料理人がいく!

八神

文字の大きさ
42 / 113

42

しおりを挟む
「…コレで、全部だ」


一旦スキルでの料理を中断し、昼ご飯を作ってる彼女に青年が手に持っている大風呂敷を見せる。


「中身は?」


チラッと見た彼女は作業する手を止めずに聞く。


「…こんな感じだ」


失敗した…みたいな顔になった青年は慌ててテーブルの上に大風呂敷を広げた。


「…うーん…ギリギリ足りない…かな…?多分、あとこの量の1/3ぐらいは必要かも」


彼女はテーブルに広げられた量を見て微妙な表情になる。


「そうか、なら昼食後にでも街へ買い出しに行こう…必要な物はコレに書いてくれ」

「オッケー」


青年が食材ごと大風呂敷を持ち上げて白紙をテーブルの上に置きながら言うと彼女が了承した。


「…街に行くのか?なら俺も…」


本を読んでいた男が青年と彼女のやりとりを聞いて口を開く。


「…だったらあんたらさ、昼ご飯は街で食べてこれば?」


その方が私は楽だし…と外に出て行こうとする青年と座っている男に彼女が提案する。


「い、いや…それは…」

「…君の気を悪くしたのなら謝る、すまん」


彼女の言葉に青年は言葉に詰まりながら男とアイコンタクトを取ると、男が謝った。


「別に不機嫌になったワケじゃないけど?」

「…いや…その……君の料理の方が美味しいから…」

「そう!街で食べるよりもココで食べる方が美味いんだよ!」


彼女が冷たい声で聞くと青年がしどろもどろ言い訳のような事を言い、男がチャンス!と言わんばかりに椅子をガタッと鳴らして立ち上がる。


「…あっそ…」


男の力のこもった発言に彼女はどうでも良さげに返して黙った。


「…余計な事を…危うく飯抜きになる所だったじゃないか…」

「…すまん、まさかあんな事を言うとは思わなかったんだ…」


外に出た青年が同じく外に出た男に小声で責めると小声で謝られる。


「…まあでも…彼女は不機嫌だったワケでは無かったんだろうな…」

「…なぜそう思う…?」


ボソッと呟く青年に男がコソコソ小声で聞く。


「…街の人々のためにスキルを使って料理をしてるのに、更に俺達や魔物のために料理をしてるんだ…少しぐらい省きたくなっても不思議ではない」

「…なるほど…」


青年の小声での言い分に男は小声で納得したように頷いた。


「…それに、彼女はむやみにスキルを使いたくないらしいし…」

「…そうなのか?」


青年が小声で補足するように言うと男は初耳のように小声で驚いて聞き返す。


「…ああ、なんでも…スキルは使えば良いというモノでは無い、いざという時に使えなくなったら困る…と…」

「…まあ彼女らしい、と言えばらしいが…」


青年の小声での言葉を聞いて男は小声で納得できてないような微妙な歯切れの悪い反応をする。


「…やっぱりあの表示を見ると…」

「ああ、Lvは2…で、ステータスもそこらの一般人とほぼ変わらない…が…」

「昼ご飯できたよー…」


男と青年が小声で何かを言いかけた時に彼女がドアを開けてやる気無さそうに声をかけた。


「…あ、ああ!今行く!」

「…まあ、気にするだけ無駄か」


青年が返事をすると男は疑問を捨てて家の中へ向かう。


「…気に、なるんだけどな…」


青年は彼女を見ながら…正確には彼女の上の表示を見ながらポツリと零して男の後をついて行くように歩き出す。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

商人でいこう!

八神
ファンタジー
「ようこそ。異世界『バルガルド』へ」

聖女なんかじゃありません!~異世界で介護始めたらなぜか伯爵様に愛でられてます~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
川で溺れていた猫を助けようとして飛び込屋敷に連れていかれる。それから私は、魔物と戦い手足を失った寝たきりの伯爵様の世話人になることに。気難しい伯爵様に手を焼きつつもQOLを上げるために努力する私。 そんな私に伯爵様の主治医がプロポーズしてきたりと、突然のモテ期が到来? エブリスタ、小説家になろうにも掲載しています。

異世界に行った、そのあとで。

神宮寺 あおい
恋愛
新海なつめ三十五歳。 ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。 当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。 おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。 いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。 『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』 そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。 そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!

【完結】そして異世界の迷い子は、浄化の聖女となりまして。

和島逆
ファンタジー
七年前、私は異世界に転移した。 黒髪黒眼が忌避されるという、日本人にはなんとも生きにくいこの世界。 私の願いはただひとつ。目立たず、騒がず、ひっそり平和に暮らすこと! 薬師助手として過ごした静かな日々は、ある日突然終わりを告げてしまう。 そうして私は自分の居場所を探すため、ちょっぴり残念なイケメンと旅に出る。 目指すは平和で平凡なハッピーライフ! 連れのイケメンをしばいたり、トラブルに巻き込まれたりと忙しい毎日だけれど。 この異世界で笑って生きるため、今日も私は奮闘します。 *他サイトでの初投稿作品を改稿したものです。

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

役立たずと追放された聖女は、第二の人生で薬師として静かに輝く

腐ったバナナ
ファンタジー
「お前は役立たずだ」 ――そう言われ、聖女カリナは宮廷から追放された。 癒やしの力は弱く、誰からも冷遇され続けた日々。 居場所を失った彼女は、静かな田舎の村へ向かう。 しかしそこで出会ったのは、病に苦しむ人々、薬草を必要とする生活、そして彼女をまっすぐ信じてくれる村人たちだった。 小さな治療を重ねるうちに、カリナは“ただの役立たず”ではなく「薬師」としての価値を見いだしていく。

処理中です...