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1章 孤独との闘い

二品目 帆立のお造り

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「嘘だろ・・・瓶ビール?さっきまではなかったよな・・・・?まさか誰かが俺の呟きを聞いてビールを持ってきてくれたとか?」

 俺が肉に夢中になってる間に、誰かがそっと持って来たのかと慌てて周りを見たけど、そんな事は当然あるわけもなくてただ真っ暗闇が広がっていた。

 あまりにもビールが場違いすぎてなんかの罠なんじゃ・・・とか思いながら近づいてみると焚火の光に照らされて、確かに瓶ビールが一ケース置いてあった。しかも今まさに冷蔵庫から取り出したかのように、キンッキンッに冷えていた。

 待て待て。なんで瓶ビールがあるんだ?俺が呟いてからここに誰かが置いたわけじゃないだろうし・・・あれ?。

「ん・・・?これってウサギから出て来た石だよな。なんか少し色が薄くなってないか?暗いからそう見えるだけなのか?」

 ウサギから出て来た石を手に取って見てみると、やっぱりなんだか色が薄くなっているような気がするんだよな・・・。何処かの名探偵のように、この石と突然のビールは絶対に何か関係があるッ!と思った俺は試しに石に向かって呟いてみることにした。

「キャンプセットが欲しいッ!!・・・なんて出て来るわけ・・・ッ!!マジか・・・」

 石が少し光ったかと思うと、目の前にいきなりキャンプセットが出てきてしまった。あまりの事に唖然としてしまう俺。

「まさか、これはなんでも叶う魔法の石なのか!?すげぇ・・・こんなのが本当に存在するなんて」

 キャンプセットというだけあって、テントの他にも色々あったけど、中でも1番嬉しかったのはファイヤースターターという棒で、これを使えば滅茶苦茶しんどかった火おこしも楽になる。

 テンションが上がった俺は、急いで寝床を確保する為にテントを組み始めた。キャンプなんて社会人になってから行く暇なんてあるはずもなく、社畜の俺には無縁の世界だった。世間ではキャンプなんかも流行り出して、家族連れやカップルがキャンプをしている姿をテレビでよく見かけた。

 独身で勿論彼女なんていない俺にとって、自分と同世代の家族を見るとすごい羨ましかったし、「俺もいつかはッ!!」とか思ってた。たまに出来る彼女もいたけど、俺が料理人という職業だからなのか、週に一回あるかどうかの休みの日にまで料理を作って欲しいと強請られるのが苦痛過ぎて別れた。

 料理するのは好きだけど、仕事から帰って家に着く頃にはもう日付は変わってるし、仕込みなんかもあるから朝もクソ早い。当たり前だけど、家に帰ってから料理なんかするわけないし、基本コンビニ弁当だった。休みの日くらい料理を作る側じゃなくて、作って貰う側になりたいと思うのは自分勝手なんだろうか?

 昔の事を愚痴ってる内に俺でもなんとか暗闇の中、焚火の僅かな光を頼りに組み立てる事ができた。

 寝床を確保して寝る準備が整ったけど、俺は猛烈に悩んでいる。明日の分の肉をビールを飲みながら食べるべきか・・・出来ればもう出会いたくはないけど、あのウサギ肉を確保できるか分からないよな・・・。

 悩んだ末に俺はビールという誘惑を断ち切る事が出来ず、結局残りの肉と瓶ビール一本を食べて、飲んでから寝た。





 翌朝になり太陽の光でテントの中で目が覚めて、昨日から俺に起こった事は現実なんだと再認識した。知らない島に置いてかれて、滅茶苦茶強いウサギも居たし、魔法の石なんかもある。それに、昨日の夜晩酌をしてる時に気付いたんだけど、夜空を見上げながら飲んでたら月が二つある事に気付いた。

 なんとなくそうなんじゃないか、と思ってたけど俺は確信した。月が二つあるなんて地球では考えられないし、俺はきっと地球じゃない場所に居るんだ。正直、昨日のウサギや魔法の石の時点で薄々感じてはいた。でも今こうしてこの島で二日目を迎えて、冷静になった頭で何度考えてみても、地球ではない事は間違いないという結論にしかならなかった。

 じゃあ俺はこれからどうすればいい?このまま一生一人孤独のままこの島に住むのか?

 そんなのは御免だね。絶対にこの島から脱出してやる。そのためにはこの魔法の石について考察をしっかりしなきゃいけない。明らかに真っ黒だったこの魔法の石も、今では色が薄くなってきている。

 という事は、この魔法の石の使用回数みたいなのが決められているから、どんどん色が薄くなっているんだとしたら辻褄はあうよな。
 後はこの魔法の石をもう入手できないのか。なんとなくだけど、森の中には獣道なんかもあったから、動物は間違いなくそれなりの数は居ると思う。

 全部の動物があのウサギみたいに、魔法の石を持っているかは今は分からないけど、ウサギですらあんな強かったんだから、他のもっと大きい動物なんかが出て来たら絶対に死ぬ。

 なんとか、安全に動物を捕獲できる罠とかあればいいんだけどな・・・。魔法の石が使用回数制限の可能性が出て来た以上、迂闊には使えないからな・・・。

 とりあえずはこの魔法の石は温存しておこうか。森の中に入るにしてもハンマーじゃやっぱり心細いから、昨日ウサギから手に入れた角を使って武器を作るか。

 俺は丈夫そうな長い木の枝を見つけてきて、その先端に角をキャンプセットの中にあった紐を使ってガッチリと固定した。

「よし・・・・外れないな。これなら変な動物が現れても遠くから攻撃できるな」

 試しに近くにあった木からぶら下がっているツタを切ってみたら、簡単に切れた。昨日も思ったけどかなり切れ味がいいな。

 この島に生息している動物達の体内に、魔法の石があるかを調べる事に決めた俺は、森に入る前に昨日の貝を取りに行き、朝食を食べてから森の中に入ることにした。

「絶対このデカい帆立は、刺し身が美味いと思うんだよな。」

 キャンプセットに付いてきた小ぶりのナイフで、殻の僅かな隙間にねじ込んで無理矢理殻を開けようとしたけど全く開かない。

 ハンマーでナイフを叩きながら少しづつ隙間を広げていって、なんとか開けることに成功した。

「朝から重労働だな。一つ開けるのにこんなに時間かかるんだから、後は昨日と同じく焼いて食うか。」

 帆立を貝柱だけにして、貝ヒモなんかは他の焼き帆立の中に入れておけばいいな。

 綺麗に帆立の刺し身を切り、焼き帆立もいい感じになってきたので食べて見る事にした。

「まずは刺し身からだな。んッ!!薄く切ったのもあるけど、焼き帆立より柔らかいし何より滅茶苦茶甘い。変に口に残る甘さじゃなくて、後味がスッキリとしていて次々食べたくなる。マジ最高。」

 俺が思った通りに刺し身の方が美味かった。勿論、焼き帆立もあれはあれで美味いけどな。

 朝食を堪能した俺は森の中に入ることにした。

 昨日の水場を目指して森の中を進んで行き、暫く歩くと無事到着する事が出来た。昨日は湧き水が出てることにテンションが上がって気が付かなかったけど、水場の周りには小動物の足跡が結構ある。その中には大型犬くらいのサイズの足跡もあったけど、出来れば今は会いたくない・・・。

 乾いた喉を潤してから、昨日飲んだビール瓶に湧き水を入れておいた。こういうのも有効活用していかないとな。

 昨日はウサギに襲われてクタクタになって、森の中を探索できなかったから、今日は探索しつつ動物を見つけたら狩る事にした。

 迷子になって森の中を彷徨うとか、本当に洒落になんないから森の奥には行かないで、出来るだけ砂浜寄りの森を探索すること一時間。

 ついに見つけた・・・俺のライバルのウサギを。幸いまだ俺には気付いてないみたいだから、お手製の槍を構えつつゆっくりとウサギに向かった歩いていった。

 俺は狩りなんてした事ないから、当然のようにウサギに気付かれてしまい、昨日と同じように角を俺に刺そうと飛び掛かってきた。

 昨日は焦って転んだけど、今回は余裕を持ってウサギの攻撃を躱せた。そして、昨日と同じように木に角が刺さったまま動けなくなるウサギ。

 この角は確かに怖いけど当たらなければどうってことはないな。ジタバタと動けなくなっているウサギにお手製の槍で止めをさして、一旦テントまで戻ることにした。

 あんなにハンマーで殴っても死ななかったのに、お手製の槍で一突きしたら簡単に息の根を止める事が出来た。

 何事もなく無事に俺の拠点に着いて、早速ウサギを解体するとやっぱり心臓の近くに黒い石があった。ウサギ限定なのかはまだ分からないけど、魔法の石がウサギから取れる事が分かっただけで十分だ。

 昨日のビールに関して言えば、俺はジョッキに入ったキンッキンッのビールをイメージしてたと思うから、イメージ通りの物が出て来るわけじゃなさそうだな。後はこの魔法の石が、どれだけの範囲の物を出してくれるかそれが一番重要。

 この島から現実的に考えて脱出するならボートか?いや、何処を目指せばいいのか分からない状況で海に出るなんて流石に自殺行為か・・・。そうなるとやっぱり脱出の事は一旦置いておいて、この島を全部探索することに専念した方がいいのかな?

 となると、結構この島は大きいし歩いて全てを周るのは、どんな危険動物が生息してるか分からんから、ドローンで上空からの映像で島の全貌を確認するとかいいんじゃね?

 そう思った俺は昨日使って色が薄くなった魔法の石に、ドローンを注文してみたけど、昨日のように魔石は光ることもしなかったしドローンも出てこなかった。

「なんかの条件があるのか?ドローンが無理となるとやっぱり自力で探索するしかないか・・・」

 ちょっと期待しすぎたな・・・。なんでも出るわけじゃないという事が分かったから良しとしておくか。まだ暗くなるまで時間はあるし、もう少し森を探索でもしてみるか。

 少し気分が落ち込みながら森を歩いていると、二十メートル位先に猪みたいなでかい生き物が歩いてた。ヤバッ!と思った時にはもう向こうにも俺の存在はバレていて、こっちに向かって突進してきた。猪の迫力が凄すぎて一目散に走って逃げる事にした。


 必死になりながら猪との鬼ごっこをして、なんとか猪から逃げ切った頃にはもう俺の疲労がピークを迎えていた。息を整えて周りを見たんだけど、必死になりすぎてどこをどう走ってきたか分からなくなってしまった。

「ヤバい・・・帰り道が分からんぞ・・・。俺もしかして島の中央に走ってきちゃったのか・・・・?」

 確か砂浜から見えた森の中央は、山みたいに標高が高くなってる場所があったけど、今俺の目の前には見上げる程もある崖があった。砂浜に戻りたいのは山々なんだけど、あの猪がまだ近くをうろついてるかもしれないから戻る気にはならなかった。

 戻るとしても、もう少し時間が経ってからの方が良いと判断した俺は、せっかく島の中央に来てしまったんだからこの辺を探索してみることにした。

 崖には何処から登れるのか調べようと思って、崖の周りを歩いていたら洞窟みたいに穴が空いてる場所を見つけた。

 崖に空いてる穴は崖から伸びてるツタで覆い隠されてて、パッと見は穴が空いてるようには見えなかった。恐る恐るツタを掻き分けて、中を覗いたけど真っ暗で何も見えない。持ってきていたミニライトで洞窟を照らすと中は思ったほど奥行きはなくて、動物なんかも居なかった。

「おー・・・洞窟なんて初めて入った。あれ?なんかここ・・・・」

 洞窟の中に入った俺はある事に気付いた。生活感がある・・・誰かが手作りで作ったようなテーブルや椅子があって、テーブルの上には埃が被った一冊のノートとペンが置いてあった。
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