【改稿版】コフィン・イン・ザ・フォレスト

園村マリノ

文字の大きさ
26 / 45
第三章 影が差す

07 百合子②

しおりを挟む
 麗美は、絵美子とのやり取り、学校内で相次いだ不可解な出来事の数々について、時間を掛けて出来る限り詳しく話して聞かせた。そして麗美と同じように〝あいつ〟に気付きつつある千鶴から貰ったメッセージと、その詳細を明日聞きに行く予定だという事も。

「そう……そうだったの……」

 百合子は最後までほとんど口を挟まず、麗美が全て話し終えたとわかると、やはり穏やかに言った。

「わたしはてっきり、叔母さんは絵美子が……絵美子の幽霊が、学校にいるって事を知ってるものとばかり。でも、学校でおかしな事が相次いでいて、それが〝あいつ〟の仕業だってのはわかってたよね。何で?」

「夢を見ちゃったの……せっかく絵美子が命懸けで施してくれた〝あいつ〟の封印が解けたっていう」百合子は忌々しげに答えた。「ただの夢じゃなくて現実だって事は、本能的なものでわかったよ」

「棺の蓋が落ちていて、中身が空っぽ?」

 百合子は無言で頷いた。

「それに近い夢なら、わたしも昨日見たんだ。ああ、正確には日付が変わって、今日かもしれないけど」

 夢の内容を語って聞かせる間、麗美は指先でテーブルをコツコツと叩いていた。目が覚めた時にはパジャマが汗でビッショリと濡れていたし、恐怖と安堵が入り混じり、泣き出しそうにもなった。
 しかし落ち着いた今となっては、内容が恐ろしいものであった事に変わりはないが、自分を侮辱した〝あいつ〟に対する怒りの方が勝っていた。

 ──芋姉ちゃんで悪かったな!

「私だけじゃなくて、もう一人見た奴がいるんだ」百合子は小さな溜め息を吐き、苦笑した。「本人ははっきり認めなかったけどね」

「え、もう一人!?」予想外の言葉に、麗美は目を見開いた。

「そう。二〇年前に〝あいつ〟と対峙した男子もいたの」

 麗美はその男子がどんな人物だったのか、今はどうしているのかが気になったが、とりあえず後回しにし、

「ねえ、絵美子が自由に動けない理由ってわかる? 〝あいつ〟は好き勝手出来るのに」

「うーん……」百合子は腕を組んで考え込んだ。

「図書室以外で会った事ないからさ、図書室から出られないのかな。ああでも、いなかった時もあったけど」

「多分そうかも。あるいは、図書室から出られたとしても、あまり離れられない、近くをうろつくのがやっと、みたいな」

「何で?」

「それは幽霊だからじゃない?」

 きょとんとする麗美に、百合子が続ける。

「幽霊って、人に憑いて来ちゃうイメージが強いけど、生前に気に入ってたり未練がある場所に自分の意志で留まり続けて、結果そこから動けなくなっちゃったりする事も少なくないって、昔聞いたよ……他ならぬ絵美子自身からね」

「へえ……」

「でも絵美子は『自由に動けない』って言ったんだよね? その口振りからすると、あの子は自分の特殊な力が戻るのを待っている……?」

「特殊な……え?」

「いやでも、二〇年前から図書室にいたのだとしたら逆に……あ、ひょっとして、あの子が幽霊になって図書室に現れたのは〝あいつ〟の復活と大して変わらないタイミングなんじゃ──」

「お、叔母さん! ねえ」麗美は指先でテーブルを二回叩いた。「絵美子のその特殊な力って?」

「ああ、あの子ね、所謂霊能力の一種を持ってたのよ。どうやらたまにそういう人間が誕生する家系だったらしいの」

 もう滅多な事では驚かないだろうと考えていた麗美は、思わず苦笑せざるを得なかった。

「絵美子……何かほんとに色々と凄いなあ。わたしなんかと全然違う」

「でも悲しい事に、望月の家で能力持ちは歓迎されなかったそうだよ。そういう家系だって割にはね」百合子はどこか悲しげだった。「身内に何か不幸な事が起こると、原因はお前だって責められたり、陰口を叩かれたり。肩身の狭い思いをしていたみたい」

「そんな……」

〝絶対にあなたのせいじゃない。だから気に病まないで、心を強く持って〟

 麗美が丸崎の件を気に病んでいた時、絵美子はそう言って励ましてくれた。ひょっとするとあれは、絵美子が麗美を通してかつての自分自身に言い聞かせた、他の誰か身近な人に掛けてもらいたかった言葉だったのかもしれない。

「叔母さん」麗美は居住まいを正すと、百合子を見据えた。「今度は叔母さんが教えて。二〇年前の夕凪高校で、一体何があったのかを。覚えている限り全部」

「勿論。二〇年も前の事だけど、あの一連の出来事に関しては不思議とよく覚えてるんだ。でもその前に、お水貰える?」

「いいよ、待ってて。喉渇いちゃったよね」

「いや……」百合子は小さな息を長く吐き出した。「この後で渇きそうだなって」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

処理中です...