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第三章
亡霊の銃口
しおりを挟む再会と銃声
ナオミの義眼が捉えたのは、かつての仲間——いや、今や《シンギュラ・コーポ》の戦闘マシンとなったゼロの姿だった。
漆黒の戦闘スーツに身を包み、無表情の顔の下で冷たく光る義眼。彼の目は、以前のような鋭い意思を失い、ただ企業の命令に従う機械のような冷徹な輝きを放っていた。
「……ゼロ」
ナオミの喉が震えた。
だが、彼は応えない。
——代わりに、銃を向けてきた。
「データを返せ。さもなくば、殺す」
まるで感情が欠落したような声。
「……冗談でしょ?」クロムが苦々しく笑う。「お前、何をされちまったんだ?」
ゼロは答えない。
——次の瞬間、銃声が響いた。
「っ!」
ナオミとクロムは即座に飛び退き、背後の金属製の棚が弾丸で穴だらけになった。
「チッ……!」クロムが素早くカバーに身を隠しながら叫ぶ。「もう説得する時間はねぇぞ!」
「……分かってる!」
ナオミは奥歯を噛み締めた。
ゼロが変わったのは、彼女のせいだ。
彼女が企業からデータを盗み出したせいで、ゼロは捕まり、彼らの「兵器」に作り変えられてしまったのだ。
《シンギュラ・コーポ》の極秘技術——「神経再構築プログラム」
それは、意識を部分的に書き換え、企業の忠実な兵士へと変えるシステム。
「ゼロ……今のあなたは、本当のあなたじゃない……!」
ナオミは叫んだ。
「……関係ない」
ゼロは無感情に銃を構える。
「任務を遂行する」
激闘
「仕方ねぇ……!」
クロムがライフルを構え、ゼロに向かって撃ち込んだ。
だが——
——ゼロの動きは、異常だった。
弾丸が当たる瞬間、彼の体が残像のように揺らぎ、次の瞬間には別の場所に立っていた。
「——!? 遅延予測回避か?」
クロムが驚愕する間に、ゼロは一気に間合いを詰め、鋭い蹴りを放つ。
「ぐっ……!」
クロムが壁に叩きつけられ、床に崩れ落ちる。
「クロム!」
ナオミは瞬時に判断し、ゼロの神経ネットワークをハッキングしようとした。
——だが。
《アクセス拒否》
ナオミの視界に赤いエラーメッセージが走る。
「……くそっ、完全防壁……!」
ゼロの神経系には、ナオミのハッキングを防ぐ特殊なファイアウォールが仕込まれていた。
ゼロは、もはやナオミの能力では止められない存在になっていた。
「終わりだ、ナオミ」
ゼロがナノブレードを展開し、一気に間合いを詰める。
——その瞬間。
「……悪いが、まだ終わらせねぇぞ!」
クロムが床を転がりながら、ゼロの膝に至近距離で弾丸を撃ち込んだ。
——ガキィン!
ゼロの義体が一瞬、バランスを崩す。
「今よ!」
ナオミはその隙を逃さず、彼の体に向かって強制リブートコードを発動した。
《強制シャットダウン——開始》
ゼロの体が痙攣し、システムが暴走を起こす。
「ぐっ……!」
ゼロが片膝をつき、頭を抱える。
「ゼロ……! 思い出して……!」
ナオミは必死に彼に語りかける。
「あなたは、企業の道具じゃない……! 私たちの仲間だった……!」
ゼロの義眼が、一瞬だけ揺れた。
「……ナ……オ……ミ……?」
「そうよ! 私よ!」
「……っ……」
ゼロの顔が一瞬だけ苦悶に歪む。
——だが、その直後。
《システムリカバリー完了》
ゼロの義眼が、再び冷たい光を取り戻した。
「……再起動完了。任務続行」
「クソッ……!」
ナオミは歯を食いしばる。
ゼロは完全に支配されていた。
このままでは、彼を助けることはできない——。
「……撤退するわよ!」
ナオミはクロムを引き起こし、奥の非常出口へと向かった。
「このまま逃げるのか?」クロムが歯を食いしばる。
「ゼロを助けるには、時間が必要よ!」
ゼロはすぐに追ってくるだろう。
ならば、今は撤退し、別の方法を探すしかない——。
「……ゼロ、必ずあなたを取り戻すから」
ナオミはそう呟き、セーフハウスを飛び出した。
背後では、ゼロが無言で銃を構え、静かに追跡モードに入っていた。
カイロス・シティのネオンが、彼らの行く先を照らしていた——。
新たな戦いへ
逃走するエアバイクの上で、ナオミはデータチップを見つめた。
「……これを使えば、ゼロを取り戻せるかもしれない」
企業のデータには、ゼロの洗脳プログラムの情報も含まれているはずだった。
「……シンギュラの本社に潜入する必要があるな」クロムが肩の傷を押さえながら言う。
「ええ……」
「だが、それは……一番ヤバい賭けになるぞ」
「……わかってる」
ナオミは深く息を吐いた。
ゼロを取り戻すため——そして、企業の闇を暴くため。
——次の戦場は、《シンギュラ・コーポ》の本社ビル。
戦いは、まだ終わらない——。
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