【スキルコレクター】は異世界で平穏な日々を求める

シロ

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一章 始まりの街

11 ギルドマスター

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 この世界『オリージネ』に来て五日目の朝が訪れた。今日は生憎の曇り空に、何やら不穏な予感がする。

 昨日の朝の冒険者ギルド内を思い出し、早めに行く事を早々に諦める。どうせ今のオレの敏捷を考えれば、移動の時間は無いに等しい。
 少しくらい依頼の受注が遅れたところで、その程度の遅れなぞすぐに取り戻せる。
 ゆっくりと今朝は朝食を食べ、優雅なティータイムへと移行する。お供として、残りページが少なくなってきた冊子を読み耽った。

 冊子を読み終えた頃には、丁度良い時間帯になっている。今日もまた、昼食を受け取ると冒険者ギルドへ向かった。


 冒険者ギルドへ着くと、一先ず依頼が貼られている掲示板を確認する。
 今はDランク冒険者まで上がったので、受注できる依頼の幅も増えた。良く見て吟味して行く。

 どうやらDランクからは、護衛依頼といった内容のモノも増えて行くらしい。しかしオレからすれば、長時間拘束されるだけで旨味も少ない。ただ狩りをしていた方が稼げるレベルだ。
 なるべく護衛依頼は受けるつもりは無い。

 Dランク冒険者が狩れるモンスターの依頼を確認していると、受付嬢の視線が背中に突き刺さっている事を感じた。
 振り返って確認すると、受付嬢はオレを凝視している。
 何やらオレに話し掛けるか悩んでいるようだ。十中八九、その原因は昨日のブラッドウルフの件だろう。
 何時まで経っても話し掛けて来ないので、こちらから行くことにした。

「受付嬢さん、どうしましたか?」
「…あ、エノクさん。昨日は本当に申し訳ありませんでした。いくら信じられなかったとはいえ、盗みを疑った事は不快だったと思われます」
「いえいえ、過ぎた事ですし構いませんよ。それで、先程から見つめられていましたが、何か用事でも?」

 そう言って先程の視線の意味を問うと、受付嬢は顔を赤く染め俯き、ばつが悪そうにした。

「気付かれていましたか。実は先日のランクアップの件で少し」

 それをきっかけに、受付嬢は喋り出した。

「本来ランクアップには、簡単な試験があります。今回の場合に関しては、ブラッドウルフを討伐した事により特例でランクアップが認められましたが、やはり試験は必要ではないかとの声も上がりました」

 これは――きな臭い展開になって来たようだ。
 確かに試験が必要なのは理解できる。力を過信した冒険者が、無茶をして死ぬ確率を減らす為だろう。だが、一度認めた相手にやっぱりやろうとは虫が良すぎないか?

「今時間があれば、直ぐにでも試験を受ける事ができます。どうです?しませんか?」
「いえ、今日は少し予定がありまして――」

 そう言って逃げようとすると、ガシッと受付嬢に手を掴まれた。

「どうか!どうかお願いします!本来の試験よりはずっと簡単にしか行いませんので!!」
「嫌です、面倒臭いです」

 必死にお願いしてくるが、こちらとて面倒事は御免だ。
 優しく受付嬢の手を振り解こうとしていると、カウンターの奥から、一人の初老の男性が現れた。

 見上げるほどの背丈に、筋肉隆々の逞しい体。髪は短く切り揃えられ、顔には大きな爪痕らしき傷跡が残っている。元は赤であったであろう髪も、白髪が目立ち始めているが、それでも歳を感じさせない肉体の若々しさがある。紅の双眼は輝きを失っていなかった。

「お前さんか?昨日ブラッドウルフを狩ってFからDランクに上がったていう冒険者は?」

 素の迫力に、思わず驚く。ついつい気になり、『解析眼』で彼のステータスを確認した。

名前:ゴルーダル
年齢:57歳
種族:人族
職業:重戦士Ⅵ 気纏士Ⅶ
称号:一騎当千 武に生ける者 ドラゴンスレイヤー 鬼人
LV53
HP2,134/2,134
MP1,420/1,420
STR175 VIT162 AG83
INT76 DEX92 LUK41
アーツ
大剣:クラッシュⅥ 一剣豪斬Ⅶ 破壊斬Ⅳ エクスプッシャーⅡ 乱刃奮迅Ⅲ
斧:ブレイクⅢ 豪快波斬Ⅱ 奮刃剛健Ⅰ
拳:掌底Ⅲ 剛破拳Ⅱ 柔壊拳Ⅱ
スペル
身体能力強化フィジカルアップⅣ 重圧プレッシャーⅢ  瞬歩Ⅲ
スキル
武術:大剣術Ⅶ 斧術Ⅳ 拳術Ⅳ 気纏法Ⅴ 魔纏法Ⅳ 闘気Ⅳ 鬼人化Ⅳ 見切りⅢ 回避Ⅲ 歩法Ⅱ
魔法:魔力操作Ⅱ 魔力感知Ⅰ 無魔法Ⅲ
便利:鑑定Ⅱ
補正:怪力Ⅱ 堅牢Ⅱ
技能:威圧Ⅴ 敵察知Ⅲ 気配察知Ⅴ 危機察知Ⅳ 罠察知Ⅰ 気配隠蔽Ⅲ
耐性:毒耐性Ⅱ 麻痺耐性Ⅰ
ユニークスキル
武術の寵愛
[SP53]

ㅤ一般人はレベルが一桁台が普通なこの世界で、レベル50代というありえないような数値の彼。そして何より、初めて見たオレ以外のユニークスキル持ちの存在、職業を二つ所持する者。『偽表情ポーカーフェイス』を使い何とか隠すが、それでも動揺を隠せない。
 基礎値は、HPなどを筆頭とした物理系に限るが、オレのステータスすら越えている。スキルも他の冒険者に比べると、非常に多い部類だ。
 眉をピクリを動かし、ゴルーダルを見つめる。受付嬢も驚いて急に現れた彼を見つめていた。

「な、何でギルドマスターである貴方がここへ居るんですか!?」

 受付嬢の言葉を聞き、やはりと思う。これだけの実力者でありながら、ただの人という訳はなかった。
 オレは目付きを鋭くし、観察するようにゴルーダルを見る。
 彼はオレを値踏みするように全身を観察する。一通り見ると、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

「へえ、なかなかヤりそうな奴だな」

 どうやらゴルーダルは戦う気が満々らしい。

「おい坊主、今から訓練場へ来い」
「拒否権は――」
「ない」

 拒否権の確認をしたが、食い気味に断られてしまった。受付嬢に助けを求めるべく視線を向けるが、伏目がちに逸らされた。
 体から発せられるオーラが、諦めてくれと語っているようだ。

 冒険者ギルドには、初心者や熟練者問わず使える訓練場がある。自身のコンディションや使える魔法、アーツなんかを試すためだ。そしてそこは、試験会場としても使われる。

 ゴルーダルはこちらの気を知らず、上機嫌に訓練場の方へと消えていった。
 受付嬢に確認を取るが、やはり行かねばならないとの事。手加減はしてくれるとは言っているが、あれは良い獲物を見つけた時の目だった。
 気が思いやられるが、渋々ゴルーダルのあとに続いて訓練場へと向かう。





 訓練場へ着くと、ゴルーダルは軽い準備体操をして待ち構えていた。
 近くには、彼の身長ほどもある大剣が突き刺さっている。刃は潰されているようだが、あの質量の金属の塊を食らったらひとたまりもない。やはり今からでも辞退できないだろうか?

 辺りを見渡すと、訓練場を使っていた人物がチラホラと興味深そうにこちらを見ている。まあ、ギルドマスターと明らかに見覚えのない初心者が一緒に来たらそれは注目もするか。

「準備運動は良くしておけよ、体を壊すからな」

 そう促されたので、軽くストレッチを行う。

「武器はお前さんの自前のものでも構わんが、こちらから支給もできるぞ?どうする?」
「借りてもよろしいですか?」
「分かった」

 ゴルーダルは受付嬢を呼び出すと、倉庫から支給品を持って来させるように言う。態々自分の武器を痛めるまでも無い。
 小太刀の型の武器は珍しかったようで、支給品には置いていなかった。仕方なく短剣を二振り用意してもらい、軽く振って具合を確かめる。
 どうやらこれにも、『二刀流(亜種)』は機能するようだ。

 素振りをして軽く手にも馴染んだので、早速試験を始めることにする。やるからには全力だ。この世界で初めての格上の相手、出し惜しみすれば負ける。
 戦うからには勝たねば。気合を入れる。ステータス補正のスキルを発動した。
 審判はどうやら受付嬢が行うらしい。簡単なルール説明が成される。

「今回は異例ながら、エノクさんのDランク冒険者への昇給試験となります。本来ならば両者事故に気を付けるべきと忠告を入れるのですが、今回は相手がギルドマスターなので問題ないでしょう」

 チラッとゴルーダルに視線を向ける。
 巨大な大剣であるはずのそれを、彼は軽々振り回していた。ステータス的に考えると、おそらくあれはオレにもできるのだろう。
 そのシュールな光景に、人知れず溜息が漏れた。

「さて、そんじゃヤるか」

 ゴルーダルは大剣を正眼の構えをとる。オレも短剣を逆手に持ち、全身の力を抜くという我流の構えを取った。戦闘で試していた際、一番次の行動が取りやすかった構えだ。

 そんなオレに、ゴルーダルは小首を傾げる。

「その構えで大丈夫か?」
「はい構いません、我流なので気にしないで下さい」

 『精神苦痛耐性』も発動させ、一切の甘さも捨てる。頭がスッと軽くなり、目付きも鋭くなる。変わった雰囲気に気付いたのか、ゴルーダルも気を引き締めた表情をする。
 気を取り直して、受付嬢が試験開始の合図を言う。

「それでは、Dランク昇格試験開始!!」

 受付嬢の声が響くと同時に、ゴルーダルが嬉々として突っ込んできた。
 どう見ても、そんじょそこらの初心者に対する目ではない。明らかに良い獲物として見ている。紅い目が爛々と輝いていた。
 先程、受付嬢に暗に手加減をしろと言われた事をもう忘れたのだろうか。
 大振りの大剣をオレは紙一重で避ける。速さはそれほどでは無いが、一撃の重さが凄まじい。周囲の空気を巻き込んで振られている。
 いくら刃が潰されているとはいえ、これでは重傷を免れないだろう。
 全力で回避する。

【解析完了】
【『大剣術』Ⅶを獲得】
【『回避』Ⅰを獲得】

 便利そうなスキルも獲得できたようだ。それにしても、『解析眼』って相手が保有しているスキルレベルのままスキルを獲得できるのか。
 今までは相手のスキルレベルがⅠばかりで気が付かなかった。

 早速手に入れたスキルを上げようとするが、それをゴルーダルが許すはずも無い。

「ッぬん!!」

 振り下ろしたはずの大剣を、筋肉を盛り上げ地面すれすれで止める。それどころか、大剣をそのまま振り上げ、切り上げてきた。
 オレは何とか短剣を用いて大剣の軌道を逸らす。
 『怪力』も発動させているはずだが、重すぎる。勢いを完全には殺し切れない。切り上げられる勢いを利用し、後ろへ回りながら距離を取った。

「へぇ、あれも凌ぐか。いいねぇ」

 その戦闘に飢えたような獰猛な顔付きは、猛禽類を彷彿とさせる。
 未だ手首の痺れが消えていない手を何度か握って感覚を確かめる。

 オレもまた、口元に笑みを浮かべていた。
 周囲の人々は驚愕で満ちている。

「なんじゃあれ……見えなかったぞ」
「それにあの新人、防ぎやがった」
「…何者だ?」

 訓練場の人々が皆口々に噂をし始めた。受付嬢も驚愕している。

「さあ、仕切り直して始めようか」

 ゴルーダルがそういうと、オレは支給品の武器を深く握り直した。




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