【スキルコレクター】は異世界で平穏な日々を求める

シロ

文字の大きさ
9 / 36
一章 始まりの街

9 黒狼

しおりを挟む



 西の森へは、ものの一分ほどで到着した。
 いや、この表現は正しく無い、一分で辿りつけてしまったことが異常なのだ。ダルメアノの街からここまで、約15キロもある。
 オレの今のAGIは80、それに『疾走』分の70を付け足せばAGIは150となる。
 この数値は本来、人間が辿り着ける領域では無いのだ。街の人々を解析していて分かった。オレはこの世界で相当強い人物となっている。ししてこのスキルによる補正分は異常の一言に尽きた。
 今現在、オレが獲得しているステータス補正のスキルはSTRの『怪力』、VITの『堅牢』、先程も使ったAGIの『疾走』だ。これらの上昇値の計算は一律で、スキルレベル×自身のレベルだ。
 よって、STR、VIT、AGIは全て70加算されている計算になる。最早超人の類だ。
 一応、力などは調節ができるため、不用意に物を壊したりなどすることは無い。

 だが、レベルが上がるにつれより力は強力になっていくだろう。しかしそれは問題ではない、むしろ歓迎すべき状況だ。生きていく上での、危険が減る。
 問題なのは権力者たちのこの力がバレること、権力者たちはこの力を利用しようと躍起になるのが目に見えている。そうした際に相応の立場や後ろ盾があるとありがたい。
 しかし今すぐにどうにかなる問題でもない。今はバレてしまっている訳でもないのだし、追々解決していけば良いだろう。

 課題を棚上げしながら、オレは森へ足を踏み入れた。

 鬱蒼と生い茂る森の木々、何処か遠くから狼の遠吠えのような物が聞こえてくる。普通なら不気味と表現するだろう。
 そんな中オレは迷わず森を突き進む。

 念の為、『罠察知』も発動しながら進んだ。草原では、INTが僅かながらに高いゴブリンが罠を使ってきたからな。
 罠といっても、子供が作ったような稚拙な手口で、偽装が甘い小さな落とし穴の横で身構えていただけだったが。
 そうして奥へ進んで行くと、一つの赤い光点がMAPの中でこちらに近づいて来ていた。

「ガウウゥゥ!」

 唸る声を上げながら飛び出てきたのは一匹の赤毛の狼。
 ステータスには『レッドウルフ』と書かれている。何とも安直なネーミングセンスだ。

 オレは足下の落ち葉を蹴り上げると同時に、『神隠しの面』を被る。

「ガ、ガウゥル!?」

 落ち葉が落ち切ったとき、レッドウルフはオレを完全に見失っていた。
 『視覚遮断』、『体温遮断』、『音遮断』、『匂い遮断』、『気配遮断』。さまざまな効果を発揮させた仮面を前に、レッドウルフはなすすべが無かった。

「《瞬閃》」

 オレはレッドウルフの背後へ回り込むと小太刀を掴み、新たなアーツ《瞬閃》を発動させる。体から魔力と思われるモノが抜けていく感覚が感じられる。
 MPのバーに目をやると、15ほど減っていた。しかしオレからして見れば微々たるもの。何度でも発動できる。
 小太刀は一瞬の閃光と同等の速さで進み、レッドウルフの首を抵抗無く切り落とした。
 レッドウルフは自分の身に何が起きたか分からぬまま、その命を散らした。

【経験値を獲得】
【刀アーツ《瞬閃》Ⅰを獲得】

 獲得したアーツのレベルを素早く上げる。
 大分モンスターの討伐にも慣れてきた。このまま続けていけるだろう。
 手早くレッドウルフから剥ぎ取りを行っていく。レッドウルフからは9等級の魔石が取れた。
 保有魔力は50程なので、オレにとってはそれほど役に立つものではない。

 レッドウルフの討伐証明部位は牙だ。死後硬直により固まった口をなんとか開け、尖った牙を剥ぎ取る。

【『解体』Ⅰを獲得】

 とあるスキルの獲得ログが流れ、思わずオレは呟いた。

「ようやくか……」

 今まで討伐したモンスターの剥ぎ取りを行う際、どうしても初心者故か、手元が狂い綺麗に剥ぎ取れない事がある。
 今後、もしもっと高価なモンスターの剥ぎ取りを失敗したら泣くに泣けない。それを無くすためにも、このスキルの獲得は急務だった。
 早速レベルを上げて、レッドウルフの解体を行う。

 実はレッドウルフは、食用のモンスターなのだ。とは言っても、この世界に居る奴隷と呼ばれる存在の食用らしい。
 肉は固く、獣臭いため一般人は好んでは食べない。

 しかし奴隷は人権の中で最下位に位置する。最低限命の保証はされるが、それだけだ。殺したとて、そこまでの罪は課されない。
 暴力を振るわれても、何をされても文句を言う事は許されない。主人の命令は絶対になってしまう。
 反乱が起きそうなモノだが、それはあり得ない。
 魔導具の『隷属の枷』をつけられる。主人の命令に逆らうと枷は締め付けられ呼吸が出来なくなり、最終的には意識を落とされる。死ぬ事は許されない。

 現代日本人が聞けば胸糞が悪くなるような話だが、オレはズレているのかあまりそうは思わない。寧ろ、それで社会が回っているのだから良いとさえ思える。
 オレの能力は多くの人に話せるモノでは無い。それこそ、絶対的に信用出来る人物か、奴隷かだ。奴隷はオレが話すなといえば、話す事は絶対に無い。
 もし人手が足りないような事があれば、奴隷を買うのも一つの手だろう。無論、違法奴隷などは以ての外だがな。

 そんな事を考えながら、レッドウルフの解体を終える。辺りを見ると、少し血が飛び散っていた。これでは血の匂いに釣られ、襲ってくるモンスターも居るかも知れない。
 次はそういった事も考えながら解体をしよう。

 オレはダガーに付いた血と脂を布で拭き取り、簡単に武器を手入れしてから、また次の獲物を探し始めた。





「お、これって使えるか?」

 足下に生えていた紫色の斑点のある、見るからに毒々しい草を解析してオレは言った。
 この草の名は『パラルシ草』、毒草だ。効果は麻痺、体内にこの毒が入ったら数時間は痺れが消えないらしい。

 オレがこれを利用して思い付いた作戦とは、針にこの毒を付着させ、仮面で遮断しながら気付かれる事なく投擲する。
 そうして毒が周り、痺れた相手に止めを刺せば危険はゼロに等しくなる。
 オレが求める狩りは命と命を削り合う冒険ではない、死の危険がない相手を圧倒するだけの絶対的な蹂躙だ。

 そうと決まれば行動は早かった。ストレージに入った深皿を取り出し、パラルシ草を入れる。そこら辺に落ちていた適当な棒を持って来て、深皿の中のパラルシ草を磨り潰すように擦っていく。途中、水も少量加えたりした。

 ペースト状になるまで磨り潰すと、何とも言えない物体になっていた。紫色のドロドロした謎物質、何か変な匂いがでいる。

【『毒調合』Ⅰを獲得】
【条件のクリアを確認】
【職業[暗殺者]Ⅰを獲得】

「なるほど、普通の職業も獲得は可能か」

 流れるログを見つつ、オレはそう呟いた。
 先程手に入れたスキルと関連付けながら、職業の取得条件を思案した。
 恐らく[暗殺者]に必要な条件は『暗殺』と『毒調合』は確定として、後は『気配遮断』や『急所感知』などだろうか。
 その職業と関係のあるスキルやアーツを獲得すれば、職業の条件を満たすのだろう。

 そう結論を出すと、今後は職業を集める事も視野に入れる事にした。職業を獲得すると、ステータスに書かれている表示以外にも、若干の補正が掛かる。体感だから、上手くは言えないが確実に職業を手に入れることで変わることはあるはずだ。
 引き続きスキルなどを集める他に、職業も集める事を視野に入れつつ毒作りを再開する。

 先程手に入れた『毒調合』のスキルレベルを最大のⅩまで上げる。
 すると、頭の中にどうすれば毒の効果が上がるかなど、いろいろなアイデアが浮かんで来た。
 そのアイデアに従い、オレは森であるモノを探す。

 それはすぐに見つかった。

「あったあった」

 オレが探したモノ、それはファイ薬草だ。先程の毒と、4:1の割合で混ぜる。
 薬は時に毒になるというが、正にそれだ。ファイ薬草の成分が4:1の割合で混ぜると、パラルシ草の毒効果を助長させる。
 じっくり混ぜていくと、何故か段々と濃い青色になってきた。匂いは特に無い。

 本来ならこれを少し火で煮たいのだが、今コンロのような便利なものは持っていない。火魔法らしきものがあれば何か違うのかもしれないが。
 無い物ねだりをしても仕方がないので、今はこのまま使う事にする。
 ざっと200ミリリットル程だろうか。また後で作り置きはするとして、今は十分な量だ。
 針の先に毒を漬け、保存用の器へ移し替えるとポーチへと戻す。

 残すは実践のみ、オレは片付けを手早く行うとまたモンスターを探し始めた。今度は『探知』でファイ薬草とパラルシ草も並行して探しておく。

 森の奥地へと、オレは足を進めた。


【『潜伏』Ⅰを獲得】
【レベル7→9UP!】





 木の影から、レッドウルフたちの様子を伺う。
 五体の群れだ、一頭だけその群れのリーダーなのか大きいレッドウルフがいた。
 ステータスを確認すると、その種族名は『ブラッドウルフ』と表示されている。レッドウルフの上位種だろうか?

 仮面を付け全てを遮断すると、針を片手で三本持ち投擲を構えた。木漏れ日から針が毒で怪しく光る。

「ッッふ!」

 その一息と共に、針は手から投擲され狙い通り三体のレッドウルフに刺さった。
 一体は脚の付け根、もう一体は首元、そして最後の一体は頭に突き刺さり、運良く絶命したようだ。
 毒が体に周り、針の刺さったレッドウルフは地面へ倒れ込んだ。

「グルアァア!?」

 ブラッドウルフと残ったレッドウルフたちは周囲を警戒し、その場を飛び退く。
 針が飛んで来た方を注視しているが、オレの姿を確認できてはいない。
 オレは小太刀とダガーを取り出し、近接戦闘へ切り替える。

 動けなくなったレッドウルフらを、姿勢を低く走りながら首を斬り命を断つ。
 そのままブラッドウルフたちに接近した。
 何が起きているのか把握しきれていないブラッドウルフに、小太刀で横薙ぎの払う。

「グウアァァ!」

 反応仕切れていないと思っていたブラッドウルフは、急に体制を低くして小太刀を避けた。それどころかオレの懐へ入り、一撃を加えんと噛み付いてきた。

「くッ」

 ダガーでその衝撃を抑えつつ、後ろへ飛び回転しながら退いた。
 こちらを睨んではいるが、その焦点は微妙に合っていない。
 どうやら足下の草の沈み具合で位置を把握しているようだ。なかなかの強敵で、少し驚く。
 ステータスはオレの半分にも満たない程度、だがそれにはない強さがこのブラッドウルフにはあった。

 どうやらこれは、この世界初の戦闘になりそうだ。
 仮面の中でオレは、人知れず少しだけ笑みを浮かべた。




しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

毒舌アイドルは毒の魔物に転生する。

馳 影輝
ファンタジー
毒舌を売りにして芸能界で活躍できる様になった。 元々はアイドルとしてデビューしたが、ヒラヒラの衣装や可愛い仕草も得意じゃ無かった。 バラエティーの仕事を貰って、毒舌でキャラを作ったらこれがハマり役で世間からのウケも良くとんとん拍子で有名人になれた。 だが、自宅に帰ると玄関に見知らぬ男性が立っていて私に近づくと静かにナイフで私を刺した。 アイドル時代のファンかも知れない。 突然の事で、怖くて動けない私は何度も刺されて意識を失った。 主人公の時田香澄は殺されてしまう。 気がつくとダンジョンの最下層にポイズンキラーとい魔物に転生する。 自分の現象を知りショックを受けるが、その部屋の主であるリトラの助言により地上を目指す。 ダンジョンの中で進化を繰り返して強くなり、人間の冒険者達が襲われている所に出くわす。 魔物でありながら、擬態を使って人間としても生きる姿や魔王種への進化を試みたり、数え切れないほどの激動の魔物人生が始まる。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

処理中です...