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王子と従兄弟の生活
王子5
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あの後、僕がどう家に帰ったのかは覚えていなかった。
気付けば自分に当てがわれた部屋に佇んでいた。
そこにあの暖炉の中から見つけた、黒い大鎌もあった。
幸い、兄様はまだ帰ってきていないようだった。
この物騒な大鎌は人目につかないよう隠さなければならない。
のだが………。
「どこにも隠せるような場所がない…」
この家で一番物があるだろう部屋は叔母の部屋だが、あんな宝石やドレスだらけの、香水臭い部屋には入りたくない。そもそも、女性が趣味で武器を所持することは、騎士の家系でもなければ一般的ではない。あの叔母が武闘派であるはずはなく、こんな大鎌があったら不自然極まりない。
かくなる上は、埋めるしか…。
いや、掘った後が残ってしまうし、見つかった時が怖い。
「ほんと、どうしよう…」
考えているうちに、僕は眠ってしまった。
目が覚めたのは兄様が帰ってきてからだった。
普段は出迎えたりする僕がいなくて、食事をした形跡もなかったため、僕の部屋にきたということらしい。
床で倒れている僕を見つけた時は肝が冷えた、と兄様は言う。
まぁ、実際は寝ていただけで、安心したとも言っていた。
心配されて嬉しいけど、なんだか複雑だ。
「もう床で寝ないでください」
「ゔっ…。それは、気をつけます・・・・・。」
寝てしまったのは完全に僕の不注意だ。
でも、目を覚ました僕はあの大鎌を見つけることはできなかった。僕の記憶違いでなければ、僕は大鎌をしっかり持っていたはずなのに、なかったのだ。 どこにも。
どこに行ってしまったのだろうか?
いくらなんでも、あの重さのものを僕が蹴り飛ばしてしまった、ということはないと思うし、あんなものを見たら兄様が疑問に思わないわけがない。
今日は久しぶりに兄様と食卓につくことになった。
あの大鎌を目にしたのなら、きっと兄様は何か言ってくるはずだ。そう思って、僕は黙ってパンと薄味のスープを胃の中に流しこんでいたが、兄様は何かを切り出すことはなく、食べ終えると食器を片付けて部屋に戻っていってしまった。
何も見ていないのだと確信し、ほっと安心すると同時に不安になる。大鎌はどこへ行ってしまったのだろうか?
その答えは、翌日の朝に知ることとなった。
「ヴェル」
………うー。まだねむいぃ。
「ヴェル、起きなさい」
「あとちょっとだけ…」
「いいえ、もう朝食ができています。今日はベーコンだったのですが、起きないということはいらないと判断します。宜しいですね?」
「そんなぁっ?!」
僕は勢いよく起き上がり、急いで寝巻きを着替えて食卓に着いた。久しぶりのベーコン、しかも目玉焼きもついてる!
「う~ん、おいしい!」
僕は兄様が席に着いた瞬間、お祈りを済ませて食べ始めた。
兄様は呆れたようにこちらを見たが、お祈りを済ませると食事にだけ集中し始めた。
いつものように無言で食事を進めていると、ふと兄さんが食事の手を止めて僕をじっと見つめているのに気付いた。
深い闇のような瞳は、日の光を反射して薄く紫がかって見える時がある。綺麗だな、と思いながら僕は口の中に入っているものを飲み込んだ。
「どうしたの、兄様?」
僕から話を切り出せば、兄様はそっとため息をついたあと、話し始める。
「あの大鎌はお前の物ですか?」
「え、」
口の中に物が入ってなくてよかった。今なら口からこぼしてしまうところだ。って、そうじゃなくて。
兄が視線だけで示した先には、昨日の大鎌が立て掛けてあった。
「ーーーーーーー」
僕は驚きのあまりに固まっているうちに、兄様は僕に目を戻した。
「お前の物ならば何も言うことはありませんが、アレは王家に伝わる〈神器〉というものでしょう?」
ーーーーーとはいえ、御伽噺として語り継がれている代物ですが。
兄様が最後に零したように、あの大鎌は存在しない、空想上のものとして扱われている。
だが、今この大鎌は圧倒的な質量と存在感を放ち、『ここに在る』ことを示していた。
「そうなんだ、知らなかったや」
兄様は物知りだね、と笑うと兄様は眉間に皺を寄せて僕を睨む。
まるで僕が世間知らずなだけだ、というような鋭い視線に、僕は居た堪れなくなりながら、再び目玉焼きを食べ始めるのだった。
気付けば自分に当てがわれた部屋に佇んでいた。
そこにあの暖炉の中から見つけた、黒い大鎌もあった。
幸い、兄様はまだ帰ってきていないようだった。
この物騒な大鎌は人目につかないよう隠さなければならない。
のだが………。
「どこにも隠せるような場所がない…」
この家で一番物があるだろう部屋は叔母の部屋だが、あんな宝石やドレスだらけの、香水臭い部屋には入りたくない。そもそも、女性が趣味で武器を所持することは、騎士の家系でもなければ一般的ではない。あの叔母が武闘派であるはずはなく、こんな大鎌があったら不自然極まりない。
かくなる上は、埋めるしか…。
いや、掘った後が残ってしまうし、見つかった時が怖い。
「ほんと、どうしよう…」
考えているうちに、僕は眠ってしまった。
目が覚めたのは兄様が帰ってきてからだった。
普段は出迎えたりする僕がいなくて、食事をした形跡もなかったため、僕の部屋にきたということらしい。
床で倒れている僕を見つけた時は肝が冷えた、と兄様は言う。
まぁ、実際は寝ていただけで、安心したとも言っていた。
心配されて嬉しいけど、なんだか複雑だ。
「もう床で寝ないでください」
「ゔっ…。それは、気をつけます・・・・・。」
寝てしまったのは完全に僕の不注意だ。
でも、目を覚ました僕はあの大鎌を見つけることはできなかった。僕の記憶違いでなければ、僕は大鎌をしっかり持っていたはずなのに、なかったのだ。 どこにも。
どこに行ってしまったのだろうか?
いくらなんでも、あの重さのものを僕が蹴り飛ばしてしまった、ということはないと思うし、あんなものを見たら兄様が疑問に思わないわけがない。
今日は久しぶりに兄様と食卓につくことになった。
あの大鎌を目にしたのなら、きっと兄様は何か言ってくるはずだ。そう思って、僕は黙ってパンと薄味のスープを胃の中に流しこんでいたが、兄様は何かを切り出すことはなく、食べ終えると食器を片付けて部屋に戻っていってしまった。
何も見ていないのだと確信し、ほっと安心すると同時に不安になる。大鎌はどこへ行ってしまったのだろうか?
その答えは、翌日の朝に知ることとなった。
「ヴェル」
………うー。まだねむいぃ。
「ヴェル、起きなさい」
「あとちょっとだけ…」
「いいえ、もう朝食ができています。今日はベーコンだったのですが、起きないということはいらないと判断します。宜しいですね?」
「そんなぁっ?!」
僕は勢いよく起き上がり、急いで寝巻きを着替えて食卓に着いた。久しぶりのベーコン、しかも目玉焼きもついてる!
「う~ん、おいしい!」
僕は兄様が席に着いた瞬間、お祈りを済ませて食べ始めた。
兄様は呆れたようにこちらを見たが、お祈りを済ませると食事にだけ集中し始めた。
いつものように無言で食事を進めていると、ふと兄さんが食事の手を止めて僕をじっと見つめているのに気付いた。
深い闇のような瞳は、日の光を反射して薄く紫がかって見える時がある。綺麗だな、と思いながら僕は口の中に入っているものを飲み込んだ。
「どうしたの、兄様?」
僕から話を切り出せば、兄様はそっとため息をついたあと、話し始める。
「あの大鎌はお前の物ですか?」
「え、」
口の中に物が入ってなくてよかった。今なら口からこぼしてしまうところだ。って、そうじゃなくて。
兄が視線だけで示した先には、昨日の大鎌が立て掛けてあった。
「ーーーーーーー」
僕は驚きのあまりに固まっているうちに、兄様は僕に目を戻した。
「お前の物ならば何も言うことはありませんが、アレは王家に伝わる〈神器〉というものでしょう?」
ーーーーーとはいえ、御伽噺として語り継がれている代物ですが。
兄様が最後に零したように、あの大鎌は存在しない、空想上のものとして扱われている。
だが、今この大鎌は圧倒的な質量と存在感を放ち、『ここに在る』ことを示していた。
「そうなんだ、知らなかったや」
兄様は物知りだね、と笑うと兄様は眉間に皺を寄せて僕を睨む。
まるで僕が世間知らずなだけだ、というような鋭い視線に、僕は居た堪れなくなりながら、再び目玉焼きを食べ始めるのだった。
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