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第一章
潜入
しおりを挟む摩天楼の影
カイロス・シティの夜は、いつもと変わらずネオンと電子音に包まれていた。空を裂く摩天楼の間をホログラム広告が踊り、スカイウェイには青白い光を放つエアカーが流れる。
「新たな進化を——シンギュラと共に」
ビルの壁面に映し出された広告が、通行人の脳内に直接プロパガンダを流し込む。
だが、この街の地下では、まったく異なる戦いが繰り広げられていた。
ナオミ・レイヴンは、廃ビルの屋上から湾岸地区を見下ろしていた。標的は、企業の極秘研究施設——《シンギュラ・コーポ》のバイオテクノロジー研究所だ。
「……予定通り進めるわよ」
ナオミは、指先から神経端子を伸ばし、腕に埋め込まれたHUDディスプレイを起動した。
《潜入ルート確認完了》
《ネットワークスキャニング開始》
義眼が青白く光る。施設のセキュリティシステムが視界に浮かび上がり、各セクションの監視ドローンの動きがリアルタイムで表示された。
「……ゼロ、そっちは?」
ナオミは小型のインナーコムをタップし、仲間のサイバーニンジャゼロに通信を送る。
「問題ない。すでに外部セキュリティは無効化した」
「クロム、そっちは?」
「監視ドローンの一部は排除したが、あと三機ほど残ってる。慎重に行け」
クロムは元企業兵士。軍用義眼に組み込まれた戦闘支援AIが、即座に戦況を分析しているはずだ。
ナオミは頷くと、ビルの縁に手をかけ、静かに飛び降りた。
影に紛れる者たち
着地音を最小限に抑え、彼女は即座に壁際の陰へと身を隠す。施設の入り口には二体のガードドローンが警戒態勢に入っていた。
「ゼロ、頼むわよ」
「了解」
ビルの影から、一瞬だけ黒い影が揺らめいた。
——次の瞬間、ドローンのセンサーが一斉に異常を検知する。
「——異常検出、識別不能——」
だが、言葉を発する間もなく、ドローンの首元にナノブレードが突き刺さる。精密な一撃がシステムをシャットダウンし、二機のドローンは沈黙した。
ゼロは血のように赤い光を放つ義眼をナオミに向け、短く頷いた。
「これで第一関門はクリアだ」
ナオミはフードを深く被り、建物の暗闇へと足を踏み入れた。
データを求めて
施設内部は冷たい蛍光灯に照らされ、無機質な空間が広がっていた。
「サーバールームは地下2階……急ぎましょう」
ナオミは壁際を慎重に進み、神経端子を壁のアクセスパネルに接続する。
《ハッキング開始……進行率:12%》
「……早くしろ」クロムが背後を警戒しながら言う。「巡回警備が来る」
ナオミの視界にコードが流れ、システムを次々と解除していく。
《進行率:65%》
「……あと少し……」
だが、その時——警報が鳴り響いた。
「——侵入者発見!セキュリティプロトコル起動!」
ナオミは舌打ちし、コードを強制展開する。
《進行率:98%…99%……完了》
「成功したわ!」
「だが、敵が来る!」クロムが叫ぶ。
廊下の向こうから、企業兵士が武装ドローンを引き連れて現れた。
「——撃て!」
銃声が響く。
脱出と裏切り
「ゼロ、こっちだ!」
ナオミが走り出す。クロムは後方で応戦し、銃弾が飛び交う中、彼らは屋上へと向かった。
「ナオミ、飛び乗れ!」
クロムがエアバイクを起動し、ジェットエンジンが轟く。
だが、その瞬間——
銃声が響いた。
ナオミが振り返ると、ゼロが銃を構えていた。
「悪いな、ナオミ……俺も生き延びなきゃならねぇんだ」
クロムがナオミを突き飛ばし、彼の肩に弾丸がめり込む。
「チッ……!」
ナオミは即座にポケットのデータチップを握りしめ、ゼロを見据えた。
「……裏切り者ね」
ゼロは冷たく笑う。「これがこの世界のルールだよ」
だが、ナオミはすぐにプログラムを起動した。
——ゼロの神経リンクをハックする。
「——なっ……!」
ゼロの義体が痙攣し、動きが止まる。
「……さよなら」
ナオミはエアバイクに飛び乗り、クロムを引き上げると、そのまま夜のカイロス・シティへと消えていった。
逃亡と覚醒
「クソッ……肩が……」クロムが痛みに顔を歪める。
「まだ死んでないでしょ?」ナオミがバイクを操縦しながら苦笑する。
手には、企業の極秘データが詰まったチップがあった。
「……企業の闇を暴く時が来たわ」
カイロス・シティのネオンが、彼らを照らしていた——。
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