アンハッピー † デス † エンド

0gⅢ

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Ⅰ - 傲慢の檻 -

招かれた闇

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「すみません、申し遅れました。私は、天束あまつか イルと申します。以前も少しお話しましたが、大学で宗教学関連の研究をしています 」

丁寧な口調で頭を下げる青年、イルに対して、良司もまた同じ様に頭を下げた。

「これはご丁寧に。ご存知の通り、私はこの小さな教会で神父をしている、巳崎 良司です。こっちは息子のミツル、もうじき8歳になります  」

初めて見る綺麗な青年にいきなり自身を紹介され、わたわたと慌てふためいたミツルは、良司の後ろにサッと隠れると、少し顔を覗かせながら、遠慮がちにペコリと頭を下げた。
イルは緊張した様子のミツルに目線を合わせると、ニコリと柔らかな笑顔を向ける。

「あの、ありがとうございます。すごく助かりました。タオルに暖かい飲み物まで頂いて……」

タオルで髪を拭き上げながら、イルは申し訳なさそうに眉を下げると、良司に礼を述べる。

「いえいえ、気にしないでください。困ってる人に手を差し伸べるのが教会の役目ですから 」

良司はそう言うと、イルに温かい紅茶を勧める。
二人から少し離れた椅子に座ったミツルは、やはり若い客人というが珍しいのか、チラチラとイルの方を気にしていた。

「こら、ミツル。あまり人をジロジロと観察するのは良くないよ 」

遠くから盗み見る様に、イルの事を観察していたミツルを良司が落ち着いた声で窘めた。
良司は職業柄、道徳などに関しては、子供に厳しく躾をしている様子だ。

「あっ、ごめんなさい……」

良司に行動を咎められ、シュンとして頭を下げ謝たミツルに、イルは優しく声をかける。

「いえ、大丈夫ですよ。ミツルくんも急に知らない人が来てビックリしてるんだよね? 」

イルの言葉に、ミツルはキョロキョロと視線をさ迷わせる。そしてもう一度彼を見ると、ポツリと言葉を発した。

「あの、本当にごめんなさい。なんかお兄さんって、すごく変わった色をしてるなって思って 」

ミツルの言葉にイルは少し首をかしげる。

「ん?…ああ、この髪色の事かな? 」

イルはこの目立つ髪色を指摘されているのかと、自分の髪に触れてみせる。

「違うよ、お兄さんの周りのフワーってした色のことだよ 」

「……?」

子供特有のよく分からない表現に、イルは更に首を傾げた。

「すみませんね。息子は時々変なことを言う。人の周りに色が見えるとかどうとか、子供のよくある架空の友達とか、そう言った類の物だと思います  」

父親のフォローにイルは「ああ」と合点がいったと言うジェスチャーを取る。

「でも他の人は小さくてゆらゆらなのに、お兄さんの周りは、お日様の光が差したみたいにキラキラしてるから、すごく綺麗だなって思って 」

ニコニコと微笑み無邪気にイルを褒めるミツルを見て、イルは目を丸くした。
しかし、直ぐにその言葉を察する。

”ああ成程。この子は魂の色が見えるのか。これは面白い ”    

一瞬、イルは顔に影を落とした様な表情を見せたが、すぐに二人に笑顔を向ける。

「ふふ、本当かい?それは嬉しいな 」

一瞬表情を曇らせたイルを見て、何かすごく失礼な事を言ったのかと良司は内心心配していたが、すぐに笑顔を見せたイルに、ほっとした表情を浮かべて自身も話の輪に入った。

「それはすごい。イルさんはもしかしたら、神様の遣いなのかもしれないね 」

「え!?お兄さんは天使様なの? 」

良司の発した言葉に、ミツルが期待に満ちた表情を見せる。しかし、イルはすぐさま顔の前で、やや大げさに手を振ってみせた。
 
「いや、まさかとんでもない。…けど、これは偶然かもしれませんが、以前に私は天啓の様なものを聞いたことがあるんです。それにより命が助かった、なんてこともありましたが 」

神妙な面持ちでそう語るイルに、良司は感嘆の声を上げる。

「おお、なんと!それはすごい。それは貴方が神に愛されている証拠ですよ 」

「……そんなことは……」

イルは目を閉じ軽く首を横に振ると、終始ポカンとして話を聞いていたミツルの方を見つめて微笑む。

「だけどミツルくんは、私と同じ様な…いえ私以上に特別な力があるはずです。是非、父親である貴方がミツル君を導き、この力を沢山の人々への救いの光となる様に手助けしてあげて欲しいと、私は思います 」

その言葉に、良司は少し戸惑った表情を見せてクシャリとミツルの頭を触る。

「ハハ。いや、まさか。この子にそんな力なんて……」

正直、この時点で良司は、自分の子供にそんな特別な力があるとはまるで信じていなかった。ミツルの言葉は、誰かの気を引きたいだけの子供の虚言であり、ただの妄想。時が経てば内面も成長して、やがては治まるモノだと思っていたからだ。

しかし、この出来事をきっかけに、今後彼はミツルの認識を改めることになるのだった。
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