私小説「僕のこの恋は何色？」～ゲイとして生きる僕の道のり 《24年５月中に完結》毎朝更新

第18章 帰郷と運命の結末

No,230 帰郷の決心

【これは35歳前のお話】

　俺は退職し、実家に帰って父親の事務所を手伝う事を決心した。
　いや、これは初めから決まっていた事ではあった。ただ、俺が東京と言う街に未練たっぷりだったのだ。

「仕事を学ぶ為の修行」と考えた時、俺も社長も父親も、何となく漠然と10年と思い描いていた。ところが何だかんだと12年が経っていた。
　俺はゲイとして生活するのにこの東京があまりにも適していたし、社長の方も、ようやく一人前になった俺の使い勝手が良くなって来たところだったのだと思う。
　互いに退職の話を持ち出すこと無く、今に至った。

　でも、今後帰郷する事は決まっている事だし、その適齢にも達している。
──私生活での「愛の迷走」にも、いい加減疲れ果てた。

　もう直ぐ35歳。
　帰郷して再出発するには遅いくらいだ。よくぞ父親は催促もせず、好き勝手をさせてくれた。

　辞めるとなったらそれなりの御礼奉公もある。突然後ろ足で砂を蹴るような辞め方は出来ない。
　俺はキレイに円満退職出来るよう、進退伺いをたてさせて貰った。

　歴野理久──数ヶ月後、35歳を機会に退職して帰郷します。

　さよなら、東京…………


（愛の迷走は終了するのか？）


※──────────※


「えっ？！鷹岡に帰るの？！」
　ナッキーがいつになく大きな声を上げた。

「あ、でも今日明日じゃないよ？
いずれそうする事は決まっていたし、円満退職について社長と相談したら、だったらちゃんと８月のボーナスは受け取って行けって言ってくれて、だから９月一杯での退職が決まった」
　それを報告するため、俺はナッキーの部屋に来ていた。

「退職したら直ぐに鷹岡？」
「うん、実際は有休を消化するから、勤務は９月初め頃までかな？」

　ナッキーがうるうるとした目で俺を見ている。俺だって悲しい──だって東京には未練たらたらだったから。

「勤務が終了したら着々と引っ越しの準備を進めて、部屋も９月一杯で明け渡す」
「そうか、あと４ヶ月で理久は東京からいなくなっちゃうんだ…」

「って言ってもナッキーとそれっきりになる訳じゃないし、何も変わらないよ？
だってナッキーは盆正月には鷹岡に帰って来るんだし、これからだっていくらでも会えるさ」
「うん……それはそうだけど……やっぱこうしてご近所のようには行かないよね。今日だって理久、ちょっと話があるからってフラッとやって来たけど、それはやっぱりご近所だからだし……
オレは……理久と※.:*:.+:*」

「あ、それでさ、頼みがあるんだ。部屋はとっとと空っぽにして返しちゃうけど、やっぱあちこち挨拶とかあるし、直ぐにポンとは帰れない。
引っ越しが済んだ後、ええっと、１週間くらいかな？ここに居候させてくれる？」
「ホント？９月一杯で帰っちゃうんじゃないんだね？！
うん、もちろんいいよ。１週間と言わずいくらでも！」
「ありがとナッキー♪」

（これで東京最後の一週間、ナッキーと一緒に楽しく過ごせる）

　俺の思惑では何もかも片付いたところでナッキーの部屋に転がり込み、しばらく秋休み気分でのんびりして、折を見てゆっくり帰郷すればいいや、なんて考えていた。

（本当に一週間で済むのかなぁ？何だか休みグセが付いちゃって、ずっと居候してしまいそうだな）

　それでもきっと、あの鷹揚おうような父親はなんにも言わない。

（ああそうか、だから俺がしっかりしなくちゃ）
──なんて自分を戒いましめながらも
（今夜はこのまま泊まっちゃおうかな？）なんてナッキーに甘えてしまう。

（確かに、ナッキーとご近所じゃなくなったら……）

　色々考えると、本当に東京からは離れ難い──。

（ナッキー、俺たちこれからも、ずっとず～っと親友だよな）

──まだ数ヶ月も先の事なのに、ナッキーを見てると胸が詰まる。