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一章
一〇話 - 二
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仄羽は威を盗み見るが、威はちらとも仄羽を見ようとはしていない。
「まあ、将来的に、って意味っすけど」
畏まって報告をしていた暁は、上体を起こしていつもの笑みを浮かべた。世統がいたときの態度や空気は鳴りを潜めている。
席を外すよう命じられなかったので、仄羽はそのまま威とともに暁の報告を聞く。
まとめると、父母の克登と早彰が亡くなる直前高瀬町で発表した研究内容と結果が評価され、高瀬町はその支援を願い出た。しかしいつまでも返事がこないので使いの者が春嵐に来てみれば狄塚夫妻は死んでいる。それならば研究を買いとるので、実用されたときの結果如何で利益を分けるのはどうか、というのが高瀬の使いの提案らしい。
「ふうん。相変わらず律儀だね高瀬は……」
高瀬は春嵐の隣町で、長く付き合いがある。仄羽が認識しているのは高瀬が医療に特化した町であることと、そのために両親はよく足を運んでいたことくらいだ。町としては、春嵐は高瀬の医療技術を、高瀬は春嵐の警備体制をそれぞれ教えあうなど、情報を交換しながら今日まで至っている。
「で、でも、あんな大金を……」
仄羽は思わず横から口を挟む。〔春日〕に来る前確認した書類には、これまで見たことのないような金額が記載されていた。だからこそこうして一般職よりも大金が飛び交う春霞に連れてこられたはずだ。
「克登はさ、まじめだよね」
「え?」
「取り締まる理由らしい理由もなくてつまらなかったくらいだ」
威が言うには、これまでも貸付と返済を繰り返していた。やがて返済が間に合わず額が大きくなった際にも貸付を許可していたのは、本人のつよい希望と返済の実績のためである。
「仄羽が借金のことを知らなかったっていうのは、返す当てがあったからなんじゃないの。研究が成功したら、という前提を踏まえているから、結果論だし希望的観測にすぎるけど」
それは、いつか仄羽が考えたことだ。あんな大金を父が具体的にどう返済するつもりだったのか、もはやわかる術は存在していない。しかし勝手な希望でも、思いこめば事実になる。
父は、と仄羽は思い出す。これまで死んだことを受け入れきれずに考えないようにしていた。けれどもちろん、忘れたわけではない。父の克登は、まじめで、よく笑う人だった。少し抜けたところがあったので日常のなかのこまごました心配はあったが、暮らしていくうえで仄羽に不安を抱かせたことは一度もなかった。
「高瀬は医療に関することなら支援金を惜しまないっすからね」
「異人に対しても躊躇なく援助を名乗り出るからな。うちもつくる? 研究機関」
「金額面等で後押しして、結果は高瀬に持っていくようにしたら有効かもしれないっすね」
「あ、あの」
声をあげれば、二人は口を閉ざして同時に仄羽に視線をよこした。一瞬仄羽の体が硬直する。
「あの……結局、どういう」
「うん?」
高瀬から両親の研究に対して申し出のあった支援金を、仄羽の意思とは関係なく受け取るのはわかる。そもそもが祇矩藤から出ている金であるのだから、仄羽は狄塚克登と早彰の代理人として受け取って返済するのが当然だ。
「もとあった金額から、現在仄羽ちゃんは売上と差押え額をもって約三分の一を返済した状態っす」
「あれは」
反論しようとすれば、困ったように微笑んだ暁にじっと見つめられる。仄羽はしぶしぶ頷いた。納得していようといまいと、そういうことになっている。少なくともここで蒸し返して議論する内容ではない。
「あとはいまの給金っすね」
札をつくってもらい、名目上威の側近となってから支払われた金額に、仄羽は驚きで飛びあがったものだ。暁の仕事を手伝っているといっても、週の半分は留袖新造として芸の修行をしている身である。それなのに、側近手当としてかなりの額がつけられていた。威の側にいて安い給料では示しがつかないというのは理屈ではわかるが、いざ出されるとおそろしさが先に立つ。もっとも、返済に充てられるのは変わらないので仄羽の手元には残ってはいないのだが。
「加えて、高瀬からの支援金。利益、というのがどこまで出るのか、そしてどういう取り分になるのかなどはこれから詰めるところではあるんすけど、ざっくりとした計算でも」
ぱっ、と両手を顔の横で広げて暁は笑った。
「すべて合わせて、きれいさっぱり」
呆気にとられて仄羽は黙りこむ。あまりにも都合がよすぎて、降ってわいた話にしか聞こえない。
「どういう研究だったの?」
「弛緩性骨髄腫の研究ですね。筋肉に力が入りづらくなる初期症状から、病の肝である骨が脆くなるまでにさまざまな病気を併発するので治療法を難しくしていたんすけど、ざっくり言うとひとまず初期症状で進行を留めるための薬品開発に努めていたみたいっす。そこから初期症状も回復させるための研究を継続して行いたい、という研究発表だったようで」
そんな研究をしていたのか、と今さら仄羽は感心する。思えば診療所の手伝いはしていても父の跡を継ごうとは考えていなかったから、仕事や研究の話はほとんど聞かなかった。父も母も別段仄羽に継いでほしいとは思っていなかっただろうけれど、いろいろな話をしておけばよかったな、と思う。そうすれば、もっとたくさんのことで役立てたかもしれない。
(役立つ……)
すっかり変わっている胸のうちに、仄羽はおかしくなってこっそりと口角を持ちあげる。父母にとってでも、診療所にとってでもない。仄羽がいま役に立ちたいと思うのは、威に対してだ。悔いはあっても、思いは先のことに向くようになっている。
「まあ、仄羽の処遇は決めなおさなきゃならないね」
威に許されたので側にいるが、もともとは借金のために留袖新造として身を置いていたのだ。借金がなくなるのであれば、当然立場は変わってくる。いまよりも威の側近として仕事をもらえるかもしれない。仄羽は背筋を伸ばした。
「それとも」
ゆったりとした動作で威は仄羽を見た。口元に浮かぶ笑み。もう知っている顔だ、と仄羽は視線を返す。
「四区に帰る?」
「帰りません」
言葉尻に重ねるようにして、きっぱりと告げる。威は左目を眇めた。
言われると思っていた。戯れというには本気で、しかし口調だけは揶揄するように、威は仄羽を試す。おそらくはまだ信頼されていないのだ。あるいは、求める言葉を返してもらわなければ、威は安心できないのかもしれなかった。
「いえ。帰る場所は、もう威さまのところです」
繰り返して伝えることは、仄羽にとって苦ではない。問うまでもなく当り前であると、威がうんざりするほど、何度でも口にしてみせる。
見つめ続ければ、そう、と威はそっけなく返した。これももう知っている反応だ。ひとまずは合格点、である。
「高瀬との話に結論を出したあとになるけど」
威は暁に向きなおり、文机の上で腕を組む。
「仄羽はとりあえず、留袖新造から外していいだろう」
「わかりました。では七嶺にも……」
「いや。七嶺の世話は引き続き任ずる」
ぴく、と暁の小指が反応したのを、仄羽は見逃さなかった。
「新造でないのなら、花魁の世話をする必要はないっすよね」
暁の言い分はもっともだ。新造の役割のひとつとして七嶺につけられたことは、仄羽でもわかっている。仄羽としては、おそらく世話係でもなければ廊下ですれ違ったところでせいぜい挨拶程度、立ちどまって会話などしてくれないだろう七嶺と接し続けられるのはありがたい。暁や初名に相談できないことも七嶺相手だと口が動くし、もらった言葉には助けられている。七嶺はそんな気がないにしても、勉強させられることが多い。
「無理を言って仄羽をつけたのに、この短期間で外すのではこちらの都合がよすぎるだろう。仄羽が〔春日〕を出ていくのならともかく」
「ひとりを好むから新造や禿をつけてなかったんすよ? 七嶺にとっても不都合ということはないでしょう」
肩をすくめる威に、暁はいつもの笑みを浮かべて、というより貼りつけたまま返す。表情や動作はこれまでどおりであるのに、不穏な空気が流れだした。そもそもつけるだけと話していた暁に対して、仄羽に世話をしてもらうと言い出したのは七嶺自身だったはずだが、仄羽は黙って観察する。暁も忘れたわけではないだろう。
「じゃあ七嶺に聞いてきてくれる? 事情を話して、このまま仄羽をつけておきたいと思うがどうか、って」
「…………」
「できれば僕はまだ現状のままでお願いしたいんだけど、って」
暁が嘆息する。小さく頷きながら目を伏せ、
「わかりました。事情とともに、引き続き仄羽ちゃんをつけることを伝えます」
うん、と返答に満足したらしい威が頷いた。祇矩藤家当主に「お願い」されて断れる町民がはたしているかどうか。いないとわかっているから暁は折れざるをえない。あるいは、祇矩藤家当主という肩書をときに忌々しいもののように扱う威がわざわざ話に出してきたことで、反論するだけ無駄だと判断したのかもしれなかった。
そして結局、留袖新造としての修行だけがとりやめとなった。仄羽にはそのぶん暁に従って業務を行うことが威から命じられる。新造としての修行はいわゆる教養を育むためのものであるから、とりやめになったとはいえ、時間を有効に使って自分自身で行っていかなければならない。しなければならないのでするのではなく、仄羽がそうしたいのでするのだ。かつて陰間で御職だった暁はもちろん、祇矩藤の家臣として瑞矢も、威自身もおそらく、芸や所作、知識を仄羽とは比べものにならないくらい身につけている。まだ子どもである鶫も使用人に開架されている本はすべて目を通したと言っていたし、少なくとも仄羽には鶫の交渉術のような抜きんでた才はない。
借金がなくなって〔春日〕にいなければならない義務がなくなったいまこそ粉骨砕身していかなければ、威に呆れられてしまう。
「では、高瀬の使いと交渉のうえ、金額等は改めて報告します」
「うん。任せた」
頭を下げて暁が立ちあがると、仄羽もついていくようにと威に命じられる。世統が来たり暁の報告があったりで目の前の書類に集中できていないためと思われた。
世統は強烈だった。嵐のように去っていった世統を思い出しながら、仄羽は部屋を出る。従兄妹であり許嫁であるのだから当り前なのかもしれないが、威との間ですでに関係ができあがっていて、悔しさを覚える。
「夜見世の前にしましょうか」
執務室に戻る道中、暁は仄羽に言った。七嶺のことだろう。もはや決まったことだからか、先ほどまでとは異なり、淡々として聞こえた。
「それから高瀬の件っすけど、同席しますか? 十三天王の本所にも行ったことないっすよね」
「いいんですか?」
「もちろん。仄羽ちゃんに関わることですしね。ついでに本所内も案内します。ここに来てから、外に出てないでしょう」
言われてみるとそうだ。〔春日〕に身を置いて数ヶ月経っているが、ほかの新造たちのように客引きもしていないので、〔春日〕の敷地から一切出ていない。閉塞感がないのは目まぐるしい生活の変化に慣れるため必死だったことと、庭には時たま出ていたからだろう。庭は敷地が広いだけでなく複数あるので、気分転換にはもってこいだった。なかには使用人専用、花魁専用と決められているものもあり、仄羽だけではなく各々が自由にしているのをよく見かけた。
「新造ではなくなるので、もう外出も自由にしてもらって大丈夫っすよ」
「あ、そっか……」
思わず呟く。とはいえ、春霞そのものに明るくないので、一人で出歩ける気がしなかった。道を教えてもらおうにも初名は新造なので出られないし、使用人に声をかけてうやうやしく対応されるのにはまだ慣れていない。暁や瑞矢は多忙であり、まして威は多忙に加えおいそれと外には出られないだろう。いや、そうでなくとも威に案内などは到底頼めないが。
「鶫に案内させましょう」
仄羽の考えを見抜いてか、暁が言った。威に暇を与えられた鶫は最近、新たに書架に加えられた本に目を通したり、鈴太夫のところへ通ったり、外出したりと、自由に過ごしている。あれだけ腹を立てていたのに、さっさと感情を切り替えていたのはさすがだった。瑞矢と暁いわくは、威が鶫を完全に切ることはないと本人もわかっている、のだそうだ。
普段窓から覗いているだけの喧噪の一部になれるのかと思えば、仄羽は正直なところ、少しだけ心が躍った。
しかし、とふと気づく。留袖新造の修行がとりやめになるのであれば、その師である初名とは顔を合わす時間が減るということだ。
「あの、暁さん」
「はい?」
「初名ちゃんにも伝えてきていいですか?」
「ああ、どうぞどうぞ。いま行ってきてください」
ひらひらと手を振られ、仄羽は甘えることにする。
昼見世が始まる前に急がなければと廊下を進めば、ちょうど準備のため部屋に入ろうとしていた初名を見つけた。鈴太夫に許可をもらい、仄羽は初名を連れて少し部屋から離れる。本当はどこかに入れればよいのだが、あまり遠くに移動しては初名の準備が遅くなってしまう。
簡単に事情を説明すると、初名はいつもどおり無表情のまま頷いた。
「わかりました。おそらく瑞矢さまのほうからも連絡があるかと思いますので、指示に従います」
では支度があるので、と初名は背中を見せる。感情が顔に出ないので初名の本心がどこにあるのか仄羽にはわからない。こちらの事情でさびしさを覚えるのは勝手だ。考えていると、声をかけるか悩んでいる仄羽に気づいたかのごとく、初名がくるりと振り返った。
「仄羽さん。よかったですね」
それだけ言って再び行こうとした初名を、仄羽は今度こそ引きとめる。初名は世辞や社交辞令を言うタイプではない。きっと本心から祝ってくれている。それがわかっただけで、充分に勇気になった。
「初名ちゃん。ごはん、これからも一緒に食べてくれる?」
「えっ……」
初名は視線を泳がせたかと思うと、自身の指を絡めてもじもじと動かした。立場を重んじる初名なので、名実ともに祇矩藤家当主の側近となる仄羽と同席するのは気が引けるのかもしれない。仄羽がいやだったら、と続けると、初名はいえ、と小さく言った。
「いえ、あの……うれしいです。よろしくお願いします」
頭を下げられ、仄羽は思わず笑う。安堵とともに初名を見送った。
あれこれと新たに仕事内容を教えてもらっていると、時間はすぐに過ぎていった。暁の後ろについて七嶺のもとへと向かう。仄羽が七嶺の部屋の前で腰を下ろそうとすれば、暁は一声かけて七嶺の返事より先に襖を開けてしまった。そういえば最初に七嶺を紹介されたときも同じやりとりをしたなと思い出す。
しかし今度は七嶺の咎める声が飛んでこなかった。仄羽が覗けば、七嶺は窓の前で寝転がっている。ねむっているのかと思ったが、仄羽が知るかぎり、夜見世前に七嶺が化粧もせず横になっていたことはない。
「七嶺さん」
寝ているのではなく倒れているのだ。仄羽が気づいて叫べば、それよりはやく暁が足を進めていた。七嶺の傍にしゃがみこみ、七嶺、と肩を叩く。
近づいてみれば明らかに蒼い顔をしている。七嶺が薄く目を開いた。ひとまず気絶しているわけではないと知り、仄羽はほっとする。
「……暁さま?」
「うん」
七嶺の瞳が暁を捉え、よわよわしく暁の名を発する。呼ばれた暁は頷き、一瞬、小さく微笑んだ。仄羽は驚いて暁に視線を移す。このふたりの仲が悪いだなんて、とんでもない勘違いをしていたのではないか。
暁は七嶺の指先をとったあと、額に手を当てた。熱はないな、と呟き、仄羽に顔を向ける。
「仄羽ちゃん、メメ先生に七嶺を診てもらえないかと聞いてきてください。この時間は休憩しているはずなので、おそらく診察室の隣にいると思います」
診察室ならば場所がわかる。仄羽は頷いた。
「あと瑞矢さんに、七嶺は夜見世を休むと伝えて」
「わかりました」
七嶺は何かを言いたげに唇をかすかに動かしたが、結局は何も言わずにまた瞼を落とした。眉間に皺をつくり、痛みでもあるのか耐えるように腹に手を当てる。腹痛だろうか。とにかく大事ないとよいのだが、と仄羽は部屋を出て急ぎ診察室に向かう。
途中、夜見世のために準備を終えた新造たちとすれ違う。新造たちが仄羽に道を譲るように端に動いた。慣れない扱いが、いまはありがたい。礼を口にしながら通りすぎる。
メメは暁の言うように診察室の隣でお茶を飲んでいた。事情を伝えると、気持ちのあせる仄羽とは裏腹に、メメはいつもの調子で笑う。
「ああ、はいはい。久しぶりね」
「久しぶり?」
「診ないとわからないけれど、たぶん月の日よ。あの子は重いのよね」
あっけらかんと言われ、仄羽は首を傾げる。月経で動けなくなる人がいるのは知っているが、仄羽が七嶺についていたこの数ヶ月、七嶺が倒れたことはなかった。確かに毎月気分は悪くなるのか白い顔をさらに白くさせた七嶺に、瑞矢に申告しておいて、と億劫そうに頼まれるのは恒例ではある。けれどそれだけだ。あんなふうに、話すのも厳しいほど真青になっているのは初めてだ。
準備したらすぐ行くわ、というメメにひとまずは任せて、仄羽は瑞矢のもとへ向かう。別の原因があったとしてもメメならば適切に処置してくれるだろう。
事の次第を伝えると、瑞矢はわかった、とあっさり言った。
「月経でなければ、暁のほうから報告があるだろう」
「七嶺さん、そんなに頻繁に倒れているんですか?」
「ん? そうだな……」
言葉を濁された。個人的な問題なので扱いが難しいのかもしれないが、仄羽は七嶺つきであることにこれからも変わりはないし、家業の診療所を手伝っていた身としても、気にせず過ごすことはできない。仄羽が追及しようと口を開けば、
「今月、暁の奴、花料に三回も指名されてるからじゃん?」
横から鶫に言われ、予想だにしていなかった声に仄羽の体がはねる。いると思わなかった。謹慎はまだ解かれていないはずだが。
「鶫ちゃん、なんでここに」
「慌ててる仄羽が見えたから」
鈴のところにいたのだろう。見られていただなんて気がつかなかった。
花料は新造が花魁になって最初にとる客のことだ。花魁にも客を選ぶ権利はあるとはいえ、そもそも客から指名されなければ選ぶことすらできない花魁が、このときだけは花魁から相手を指名して、肌を重ねる。
廓としては大所帯の〔春日〕でも、新造のあねである花魁が許可しなければ花魁にはなれないので、むらがあるのだ。今月は平素より多く、三人が花魁になり、その全員が暁を指名した。
「暁と七嶺って、ほんとに面倒くさい。体調崩すほどいやならさっさとケリつけたらいいのに」
「鶫」
瑞矢の叱声に、鶫は唇を尖らしながら黙る。
やはりそうなのか。仄羽は頬に手をやる。暁を認めた七嶺の声音には聞き覚えがあった。あれは患者が家族を見つけて安堵するときと同じだ。対する暁もそれが当然のように受け入れて、ためらいなく七嶺に触れていた。思い返せば、七嶺がけだるそうに煙草を呑んでいたのは、いつも暁が花料を終えた翌日だ。
あれだけ威からヒントをもらっていたのに、決定打を受けてやっと認識するなんて。道のりは険しい。
「瑞矢さん。暁さんと七嶺さんって……」
「あれ、仄羽は知らないの?」
仄羽と、頭の後ろで腕を組む鶫とを交互に見て、瑞矢は嘆息した。黙っていても鶫が話してしまうだろうと察してか、小さく頷く。
「七嶺は自分で〔春日〕に来た。そのとき七嶺を連れてきたのが暁だ」
借金のため別の廓に預けられる算段になっていたのを瑞矢が引き取った初名とは異なり、七嶺に借金はない。新造として修業していたうちは着物やら装飾やらで多少の経費分はかかっていたが、花魁になって駆け上がるように御職になった彼女にとっては瑣末な金額だった。とっくに返済し終り、いまの七嶺は意思さえあれば〔春日〕を退職できる。
「連れてきたと言っても、たまたま外出から帰ってきた暁が〔春日〕の門の前にいた七嶺を見つけたというだけだが」
「普通に仲良かったんでしょ? いまみたいなこじらせた感じじゃなくて」
鶫が口を挟む。まあな、と瑞矢は曖昧に返した。
「七嶺のつきだしまでは、少なくとも俺には問題なく見えた」
つきだしは花魁として座敷にあがる初めての日のことだ。つまり花料をとる日になる。
「花料に指名された暁と七嶺の間で何があったのかまでは知らないが、それからだな。顔を合わせば皮肉の応酬をするようになったのは」
この話は終わりだというように、瑞矢は軽く手を振った。
結論として、七嶺は月経痛で倒れたとのことだった。事情を話すのはまた今度にしましょうと暁に言われて仄羽は頷く。落ちつけば見舞いに行きたいが、七嶺はきらうだろう。はやくよくなることを祈るしかなかった。
窓から見える月がきれいで、仄羽は身を乗り出すようにして眺める。深更の刻にははやく、まだ座敷では夜見世が行われている時間だが、威の部屋は別棟のうえに表通りからも離れているので相変わらず喧噪は聞こえてこなかった。
就寝の報告に行き、もう少しで終わる、と威に言われてから、どれほど経っただろう。少なくともそわそわした気持ちを落ちつかせるだけの時間はあった。では隣でお待ちしています、と答えた声が震えていなかったかどうか、仄羽にはわからない。命じるでも約束をするでもなく、まるで時間をつくるのが当り前のような物言いに、内心どきりとした。そして疑問なく返した自分にも。
威の寝室とされているこの部屋は、仄羽のほかには瑞矢しか入ることを許されていないと教えてもらったばかりだ。教えてもらったその日にまた入ることになるなんて。うれしさよりも恐れ多さが先に立った。暁も鶫も、仄羽よりも長く威に尽くしているのだ。ついこの前来たばかりの自分が、と委縮した。しかし世統でさえ禁じられていると聞いたときは、少しだけよろこんでしまった。比べられる立場のひとではないのに、浅ましくも嫉妬を盾にして優越感で自分の価値をあげようとした。
「きれいだね」
後ろから声をかけられて振り返る。威が立っていた。
「え、あ、そこからでも見えますか? 月」
「月? 月なんか見えないよ。月明りに照らされてる仄羽しか」
言いながら、威が足を進めてくる。言われた言葉を理解して、仄羽は頬が熱くなるのを感じた。
「夜桜みたい」
髪に指を通され、熱が全身に広がっていった。風呂上りで下ろしたままの髪が威にもてあそばれる。うなじに落とされた唇が柔らかい。
黒い髪だったら、いったい何にたとえられていただろうか。威は何にたとえてくれただろうか。もっとも口にしたら意味のないもしもの話はやめろと怒られるので、仄羽は聞かない。きっといまと同じ、恥ずかしくなるくらいのうれしさを与えてくれただろうと想像するだけだ。
「ああ、月もきれいだね」
耳元で話され、仄羽は動けなくなる。不安と悋気を持ったまま、心臓は早鐘になっていった。威とふたりでいるとき、こんなふうだっただろうか。もう少し冷静でいられたような気がするのに思い出せない。威がすぐ傍にいることや、触れられていることに意識が集中して、心臓を掴まれている感覚が抜けなかった。
「あの、七嶺さんが」
「聞いた」
それはそうか。ほかの新造や花魁たちであればともかく、〔春日〕の御職である七嶺が倒れれば威の耳に入れるのは当然だ。話の逸らし方が下手すぎる自覚はあった。
「真赤」
ふ、と笑われる。指摘されなくてもわかっているが、指摘されるとなお体温があがる。顎をとられて口づけられた。いつもよりもずいぶん甘い。煙草を吸う間も惜しんで終らせてきてくれたのだとわかってしまう。
「あの、高瀬の方との話し合いに、同席させてもらうことになりました」
「うん、それも聞いた。よく勉強しておいで」
「はい」
頬を親指でなでられ、くすぐったさに目を伏せる。
突然の話だったとはいえ、やはり祇矩藤への借入がなくなるのはうれしい。これでやっと胸を張って、自分で威の傍にいることを選んだと内実ともに言える気がする。借金を外因として威と知り合ったが、しがらみには変わりない。それに返済できる理由が父母の功績のためであるのも、仄羽の背中を押した。父母がいなくなっても父母の研究は生きている。
柔らかく何度も重ねられ、吐息が漏れる。体が緊張から解かれて心地よい。離れた唇に仄羽が名残惜しさを感じていると、紅い瞳にまっすぐ見つめられているのに気づいた。紅い月だ、と仄羽は思う。
「何も心配することはない。仄羽だけだ」
それだけを言われ、再び距離がなくなる。世統のことだとすぐにわかった。そして、世統を含めたこれからのことだ。仄羽の不安を感じとって、ただ安心させるためだけに威はわざわざ言葉を重ねてくれているのだ。仄羽は威の背中に手を回す。仄羽自身が熱すぎて威の体温はよくわからなかったが、かかる体重に確かな存在を感じた。
こんなにやさしいひとに、同じような不安をずっと持たせているのか。気づいてしまうと、もう決めるしかなかった。仄羽は自分を奮い立たせるように、威をつよく抱きしめる。愛しい幼馴染を思い浮かべながら、さようなら、と心のなかで呟いた。
「まあ、将来的に、って意味っすけど」
畏まって報告をしていた暁は、上体を起こしていつもの笑みを浮かべた。世統がいたときの態度や空気は鳴りを潜めている。
席を外すよう命じられなかったので、仄羽はそのまま威とともに暁の報告を聞く。
まとめると、父母の克登と早彰が亡くなる直前高瀬町で発表した研究内容と結果が評価され、高瀬町はその支援を願い出た。しかしいつまでも返事がこないので使いの者が春嵐に来てみれば狄塚夫妻は死んでいる。それならば研究を買いとるので、実用されたときの結果如何で利益を分けるのはどうか、というのが高瀬の使いの提案らしい。
「ふうん。相変わらず律儀だね高瀬は……」
高瀬は春嵐の隣町で、長く付き合いがある。仄羽が認識しているのは高瀬が医療に特化した町であることと、そのために両親はよく足を運んでいたことくらいだ。町としては、春嵐は高瀬の医療技術を、高瀬は春嵐の警備体制をそれぞれ教えあうなど、情報を交換しながら今日まで至っている。
「で、でも、あんな大金を……」
仄羽は思わず横から口を挟む。〔春日〕に来る前確認した書類には、これまで見たことのないような金額が記載されていた。だからこそこうして一般職よりも大金が飛び交う春霞に連れてこられたはずだ。
「克登はさ、まじめだよね」
「え?」
「取り締まる理由らしい理由もなくてつまらなかったくらいだ」
威が言うには、これまでも貸付と返済を繰り返していた。やがて返済が間に合わず額が大きくなった際にも貸付を許可していたのは、本人のつよい希望と返済の実績のためである。
「仄羽が借金のことを知らなかったっていうのは、返す当てがあったからなんじゃないの。研究が成功したら、という前提を踏まえているから、結果論だし希望的観測にすぎるけど」
それは、いつか仄羽が考えたことだ。あんな大金を父が具体的にどう返済するつもりだったのか、もはやわかる術は存在していない。しかし勝手な希望でも、思いこめば事実になる。
父は、と仄羽は思い出す。これまで死んだことを受け入れきれずに考えないようにしていた。けれどもちろん、忘れたわけではない。父の克登は、まじめで、よく笑う人だった。少し抜けたところがあったので日常のなかのこまごました心配はあったが、暮らしていくうえで仄羽に不安を抱かせたことは一度もなかった。
「高瀬は医療に関することなら支援金を惜しまないっすからね」
「異人に対しても躊躇なく援助を名乗り出るからな。うちもつくる? 研究機関」
「金額面等で後押しして、結果は高瀬に持っていくようにしたら有効かもしれないっすね」
「あ、あの」
声をあげれば、二人は口を閉ざして同時に仄羽に視線をよこした。一瞬仄羽の体が硬直する。
「あの……結局、どういう」
「うん?」
高瀬から両親の研究に対して申し出のあった支援金を、仄羽の意思とは関係なく受け取るのはわかる。そもそもが祇矩藤から出ている金であるのだから、仄羽は狄塚克登と早彰の代理人として受け取って返済するのが当然だ。
「もとあった金額から、現在仄羽ちゃんは売上と差押え額をもって約三分の一を返済した状態っす」
「あれは」
反論しようとすれば、困ったように微笑んだ暁にじっと見つめられる。仄羽はしぶしぶ頷いた。納得していようといまいと、そういうことになっている。少なくともここで蒸し返して議論する内容ではない。
「あとはいまの給金っすね」
札をつくってもらい、名目上威の側近となってから支払われた金額に、仄羽は驚きで飛びあがったものだ。暁の仕事を手伝っているといっても、週の半分は留袖新造として芸の修行をしている身である。それなのに、側近手当としてかなりの額がつけられていた。威の側にいて安い給料では示しがつかないというのは理屈ではわかるが、いざ出されるとおそろしさが先に立つ。もっとも、返済に充てられるのは変わらないので仄羽の手元には残ってはいないのだが。
「加えて、高瀬からの支援金。利益、というのがどこまで出るのか、そしてどういう取り分になるのかなどはこれから詰めるところではあるんすけど、ざっくりとした計算でも」
ぱっ、と両手を顔の横で広げて暁は笑った。
「すべて合わせて、きれいさっぱり」
呆気にとられて仄羽は黙りこむ。あまりにも都合がよすぎて、降ってわいた話にしか聞こえない。
「どういう研究だったの?」
「弛緩性骨髄腫の研究ですね。筋肉に力が入りづらくなる初期症状から、病の肝である骨が脆くなるまでにさまざまな病気を併発するので治療法を難しくしていたんすけど、ざっくり言うとひとまず初期症状で進行を留めるための薬品開発に努めていたみたいっす。そこから初期症状も回復させるための研究を継続して行いたい、という研究発表だったようで」
そんな研究をしていたのか、と今さら仄羽は感心する。思えば診療所の手伝いはしていても父の跡を継ごうとは考えていなかったから、仕事や研究の話はほとんど聞かなかった。父も母も別段仄羽に継いでほしいとは思っていなかっただろうけれど、いろいろな話をしておけばよかったな、と思う。そうすれば、もっとたくさんのことで役立てたかもしれない。
(役立つ……)
すっかり変わっている胸のうちに、仄羽はおかしくなってこっそりと口角を持ちあげる。父母にとってでも、診療所にとってでもない。仄羽がいま役に立ちたいと思うのは、威に対してだ。悔いはあっても、思いは先のことに向くようになっている。
「まあ、仄羽の処遇は決めなおさなきゃならないね」
威に許されたので側にいるが、もともとは借金のために留袖新造として身を置いていたのだ。借金がなくなるのであれば、当然立場は変わってくる。いまよりも威の側近として仕事をもらえるかもしれない。仄羽は背筋を伸ばした。
「それとも」
ゆったりとした動作で威は仄羽を見た。口元に浮かぶ笑み。もう知っている顔だ、と仄羽は視線を返す。
「四区に帰る?」
「帰りません」
言葉尻に重ねるようにして、きっぱりと告げる。威は左目を眇めた。
言われると思っていた。戯れというには本気で、しかし口調だけは揶揄するように、威は仄羽を試す。おそらくはまだ信頼されていないのだ。あるいは、求める言葉を返してもらわなければ、威は安心できないのかもしれなかった。
「いえ。帰る場所は、もう威さまのところです」
繰り返して伝えることは、仄羽にとって苦ではない。問うまでもなく当り前であると、威がうんざりするほど、何度でも口にしてみせる。
見つめ続ければ、そう、と威はそっけなく返した。これももう知っている反応だ。ひとまずは合格点、である。
「高瀬との話に結論を出したあとになるけど」
威は暁に向きなおり、文机の上で腕を組む。
「仄羽はとりあえず、留袖新造から外していいだろう」
「わかりました。では七嶺にも……」
「いや。七嶺の世話は引き続き任ずる」
ぴく、と暁の小指が反応したのを、仄羽は見逃さなかった。
「新造でないのなら、花魁の世話をする必要はないっすよね」
暁の言い分はもっともだ。新造の役割のひとつとして七嶺につけられたことは、仄羽でもわかっている。仄羽としては、おそらく世話係でもなければ廊下ですれ違ったところでせいぜい挨拶程度、立ちどまって会話などしてくれないだろう七嶺と接し続けられるのはありがたい。暁や初名に相談できないことも七嶺相手だと口が動くし、もらった言葉には助けられている。七嶺はそんな気がないにしても、勉強させられることが多い。
「無理を言って仄羽をつけたのに、この短期間で外すのではこちらの都合がよすぎるだろう。仄羽が〔春日〕を出ていくのならともかく」
「ひとりを好むから新造や禿をつけてなかったんすよ? 七嶺にとっても不都合ということはないでしょう」
肩をすくめる威に、暁はいつもの笑みを浮かべて、というより貼りつけたまま返す。表情や動作はこれまでどおりであるのに、不穏な空気が流れだした。そもそもつけるだけと話していた暁に対して、仄羽に世話をしてもらうと言い出したのは七嶺自身だったはずだが、仄羽は黙って観察する。暁も忘れたわけではないだろう。
「じゃあ七嶺に聞いてきてくれる? 事情を話して、このまま仄羽をつけておきたいと思うがどうか、って」
「…………」
「できれば僕はまだ現状のままでお願いしたいんだけど、って」
暁が嘆息する。小さく頷きながら目を伏せ、
「わかりました。事情とともに、引き続き仄羽ちゃんをつけることを伝えます」
うん、と返答に満足したらしい威が頷いた。祇矩藤家当主に「お願い」されて断れる町民がはたしているかどうか。いないとわかっているから暁は折れざるをえない。あるいは、祇矩藤家当主という肩書をときに忌々しいもののように扱う威がわざわざ話に出してきたことで、反論するだけ無駄だと判断したのかもしれなかった。
そして結局、留袖新造としての修行だけがとりやめとなった。仄羽にはそのぶん暁に従って業務を行うことが威から命じられる。新造としての修行はいわゆる教養を育むためのものであるから、とりやめになったとはいえ、時間を有効に使って自分自身で行っていかなければならない。しなければならないのでするのではなく、仄羽がそうしたいのでするのだ。かつて陰間で御職だった暁はもちろん、祇矩藤の家臣として瑞矢も、威自身もおそらく、芸や所作、知識を仄羽とは比べものにならないくらい身につけている。まだ子どもである鶫も使用人に開架されている本はすべて目を通したと言っていたし、少なくとも仄羽には鶫の交渉術のような抜きんでた才はない。
借金がなくなって〔春日〕にいなければならない義務がなくなったいまこそ粉骨砕身していかなければ、威に呆れられてしまう。
「では、高瀬の使いと交渉のうえ、金額等は改めて報告します」
「うん。任せた」
頭を下げて暁が立ちあがると、仄羽もついていくようにと威に命じられる。世統が来たり暁の報告があったりで目の前の書類に集中できていないためと思われた。
世統は強烈だった。嵐のように去っていった世統を思い出しながら、仄羽は部屋を出る。従兄妹であり許嫁であるのだから当り前なのかもしれないが、威との間ですでに関係ができあがっていて、悔しさを覚える。
「夜見世の前にしましょうか」
執務室に戻る道中、暁は仄羽に言った。七嶺のことだろう。もはや決まったことだからか、先ほどまでとは異なり、淡々として聞こえた。
「それから高瀬の件っすけど、同席しますか? 十三天王の本所にも行ったことないっすよね」
「いいんですか?」
「もちろん。仄羽ちゃんに関わることですしね。ついでに本所内も案内します。ここに来てから、外に出てないでしょう」
言われてみるとそうだ。〔春日〕に身を置いて数ヶ月経っているが、ほかの新造たちのように客引きもしていないので、〔春日〕の敷地から一切出ていない。閉塞感がないのは目まぐるしい生活の変化に慣れるため必死だったことと、庭には時たま出ていたからだろう。庭は敷地が広いだけでなく複数あるので、気分転換にはもってこいだった。なかには使用人専用、花魁専用と決められているものもあり、仄羽だけではなく各々が自由にしているのをよく見かけた。
「新造ではなくなるので、もう外出も自由にしてもらって大丈夫っすよ」
「あ、そっか……」
思わず呟く。とはいえ、春霞そのものに明るくないので、一人で出歩ける気がしなかった。道を教えてもらおうにも初名は新造なので出られないし、使用人に声をかけてうやうやしく対応されるのにはまだ慣れていない。暁や瑞矢は多忙であり、まして威は多忙に加えおいそれと外には出られないだろう。いや、そうでなくとも威に案内などは到底頼めないが。
「鶫に案内させましょう」
仄羽の考えを見抜いてか、暁が言った。威に暇を与えられた鶫は最近、新たに書架に加えられた本に目を通したり、鈴太夫のところへ通ったり、外出したりと、自由に過ごしている。あれだけ腹を立てていたのに、さっさと感情を切り替えていたのはさすがだった。瑞矢と暁いわくは、威が鶫を完全に切ることはないと本人もわかっている、のだそうだ。
普段窓から覗いているだけの喧噪の一部になれるのかと思えば、仄羽は正直なところ、少しだけ心が躍った。
しかし、とふと気づく。留袖新造の修行がとりやめになるのであれば、その師である初名とは顔を合わす時間が減るということだ。
「あの、暁さん」
「はい?」
「初名ちゃんにも伝えてきていいですか?」
「ああ、どうぞどうぞ。いま行ってきてください」
ひらひらと手を振られ、仄羽は甘えることにする。
昼見世が始まる前に急がなければと廊下を進めば、ちょうど準備のため部屋に入ろうとしていた初名を見つけた。鈴太夫に許可をもらい、仄羽は初名を連れて少し部屋から離れる。本当はどこかに入れればよいのだが、あまり遠くに移動しては初名の準備が遅くなってしまう。
簡単に事情を説明すると、初名はいつもどおり無表情のまま頷いた。
「わかりました。おそらく瑞矢さまのほうからも連絡があるかと思いますので、指示に従います」
では支度があるので、と初名は背中を見せる。感情が顔に出ないので初名の本心がどこにあるのか仄羽にはわからない。こちらの事情でさびしさを覚えるのは勝手だ。考えていると、声をかけるか悩んでいる仄羽に気づいたかのごとく、初名がくるりと振り返った。
「仄羽さん。よかったですね」
それだけ言って再び行こうとした初名を、仄羽は今度こそ引きとめる。初名は世辞や社交辞令を言うタイプではない。きっと本心から祝ってくれている。それがわかっただけで、充分に勇気になった。
「初名ちゃん。ごはん、これからも一緒に食べてくれる?」
「えっ……」
初名は視線を泳がせたかと思うと、自身の指を絡めてもじもじと動かした。立場を重んじる初名なので、名実ともに祇矩藤家当主の側近となる仄羽と同席するのは気が引けるのかもしれない。仄羽がいやだったら、と続けると、初名はいえ、と小さく言った。
「いえ、あの……うれしいです。よろしくお願いします」
頭を下げられ、仄羽は思わず笑う。安堵とともに初名を見送った。
あれこれと新たに仕事内容を教えてもらっていると、時間はすぐに過ぎていった。暁の後ろについて七嶺のもとへと向かう。仄羽が七嶺の部屋の前で腰を下ろそうとすれば、暁は一声かけて七嶺の返事より先に襖を開けてしまった。そういえば最初に七嶺を紹介されたときも同じやりとりをしたなと思い出す。
しかし今度は七嶺の咎める声が飛んでこなかった。仄羽が覗けば、七嶺は窓の前で寝転がっている。ねむっているのかと思ったが、仄羽が知るかぎり、夜見世前に七嶺が化粧もせず横になっていたことはない。
「七嶺さん」
寝ているのではなく倒れているのだ。仄羽が気づいて叫べば、それよりはやく暁が足を進めていた。七嶺の傍にしゃがみこみ、七嶺、と肩を叩く。
近づいてみれば明らかに蒼い顔をしている。七嶺が薄く目を開いた。ひとまず気絶しているわけではないと知り、仄羽はほっとする。
「……暁さま?」
「うん」
七嶺の瞳が暁を捉え、よわよわしく暁の名を発する。呼ばれた暁は頷き、一瞬、小さく微笑んだ。仄羽は驚いて暁に視線を移す。このふたりの仲が悪いだなんて、とんでもない勘違いをしていたのではないか。
暁は七嶺の指先をとったあと、額に手を当てた。熱はないな、と呟き、仄羽に顔を向ける。
「仄羽ちゃん、メメ先生に七嶺を診てもらえないかと聞いてきてください。この時間は休憩しているはずなので、おそらく診察室の隣にいると思います」
診察室ならば場所がわかる。仄羽は頷いた。
「あと瑞矢さんに、七嶺は夜見世を休むと伝えて」
「わかりました」
七嶺は何かを言いたげに唇をかすかに動かしたが、結局は何も言わずにまた瞼を落とした。眉間に皺をつくり、痛みでもあるのか耐えるように腹に手を当てる。腹痛だろうか。とにかく大事ないとよいのだが、と仄羽は部屋を出て急ぎ診察室に向かう。
途中、夜見世のために準備を終えた新造たちとすれ違う。新造たちが仄羽に道を譲るように端に動いた。慣れない扱いが、いまはありがたい。礼を口にしながら通りすぎる。
メメは暁の言うように診察室の隣でお茶を飲んでいた。事情を伝えると、気持ちのあせる仄羽とは裏腹に、メメはいつもの調子で笑う。
「ああ、はいはい。久しぶりね」
「久しぶり?」
「診ないとわからないけれど、たぶん月の日よ。あの子は重いのよね」
あっけらかんと言われ、仄羽は首を傾げる。月経で動けなくなる人がいるのは知っているが、仄羽が七嶺についていたこの数ヶ月、七嶺が倒れたことはなかった。確かに毎月気分は悪くなるのか白い顔をさらに白くさせた七嶺に、瑞矢に申告しておいて、と億劫そうに頼まれるのは恒例ではある。けれどそれだけだ。あんなふうに、話すのも厳しいほど真青になっているのは初めてだ。
準備したらすぐ行くわ、というメメにひとまずは任せて、仄羽は瑞矢のもとへ向かう。別の原因があったとしてもメメならば適切に処置してくれるだろう。
事の次第を伝えると、瑞矢はわかった、とあっさり言った。
「月経でなければ、暁のほうから報告があるだろう」
「七嶺さん、そんなに頻繁に倒れているんですか?」
「ん? そうだな……」
言葉を濁された。個人的な問題なので扱いが難しいのかもしれないが、仄羽は七嶺つきであることにこれからも変わりはないし、家業の診療所を手伝っていた身としても、気にせず過ごすことはできない。仄羽が追及しようと口を開けば、
「今月、暁の奴、花料に三回も指名されてるからじゃん?」
横から鶫に言われ、予想だにしていなかった声に仄羽の体がはねる。いると思わなかった。謹慎はまだ解かれていないはずだが。
「鶫ちゃん、なんでここに」
「慌ててる仄羽が見えたから」
鈴のところにいたのだろう。見られていただなんて気がつかなかった。
花料は新造が花魁になって最初にとる客のことだ。花魁にも客を選ぶ権利はあるとはいえ、そもそも客から指名されなければ選ぶことすらできない花魁が、このときだけは花魁から相手を指名して、肌を重ねる。
廓としては大所帯の〔春日〕でも、新造のあねである花魁が許可しなければ花魁にはなれないので、むらがあるのだ。今月は平素より多く、三人が花魁になり、その全員が暁を指名した。
「暁と七嶺って、ほんとに面倒くさい。体調崩すほどいやならさっさとケリつけたらいいのに」
「鶫」
瑞矢の叱声に、鶫は唇を尖らしながら黙る。
やはりそうなのか。仄羽は頬に手をやる。暁を認めた七嶺の声音には聞き覚えがあった。あれは患者が家族を見つけて安堵するときと同じだ。対する暁もそれが当然のように受け入れて、ためらいなく七嶺に触れていた。思い返せば、七嶺がけだるそうに煙草を呑んでいたのは、いつも暁が花料を終えた翌日だ。
あれだけ威からヒントをもらっていたのに、決定打を受けてやっと認識するなんて。道のりは険しい。
「瑞矢さん。暁さんと七嶺さんって……」
「あれ、仄羽は知らないの?」
仄羽と、頭の後ろで腕を組む鶫とを交互に見て、瑞矢は嘆息した。黙っていても鶫が話してしまうだろうと察してか、小さく頷く。
「七嶺は自分で〔春日〕に来た。そのとき七嶺を連れてきたのが暁だ」
借金のため別の廓に預けられる算段になっていたのを瑞矢が引き取った初名とは異なり、七嶺に借金はない。新造として修業していたうちは着物やら装飾やらで多少の経費分はかかっていたが、花魁になって駆け上がるように御職になった彼女にとっては瑣末な金額だった。とっくに返済し終り、いまの七嶺は意思さえあれば〔春日〕を退職できる。
「連れてきたと言っても、たまたま外出から帰ってきた暁が〔春日〕の門の前にいた七嶺を見つけたというだけだが」
「普通に仲良かったんでしょ? いまみたいなこじらせた感じじゃなくて」
鶫が口を挟む。まあな、と瑞矢は曖昧に返した。
「七嶺のつきだしまでは、少なくとも俺には問題なく見えた」
つきだしは花魁として座敷にあがる初めての日のことだ。つまり花料をとる日になる。
「花料に指名された暁と七嶺の間で何があったのかまでは知らないが、それからだな。顔を合わせば皮肉の応酬をするようになったのは」
この話は終わりだというように、瑞矢は軽く手を振った。
結論として、七嶺は月経痛で倒れたとのことだった。事情を話すのはまた今度にしましょうと暁に言われて仄羽は頷く。落ちつけば見舞いに行きたいが、七嶺はきらうだろう。はやくよくなることを祈るしかなかった。
窓から見える月がきれいで、仄羽は身を乗り出すようにして眺める。深更の刻にははやく、まだ座敷では夜見世が行われている時間だが、威の部屋は別棟のうえに表通りからも離れているので相変わらず喧噪は聞こえてこなかった。
就寝の報告に行き、もう少しで終わる、と威に言われてから、どれほど経っただろう。少なくともそわそわした気持ちを落ちつかせるだけの時間はあった。では隣でお待ちしています、と答えた声が震えていなかったかどうか、仄羽にはわからない。命じるでも約束をするでもなく、まるで時間をつくるのが当り前のような物言いに、内心どきりとした。そして疑問なく返した自分にも。
威の寝室とされているこの部屋は、仄羽のほかには瑞矢しか入ることを許されていないと教えてもらったばかりだ。教えてもらったその日にまた入ることになるなんて。うれしさよりも恐れ多さが先に立った。暁も鶫も、仄羽よりも長く威に尽くしているのだ。ついこの前来たばかりの自分が、と委縮した。しかし世統でさえ禁じられていると聞いたときは、少しだけよろこんでしまった。比べられる立場のひとではないのに、浅ましくも嫉妬を盾にして優越感で自分の価値をあげようとした。
「きれいだね」
後ろから声をかけられて振り返る。威が立っていた。
「え、あ、そこからでも見えますか? 月」
「月? 月なんか見えないよ。月明りに照らされてる仄羽しか」
言いながら、威が足を進めてくる。言われた言葉を理解して、仄羽は頬が熱くなるのを感じた。
「夜桜みたい」
髪に指を通され、熱が全身に広がっていった。風呂上りで下ろしたままの髪が威にもてあそばれる。うなじに落とされた唇が柔らかい。
黒い髪だったら、いったい何にたとえられていただろうか。威は何にたとえてくれただろうか。もっとも口にしたら意味のないもしもの話はやめろと怒られるので、仄羽は聞かない。きっといまと同じ、恥ずかしくなるくらいのうれしさを与えてくれただろうと想像するだけだ。
「ああ、月もきれいだね」
耳元で話され、仄羽は動けなくなる。不安と悋気を持ったまま、心臓は早鐘になっていった。威とふたりでいるとき、こんなふうだっただろうか。もう少し冷静でいられたような気がするのに思い出せない。威がすぐ傍にいることや、触れられていることに意識が集中して、心臓を掴まれている感覚が抜けなかった。
「あの、七嶺さんが」
「聞いた」
それはそうか。ほかの新造や花魁たちであればともかく、〔春日〕の御職である七嶺が倒れれば威の耳に入れるのは当然だ。話の逸らし方が下手すぎる自覚はあった。
「真赤」
ふ、と笑われる。指摘されなくてもわかっているが、指摘されるとなお体温があがる。顎をとられて口づけられた。いつもよりもずいぶん甘い。煙草を吸う間も惜しんで終らせてきてくれたのだとわかってしまう。
「あの、高瀬の方との話し合いに、同席させてもらうことになりました」
「うん、それも聞いた。よく勉強しておいで」
「はい」
頬を親指でなでられ、くすぐったさに目を伏せる。
突然の話だったとはいえ、やはり祇矩藤への借入がなくなるのはうれしい。これでやっと胸を張って、自分で威の傍にいることを選んだと内実ともに言える気がする。借金を外因として威と知り合ったが、しがらみには変わりない。それに返済できる理由が父母の功績のためであるのも、仄羽の背中を押した。父母がいなくなっても父母の研究は生きている。
柔らかく何度も重ねられ、吐息が漏れる。体が緊張から解かれて心地よい。離れた唇に仄羽が名残惜しさを感じていると、紅い瞳にまっすぐ見つめられているのに気づいた。紅い月だ、と仄羽は思う。
「何も心配することはない。仄羽だけだ」
それだけを言われ、再び距離がなくなる。世統のことだとすぐにわかった。そして、世統を含めたこれからのことだ。仄羽の不安を感じとって、ただ安心させるためだけに威はわざわざ言葉を重ねてくれているのだ。仄羽は威の背中に手を回す。仄羽自身が熱すぎて威の体温はよくわからなかったが、かかる体重に確かな存在を感じた。
こんなにやさしいひとに、同じような不安をずっと持たせているのか。気づいてしまうと、もう決めるしかなかった。仄羽は自分を奮い立たせるように、威をつよく抱きしめる。愛しい幼馴染を思い浮かべながら、さようなら、と心のなかで呟いた。
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