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一章 始まりの街

3 厄介事の匂い

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「そういえば『疾走』スキルがあったな……」

 自分が獲得したスキルを思い出しながら言う。MAPを確認して街の位置を確認すると、オレは剣が暴れないよう手で固定しながら走り出した。

「おおぉ!」

 思わず声が漏れる。
 今オレは、風のように走り出していた。周りの景色が過ぎ去っていく。

 今なら高速の車とでもいい勝負が出来るだろう。
 現在のAGIを確認すると、20ほど増加されていた。

 『解析眼』で確認すると、自身のレベルに『疾走』のスキルレベル×自身のレベルをかけた数値をAGIに増加する効果だった。
 オレのスキルレベルはⅩだから、最低でも10増加される計算になる。補正系スキルはオレと相性が良いのだろう。
 補正分も合わせ、たかが40でこれほど違うのだ。レベルが上がれば一体それはどれ程のモノだろう。

 そう考察している内に、ものの数分で街道に出て、段々と街が近付いてきた。スピードを抑えて、街の城壁が見える頃には歩いた。

 流石にあの速度で街へ向かったら、不審者やモンスターと捉えられかねない。身分証も持たない状態で問題を起こすのは拙いだろう。

 街へ向かって歩いていくと、城門が見えて来た。
 数台の馬車が並び、冒険者のような風貌の者も数人居る。門では数人の門兵が荷台の検査や検問を行っていた。

 潔く最後尾に並び、自分の順番を待つ。

 暫くすると、オレの順番がやって来て質問をされた。


「次!身分証を出せ」
「申し訳ありませんが、持ち合わせていません」

 笑みを顔に貼り付けて言う。あの日・・・から、自分すらも偽ってきた表情、簡単に見抜けるものでは無い。

【『偽表情ポーカーフェイス』Ⅷを獲得】

 それに同調するように、高レベルで習得された『偽表情ポーカーフェイス』。今までの生活で大量の経験値が溜まっていたんだろう。
 とりあえずⅩまでSPスキルポイントを割り振っておく。

「ッチ!付いて来い……」

 あからさまに門兵は嫌な顔をして、聞こえるように舌打ちをしてからついて来るよう伝える。
 流石に表情を崩さずとも、来るものがあるな。

 確かに門兵からしてみれば、身分証を持ち合わせていないのは面倒以外の何者でもない。

 特に何も言わず門兵に付いていく。着いた先は、小さな石造りの関所だった。

 中に入ると、地下へ続く階段と小さな机と椅子が置かれている。

 MAPを確認すると、敵表示の赤い光点が地下には数体表示されていたので、簡単な留置所も兼ねているのだろう。

「席に座れ」

 門兵は高圧的な態度で話し掛けて来る。オレは外面の良い口調で話をする。

「失礼します」
「ダルメアノの街へ入る目的は何だ?」
「冒険者になるためです」

 あらかじめ決めておいた設定通りに話す。事前に冒険者なる雑用からモンスターを倒す職業があることは聞いていた。
 ちなみに『ダルメアノ』とは、この街の名称である。

 門兵は会話の記録を紙へ移しながら再度質問をする。

「名前と年齢を言え?」
「エノクと申します。歳は15です」
「犯罪歴は?」
「ありません」
「出身は何処だ?」
「恐れながら捨て子で、人里離れた老夫婦の元で暮らしていました。その老夫婦も今年、亡くなったため街へ出てきました」

 そう言うと、門兵は少し驚いたように目を見張った。

「てっきりどこぞの没落した貴族の三男かと思ったぞ……」

 小さな声で門兵がそう呟いた。確かにこの口調なら間違われても違和感が無いな。門兵が面倒臭がるのも分かる気がする。
 そう考えると、この口調も考えものだ。
 しかし一先ずはこの口調のまま押し通そう。

「分かった、仮身分証の発行に大銅貨三枚だ」

 オレは頷くと、懐から取り出すように見せて、ストレージから大銅貨三枚を出して渡す。
 門兵は大銅貨を受け取ると、何か書かれた木の板をを渡してくる。

「これが仮の身分証だ。7日間滞在できる、延長したかったら街の役所に行って手続きをしろ。無くすなよ」
「ありがとうございます」

【『ルーテリア王国語』Ⅰを獲得】

 ……あっぶな!
 完全に失念していた。確かに異世界なのだから言語が違うのは当たり前だ。転生神が上手く言葉は話せるようにしてくれたのだろう。
 『偽表情ポーカーフェイス』がなければ表情に出ていたかも知れない。さっき上げておいて良かった。

 素早く『ルーテリア王国語』をⅩまで上げる。スキル名から察するにこの国の名はルーテリア王国というのだろう。今後地理の勉強をしておいた方が良いだろう。
 先程の板をもう一度確認すると、「身分証仮発行滞在7日」と書かれていた。

「何処かのギルドに登録すれば身分証の代わりになる。滞在制限も無くなるから早く登録する事だな」

 門兵は嫌そうな顔をしつつも、案外面倒みが良いのかも知れない。さらっと重要な情報を教えてくれた。

「ご丁寧にありがとうございました」

 そう言ってオレは席を立つ。

「面倒事を起こすんじゃねえぞ」

 そう乱雑に門兵は言うと、また仕事に戻って行った。
 オレは関所から出ると、街へ入った。


 城壁の中には、流石異世界。ファンタジーな光景が広がっていた。

 石造りや木造が主流の建物が建ち並び、コンクリートの建物など一つもない。建物は基本的低く、最大で3階ほどまでだ。中世ほどの文明だろうか。
 人々の服は麻のような生地で出来ており、着心地は悪そうだ。人種も様々で、背の低いドワーフ、耳や尻尾が生えた獣人など様々だ。
 髪の色も青や赤などが普通にある。あれで染めてないのだから凄い。

 オレは目をキラキラさせながら街並みを歩いていたが、ふと当初の予定を思い出す。

 先程の戦闘で適当な布と着替え、武器の手入れ品が必要なことが分かった。あと身分証と職を手に入れるためにも、冒険者ギルドに登録もしないと。
 それに今晩の宿が必要だ。

「やることがたくさんあるな……」

 オレはそう呟くと、まずはMAPでギルドの位置を確認して歩き出した。





◇◆◇◆◇





 冒険者ギルドの前に着くと、その建物に少し驚いた。
 周囲の建物の三倍は大きい木造の建物に、看板には剣と杖が交わり、その中央に盾があるエンブレムが書かれていた。
 両開きの木の扉を開けて中に入る。ギルドは酒場も兼任しているのか、むせ返るような酒の匂いが漂ってきた。

 オレはカウンターに目を向けると、迷いなくそちらへ向かう。途中、依頼が貼り付けてあるボードに目が行きそうになったが、我慢した。
 今日は依頼を受けるつもりは無い。

 幸い受付は混んでおらず、順番を待つことも無かった。

「本日のご用件は何でしょうか?」
「冒険者の登録をお願いします」

 あれから考えたが、結局口調はそのままにする事にした。受付嬢は少し眉を動かしたが、そのまま対応を続けた。

「ではこちらの用紙に必須事項をお書きください。代筆は必要ですか?」
「いえ、大丈夫です」

 そう言って受付嬢は一枚の紙を出す。そこには名前や年齢、出身や使う武器やスキル、魔法などの欄があった。
 代筆を聞くということは、この世界の識字率は低いのだろうか?

 幸いにして名前と年齢以外は必須事項では無いので、出身は書かず使う武器を片手剣と記入して提出する。

「エノクさんですね。こちらが冒険者ギルドの証となります」

 受付嬢はオレが書いた用紙を見ながら、銅色のプレートを取り出し何かを書くと、そのプレートをオレに渡してきた。

 そこには名前と年齢、武器が明記されており、その隣に大きくFというアルファベットが刻まれている。

「冒険者の決まりを簡単に説明させていただきます。まずはランクについてです。ランクは下から順にF、E、D、C、B、A、Sという順番になっています。
 このランクが上がることによって特権が付いたり、受けられる依頼が増えたりします。逆にランクが足りない場合は受ける事ができない依頼がありますので注意してください。依頼を失敗すると違約金が発生するため、それもお気をつけください。
 次に規則についてですが、冒険者間での決闘は基本的ギルドは口を出しません。しかし死亡者が出た際は殺した方のギルドの証を剥奪させて頂きます。また一般人に危害を加えた場合、通常よりも重罪が下されますのでお気をつけください」

 長々とした説明だったが、大体理解できた。

「なるほど、わかりました」

 オレは礼を言い、その場から立ち去ろうとすると受付嬢から呼び止められた。

「エノクさん!待ってください!」
「どうしました?」

 オレは振り返ると、受付嬢は二冊ほど冊子を渡してきた。

「これは文字の読める方に無料配布している冊子です。冒険者の細かい規則と、魔物の討伐証明部位が記載されています」
「ああ、それはご親切にどうもありがとうございます」

 討伐証明部位というのはよく分からなかったが、とりあえずは受付嬢に礼を言い冒険者ギルドを後にした。





 冒険者ギルドを後にしたオレは、大通りに来ていた。途中、路地裏に入り、最低限の武装を残し残りをストレージへと仕舞った。次は買い物だ、堅苦しい格好をしなくても良いだろう。

 買い物では幸い、持ち物の上限を気にしなくて良いが、周りを見る限り、オレのようにストレージを使っている者は見なかった。

 怪しまれない為にも、フェイクに鞄を一つほど買う必要があるだろう。

 近くの雑貨屋に入り、手頃な鞄といくつかの切れ布を手に取って受付へ向かう。受付の人は優しそうなお婆さんだった。

「これを下さい」
「はいよ、イケメンなお兄ちゃんだねぇ。銀貨一枚と大銅貨一枚だけど、銀貨一枚と銅貨五枚に負けちゃうわ」
「それはありがとうございます、ついでにこれも下さい。綺麗なお姉さん」

 『偽表現』で適当なお世辞を並べながら、もう一つ棚にあった飴の瓶のような物をカウンターに置いた。

「まぁ嬉しい、合わせて銀貨一枚と銅貨七枚よ」

 お婆さんは口元を綻ばせながら言う。オレはコートの懐から取り出す振りをしつつ、ストレージから銀貨ニ枚を取り出し渡した。

「お釣りは大銅貨九枚と銅貨三枚ね」
「ありがとうございます」

 オレは鞄を受け取り、飴の瓶を鞄に仕舞いながらお釣りを受け取った。
 なるほど、銅貨十枚で大銅貨一枚、大銅貨十枚で銀貨一枚か。恐らくは銀貨十枚で金貨一枚だろうか?
 オレはそう考えながら店を出る。ちなみに鞄は革製で、肩から下げる手提げ型だ。

【『交渉』Ⅰを獲得】
【『値切り』Ⅰを獲得】

 便利そうなスキルを獲得できたので、とりあえずⅩまで振っておく。
 鞄の中に一応大銅貨数枚と銅貨数枚を入れておく。これくらいの文明ではスリも多いだろうからね。

 それから数件店を周り、旅の保存食品や生活必需品を買い集める。出費は銀貨二枚と大銅貨四枚ほどだ。上手く『交渉』や『値切り』が発動してくれた。
 着替えを部屋着と装備の下に着るインナーを数着、黒などの地味めな色の物で買った。

 後は装備の手入れ品かな?
 MAPを確認していくつかの武器屋と防具屋を確認する。
 どの店に行こうか悩んでいると、何やら言い争っている声が聞こえる。

「やめて下さい、離して!」
「良いじゃねぇかよ、ちょっとそこまでだ」
「もしかしたら夜までかかるかもなぁ」
「ギャハハ!ちげぇねぇ……」

 金髪のオレと同じ歳ほどの少女が、三人の柄の悪い青年に囲まれていた。

 さて、これはどうするべきだろうか。
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