惡魔の序章

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けんか

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 泣きながら帰って行ってしまったよくちゃん。その後、残された僕とかすかは、リビングで話し合っていた。

「かすか。何で……よくちゃん泣いてたの……? 喧嘩でもしたの?」

「……」

「ちゃんと言わないと分からないよ? かすか」

 僕は、言い淀むかすかを真っ直ぐ見据えた。すると、かすかはたどたどしく、事情を説明をした。お風呂場で起きた経緯の事と、かすかがよくちゃんに対して、「お節介」と「世話焼き」と言った事。

「……後は? 他に何を言ったの?」

 かすかは、少し考えた後、ぽつりと罰が悪そうに呟いた。

「き、嫌いって……」

「ーー嫌い? ……かすかは、そうよくちゃんに言ったの?」

「は、はい……」

 おずおずと頷くかすかに僕は続ける。自分がいかに悪い事をしたのか分かっている風だったが。敢えて、僕はそれを口にした。

「かすかはよくちゃんの事、嫌いなの?」

 かすかは無言で首を横に振る。それを確認すると、ぼくはストレートにかすかを諭した。

「それは駄目だよ。かすか。よくちゃんは、かすかの事、本当に可愛い弟だと思って、かすかの事を可愛がってるんだから。そんなよくちゃんにとって、かすかからそんな事言われたら、どう考えても泣いたって可笑しくないよ」

「……は、はい」

「さっき、よくちゃんに電話したけど、出ないから。次、よくちゃんと会ったら絶対に謝る事。……分かった? かすか」

「はい……」

「よし。じゃあ、お母さんが仕事から帰って来る前に、頼まれてた下拵えしちゃおう。ーーかすか、手伝って?」

「はい」

 僕は、最低限、話が終えると、話題を切り替えた。かすかとキッチンに立って、料理の準備をしながらお鍋を探していると、かすかは隣に立って考え込んでいるようだった。言った手前、それはもうなかった事には出来ない。少なからず、かすかはよくちゃんを泣かした事に対して責任を感じている様子だった。

   ♡

 翌日の朝、登校する為にかすかと玄関を出ると、タイミング良く制服姿のよくちゃんが出て来た。よくちゃんは、僕達を見るなり、ぎくりとする。そうして、挨拶するだけすると、駆け足で去って行った。

「あ……」

 かすかは、蚊の鳴くような声でその場から呆然と立ち尽くし、俯いた。本当に自分は取り返しのつかない事をしてしまったのだと思ったのだろう。

「ーーかすか。大丈夫だよ。今日、学校終わったら、夜頃によくちゃん家に行こう?」

「分かりました……」

 そして、僕が帰宅してから、よくちゃんのお母さんからよくちゃんの事を聞かされる。かすかも顔面蒼白になり、言葉を失っていた。よくちゃんは、下校中、交通事故に遭って、病院に緊急搬送を聞かされたからである。
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