子供が僕の家みたいなところに送られてくることはないだろう。
「お前、何が出来る?」
僕はさっさと屋敷に入っていってしまった母親を追いかけることはせず、彼の相手をしてあげることにした。
今追ったところで、痛い目にあうだけだ。
「…………」
ヴェルナードは今にも泣き出しそうな顔をして首を小さく横に振った。けど、ハンカチを僕に差し出してきた。・・・頬を張られた時に口の端が切れたみたいだ。差し出されたハンカチを押し返し、手の甲で乱雑に拭う。
……まぁ、これには正直驚いたけど、出来ないことは出来るようになってもらうしかない。
「……まぁ、なるようになる、か?」
僕はそう呟くと、ヴェルナードを連れて屋敷の中を回った。やれやれ、これから泣き虫の面倒を見なきゃならないなんてね。
あの人はまた<素敵な殿方>とやらの元に行って、帰ってこなくなった。
大体1週間感覚で帰って来てたはずだけど、既にヴェルナードが来て1週間が過ぎている。その間僕はヴェルナードと一緒に礼儀作法の勉強をしていた。
彼はまだ何も詰め込まれていなかったのだろう。異様なまでに早いスピードで、スポンジが水を吸うようにいろんな知識を吸収していった。
教えるのは僕と、日に一度やってくる家庭教師。
この家庭教師はお祖父様が雇ってくれているものだ。
僕は家庭教師の説明でヴェルナードがわからない部分を簡単に説明している。ヴェルナードの覚える速度は僕よりも早いから、すぐにそのお役目もなくなりそうだ。
「兄様?」
僕がヴェルナードを見つめていると気付いたようだ。こちらを吸い込まれそうなアメジストの瞳でじっと見つめ返してくる。
ヴェルナードが僕を兄様と呼ぶようになったのはつい最近だ。むずむずするような感覚が気持ちが悪いから、人前では僕を呼ばないようにした。
視線で訴えかけられても無視だ。
「に……、ゼウス兄様?」
…そうきたか。
これでは一応名前を呼ばれているわけだし、無視するわけにもいかない。
まったく、僕はこんな泣き虫の兄ではないと言うのに。
「僕とお前は兄弟じゃない。血の繋がりはない。」
「……」
俯いたヴェルナード。僕はまたため息を漏らした。
「……それで、なんの用だ?」
「!」
僕は嬉しそうに輝く紫の瞳を見つめながら、幼く賢い義弟の話を聞いてやることにした。
全く、どうして。
こんなに純粋な子供を放っておくんだ。
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国王…いや、
クロノス・ロゼ・レヴァルティエ。
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