異世界で森の隠者のヒモになります。

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02.入学式会場は森ではありません

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その日は大学の入学式だった。

異常気象も当たり前になりつつある現代日本。
桜はもうほとんど散っている。

入学式といえば桜だったのにねえ、と家を出る時に咲いていた桜をみて母親が呟いていたことを思い出す。

いっそのこと、まるっと新緑になってくれたら綺麗なのにな、と、地面で踏みにじられてくすんだ桜の花びらをチラ見した。

着慣れない新品のスーツは「田舎者だと舐められないように!」と母親が買ってくれたブランドものだが、鏡で見た時にはどうにも着られている感がすごかった。
学ランから一気にスーツにクラスチェンジするのはまだ早いと感じてしまう。

そもそも、そこまで田舎者か?
悠斗ゆうとの記憶では、生まれ育った町の人口はうん十万人だった。

ちょっと思ったけれど、都心以外は田舎と思っている節のある母の言葉に逆らえるはずもない。悠斗自身、一人暮らしを始めて、なんとなく否定をしにくくもあった。
歩いて5分で大手コンビニは制覇できるしスーパーはあるし、飯屋もいくつもある。確かに違う。

田舎の基準ってなんだ。

とりとめもないことを考えているのは、やっぱり緊張しているんだろう。

入学式は大学キャンパスから電車を乗り継いで行く、悠斗も聞いたことのある有名な会場でやるらしい。ただただ都会の大きさを感じていた。
もう会うこともない別キャンパスの生徒も一堂に会するというのだから、さぞかし立派に違いない。

そう思うと、気持ちが高揚した。



ついこの間まで、灰色…どぶ色の受験生だった。

ちょっと見栄を張った大学を第一志望にしたのが悪かった。頑張って勉強をしたら届くかもしれないレベルだったのも悪かった。

『じゃあ受けてみなさいよ、受かったら一人暮らししてもいいわよ』との母の言葉に、ちょっと、結構、……相当、ギリギリまで頑張ってしまった結果、春にD判定だった学力は、秋の終わりには余裕のA判定になった。
両手を突き上げた姿は誰にも見られてはいけない。
ここで力を抜いて落ちたら目も当てられないと一瞬力が抜けそうになった自分を叱咤して、走り抜けた一年だった。

受験が終わった時は燃え尽き症候群になりかけた。

勉強に次ぐ勉強のストレスで体重が落ちて、去年より貧弱になった気もする。
落ち着いたら少し運動をしようと決意していた。

身長は去年の春に測った時は173センチだった。高1からミリ単位でしか変わっていない。机にかじりついていたからもしかしたら縮んでいたりするのだろうか。それは勘弁してほしい。

「まあ、それもこれもこれからの大学生活のためと思えば…!」

決意も新たにぐっと足を踏み込んだ瞬間、地面が消えた。



「!!!???????」



いきなりのことに声も出ず、目を白黒させる。真っ暗な中を落ちていく浮遊感に胃がひっくり返りそうになった。

都会のマンホールはふたもせず置き去りなのか。

ぐるぐると混乱する頭の中で考えても状況は変わらない。
パニックになった悠斗を置いて、突然のフリーフォールは続いた。



***



「――――っってえ!!」

落下の終わりは始まりと同じだけ唐突に訪れた。
どすん、と尻もちをついて思わず声をあげる。

「いってぇな……、え、なに、マジで……」

起き上がるために地面についた手にかさりと何かが触れて、反射的に下を向く。
そこには都心の舗装されたアスファルトが見えるはず――――だった。

瑞々しく露をたたえた植物の緑色が代わりに映って、何かに落ちた時から混乱していた頭が、更に混乱を極める。



思考が停止してしばらく。



いやまさか。
そんなばかな。
まさかね。
さすがにそれはないよね。

脳内が漢字変換をする余裕もないまま、恐る恐る周囲を見回す。

視界に広がる、木、木、――木。

鬱蒼と茂る草。

おめでとうございます。
どう見てもさっきいた入学式の会場へ向かう道ではありません。

「――――――これ、は、例のアレ……とか」

非現実的な考えが頭をぐるぐる回って、放り投げたいのにその答えが数を増やして悠斗の頭の中を占拠していく。

上を向くと、木々の向こうから木漏れ日が差し込んでいる。
アウトドアにさして興味のない悠斗の人生でお目にかかったことのない光景だった。

湿度が高いと感じるのは見渡す限りの植物が呼吸しているからだろうか。

「ええ……?」

数年前から大流行中の異世界転移モノ。

受験の真っただ中、ちょっとだけ異世界に逃げたいと思ったこともある。
無事に受験に成功して今日から始まる大学生活に緊張を期待を持っていたところからの急転直下は断じて求めていなかった。



「――――うっそだあ」



帰りたい。

悠斗の頭をその言葉だけが駆け巡った。

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