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第18章 帰郷と運命の結末

No,229 恋人と友達の境界線③

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【これは35歳前のお話】

★二丁目で行き付けの店──
フラッシュでくっちゃべってる。
 ナッキーとタッチとヒデちゃんとアッ君。そしてカンウターの中のケンちゃん。
 その会話の、前回からの続き。


「二人揃って恋に堕ちて、そのままくっついちゃったから……
僕、うちの旦那しか知らないんだ」

 ケンちゃんの意外なひと言にみんな驚愕!
「え~っ!なにそれケンちゃん!」

 ケンちゃん、顔を赤らめる。
「思わず乙女系をカミングアウトしてしまった僕だけどね……実はね、今の旦那が初めての男だったんだ……」

 一同絶句、目が点……!

 何とか気を取り直して俺が口を開いた。
「それって……もしかしてハーレクイン・ロマンス風に言うところの……初めての恋が最後の恋ってやつ?」

「あ、うん、初恋は高校の時だったけれど全く報われない片思いだったし、それからも好きな人と両想いなんてまるで無くてね、そうだな、恋愛の経験値なんて最低のまま年ばかり重ねてしまった。
なんか僕、好奇心や遊びでSEXするのって違うと思ってたし、だからずっと童貞で……
そしたら今の旦那と出会ってね、二人同時に一目惚れって……
その時が僕の初体験……」

 タッチが目を輝かせた。
「も、もしかして……大切な人に捧げるために大事にしてたの?」
「あ……うん、タッチなら分かってくれるよね?」

 俺は唸ってしまった。
「そんな絵にいたような純愛、俺は宝塚の舞台の上にしか存在しないと思っていた。まさか実在していたなんて驚愕!俺もう、涙が出そう」
「おいおい理久、人を未確認生物ユーマみたいに言うなよ」
 って、ケンちゃん真っ赤。
「いやいやケンちゃん、茶化してなんかいないよ?だってそれって全然平凡じゃない!そんなラブ・ロマンスを地で行ってる人なんてそうそういない……」

みんな同時に
「うんうん、本当だ!」

 タッチ感激。
「本当に理久の言う通りだよ♡
そんなラブ・ロマンスが観たくてわざわざ宝塚に通ってるのに、まさかこんな身近に本物のヒロインがいただなんて~。
さっき、SEXをしたくらいで恋人だなんて言えない、なんて不埒な事を言った自分が恥ずかしい」
「本当だね、タッチ。俺、ケンちゃんを見直したよ」
 俺の中でのケンちゃんへの認識が 180度回転したのは本当だった。


(初めての恋が最後の恋って……
す、すごい……!)


 ヒデちゃんあんぐり。
「さっき聞いたケンちゃんの中身が女の子だって話、ちょっと信じられなかったけど、今の話が本当ならその清純度はそこいらの女子以上だと思うよ、うん」

 ケンちゃん柄にもなくしどろもどろ。こんなケンちゃん見たこと無い。
「何だか思い掛けなく持ち上げられて身の置き所も無いな~。
うん、確かに昔はそうだったけれど、あれから随分経ったからね。長い間にはそりや色々有ったよ。決して綺麗事ばかりじゃない」

 アッ君が突っ込む。
「それって、危ない期間も乗り越えて来たってこと?」

「やっぱアッ君だな、鋭い質問。
うん、そりゃトラブルなんて一度や二度じゃないよ。男なんて不埒ふらちな生き物だからね。
でもまあ、そこは男同士だから互いの生態を理解出来ないわけでもないし……そこを上手くやり過ごさなきゃゲイのカップルは難しいと思うよ?」
──と、ここまで話してケンちゃん、明らかに(しゃべり過ぎた)ってな反省顔。

 俺はすっと助け舟を流した。
「まあ、そりゃ長く付き合ってれば色々だよ。とにかくケンちゃは俺の憧れの(運命の恋の成就者)ってことで、これ以上突っ込むのは野暮ってもんさ♪」

「ありがとう理久。うん、ちょっとテーマからは外れてしまったけど、こんな話が出来たのは初めてだったからなんか嬉しい。
じゃ、話を戻すよ?
恋人と友達の境界線。
最後にナッキー、どう?」


「オレは………………」


 ん?ちょっとフリーズ?

「うん、五人全員に共感出来る部分があるよ?
達也さんの言う、いくら好きでも相手に恋人って思って貰えなければ友達でしかないって、痛いほど良く分かる。
それに、ヒデちゃんの言う友達ともSEXが出来る、ってのも分かる気がする。たとえ恋人と認知されていなくても、たまらなく抱き合いたくなる友達はいるのかも知れない。
それとアッ君の言うように、とにかくやりたい相手とやれるならどう思われようが構わないって開き直りも共感できるよ?オレもそこそこスケベだしって、ヘヘッ。
そしてケンちゃんの意外な純愛にも憧れちゃうな♡オレもいつかはそんな幸せを掴みたい。
……そして何より……理久の言うキッスが大切って、本当にそう。
ずっと思ってた……本当に好きな人にキスして貰えたら、どんなに幸せだろう………って……」

 みんな同時に
「………………………」


 隣に座るタッチが、そっと俺の耳にささやいた──。

「理久……よく聞いてあげて……」 

「……え?」


「気付かない振りも、このままずっとは続かないよ?」

「あ、それは……」


 それ以上の事をタッチは言わない。でも、やっぱりタッチは繊細なんだなと、改めて思う。


(そうか……気付かない振りにも限界があるか……)


 俺は、この機会にちゃんとナッキーと向き合おう──と考えた。
 そう思うには理由があった。

 もう直ぐ俺も35歳。
──鷹岡への帰郷を考えていた。




(注、鷹岡市は架空の地名です)


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