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王子と従兄弟の生活
従兄弟2
しおりを挟む最近来た子供・ヴェルナードについて、確定したことが1つある。
それは、彼が国を棄てたあの『世紀の愚王』ことクロノス・レヴァルティエの子息、つまりこの魔界の王子であることだ。
そしてその母親が僕の母上の妹…伯母であったため、彼はここに送りつけられてきたようだ。
伯母は王と共にいられないことが苦痛で、息子を置いて勝手に自害したのだと、今朝の新聞のトップ記事になっていた。
……この国のトップはなんて身勝手な人たちばかりなのだろうかと、僕は呆れてしまった。
それから、ほんの少しヴェルに同情した。
彼もまた、母親から見捨てられた子なのだ。
僕は彼に“兄”と認識されているが、たった3ヶ月しか変わらない。
僕が初夏の生まれで、彼は晩夏の生まれだった。
そしてあの成長の速さ。すぐに僕のことなど抜かして眼中にもなくなってしまうだろう。
……その時のことを考えて、僕は憂鬱になる。
彼もきっと、周りの大人たちと同じようになってしまうんだと考えると少しだけ悲しい。
「兄さま?」
思考に耽る僕の耳をうつその声にはっとする。
小首を傾げながら「今日のお昼は何にするの?」と可愛らしく聞いてくる。
……ああ、どうしてだろう。
どうしてこんなにも、僕はこの子にかき乱されるのか。
「そうだなぁ…今日はカリカリに焼いたバケットにしよう。苺のジャムと、ブルーベリーのジャムがあるから、それを塗って食べようか」
「え~、お肉がいい~!」
「肉は買いに行かなきゃない。でも、市場まで行くには時間がかかるから、今度だ。明日の朝一番に出れば、昼には戻れる」
「ホント?兄さま大好きっ!」
僕の家には執事とか侍女とか、そういうのはいない。
何故なら彼らを雇うのにかかる費用を、母が惜しんだからだ。
侯爵の位にいるのに、母は馬鹿だしそれを容認している祖父も馬鹿だ。…僕の出自が不明瞭だって理由で会ったことないけど。
なので、僕は自分のことは自分でやるし、ヴェルにもそうするようにしている。
しかし、ヴェルが調理をしているのを見ると、経験が全くないからか危なっかしすぎるのだ。包丁を握らせる度にひやひやして気が気ではなくなってしまう。
なので、料理は僕が担当している。
……不満が無いわけではないけれど、ヴェルの笑顔を見ると酷く心が落ち着く。
食事の用意が終わると、食前の祈りを捧げる。
「『時の神』クロノスの“祝福”に、感謝します」
ヴェルも僕にならって祈りを捧げてから、食事に手をつけ出した。苺のジャムをたっぷり塗りつけたバケットを、口いっぱいに頬張っている。僕は口の周りについてしまったジャムを拭き取ってあげる。
こんな毎日が長く続くといいな、なんて。
思っていたから悪かったのだろうか。ちょうどその時になって母が帰ってきた。
とても、機嫌が悪いようだった。
僕は気付いていたから、いつもの無表情を装った。
でもヴェルは違った。今度はブルーベリーのジャムを塗りたくったものを小さな口を目一杯開けて頬張っていた。
母の目にヴェルが映ったのがわかった。
どうやら今日の標的をヴェルにしたようだ。
僕はそれはいけないと思って、近づいて来た母との間に入った。母の腕は細いのに、僕は軽々しく突き飛ばされて床に背中を打った。
母は何もわかってない様子のヴェルに手を振り上げていた。咄嗟に母を掴んで阻止しようとした。けど、一瞬しか止まらなかった。
パァンッ、と乾いた音が聞こえた。
ヴェルが打たれたんだと理解するのに時間はかからず、ヴェルは涙目になって、すぐにぼろぼろと雫が溢れ出した。
母の機嫌はより一層悪くなり、もう一度ヴェルを打とうと腕を振り上げた。僕はヴェルを守るべく、彼を抱きしめるとぎゅっと目を瞑った。
覚悟した痛みは一瞬遅れてやって来た。
「そう、お前までこの子を守るの。そう、そうなの」
母の目を見ると、そこには狂気しかなかった。
僕は泣き止まないヴェルを抱きしめながらも、母の暴力にひたすら耐えた。
機嫌の悪い母は、気がすむまでこの行為をやめない。
手だけではなく足まで使って暴力を振るう。
とうとう、僕の体は痛みに耐えかねて気を失った。
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