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第15章 隼人と生きる光と影
No,163 就職して地味になる
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【これは大学卒業前後のお話】
年末年始は例のごとくナッキーと二人でいちゃこらと帰省するのだけれど、隼人はそれに対して変な嫉妬をする事もなかった。
隼人のそんな鷹揚なところも、俺はとても大好きだった。
もしこれが変に疑われてナッキーの悪口を言われたりしたなら、到底俺は看過出来ない。
俺とナッキーの仲好し振りを見せられながら一切嫉妬がましい言動が無かったのは、自分にも彼女がいるとの後ろめたさからなのか?
俺を100%信頼してくれての事なのか?
──その辺の真意は分からない。
でも、結果としてジメジメぐちぐちと文句を言われた事が一度も無い。ナッキーに対してだけじゃなく、タッチに対しても同様だった。
そして俺は、嫉妬の名の元に相手を「束縛する」のも「束縛される」のも嫌な質だったので、その点でも隼人は相性の良い彼氏だった。
※──────────※
大学を卒業し、俺は父の事務所を継ぐための修行として、父の知り合いの同業の会社に縁故入社した。都内の中規模の設計事務所だった。
それはもう社長にすれば旧知の友(父)の跡継ぎ息子を預り、一人前にしようとの責任から随分厳しく仕事を仕込まれた。
俺はキラキラしていた学生時代とは打って変わり、髪を黒くしただけじゃなく、服装もビジネス・スーツよりさらに地味な肘あて付きのブレザーに変わったり、何ならワイシャツ&ネクタイの上には社名入りの作業衣を羽織ったりの日常となった。
とにかく営業ではなくデスク・ワークなので、見た目より作業しやすい格好にシフトした。現場の確認時にはヘルメットも着用する。
──おそらく、キラキラにライトアップされた日比谷の街を白いロング・コートで闊歩していたあの理久ちゃんだとは、誰も気付かないだろう変貌ぶりだ。
「特殊な男の子」が一気に「普通のおじさん」に豹変した。
とは言っても、男社会の中にいれば当然「そう言うこと」は付きまとう。新人の頃は先輩達から随分可愛がられた。
例によって「理久ちゃん可愛いな~俺と付き合う?」なんて冷やかされたけれど、それがノンケ特有の邪気もない後輩いじりである事は明らかに分かる。
本気で俺に興味を示す相手はむしろ寡黙で、俺が目を合わせて微笑んだりすると、さっと顔をそむけて赤らめたりしてくれるから分かりやすい。
でも俺は社内で粉を掛けたりはしなかった。変な事になれば大学時代以上に面倒な事になるのは明らかだった。
それに俺には隼人がいた。
社内で危ない橋を渡るほど、俺は遊び人ではなかったしね。
引っ越しはしなかった。
実は就職して、大学より会社の方が近くなったが、これは全くの偶然だった。
元々姉の波奈が選んだ部屋だった。上京して転がり込んだ時、やや自分の大学とは離れていたのだけれど、こうなると結果は上々だ。
距離が縮まっただけでなく、偶然にも会社には乗換なしの一本で行ける。これは楽だ。
大学の4年間はちょっと遠くて苦労したけど、会社勤めはこの先何年になるか分からない。
結果として帰郷するまでの長きに渡り、あの部屋には随分お世話になった。
それより隼人だ。
付き合い始めて頻繁に俺の部屋に出入りするようになったけれど、俺は学生から会社員へと境遇が大きく変わった。
既に書いた通り、隼人はシフト制で休日が不定期に動く業界にいる。それまでは隼人の休みに俺が合わせてあげられたけれど、これからはそうも行かない。
俺の勤める会社はいわゆる土日休みの定休だ。そして隼人は、むしろ土日が忙しい業種だった。
(何だか、これからは会いづらくなるな……)なんて思っていたら……
なんとなんと!
大胆にも隼人の奴、俺のド近所に引っ越して来た!
(これだから!俺は隼人のこう言う突拍子もないところが大好き!)
年末年始は例のごとくナッキーと二人でいちゃこらと帰省するのだけれど、隼人はそれに対して変な嫉妬をする事もなかった。
隼人のそんな鷹揚なところも、俺はとても大好きだった。
もしこれが変に疑われてナッキーの悪口を言われたりしたなら、到底俺は看過出来ない。
俺とナッキーの仲好し振りを見せられながら一切嫉妬がましい言動が無かったのは、自分にも彼女がいるとの後ろめたさからなのか?
俺を100%信頼してくれての事なのか?
──その辺の真意は分からない。
でも、結果としてジメジメぐちぐちと文句を言われた事が一度も無い。ナッキーに対してだけじゃなく、タッチに対しても同様だった。
そして俺は、嫉妬の名の元に相手を「束縛する」のも「束縛される」のも嫌な質だったので、その点でも隼人は相性の良い彼氏だった。
※──────────※
大学を卒業し、俺は父の事務所を継ぐための修行として、父の知り合いの同業の会社に縁故入社した。都内の中規模の設計事務所だった。
それはもう社長にすれば旧知の友(父)の跡継ぎ息子を預り、一人前にしようとの責任から随分厳しく仕事を仕込まれた。
俺はキラキラしていた学生時代とは打って変わり、髪を黒くしただけじゃなく、服装もビジネス・スーツよりさらに地味な肘あて付きのブレザーに変わったり、何ならワイシャツ&ネクタイの上には社名入りの作業衣を羽織ったりの日常となった。
とにかく営業ではなくデスク・ワークなので、見た目より作業しやすい格好にシフトした。現場の確認時にはヘルメットも着用する。
──おそらく、キラキラにライトアップされた日比谷の街を白いロング・コートで闊歩していたあの理久ちゃんだとは、誰も気付かないだろう変貌ぶりだ。
「特殊な男の子」が一気に「普通のおじさん」に豹変した。
とは言っても、男社会の中にいれば当然「そう言うこと」は付きまとう。新人の頃は先輩達から随分可愛がられた。
例によって「理久ちゃん可愛いな~俺と付き合う?」なんて冷やかされたけれど、それがノンケ特有の邪気もない後輩いじりである事は明らかに分かる。
本気で俺に興味を示す相手はむしろ寡黙で、俺が目を合わせて微笑んだりすると、さっと顔をそむけて赤らめたりしてくれるから分かりやすい。
でも俺は社内で粉を掛けたりはしなかった。変な事になれば大学時代以上に面倒な事になるのは明らかだった。
それに俺には隼人がいた。
社内で危ない橋を渡るほど、俺は遊び人ではなかったしね。
引っ越しはしなかった。
実は就職して、大学より会社の方が近くなったが、これは全くの偶然だった。
元々姉の波奈が選んだ部屋だった。上京して転がり込んだ時、やや自分の大学とは離れていたのだけれど、こうなると結果は上々だ。
距離が縮まっただけでなく、偶然にも会社には乗換なしの一本で行ける。これは楽だ。
大学の4年間はちょっと遠くて苦労したけど、会社勤めはこの先何年になるか分からない。
結果として帰郷するまでの長きに渡り、あの部屋には随分お世話になった。
それより隼人だ。
付き合い始めて頻繁に俺の部屋に出入りするようになったけれど、俺は学生から会社員へと境遇が大きく変わった。
既に書いた通り、隼人はシフト制で休日が不定期に動く業界にいる。それまでは隼人の休みに俺が合わせてあげられたけれど、これからはそうも行かない。
俺の勤める会社はいわゆる土日休みの定休だ。そして隼人は、むしろ土日が忙しい業種だった。
(何だか、これからは会いづらくなるな……)なんて思っていたら……
なんとなんと!
大胆にも隼人の奴、俺のド近所に引っ越して来た!
(これだから!俺は隼人のこう言う突拍子もないところが大好き!)
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