お前は、ヒロインではなくビッチです!

もっけさん

文字の大きさ
17 / 181
幼少期

王妃様に媚を売ろう

しおりを挟む
 アンダーソン侯爵夫人にチョコレートを托して、王家からチョコレートの催促が来たので王妃にしか渡さないスタンスを取りました。
 だって陛下や王子・寵姫に渡してもメリットがないんだもの。
 王妃教育のために来ていたアンダーソン侯爵夫人が、
「チョコレートのお陰で、王妃様の発言権も力が付いてきましたの」
と報告がきた。
「陛下とはどうですか?」
「以前よりは良い関係を築いているようですよ。お出し出来る数が限られているから、毎晩のように王妃様のお部屋を訪れているようですわ」
 ほうほう、それは良いことだ。
 チョコレートを横流しする数も制限しているので、二日に一度一粒食べれるくらいに調整している。
 食べ過ぎは体に悪いしね。
 政務で神経をすり減らしている陛下に、甘いチョコレートを出して癒す妻という構図を態々作り上げたのだ。
 甘えるだけの寵姫よりも献身的な正妃に心を揺り動かされてもおかしくはない。
「では、次の段階に行きましょう。新しいお酒を造っておりまして、チョコレートに合うと我が家の料理番のお墨付きを頂きました」
 手を叩くと、アリーシャが薔薇の透かし彫りを入れたワイングラスを運んできた。
 アリーシャは、アンダーソン侯爵夫人の前にワイングラスを置き部屋の隅に立っている。
「どうぞ、試飲して下さいませ」
 アンダーソン侯爵夫人は、ワイングラスを持ち香りを嗅ぐと首を傾げた。
「白ワインかと思ったのだけど、別の香りがするわね」
「はい、それは米という穀物から作られた清酒ですわ」
 この世界では雑草の分類に入っていたので、庭で見つけた時は小躍りしたと同時に地面をバンバン叩いたのは黒歴史である。
「米ねぇ。聞かない名前だわ」
 まあ、この世界では雑草だしね!
「麦とは違った穀物で御座います。新芽のような爽やかな香りが特徴で、角のない口当たりに芳醇な味わいが楽しめるお酒です」
「……リリアン様、お酒を飲んだのですか?」
「舐める程度ですよ。私が指示を出して試験的に作らせたものです」
 米を発見した時に酒を一番最初に思い浮かべたんだよ!
 ワインとか飲めないが、未知の酒なら飲めるチャンスがあると思って監修という名のもとに試し飲みした。
 本当に舐める程度しか飲ませて貰えなかったのは不服だが、全く飲めないよりはマシと思うことにしている。
「チョコレートを食べながら飲んでみて下さい」
 アンダーソン侯爵夫人は、チョコレートを食べた後に日本酒を一口含みカッと目を見開いた。
 チョコレートと日本酒を交互に食べては飲んでいる。
「あ、あの…アンダーソン夫人?」
「はっ! 私としたことが……んんっ、失礼しました。これは癖になる味ですわね。ほろ苦いチョコレートを引き立たせるお酒ですわ。他の料理にも合うのではないかしら」
「合う料理は沢山あるでしょうが、何分試作段階なので改善の余地があるのですよ」
 あくまでチョコレートに合う酒を造ったので、料理に合う酒は別物になる。
 食に煩いのは元日本人の性だからだろうか。
「これでも十分完成度は高いわ」
「そのお酒は、敢えてチョコレートに合うように作ってあります。料理用の日本酒は模索中なのです。王妃様が甘いお酒をお好みになられるなら、果実酒もご用意しております。こちらもチョコレートの味を邪魔しないように調整しておりますのでどうぞ」
 アリーシャに視線を送ると、ワゴンから切子硝子に注がれた梅酒を出した。
 魔法で作った氷が入っているので、解けることもなく常に冷えて味が薄まる心配もない自慢の一品だ。
「こちらは飴色なのね。とても食欲をそそる香りだわ」
「梅の実を使って作りました。梅酒と言います」
「梅の実は薬よ」
「はい。美味しい薬で御座いましょう?」
 梅を見つけた時は、梅酒作成と一緒に梅シロップと梅干しも作って出来上がりを待っている。
 出した梅酒もまだまだ漬けておきたいものではあるが、お酒に関して好みが分かれるので二通りを作ってみたのだ。
「リリアン様は、変わったことを考えますのね。これも前回と同じで良いのかしら?」
「はい、お願いします。王妃様以外には献上いたしません」
「貴女は何を企んでいるのかしら?」
 探るような目で私を見るアンダーソン侯爵夫人に、私は満面の笑みで言った。
「是非とも王妃様にお世継ぎを生んで頂きたいのですよ。正直、殿下に期待出来るものがないのです。正室の子が有能であればあるほど、アルベルト殿下の評判は落ちるでしょう。あのまま成長したら暴君になります。挿げ替えられますよ?」
 誰にとは言わないでおくと、その言葉の意味を理解したアンダーソン侯爵夫人は成るほどと頷いている。
「この入れ物も素晴らしいわね。見たことがない模様だわ」
「そう仰ると思って用意しております」
 アリーシャが桐箱を持ってアンダーソン侯爵夫人の前に置いた。
 桐箱には割物・逆様注意を漢字で書き、大公家の花押を小さく彫ってある。
 中には先ほどの薔薇のグラスと切子硝子の二セットが入っている。
「王妃様宛の献上品で御座います」
「本当にどこまでも徹底しているわね」
 下手なことは言えないのでニッコリと笑みだけ作る。
「貴女の思惑は王妃様にお伝えしても?」
「ええ、結構ですよ」
 むしろ伝えてくれたまえ、とは言わない。
「分かりました。これらは、わたくしが預かり必ずお渡し致しますわ」
「よろしくお願いします」
 王妃教育係なのに、今は私と王妃の連絡係になりつつあるアンダーソン侯爵夫人。
 彼女は多分、私の思惑に気付いているんだろうなぁと思いつつも口には出さない賢い人だ。
 これで王妃様が懐妊してくれれば、私の株も上がるなと細く笑みを浮かべた。
しおりを挟む
感想 98

あなたにおすすめの小説

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

【完結】16わたしも愛人を作ります。

華蓮
恋愛
公爵令嬢のマリカは、皇太子であるアイランに冷たくされていた。側妃を持ち、子供も側妃と持つと、、 惨めで生きているのが疲れたマリカ。 第二王子のカイランがお見舞いに来てくれた、、、、

【完結】結婚して12年一度も会った事ありませんけど? それでも旦那様は全てが欲しいそうです

との
恋愛
結婚して12年目のシエナは白い結婚継続中。 白い結婚を理由に離婚したら、全てを失うシエナは漸く離婚に向けて動けるチャンスを見つけ・・  沈黙を続けていたルカが、 「新しく商会を作って、その先は?」 ーーーーーー 題名 少し改変しました

【完結】お飾りではなかった王妃の実力

鏑木 うりこ
恋愛
 王妃アイリーンは国王エルファードに離婚を告げられる。 「お前のような醜い女はいらん!今すぐに出て行け!」  しかしアイリーンは追い出していい人物ではなかった。アイリーンが去った国と迎え入れた国の明暗。    完結致しました(2022/06/28完結表記) GWだから見切り発車した作品ですが、完結まで辿り着きました。 ★お礼★  たくさんのご感想、お気に入り登録、しおり等ありがとうございます! 中々、感想にお返事を書くことが出来なくてとても心苦しく思っています(;´Д`)全部読ませていただいており、とても嬉しいです!!内容に反映したりしなかったりあると思います。ありがとうございます~!

断罪前に“悪役"令嬢は、姿を消した。

パリパリかぷちーの
恋愛
高貴な公爵令嬢ティアラ。 将来の王妃候補とされてきたが、ある日、学園で「悪役令嬢」と呼ばれるようになり、理不尽な噂に追いつめられる。 平民出身のヒロインに嫉妬して、陥れようとしている。 根も葉もない悪評が広まる中、ティアラは学園から姿を消してしまう。 その突然の失踪に、大騒ぎ。

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

処理中です...