異世界で森の隠者のヒモになります。

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03.第一森人発見しました

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 現実逃避をしたい。
 切実に思う。

 このまま寝転がって森林浴しているうちにアスファルトの上に戻れないだろうか。悠斗は入学式に行きたかった。あれだけ努力したのにどうしてこうなってしまったのか。

「俺の大学デビューを今すぐ返して欲しい」

 思わず漏れた本音は、薄暗い森の中であっという間に消えてしまった。
 さっきまであったはずの都会の騒音もない。時折吹く風に草や葉が擦れる音しかしない。そういえば鳥の声とか、虫とか、そういう生き物の音が全然しない。

 ――こんな何処とも知らぬ場所で座り込んでいるのは自殺行為なのでは?

 そんなまさか。

「まさか……いや、うーん……」

 現実から目を逸らそうとする悠斗と、冷静にツッコミを入れてくる悠斗がいる。

 このまま目を閉じてなかったことにしたい。
 それも本音ではあるが、そうしたところで先に待っているのは、と聞かれると、背筋がぞくっと寒くなった。

「よっこいせ、っと」

 勝者は冷静な悠斗だった。



 ***



 ふんふふーん

 生き物の気配のしない薄暗い森に悠斗の鼻歌が響く。

 もしかしたら潜んでいるかもしれないヤバい生き物に気づかれないように息をひそめて歩こう、という考えは数分前に捨てた。
 歩く度に脛を覆う長さの草ががさごそ音を立てるからだ。

 舗装されていない道は砂利道か剝き出しの土の上しか歩いたことのない悠斗には対処法は思い浮かばなかった。

 こうして歩く以上は音を避けられない。
 今更足を止めても次の一手があるわけでもない。

 ならばと、大きな音を出したほうが動物は来ないというテレビで見た熊避け方法を試すことにした。



 かさりとスーツに覆われた足と草が擦れる音がする。
 それに被せるように悠斗の鼻歌が続く。

 そういえば、何処に向かうとかまったく考えずに進んでいたなと思い至って、ぴたりと足を止めた。

 無理もないとはいえ、かなり動揺している自覚はあった。

「あー……っと、どれがゴールになるのかな」

 アスファルトの地面に辿り着けたら大勝利。しかしそれは現状ほぼ不可能だろうことは分かっている。せめて、この森を出るか、この場所を知っている人間に出会いたかった。

 くるりと辺りを見回し、空を見上げる。木に覆われてほとんど見えない。方角を知るすべは何処にもない。
 耳を澄ます。ラノベで聞いた、「水の音がする!!」の気配は欠片もない。
 下を向く。足元はひたすらに平地で、下ることものぼることもできない。

 ――詰んでいるのでは?

 ふるりと頭を振って、下がり始めた気分を打ち払う。こんなところで立ち止まってもいいことはない。ぐっと拳を握り、再度歩き出すために正面を向いた。



「えっ、おうわっ、なにっ!?」



 突然。

 そう、突然、視界の端に何か影が現れたのだ。その距離は2メートルもない。
 攻撃的な生き物だったら悲鳴を上げる暇もなく大怪我間違いなしの距離にある影に、咄嗟にその場から飛び退いた。

 確かに考え込んではいたものの、そこまで鈍感ではなかったと思いたい。
 しかし間違えようもなく、つい一瞬前までいなかったはずの生き物が現れた。

 ――――いや、まあ、ヤバい生き物だったら逃げられないよなあ。

 せめて平和的解決のできる兎とかを希望して、意を決して影を睨みつけた。



 後退って改めて見ると、それが人だと分かった。
 万が一に人じゃないにしても、待望の人型生命体である。

 こう……あれだ、ラ〇ト〇ーバー持ってそう。ブォンって光りそう。ぐるんぐるん回して敵を斬り伏せそう。
 悠斗の頭にはついこのあいだテレビの再放送で見た超有名SF映画の戦闘シーンが浮かんでいた。

 確かあれって、刃の部分って普段なくって柄の部分だけ腰にあったっけ。ちらりと腰と思しき場所をみるものの、ローブに覆われて少年憧れのアレは見えなかった。

 麻とかそういう素材で出来て良そうな茶色い、色気も素っ気もない、人生で初めて生で見たおそらくローブだろうそれは、下は踝まで、上はフード付き。目深に被っていて顔が見えない。悠斗より身長は高いように見える。

 もしかしたら逃げるべきなのかもしれない。
 そう考えてすぐに、何処に?となって思い直す。

 第一村人……森人だ。今を逃したら熊にでも遭遇してしまったら、一般大学生の悠斗に勝ち目はない。春先の熊は狂暴だと言うし。

 ――この暖かさが春かどうかは置いておいて。
 ついでに、現れるのが自分の知っている熊かどうかも置いておいて。
 ずっと考えないようにしていたけど、ゴブリンとか。そういう、ヤバい奴もいるかもしれないし。

「……誰?」

 いや、それ俺のセリフ。

 小さな、そのくせしっかりとこちらに届いた柔らかなテノールに思わずツッコミを入れそうになってすんでで止めた自分を褒めたい。
 何故なら、第一森人の声にはおそらく警戒が滲んでいた。怖くない、怖くない精神が必要だと思う。

「あー……っと、初めまして?」

 うん、第一声はこれじゃなかった気がする。
 悠斗は内心で自分に深く深く失望しながら、ローブの男に相対した。







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読んでいただきありがとうございます。
ストックここまでなので、週3更新目指して書き進めます。
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