猫は死期を悟ると家族のもとから姿を消すっていうけどその本当の意味なんて誰も知らない

太田ポーシャ

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ぼくは僕になった

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風を感じていると、めくるめくいろんなことが思い出される。

生まれてから一緒に過ごしていた
猫のママ。
黒猫だからのぼくを迎えてくれた
パパとママ。

毎年ご馳走を作ってくれた誕生日。
パパとママの間に
無理やり入って眠ったあの日。

毎日の抱っこ。
パパとママのやさしさ。
そして、涙。




ぼくが生きてきた思い出には
優しさが溢れていた。
どんなに辛いことがあっても
それを消してくれる優しさがあった。


心地よい風が涙を遠くへ飛ばしていく。

もう泣いちゃダメだ。
そう言われている気がした。
まだやらなければならないことがある。


優しさへの恩返し。
パパとママへの感謝。
猫では伝えられないありがとう。





あれから、僕はどうなったのか覚えていない。ただ、気持ちの良い時間に身を任せたまま不思議な世界を漂っていた。


気がつくと僕は公園にいた。

仔猫の頃、脱走してたどり着いた、
あの日の思い出の公園。
ほんのり覚えている。


あれ?あの男の子は?


いない。


一緒に坂道を滑っていたはずなのに。



一体、あの子はなんだったんだろう?


この数時間なのか、数日間なのか、
時間の経過も分からなくなるぐらい
不思議な出来事が洪水のように僕を飲み込み、現実の世界へと僕を運んだ。


しばらく、心の整理がつくまで
芝生の上に座ったままだったが、
思い出の公園、脱走、パパとママ…と
連想ゲームのごとく、自らの向かうべき場所が脳裏に蘇り、僕はグッと足に力を込めて立ち上がった。


いつもとは違う風景が
目の前に広がった。

地球を近くに感じた以前までとは違う風景。すれ違う人間たちが、同じ目線、
同じ視点に映り込んでくる。


ふと下を見ると、
2本の足が僕を支えていた。

2本足なのに全然不安定じゃない。

一歩踏み出すと、
軽やかに前に進んでいく。
歩く時の感覚が以前と全く違った。


どうしちゃったんだろ?


今の状況が飲み込めないまま、
僕は公園を通り抜け、よく知る道の方へ進んでいった。


目に入って来る世界が何もかも新しい。
ただ、遠い昔に味わったことがあるような。。。
いつだったっけ?
この目線、この風景、、、


あ、そうだ。


人間のパパとママに一度だけ、外にお散歩に連れて行ってもらった時だ。
最初はキャリーバッグに入っていたけど
パパが「ちょっと出してみようか」とママの反対を押し切り、僕をバッグから取り出して抱っこしてくれた。


逃げないように初めて首輪をしたのも、ちょっとだけ痛い思い出。

あの時、抱っこされた時の風景と一緒だ。パパの胸に体を預けながら恐る恐るのぞいた、初めての知らない世界。 と一緒だった。


でもいったいなぜ?



それはすぐに明らかになった。



「だれ?、僕は、ダレ?」


少しだけ近くなった空を見上げた時だった。道路脇にある鏡が目に入った。

それは幼い時に知った、
自分の姿が映る鏡。

形は丸かったが、同じように目の前のものを映し出していた。


仔猫の頃はとても不思議な壁でしかなかった。すぐそばに猫がいるのに、近づいても近づいても触れることができない。
それに、僕が右に行けば向こうの世界の猫も同じように右に行く。頭を下げれば、向こうも頭を下げる。


なんのためにコレが存在しているのか?
コレを見て、何するのか?
全くわからなかった。


しかし、意味が分からないものほど
猫にとっては格好のおもちゃになる。
僕は、飽きるまで何時間でも鏡の前で
遊んでいた。

いつか、向こうの世界に行けるんじゃないか、そう思いながら。



そんな昔の思い出がふと蘇ったが、すぐにそれは現実の違和感によって容赦なく流され、跡形もなく飲み込んで行った。


「鏡の向こうにいるのはダレ?」
「鏡の向こうの男の子は、ダレ?」
 

ぼくは、僕になっていた。


さっきの男の子が
鏡の中から、
僕を見つめていた。



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