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第8章 ヅカ友タッチと長い夜

No,97 みんなそれぞれ違ってる

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【これは大学2年のお話】

 波奈はなが大学を卒業して帰郷した。
 そして波奈の去ったその部屋で、僕の一人暮らしが始まった。大学2年の春だった。

 5月。
 僕は宝塚7月公演のチエット取りのため、初めて「ならび」と言うものを経験し、そこでタッチこと入江達也と知り合った。
 その時タッチは、僕よりひとつ上の大学3年だった。

 そして6月。
 今度は8月公演のチケット取りが始まった。一人じゃない。すっかり仲好しになったタッチと協力体制で頑張っている。
 例によって整理券配付の前夜。僕達は一時間ごとの点呼をこなしながら一晩中くっちゃべってた。

 よくもまあ次から次へと話題が有るなと感心するけど、宝塚が好きでセクシャリティーも同じで何も気を使わなくて済むとなると、話題は互いの身の上話しにまで及んでしまう。
 僕も初恋の圭の事や高校で片想いしていた平田の事、そして現在進行形の亮ちゃんの事とか、何でも話した。
(ただ、ジュンの事だけうやむやにしたけど……)


 ここからは、僕が聞いたタッチの事を話したい。

 前にも書いた通り、タッチは老舗の呉服店の一人息子としてなに不自由なく裕福に育った。
 宝塚は幼少の頃から観ていたから、歳は若くてもファン歴は長い。
 それより何より僕が驚いたのは、タッチのセクシャリティーについての認識だ。

「僕ね、物心ついた時から男の人が好きだった」
 とタッチは言った。

「どうして自分が男なのか不思議だった。僕は、自分は女の子なのに、と思っていた」
 とも語った。

 今ならトランスジェンダーとも分類されそうな話だけれど、当時はそんな知識は誰にもなかった。
 そんなタッチも(これは特異なことだ)と早々に自覚して、なんとか男の子としてやって行こうと、子供ながらに折り合いを付けながら生きて来たとの事だった。

「だから女の子の服やアクセサリーには興味津々なんだけど、男物なんて全然興味がない」
 とも言っていた。なるほど、その結果がこのオヤジの休日のような服のチョイスか。つじつまは合う。

「宝塚は、普通の女性が普通に男役さんに憧れるように、僕も男役さんに憧れているんだと思う」
 と自己分析していた。
(そう言う感覚もあるんだね)

 僕とは全然違うと認識した。
 僕は宝塚を「優れたエンタメ」として観ていた。正直、男役に憧れると言う感覚は分からない。
 我が家では昔から、宝塚やバレエなどのテレビ中継を観る事は多かった。子供向けのミュージカルや人形劇に連れて行かれた記憶も多い。
 案外母の影響だった。
 宝塚は僕にとって、その集大成とも言える楽しみだった。

(タッチとは見方が違うな)
 とは思ったけれど、それだけのこと。
「宝塚が好き」と共通している友達は貴重だ。


 タッチの初恋は小学校の先生だったそうだ。それ以降、好きになるのは大人の男性ばかりだったとタッチは言う。
 現在、かなり年上の彼氏と付き合っているとは聞いていたけど、子供の頃からそうだったのかと改めて思った。
 ほとんど同年代ばかりとの付き合いだった僕には、その感覚も分からない。
 タッチと話していると、何事も人それぞれなんだなと教えられる。

 で、気になったのが
(どこでそんな大人の人と出会うんだろう?)と言うこと。
──正直、ジュンの事が頭をよぎる。


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