異世界で森の隠者のヒモになります。

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04.異世界テンプレ

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 そういえば、日本語で通じるんだろうか。
 そもそも、喋っているのは日本語か?

 間の抜けた挨拶をした直後、途端に悠斗は不安になった。目の前の男の言葉は理解出来たが、向こうが理解できる保証はどこにもない。異世界チートの基本はあって欲しい。なかったら森始まりのハードモードが更に詰む。

 ごくりと喉が鳴った。

 その間、ローブの男は直立不動で動かない。目深に被ったフードで表情は全く窺えない上に、微動だにしない姿は正直怖かった。
 逃げた方がいいだろうか。
 じり、と右足を後ろに踏み出しかけた。

「……こんにちは」

 喋った!!

 悠斗の言葉に呼応して返って来ただろう会話内容に、警戒が一段階下がった。ぴたりと下がりかけた足を止める。

「えっと、あのっ……あの、ここ、何処ですか?」

 第2声は怪しまれないようにしようとしばし頭の中で言葉を探したものの、異世界疑惑濃厚の現在、大した言葉が出てくるはずもなく。無難かつこんな森で聞く言葉として正しいかは謎、そして迷子丸出しの、自分で思っていた以上に途方に暮れた声が零れ落ちた。

「……ケレステネーレ王国の北西にある森」

(ああああああああああ、異世界っ!!!!)

 思わずしゃがみ込んで頭を抱えた悠斗は、ギリギリで叫び声だけは堪えた。身体の動きは反射的で、とても堪えられなかった。
 聞いたことのない国名。しかも王国。日本の都内を歩いていた悠斗がいるはずのない場所。



 ありがとうございますどう考えても異世界です。



「どうしてこの森にいるの」

 静かな声が問いかけてくるが、それは悠斗の方が知りたい。何度だって大きな声で言いたい。

 ――俺の大学デビュー返して!?

 とはいえ、目の前の男に言っても仕方がないし、高確率で理解してもらえない。それよりはこれからどうしたらいいかを考えた方が建設的だと思った。
 森の中でまた誰かに出会えるとも限らない――というよりも、あまりに人の手が入っていない森を前にして、可能性は低い気がしていた――場所だ。運良く出会えた男を逃したら、このままのたれ死ぬまでありうる。

 喫緊の問題は、この男が突然現れた悠斗に対してマイナスの感情を持っていないか、もっといえばヤバい職業の人だったりしないかだ。

 正直なところ、全身ローブで顔はおろか手の先すら見えない男に縋りつかないといけない現状に泣きたい。

 ――でも、声は悪くなかったんだよなあ。それにかけるしかないよなあ。

 圧をかけてくるでもなく、少々淡々としすぎているきらいはあるが、悠斗を害そうとしているようには感じられなかった。ついでに言えば、わりとイケボだなとも思った。

「それが……その、気が付いたら、この森にいたんですよね」
「――――――そう」
「はい」
「――困ってる」
「っはい!!」

 感情の乗らない言葉に食い気味に返事をした。
 これはもしかしなくても助けてくれるんじゃないか。そんな流れを感じたからだ。今しかない。悠斗は必死だった。

「――――――そう」

 ふむ、と言っているようにも取れる相槌に、心臓がドキドキした。
 頑張ってね、とか言われて放置されたら大の字になって倒れる自信がある。

「この辺り、あんまり長居すると危ないから、ついて来て」

 危ないって何が!?

 熊…だといいなあ。熊でも死ぬけど、知らない生き物に遭遇したり、盗賊とかそういうヤバいヤツに遭遇するよりはマシな気がした。見たことのある生き物って安心感がある。初めて知った。

 すいと差し出された手が悠斗の現実逃避を断ち切った。

「手、出して。僕の家に行くから」

 危ないから、と言われてそちらにばかり気を取られていたが、ついて来て、とも言っていたことにはたと気づく。
 じっと目の前の手のひらを見つめた。

 まさにこれが、救いの手、ではないだろうか。

 ローブに隠れていた手は思ったよりも白く、男性にしては細くてすんなりと長い指だった。言われた通りに恐る恐る自らの指先をちょんと触れさせる。
 悠斗よりは冷たく、けれどしっかりと体温があった。それが悠斗をひどく安心させる。



 ――そのあと自分ごと光り出して一瞬で彼の家に転移する、なんていう異世界テンプレをかまさなければ、もっと安心できたのに。



 突然変わる景色に目を白黒させながら、触れさせただけだった彼の手に縋りつくように強く握りしめた。
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