異世界空想映〜魔界編

白銀狂神

文字の大きさ
12 / 13
王子と従兄弟の生活

そして彼は旅立つ

しおりを挟む


 八年の時が経ち、成人を迎えたゼウス。
 彼は立派な貴族の青年となっていた。

 しかし、子供の頃の出来事は彼のトラウマになり、彼は女性に触れることも同性に近づくこともできず、婚約者はいなかった。

 彼の容姿だけを見れば、あの愚王とそっくりなこともあり、あの母親の妄言はあながち間違いではなかったのではないか、と囁かれるが、彼が誰かに近づこうとしなかったこともあり、友人の一人さえいなかった。

 故に彼への悪評や誤解も解かれることはなかった。
 そして彼自身、その悪評や誤解を解く行動はしなかった。

彼の周りにいて、彼を理解できたのは、彼が生きるための知識を蓄えた図書館を管理する平民だけだった。








「母上、行ってまいります」
「気をつけて行ってらっしゃい。」
 
 彼は今日、魔界から出ることを決意した。
母親と初めて家族らしい会話をひとつして、そして初めて母に抱きしめられた。彼は貼り付けた笑顔の仮面の下で何を思っただろうか。
 母は瞳を涙で濡らして、名残り惜しげに手放した。
 
 母を一瞥した彼は、それ以上何も言うことなく家を出た。
家を出て少ししたところで森の中のに入ると小屋がある。
そこに予め床に刻んでいた転移の魔法陣を起動させにかかる。

彼の有する魔力は少なく、持ち物は茶色いトランクがひとつあるのみ。目を閉じて深呼吸をすると、ゆっくりと魔法陣に魔力を流していく。

何時間か経ったような、数分しか経っていないような時の流れの中に身を委ね、もう一度目を開いたときにはもう別の世界だった。
 




 一面に広がる青い空。
 空を流れる雲は白く、山は緑に溢れている。

 彼はこの世界の空気を肺いっぱいに吸い込む。


 
 ここが彼の夢見た世界。
人間の住む下界で、彼を知る人が誰もいない世界。



 己の名すら自ら捨てた彼は、今まで見たことのない美しい景色に感嘆の息をつきながら、この世界で暮らしていく決意を固めた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

今更……助けてくれと……言われても……

#Daki-Makura
ファンタジー
出奔した息子から手紙が届いた…… 今更……助けてくれと……言われても……

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

キモおじさんの正体は…

クラッベ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生し、ヒロインとなったナディア。 彼女はゲーム通りにいかない悪役令嬢のビビアンに濡れ衣を着せ、断罪イベントの発生を成功させる。 その後の悪役令嬢の末路は、ゲーム通りでは気持ち悪いおっさんに売られていくのを知っているナディアは、ざまぁみろと心の中で嘲笑っていた。 だけどこの時、この幸せが終わりを迎えることになるとは、ナディアは思っても見なかったのだ。

二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)

MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。 かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。 44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。 小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。 一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。 ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...