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1章 孤独との闘い
三品目 ブロッコリーと帆立の炒め物
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日記を読み終えた俺は、この島に来たのは俺だけではなかったと思ったと同時に、不動産屋に怒りが込みあがってきた。安易に開けた俺が悪いのは分かってるぞ?でも、日記を見る限りこの島に来たのは最低二人だぞ?もしかしたらこの場所に辿り着けなくて死んでしまった人だっているかもしれない。
もし不動産屋が俺に一言この事を教えてくれてたら、きっと俺は古民家を買わなかっただろうし、この島に来ることもなかった。
そんな事今更言ったってしょうがない事は分かってるけどさ‥‥‥。もし地球に戻れたら一発ぶん殴ってやる!
少し落ち着きを取り戻した俺は日記の内容をもう一度見てみる事にした。まず、今は2023年で、この2人目の佐藤が来たのが1999年‥‥‥24年前か。一人目はもう亡くなっているみたいだけど二人目がどうなったかだよな。日記の続きが書かれてない事を考えると、無事になんとか脱出する事が出来たか、もうこの世に居ないかのどちらかだ。
佐藤が書いてある魔石の使い方はこの島で生き残る為には重要な情報だよな。まさか、この魔石で攻撃魔法が使えるとは思わなかったな・・・それにケガも治せる事も出来るみたいだな。というか、佐藤は物を魔石から召喚出来る事については知らなかったのか?
魔法については後で試してみるとして、次は魔物についてか。
俺はまだウサギと猪にしか遭遇してないけど、狼やカラスなんかもいるんだな。それに大蛇ってのも居るのか‥‥‥絶対に遭遇したくないな。こいつらを上手く魔法で倒して魔石を集める事を当分の目標にでもするか。
まだ佐藤が発見できなかった事がこの島にはあるかもしれないし、崖の上に行くのはそれからでいいな。
もし次に来る人が居た時の為に、俺も日記に魔石についての追記を書いておくか。
◇
日記に魔石の追記を書いた俺は、一度砂浜に戻って魔法の訓練をしてみることにした。途中で角ウサギが襲い掛かって来たから返り打ちにしてやったぜ。
ただ魔法をぶっぱなすのは魔石の使用限度があって勿体なかったから、枯れ枝を準備してから火を着けてみる事にした。
「たしか佐藤は【燃え盛れ】で魔法は発動するって言ってたよな。俺はどうしようか。火のイメージは赤い、熱い、燃えてる‥‥‥ファイアとかは普通だし、火に関する事で思いつく事と言えば日本の神様のヒノカグツチなんだよな。じゃあ【火喰羅】にするか」
【初級火炎魔法】
魔石を持って呟くと、枯れ木が一瞬で灰になってしまった。イメージが強すぎたのかよくわからないけど、とりあえずは魔法を使えることが確認できた。この1回の魔法でも魔石の色の変化は、ほとんど感じられない位だったから結構魔法を使えそうだ。
もう日が沈みそうだし、森の探索は明日からにして今日は海の幸でも堪能でもするか。昨日の貝も取れるだけ取っておいて、キャンプセットに付いてきたクーラーボックスに入れておけばいいな。
巨大ホタテを収穫してきた俺は、昨日のように焚火で焼いていた。しかし、昨日みたいにただ焼くだけではないんだよ。俺には魔石がある。調味料とブロッコリーを召喚しておいたのだよ。
今日は【ブロッコリーと帆立の炒め物】を作ろうと思う。作り方は滅茶苦茶簡単だぞ。
最初はブロッコリーを小房に分けておいて、油を引いたフライパンで炒めておく。ここで塩コショウを軽く振っておいた方がいいな。その後は鮮やかな緑色になるまで炒める。
色が鮮やかになったら一旦、フライパンからブロッコリーを他の皿にでも移しておいて、フライパンに再度油を引いて今回はチューブのショウガを4センチ位出して炒める。ショウガのいい香りが出て来たら帆立を加えて炒めていこう。帆立は今回はでかいからぶつ切りにしてる。
軽く白くなってきたらブロッコリーをフライパンに戻して帆立と一緒に炒めて、そして最後は味の最終調整だ。醤油と酒を少し入れて、塩コショウを適量振れば完成だ。
自分で作っておいてなんだけど、滅茶苦茶いい香りがするし美味そうだ。少し温くなったけど、ビールと一緒に食べようか。
「はっふ。はっふ。うんめぇ‥‥‥。新鮮な帆立の少しコリッコリッとした歯ごたえと、噛んだ顎が良い感じに押し戻されるような弾力。そして調味料を加えた事によって帆立の甘さがより引き立ってる。もはや、帆立の味が強すぎてブロッコリーが居る事すら忘れてしまうわ」
調味料を加えても口の中に広がる磯の味をビールで一気に流していく。くぅ、たまらん。一つ問題があるとすれば普通の野菜だとこの島の食材に完全に負けることだな。ただ、栄養素が偏るのはよろしくはないから今の所はこれで我慢するしかないか。
「はぁ‥‥‥美味かった。こうやって一人無人島で生活するのも案外悪くないと思ってしまってる自分がいるな。まぁ、死ぬまでここに居るのは流石に飽きるから脱出は絶対してやるけどな」
都会の夜空とは違って、ここはすごい綺麗だな。俺もそんなに星に詳しくはないけど、知ってる星座とか全然ないな。この星はやっぱり地球の近くにあるどこかの星という事はないんだろうな。
日の出と共に起き出して森の中に入る準備をする。今日は一日森の中を探索する予定だから、しっかりと準備してかないとな。
今日の目標は新たに手に入れた俺の魔法を使って魔物を倒すことだ。どのくらいの威力なのか気になるからな。いつもとは違う道で森の中央に進んで行くと、森の奥から何か聞こえて来た。
「なんだ?魔物同士が争っているのか?」そう思った俺は慎重にその音の方に近づいていくとだんだん音が大きくなってきた。木の陰からこっそり音の方を覗いてみると、狼の群れに囲まれている黒い虎がいた。
黒い虎は何かを庇うように、狼たちに向かってうなり声をあげて威嚇をしているみたいだったけど、その声には迫力がないというか、元気がないように見えた。
狼の群れは全部で六匹居て、黒い虎の周りをグルグル回って隙を探しているようだった。黒い虎も必死で威嚇をしてるけど、狼の群れはそんなのを全く気にした様子は見せないで、ついには黒い虎の背後に居た一匹の狼が黒い虎に飛び掛かってきた。
黒い虎もそれに気付いて狼を倒そうと動いた時に、俺はなんでこの黒い虎が元気がないのか分かった。
黒い虎の下には生まれたばかりの小さな黒い虎が居て、恐らくだけどこの黒い虎は産後すぐにこの狼達に襲われたんだと思った。
なんでか自分でも良く分からないんだけど、助けなきゃって思ったんだよね。俺よりでかい黒い虎をだぞ?下手すれば俺も敵だと判断されて攻撃される可能性だってあったんだけど、その時の俺はそんな事考えてなくてすぐに狼の群れに飛び出して行った。
狼の群れが次々と黒い虎に飛び掛かろうとしていた時に、俺は飛び出して近くにいた狼を槍で串刺しにした。突然の乱入者に狼は警戒したけど、すぐにうなり声をあげながら俺に飛び掛かってくる。
どうやら、この狼たちは最初に俺をさっさと倒してしまおうという事らしい。
「舐めんなよ‥‥‥【初級火炎魔法】」そう呟くと、飛び掛かってきた狼の一匹に赤い火の玉が当たって一瞬にして燃え尽きてしまった。
ついさっきまで俺の事を舐めてた狼達も、流石に警戒を強めて迂闊には近寄ってこなくなった。チラッと横目で黒い虎を見るともはや立っているのもやっとのようで、荒い息を吐いていた。
このままだと死んでしまうと思って、残り4匹になった狼たちに向かって魔法を放った。四発放った【火喰羅】の1発だけが狼に当たって倒せたけど、残りの三匹には当たらなかった。
流石に狼達も分が悪いと思ったのか、少しづつ俺から距離を取っていって、暫くすると散り散りになって逃げていったみたいだった。
なんとか狼の群れを撃退した俺は急いで黒い虎を見た。もはや地面にぐったりといている黒い虎に生まれたばかりのチビ虎が必死にペロペロと顔を舐めっている状況だった。
俺が近づこうとしても、黒い虎は俺に目を向けるだけで威嚇をしてくる様子はなかった。威嚇ができる状態でもなかったのかもしれないけど、今の俺には都合が良かった。
ぐったりとしている黒い虎に近づくと、狼にやられたであろう噛まれた痕や引っ掻かれた傷から血が出ていた。俺は黒い虎が元気になるようにイメージする‥‥‥死ぬな、傷よ治れ・‥‥【中級回復魔法】。
黒い虎の身体に光の粒子が覆うと、傷だらけだった身体もみるみるうちに傷が塞がっていった。傷が治った黒い虎はさっきまで荒い息を吐いて苦しそうにしていたけど少しマシになったようだけど、まだ立ち上がれる程回復はしていないようだった。
「傷はもうないから大丈夫だとは思うんだけど、産後だからかやっぱり元気はないな。俺に出来る事は後は何があるんだろうな」
やっぱり食料を用意することしか出来ないよな。子虎に授乳とかしなきゃいけないだろうし。ここから離れるとまた狼達に襲われるかもしれないから、魔法で栄養のある食料と水を出した方がいいな。
そう決めた俺は大きめのタライ二つと水、キャットフードを魔石を使って召喚した。正直肉にしようか迷ったけど産後だしなるべく栄養があるキャットフードにしたけど、食べなかったら肉を出せばいいか。
地面に横たわってる親虎の目の前にタライ二つを置いて、その中に水とキャットフードを入れた。最初は匂いを嗅いでいた黒い虎だったけど、余程喉が渇いていたのか物凄い勢いで水を飲んで、その後にキャットフードもガツガツ食べてくれた。
親虎がご飯を食べてるあいだチビ虎も授乳タイムに突入しているようだった。手でフニフニしながら授乳している姿が物凄く可愛い。
暫く無心でキャットフードを食べる親虎と、フニフニしながら授乳している姿を見ていると、どうやら親虎の方のキャットフードがもう無くなったらしくて俺の方を見ていた。
「十二キロ入ってるキャットフードの半分くらい入れたのに、もう食い終わったのかよ。ちょっと待ってろよ」
そう言って残りのキャットフードをタライに全部入れ終わると、親虎が俺の顔を長い舌でベロンッとひとなめしてきた。「褒美だ」と言われてるような親虎の雰囲気に苦笑いをしながら、残り少なくなってきた水も追加で入れておく。
暫くすると親虎も満足したようで、回復魔法をかけた時より元気になっているみたいだったし、チビ虎はおっぱいを口に入れたまま爆睡しているようだった。
今更だけど、俺がこの黒い虎に襲われなくて本当に良かったわ・・・。あの時はなんも考えないで飛び出してしまったけど、こうやって近くで見ると俺が見上げなきゃいけないくらいにこの親虎はでかいし、チビ虎だって中型犬くらいのサイズだもんな。
そんなことを考えているとチビ虎もようやく目覚めたみたいで、親猫の周りをウロウロと歩き回り始めたかと思うと俺の存在に気付いたようで、俺に遊べといわんばかりに尻尾を振りながらじゃれついてくる。
チビ虎を撫でまわすと、フワフワの毛並みで艶のある黒い毛が気持ち良くて、じゃれついてくるチビ虎の事を暫く撫でまわしていた。甘えるようにじゃれついてきていたチビ虎も俺の神の手には勝てず、今では俺の膝の上で下を出しながら爆睡中だ。
そんな俺とチビ虎の様子を優しい目で見てくる親虎になんだか無性に恥ずかしさがこみあげてきた。
もし不動産屋が俺に一言この事を教えてくれてたら、きっと俺は古民家を買わなかっただろうし、この島に来ることもなかった。
そんな事今更言ったってしょうがない事は分かってるけどさ‥‥‥。もし地球に戻れたら一発ぶん殴ってやる!
少し落ち着きを取り戻した俺は日記の内容をもう一度見てみる事にした。まず、今は2023年で、この2人目の佐藤が来たのが1999年‥‥‥24年前か。一人目はもう亡くなっているみたいだけど二人目がどうなったかだよな。日記の続きが書かれてない事を考えると、無事になんとか脱出する事が出来たか、もうこの世に居ないかのどちらかだ。
佐藤が書いてある魔石の使い方はこの島で生き残る為には重要な情報だよな。まさか、この魔石で攻撃魔法が使えるとは思わなかったな・・・それにケガも治せる事も出来るみたいだな。というか、佐藤は物を魔石から召喚出来る事については知らなかったのか?
魔法については後で試してみるとして、次は魔物についてか。
俺はまだウサギと猪にしか遭遇してないけど、狼やカラスなんかもいるんだな。それに大蛇ってのも居るのか‥‥‥絶対に遭遇したくないな。こいつらを上手く魔法で倒して魔石を集める事を当分の目標にでもするか。
まだ佐藤が発見できなかった事がこの島にはあるかもしれないし、崖の上に行くのはそれからでいいな。
もし次に来る人が居た時の為に、俺も日記に魔石についての追記を書いておくか。
◇
日記に魔石の追記を書いた俺は、一度砂浜に戻って魔法の訓練をしてみることにした。途中で角ウサギが襲い掛かって来たから返り打ちにしてやったぜ。
ただ魔法をぶっぱなすのは魔石の使用限度があって勿体なかったから、枯れ枝を準備してから火を着けてみる事にした。
「たしか佐藤は【燃え盛れ】で魔法は発動するって言ってたよな。俺はどうしようか。火のイメージは赤い、熱い、燃えてる‥‥‥ファイアとかは普通だし、火に関する事で思いつく事と言えば日本の神様のヒノカグツチなんだよな。じゃあ【火喰羅】にするか」
【初級火炎魔法】
魔石を持って呟くと、枯れ木が一瞬で灰になってしまった。イメージが強すぎたのかよくわからないけど、とりあえずは魔法を使えることが確認できた。この1回の魔法でも魔石の色の変化は、ほとんど感じられない位だったから結構魔法を使えそうだ。
もう日が沈みそうだし、森の探索は明日からにして今日は海の幸でも堪能でもするか。昨日の貝も取れるだけ取っておいて、キャンプセットに付いてきたクーラーボックスに入れておけばいいな。
巨大ホタテを収穫してきた俺は、昨日のように焚火で焼いていた。しかし、昨日みたいにただ焼くだけではないんだよ。俺には魔石がある。調味料とブロッコリーを召喚しておいたのだよ。
今日は【ブロッコリーと帆立の炒め物】を作ろうと思う。作り方は滅茶苦茶簡単だぞ。
最初はブロッコリーを小房に分けておいて、油を引いたフライパンで炒めておく。ここで塩コショウを軽く振っておいた方がいいな。その後は鮮やかな緑色になるまで炒める。
色が鮮やかになったら一旦、フライパンからブロッコリーを他の皿にでも移しておいて、フライパンに再度油を引いて今回はチューブのショウガを4センチ位出して炒める。ショウガのいい香りが出て来たら帆立を加えて炒めていこう。帆立は今回はでかいからぶつ切りにしてる。
軽く白くなってきたらブロッコリーをフライパンに戻して帆立と一緒に炒めて、そして最後は味の最終調整だ。醤油と酒を少し入れて、塩コショウを適量振れば完成だ。
自分で作っておいてなんだけど、滅茶苦茶いい香りがするし美味そうだ。少し温くなったけど、ビールと一緒に食べようか。
「はっふ。はっふ。うんめぇ‥‥‥。新鮮な帆立の少しコリッコリッとした歯ごたえと、噛んだ顎が良い感じに押し戻されるような弾力。そして調味料を加えた事によって帆立の甘さがより引き立ってる。もはや、帆立の味が強すぎてブロッコリーが居る事すら忘れてしまうわ」
調味料を加えても口の中に広がる磯の味をビールで一気に流していく。くぅ、たまらん。一つ問題があるとすれば普通の野菜だとこの島の食材に完全に負けることだな。ただ、栄養素が偏るのはよろしくはないから今の所はこれで我慢するしかないか。
「はぁ‥‥‥美味かった。こうやって一人無人島で生活するのも案外悪くないと思ってしまってる自分がいるな。まぁ、死ぬまでここに居るのは流石に飽きるから脱出は絶対してやるけどな」
都会の夜空とは違って、ここはすごい綺麗だな。俺もそんなに星に詳しくはないけど、知ってる星座とか全然ないな。この星はやっぱり地球の近くにあるどこかの星という事はないんだろうな。
日の出と共に起き出して森の中に入る準備をする。今日は一日森の中を探索する予定だから、しっかりと準備してかないとな。
今日の目標は新たに手に入れた俺の魔法を使って魔物を倒すことだ。どのくらいの威力なのか気になるからな。いつもとは違う道で森の中央に進んで行くと、森の奥から何か聞こえて来た。
「なんだ?魔物同士が争っているのか?」そう思った俺は慎重にその音の方に近づいていくとだんだん音が大きくなってきた。木の陰からこっそり音の方を覗いてみると、狼の群れに囲まれている黒い虎がいた。
黒い虎は何かを庇うように、狼たちに向かってうなり声をあげて威嚇をしているみたいだったけど、その声には迫力がないというか、元気がないように見えた。
狼の群れは全部で六匹居て、黒い虎の周りをグルグル回って隙を探しているようだった。黒い虎も必死で威嚇をしてるけど、狼の群れはそんなのを全く気にした様子は見せないで、ついには黒い虎の背後に居た一匹の狼が黒い虎に飛び掛かってきた。
黒い虎もそれに気付いて狼を倒そうと動いた時に、俺はなんでこの黒い虎が元気がないのか分かった。
黒い虎の下には生まれたばかりの小さな黒い虎が居て、恐らくだけどこの黒い虎は産後すぐにこの狼達に襲われたんだと思った。
なんでか自分でも良く分からないんだけど、助けなきゃって思ったんだよね。俺よりでかい黒い虎をだぞ?下手すれば俺も敵だと判断されて攻撃される可能性だってあったんだけど、その時の俺はそんな事考えてなくてすぐに狼の群れに飛び出して行った。
狼の群れが次々と黒い虎に飛び掛かろうとしていた時に、俺は飛び出して近くにいた狼を槍で串刺しにした。突然の乱入者に狼は警戒したけど、すぐにうなり声をあげながら俺に飛び掛かってくる。
どうやら、この狼たちは最初に俺をさっさと倒してしまおうという事らしい。
「舐めんなよ‥‥‥【初級火炎魔法】」そう呟くと、飛び掛かってきた狼の一匹に赤い火の玉が当たって一瞬にして燃え尽きてしまった。
ついさっきまで俺の事を舐めてた狼達も、流石に警戒を強めて迂闊には近寄ってこなくなった。チラッと横目で黒い虎を見るともはや立っているのもやっとのようで、荒い息を吐いていた。
このままだと死んでしまうと思って、残り4匹になった狼たちに向かって魔法を放った。四発放った【火喰羅】の1発だけが狼に当たって倒せたけど、残りの三匹には当たらなかった。
流石に狼達も分が悪いと思ったのか、少しづつ俺から距離を取っていって、暫くすると散り散りになって逃げていったみたいだった。
なんとか狼の群れを撃退した俺は急いで黒い虎を見た。もはや地面にぐったりといている黒い虎に生まれたばかりのチビ虎が必死にペロペロと顔を舐めっている状況だった。
俺が近づこうとしても、黒い虎は俺に目を向けるだけで威嚇をしてくる様子はなかった。威嚇ができる状態でもなかったのかもしれないけど、今の俺には都合が良かった。
ぐったりとしている黒い虎に近づくと、狼にやられたであろう噛まれた痕や引っ掻かれた傷から血が出ていた。俺は黒い虎が元気になるようにイメージする‥‥‥死ぬな、傷よ治れ・‥‥【中級回復魔法】。
黒い虎の身体に光の粒子が覆うと、傷だらけだった身体もみるみるうちに傷が塞がっていった。傷が治った黒い虎はさっきまで荒い息を吐いて苦しそうにしていたけど少しマシになったようだけど、まだ立ち上がれる程回復はしていないようだった。
「傷はもうないから大丈夫だとは思うんだけど、産後だからかやっぱり元気はないな。俺に出来る事は後は何があるんだろうな」
やっぱり食料を用意することしか出来ないよな。子虎に授乳とかしなきゃいけないだろうし。ここから離れるとまた狼達に襲われるかもしれないから、魔法で栄養のある食料と水を出した方がいいな。
そう決めた俺は大きめのタライ二つと水、キャットフードを魔石を使って召喚した。正直肉にしようか迷ったけど産後だしなるべく栄養があるキャットフードにしたけど、食べなかったら肉を出せばいいか。
地面に横たわってる親虎の目の前にタライ二つを置いて、その中に水とキャットフードを入れた。最初は匂いを嗅いでいた黒い虎だったけど、余程喉が渇いていたのか物凄い勢いで水を飲んで、その後にキャットフードもガツガツ食べてくれた。
親虎がご飯を食べてるあいだチビ虎も授乳タイムに突入しているようだった。手でフニフニしながら授乳している姿が物凄く可愛い。
暫く無心でキャットフードを食べる親虎と、フニフニしながら授乳している姿を見ていると、どうやら親虎の方のキャットフードがもう無くなったらしくて俺の方を見ていた。
「十二キロ入ってるキャットフードの半分くらい入れたのに、もう食い終わったのかよ。ちょっと待ってろよ」
そう言って残りのキャットフードをタライに全部入れ終わると、親虎が俺の顔を長い舌でベロンッとひとなめしてきた。「褒美だ」と言われてるような親虎の雰囲気に苦笑いをしながら、残り少なくなってきた水も追加で入れておく。
暫くすると親虎も満足したようで、回復魔法をかけた時より元気になっているみたいだったし、チビ虎はおっぱいを口に入れたまま爆睡しているようだった。
今更だけど、俺がこの黒い虎に襲われなくて本当に良かったわ・・・。あの時はなんも考えないで飛び出してしまったけど、こうやって近くで見ると俺が見上げなきゃいけないくらいにこの親虎はでかいし、チビ虎だって中型犬くらいのサイズだもんな。
そんなことを考えているとチビ虎もようやく目覚めたみたいで、親猫の周りをウロウロと歩き回り始めたかと思うと俺の存在に気付いたようで、俺に遊べといわんばかりに尻尾を振りながらじゃれついてくる。
チビ虎を撫でまわすと、フワフワの毛並みで艶のある黒い毛が気持ち良くて、じゃれついてくるチビ虎の事を暫く撫でまわしていた。甘えるようにじゃれついてきていたチビ虎も俺の神の手には勝てず、今では俺の膝の上で下を出しながら爆睡中だ。
そんな俺とチビ虎の様子を優しい目で見てくる親虎になんだか無性に恥ずかしさがこみあげてきた。
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