ボーイ・イン・ザ・ミラー

園村マリノ

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第三章

03 占い②

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 一一月三日。

〝ホントにごめんねケイちゃん! (><)〟

〝大丈夫よ。それよりも無理せずしっかり休みなさいね〟

 アイリからのメッセージに返信すると、ケイはスマホをショルダーバッグにしまい、目を閉じて電車に揺られた。

 四日前、アイリは中華街内の占い店〈インヤン〉に予約を入れようとしたが、希望していた人気占い師たちは全員予約が満杯だったために諦めた。その後、中華街の隣町・岩堀町いわほりちょうに評判のいい店〈エミリア〉があると知りそちらで予約をしたのだが、昨日になり風邪をこじらせてしまった。
 ケイは当初、アイリの付き添いをするだけで、鑑定中は店の外で待っているつもりでいた。ところがアイリから、せっかくなので自分の代わりに体験してどんな様子だったかを教えてほしいと頼まれたため、店に電話で事情を説明して予約内容を変更してもらい、自分が鑑定を受ける事になったのだった。

 ホームページで確認した内容によると、〈エミリア〉はJR線岩堀町駅北口から徒歩三分の小さなビルの一階に店を構えていた。
 専属の占い師は三人で、ケイを鑑定するのはラファエラという、霊視や霊能力カード占いを得意とする女性らしい。写真で見た限りでは三〇代前半くらいで、ウェーブのかかった長い髪を金色に染めたナチュラルメイクの美人だったが、実物は果たして。


 
 岩堀町駅に到着したのは、ケイがうとうとし始めた頃だった。無理矢理目を覚ましながら電車を降り、北口改札を出て真っ直ぐ進むと、目的の店はすぐに見付かった。

「緋山さんですね。お待ちしておりました。わたくしが本日担当させていただきます、ラファエラです。よろしくお願い致します」

 にこやかにケイを出迎えたラファエラは、写真通りの容姿をしていた。こうして実物を目にすると、ケイと同い年くらいのようにも見える。

「よろしくお願いします。突然の変更ですみませんでした」

「いえ、とんでもありません。妹さんお大事になさってくださいね」

「はい、有難うございます」

 決して広くはない店内には、西洋アンティーク家具や占いグッズを飾ったショーケースがあちこちに置かれている。会計レジの近くの壁際に置かれたアロマディフューザーからは、ケイには名前のわからない香りが霧状となって放たれている。
 ケイはど真ん中の、赤紫色のクロスが敷かれた大きな丸テーブルと二つの椅子の元まで案内され、ドア側の椅子に腰を下ろした。シートクッションの厚みと柔らかさが絶妙で、座り心地が好い。

「さて、それでは始めさせていただきますね。改めまして、よろしくお願いします」

 ラファエラはケイの後から席に着くと、そう言って小さく頭を下げた。

「よろしくお願いします」

 ケイも頭を下げながら、テレビで見た〈インヤン〉の中年占い師とは全然違う雰囲気だなと思った。

「えー、緋山さんはどんな事が気になっていらっしゃいますか?」

「その……人生全般、です」ケイはためらいがちに言った。「将来的な事……特に恋愛運と、今後の仕事に関して」

「今現在、特定のお相手は?」

「いません。三月に別れました。仕事も同じ月に辞めてから、今は何もしていないんです。半引きこもりで」

 ケイは自嘲気味に微笑んだ。

「ずっとこのままじゃ良くないって事はわかっているんですけど、動く気になれなくて……この先どうなるのか、どうすればいいのかなって……」

 ラファエラは、二重瞼のくっきりした大きな目でケイを見やり、時折ゆっくり頷きながら静かに話を聞いていたが、ケイが話し終えると「なるほど」と小さく呟いた。

「相手方の浮気が原因で別れたのですね。結婚の話まで出していたのに、他の女の人とも付き合っていた」

 ケイは驚きのあまり、思わず身を乗り出しそうになった。

「えっと……どうしてわかったんですか。そこまで話していないのに」

「今、緋山さんのお話を聴いている間にました」

「……ああ……」

 ケイはホームページの記載内容を思い出した。ラファエラの得意とする占術は霊視や霊能力カード占いだ。

「もう一つ見えたのは……緋山さんに辛く当たる女性です。室内の様子や服装からして、緋山さんの以前の職場でしょうかね。周りの人たちは見て見ぬ振り。さぞ辛かったでしょうね。
 辛い思いをした分、今度は幸せになりましょう。私はそのお手伝いをさせていただきますからね」

 ラファエラが優しく微笑むと、ケイは何となく照れ臭くなり、無言で小さく頷いた。
 ラファエラはテーブルの端に置かれていた紺色の巾着から、掌よりも大きなサイズの、使い古されあちこち傷んでいるカードのセットを取り出した。

「では、これからカードを使って、高次の存在からアドバイスを受け取ります。恋愛運と今後のお仕事について、総合で聞いてみますのでお待ちくださいね」

 ラファエラはテーブルの上に裏返した状態のカードを全て乗せると、両手を使って大きくシャッフルを始めた。ある程度そうするとカードを一つの山にし、次に左手で三つの山に分けるとケイの前に横一列に並べた。

「直感でどれか一つを選んでください」

 ケイが真ん中の山を指差すと、ラファエラはそれだけ残し、両端のカードを一纏めにして横に除けた。残った山を左手で持ち、右手で上から六枚取ると、横に除けたカードの近くに伏せたまま置く。そして七枚目から三枚のカードを順番に取ると、伏せたまま左から横並びにし、一番左端だけ表にひっくり返した。

「これは……タロットとはちょっと違うんですね」

 露わになったカードの絵柄を見てケイは言った。決して詳しいわけではないが、タロットカードの種類くらいなら様々な媒体で何度も目にして覚えている。目の前の神秘的な絵柄は、タロットの大アルカナと小アルカナ、どちらにも該当しないようだ。

「ええ、オラクルカードといいます。タロットは出たカードから意味を読み取るんですけれど、オラクルは高次の存在からのメッセージやアドバイスが、ほとんどそのまま現れるんです。枚数やメッセージの内容も、カード毎に様々なんですよ」

 ラファエラはそう答えながら、ケイから見て逆さになっていた真ん中のカードの向きを直した。

「まずはこちらから」

 ラファエラは細い指先で、ケイから見て一番左端のカードを差した。場所は海の底だろうか、水で出来た球体の中に、目を閉じ膝を抱えて丸くなっている全裸の女性がいる。カード下部の別枠内に書かれている言葉は[癒しの水]だ。

「一番左は近い過去の緋山さんに対するメッセージです。カードはまさしく、自分の殻に閉じこもる緋山さんを現しています。これはですね、閉じこもると同時に、傷付いた心を癒やしているんです」

 ラファエラの説明を聞きながらカードをじっくり眺めていると、ケイは不思議と物悲しさを覚えた。

「よく見ると、地上から僅かながら光が差し込んでいるでしょう。緋山さんは恋人と別れ、仕事も辞めてから今まで半引きこもりになっているそうですが、それは決して間違いでもなければ無駄な時間でもなく、むしろ緋山さんの心の修復には必要な事だったんですよ。無理にパートナーを作ろうとしたりお仕事に就こうとしていたら、心の傷は更に悪化していたでしょう」

 その言葉だけで、ケイは心の奥底に溜まっていた、重石のような物の大部分が取り除かれたような気がした。

「では次に真ん中です。真ん中は現在の緋山さんに対するメッセージです」

 ラファエラが真ん中のカードをめくった。絵柄が目に入った瞬間、ケイはハッと息を飲んだ。

「[真実を見よ]ですね」

 それは、渇いた大地にそびえ立つ、巨大なアンティークの姿見だった。
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