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あのアイドルも、あの坂道も、みんな猫!?
しおりを挟むガラガラガラ。
あんまり聞いたことのない、古くさい引き戸の音。田舎のおばあちゃん家で聞いたことあったような、少しカビくさい音が響いた。
戸が開くと、ツカツカツカと全身真っ黒い大人(らしき人)が入ってきて、教壇に立った。
周りの風景は小学校の教室っぽいのに、黒い大人の見た目や格好は学校の先生じゃない。映画「マトリックス」の主人公が着ている革の黒コートにサングラスをかけた190センチぐらいのあやしい男に見える。
普通の先生じゃない。
てゆーかこんなの先生じゃない。
鬼ごっこをして追いかけられたら足が速すぎてすぐに捕まえられて賞金が0になってしまいそうな、そんな大人に見えた。
「本校に入学されたみなさん、ようこそ、猫の学校へ」
サングラスをしているからハッキリとは見えないけど、その奥から突き刺してくるような鋭い目がうっすら見える。マジ怖い。細くするどい瞳って性格がキツそうな印象。
「ここは、皆さんがほんとうに学びたかったことを身につけることができる学校です。それはなにか?それは、、、、世界中の誰からも愛される猫に変身する技のことです」
猫に変身?
「人間とはほんとに大変で苦労する生き物ですよね。みんなに好かれる人もいれば、嫌われる人もいる。しかも嫌いなことをハッキリ言ってしまって友人関係がグチャグチャになってしまったり、嫌いだからと無視してその後の人生を狂わせてしまったり、人が嫌いすぎるがゆえ仕方なくひとりぼっちで過ごして心を壊してしまったり、、、、は~、よくそんな世界で『人間』をやってますね、みなさん。えらいです!ほんとエラいよ!」
ん?それってわたしのこと?
ちょっとだけイラっとした。そしてすぐに落ち込む。
「でも、そんな人生でいいのでしょうか?いいと思う人は、いますぐ教室を出て帰ってもらってもかまいません。しかし、ウザい人間関係から逃れて幸せな人生を送りたい人は、わたしが責任をもって、あなた方を素敵な『猫』にしてさしあげます」
「好かれたり嫌われたりする人間という生き物から、世界中の誰からも愛される猫に変身する方法をたっぷりと教えてあげましょう。それを身につければ、表情も性格も変わり、愛される人になれるはず」
「どうですか?ここで学びたいですか?
それとも…帰りたいですか?」
シーンという音がきこえてくるほど静まり返っていた。誰も声を出さない。
立ち上がる人もいない。
先生はまったく動くことなくサングラスの奥にある瞳だけをキリキリと左右に動かしながら生徒たちをながめていた。何度も何度も左右に目玉が動く。目玉だけが動く。
どれぐらい経っただろう。5分ぐらいなんの言葉も発せず、わたしたちを見ていた。もはやその緊張感から誰も動けない状態だったのかもしれない。
「…なるほど。ありがとうございます。承知しました。では、ここにいるみなさんのために一生懸命指導をしていきたいと思います。ちなみにですが、ここでお得な情報をひとつだけ紹介しておきましょうか。えーと、今、テレビで人気の女性アイドルさん、たくさんいますよね?人気のないアイドルさんもいますが、みなさんがすぐに頭に思い浮かぶめちゃくちゃ人気の女性アイドルグループのほとんどがこのスクールの出身。つまり、ここの卒業生です」
え、ウソ!?
「ウソじゃないです、ホントです。あの人も、あの女の子も、あのキャプテンも、あの坂道も。。。日本を代表する人気女性アイドルは、みんなこの学校出身でみんな人間ではなく『猫』なんです」
「あの、、、」
初めて教室内に先生とは違う声がひびいた。
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