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きらい
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「ーーよくちゃん。ちょっとあの漫画、全巻かしてくれないかな?」
といういつきの一言から、漫画を持って来た私は今さいおんじ家のリビングでまったりしている。かすかがジュースとお菓子を出してくれた。
「ちょっと、ぼく。汗をかいたのでお風呂に入って来ます。ゆっくりしてて下さいね」
「うん。わかった」
マイペースなかすからしいなと思った。暫くすると、浴室からシャワーの音が聞こえて来た。私は、ジュースを飲みながら、持って来た漫画を読んでいる。
一定の音を刻む壁掛け時計を見やって、時刻を確認する。いつきは、今、母親のお使いでスーパーに行っているらしい。さいおんじ家の両親は変わらず、仕事で不在だった。
そして、数分後、事件は起こる。
「うわあああああっ!!?」
かすかの悲鳴と共に、浴室から凄い大きな音が聞こえて来た。何かが倒れるような音だ。何事かと思って立ち上がり、転がるように浴室へ行き、浴室の扉を勢い良く開けた。
「ーーわッッッ!? な、何っ!!?」
シャワーを浴びている全身泡だらけなかすかと目が合う。驚いたかすかは、いつもの敬語が外れてしまったようで、私の姿を確認するなり、顔を真っ赤にして、股間を両手で隠した。かすかの髪からは雫がポタポタと伝っている。
「何でもないですっ! お風呂の蓋、落としただけですからッッッ! ーー出てって下さいっ!」
それを言われて、確かにお風呂の蓋が落ちている事を確認する。かすかが恥ずかしそうにしながら目を白黒とさせているので、後は、黙って浴室の扉をそっと閉めた。
ーー数十分後、シャワーを済ませ終わったかすかは、出て来たが。私に裸を見られた事が相当、嫌だったらしく、罰が悪そうで不貞腐れていた。
♡
「かすか。ごめん。ごめんって……」
私は何度もかすかに謝った。だけど、かすかは不機嫌で冷蔵庫から牛乳をコップにそそぐと、黙々と飲んでいた。
「……」
「お、大きな音がしたから、何かあったのかと思って……」
「……」
「本当にごめん」
「余計なお世話です」
「……う」
「そういうの、余計なお節介って言うんですよ」
「ごめん、なさい」
ーーどうしよう。本当に拗ねてしまっている。
困り果てた私は、ずっとかすかに謝罪し続けているが。一向にかすかの機嫌は治らなかった。かすかは、むすっとしながら、飲み終わったコップをキッチンのシンクに置くと私に敵意の眼差しを向けて、こう言い捨てた。
「ーー嫌いです」
私はそのかすかの言葉に目を見開く。じわじわとその言葉が胸の中に滲んで行き、頭の中で何度も何度も反芻した。純粋にショックだった。かすかの事は小さい頃から接して来たし、私にとってかすかは弟のような存在だったから。
かすかは、ぷいとそっぽを向く。気が付けば、視界が涙で滲んでいた。私が耐えきれず、嗚咽を微かに漏らすと、振り返るかすかはぎょっとした様子で息を飲む。
「ご、ごめんなさ……」
涙を指で拭いながら、蚊の鳴くような声でやっとそれだけ言えた。だけど、後は何て言えばいいのかが分からなかった。
「ただいまー!」
タイミング良く、帰宅したいつきの声で静寂は打ち消され、私ははっとして、バッグを取りにリビングへと戻ると、駆け足で玄関へと向かう為に廊下を出た。途中、廊下でいつきとぶつかる。私の泣き顔を見て、いつきはびっくりした顔で「ーーどうしたの?」とオロオロしていたが、私は、黙って、さいおんじ家を出た。
♡
帰宅するなり、自室のベッドに蹲るようにして声を押し殺して泣いた。ーーどうしよう。かすかに嫌われてしまった。私の事を世話焼きでお節介と言っていた。もしかしたら、かすかは私に対して、前からそう思っていて、心に秘めていたのかもしれない。
「うっ……うっ……うぅぅぅっ」
いつきからスマホに着信が入るが、私は出なかった。続いて、いつきからメッセージが入る。「ーー漫画、ありがとう」と一言だけ連絡が入っていた。
といういつきの一言から、漫画を持って来た私は今さいおんじ家のリビングでまったりしている。かすかがジュースとお菓子を出してくれた。
「ちょっと、ぼく。汗をかいたのでお風呂に入って来ます。ゆっくりしてて下さいね」
「うん。わかった」
マイペースなかすからしいなと思った。暫くすると、浴室からシャワーの音が聞こえて来た。私は、ジュースを飲みながら、持って来た漫画を読んでいる。
一定の音を刻む壁掛け時計を見やって、時刻を確認する。いつきは、今、母親のお使いでスーパーに行っているらしい。さいおんじ家の両親は変わらず、仕事で不在だった。
そして、数分後、事件は起こる。
「うわあああああっ!!?」
かすかの悲鳴と共に、浴室から凄い大きな音が聞こえて来た。何かが倒れるような音だ。何事かと思って立ち上がり、転がるように浴室へ行き、浴室の扉を勢い良く開けた。
「ーーわッッッ!? な、何っ!!?」
シャワーを浴びている全身泡だらけなかすかと目が合う。驚いたかすかは、いつもの敬語が外れてしまったようで、私の姿を確認するなり、顔を真っ赤にして、股間を両手で隠した。かすかの髪からは雫がポタポタと伝っている。
「何でもないですっ! お風呂の蓋、落としただけですからッッッ! ーー出てって下さいっ!」
それを言われて、確かにお風呂の蓋が落ちている事を確認する。かすかが恥ずかしそうにしながら目を白黒とさせているので、後は、黙って浴室の扉をそっと閉めた。
ーー数十分後、シャワーを済ませ終わったかすかは、出て来たが。私に裸を見られた事が相当、嫌だったらしく、罰が悪そうで不貞腐れていた。
♡
「かすか。ごめん。ごめんって……」
私は何度もかすかに謝った。だけど、かすかは不機嫌で冷蔵庫から牛乳をコップにそそぐと、黙々と飲んでいた。
「……」
「お、大きな音がしたから、何かあったのかと思って……」
「……」
「本当にごめん」
「余計なお世話です」
「……う」
「そういうの、余計なお節介って言うんですよ」
「ごめん、なさい」
ーーどうしよう。本当に拗ねてしまっている。
困り果てた私は、ずっとかすかに謝罪し続けているが。一向にかすかの機嫌は治らなかった。かすかは、むすっとしながら、飲み終わったコップをキッチンのシンクに置くと私に敵意の眼差しを向けて、こう言い捨てた。
「ーー嫌いです」
私はそのかすかの言葉に目を見開く。じわじわとその言葉が胸の中に滲んで行き、頭の中で何度も何度も反芻した。純粋にショックだった。かすかの事は小さい頃から接して来たし、私にとってかすかは弟のような存在だったから。
かすかは、ぷいとそっぽを向く。気が付けば、視界が涙で滲んでいた。私が耐えきれず、嗚咽を微かに漏らすと、振り返るかすかはぎょっとした様子で息を飲む。
「ご、ごめんなさ……」
涙を指で拭いながら、蚊の鳴くような声でやっとそれだけ言えた。だけど、後は何て言えばいいのかが分からなかった。
「ただいまー!」
タイミング良く、帰宅したいつきの声で静寂は打ち消され、私ははっとして、バッグを取りにリビングへと戻ると、駆け足で玄関へと向かう為に廊下を出た。途中、廊下でいつきとぶつかる。私の泣き顔を見て、いつきはびっくりした顔で「ーーどうしたの?」とオロオロしていたが、私は、黙って、さいおんじ家を出た。
♡
帰宅するなり、自室のベッドに蹲るようにして声を押し殺して泣いた。ーーどうしよう。かすかに嫌われてしまった。私の事を世話焼きでお節介と言っていた。もしかしたら、かすかは私に対して、前からそう思っていて、心に秘めていたのかもしれない。
「うっ……うっ……うぅぅぅっ」
いつきからスマホに着信が入るが、私は出なかった。続いて、いつきからメッセージが入る。「ーー漫画、ありがとう」と一言だけ連絡が入っていた。
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