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幼少期
馬鹿王子の魔法対策
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自室に戻りファーセリアを呼んだ。
「ファーセリア、少し話がしたいんだけど」
「何だ愛し子。我は本を読むのに忙しいのだ」
ファーセリアは、ベッドの上で器用に足を使ってページを捲っている。
「大事な話だから、本から離れて頂戴。うっかり燃やされたら困るのよ」
私の言葉に何か不穏なものを感じたのか、私のところまで飛んできた。
私の頭を足場にしてくる辺り、確実に下に見られているな。
「頭に乗るのは辞めて頂戴。火傷したらどうするのよ」
「我の意思で燃やそうと思わぬ限り燃えぬわ」
「良いから降りろ」
むずんとファーセリアの胴を掴んで頭から降ろす。
「それで要件は何だ?」
「結論から言うわ。アルベルトは陛下の実子ではないから、普通に魔法が使えるのよ」
「我としたことが、直系だけでなく傍系にも呪いをかけるべきだったか…」
熱くはないが体積が徐々に大きくなるファーセリアを床に下ろす。
「私までも使えなくなるから止めて頂戴。貴方のお陰でアルベルトが、托卵された子だと判明したことは感謝しているわ。アルベルトが私に決闘を挑んだ時に魔法を使ってくれたものだから、一部の人間には魔法が跳ね返らないことがバレてるの。今は、内包している魔力を吸い上げて城の結界の動力にしている」
「それはそれで愉快なことだが、話の本題は違うのではないか?」
「順を追って説明しないと話が繋がらないでしょう。本題は、これから話すわ。アルベルトは、魔法を使えば跳ね返ることを知らないのよ。伝える前に使われてしまったのは私の落ち度よ。アルベルトが魔法を使おうとした時に、同じ魔法をアルベルトにぶつけて欲しいのよ」
「それは燃えたゴミの愚息がファイアボールを望んだら、ファイアボールをぶつけても良いということか?」
「端的に言えばそうなるわね。私の魔力を使って良いから、下級精霊達にやらせて欲しいのよ」
暗にお前は手を出すんじゃねぇぞと釘を刺すと、ファーセリアが不愉快そうに睨んできた。
「火の魔法に関しては、我でも問題ないと思うが?」
「今、焼死体を作られたら困るのよ。アレの命は、この国の物よ。搾れるだけ搾り取って寿命が来る時には、ファーセリアにあげるから、その時にでも燃やしなさい」
卒業までは虫よけをして貰わねば、直ぐに次の婚約者を宛がわれてしまうのは避けたい。
「軽く炙る程度なら文句はなかろう」
食い下がってくるファーセリアに、私は頭の中でメリットとデメリットを天秤にかける。
「ヒールで綺麗に治せる程度であれば良いわ」
「聊か不満ではあるが、まあ良かろう。下級精霊には、我から伝えておく」
「じゃあ、お願いね」
ファーセリアは、話は済んだとばかりに机の上に飛び乗って本の続きを読んでいる。
これで一応、魔法に関する偽装工作の段取りは取りつけた。
魔法の実技訓練を誤魔化してやらせなかったから、ここらでガス抜きする必要があるだろう。
ちゃんと神言の勉強をしていたなら、訓練場に連れて行っても良いかもしれない。
机の上に詰まれた未決済の書類に目を通しながら、仕事を片付けていく。
仕事に没頭していたら、ユリアが私を呼びに来た。
「お嬢様、アルベルト様がお呼びです」
「今、仕事中なんだけど。要件は?」
「渡された本を解読したから、さっさと添削しろと仰られ護衛達も困っております」
面倒臭いと思ったが、ここで拒否をしたらアルベルトの癇癪が起こるのは必至だ。
私は、大きな溜息を吐いて書類を机の引き出しに仕舞い席を立った。
「ユリア、向かうから付いてきなさい」
「はい」
私は、ユリアを連れてアルベルトが滞在する客室へと足を運んだ。
部屋に近付くにつれてアルベルトの罵倒が聞こえてくる。
本当に私が傍に居ないと、家人に好き勝手暴言を吐くのだから質が悪い。
ドアを勢いよく開けると、アルベルトの暴言が止んだ。
「殿下、わたくしの使用人達にそのような暴言を吐くのはお止めになってと何回言わせるのかしら? 品位が疑われましてよ」
「初級の神言文字も分からない無能を叱責していただけだ」
「彼らは教職者ではありません。普通に従事していれば、神言文字とは殆ど無縁なのですよ。神言文字を使うのは、魔法省の者達か魔法の研究者だけですわ」
「なら、俺が学ぶ必要はないだろう!」
「魔力を持った者の義務ですわ。そして、貴族は魔力があろうが無かろうが学ぶ義務があります。知らなかったでは済まないのですよ」
魔法は使い方次第で国を繁栄させることも、滅亡させてしまうことも出来る。
扱い方次第では、希望にも絶望にもなる代物だということに何故気付かない。
「わたくしの家に仕える者達へ暴言は一切お止め下さいませ。精霊達が苛立っておりますの。これ以上は、流石のわたくしも止められませんわ。わたくしが、添削致しますので少しお待ちくださいませ」
下級精霊達は、アルベルトを囲んで物騒なことを言っている。
主に『殺っちゃう?』『水攻め』『火炙り』『切り刻む』『埋める』の五つだ。
殺る前にどれで制裁を下すか喧嘩している。
殺したらダメよと念を送ると、ブーイングが起きた。
気持ちは分かるが、ここで死なれたら色々と問題があるから止めてくれ。
アルベルトの解いた答えを添削し終えて返すと、顔を真っ赤にしている。
「何だこれは! 殆ど修正されているぞ」
「間違った答えを書かれてましたので直しました。ちゃんと先生の話を聞いてないから間違えるんですよ。実技が出来れば問題ないとふざけたことを宣うなら教育的指導をしなければなりませんわね」
グッと拳を握りしめて見せると、サッと顔を逸らされた。
多分思ってたんだろうな。
口に出さないだけでも、ちょっとは成長したようだ。
「まずは、文字を覚えるところからですよ」
平仮名の書き取りを夕飯まで延々とやらせた。
手が痛いとほざいていたが、腱鞘炎になるまでやれと言うと黙った。
先が思いやられるなと大きなため息が漏れた。
「ファーセリア、少し話がしたいんだけど」
「何だ愛し子。我は本を読むのに忙しいのだ」
ファーセリアは、ベッドの上で器用に足を使ってページを捲っている。
「大事な話だから、本から離れて頂戴。うっかり燃やされたら困るのよ」
私の言葉に何か不穏なものを感じたのか、私のところまで飛んできた。
私の頭を足場にしてくる辺り、確実に下に見られているな。
「頭に乗るのは辞めて頂戴。火傷したらどうするのよ」
「我の意思で燃やそうと思わぬ限り燃えぬわ」
「良いから降りろ」
むずんとファーセリアの胴を掴んで頭から降ろす。
「それで要件は何だ?」
「結論から言うわ。アルベルトは陛下の実子ではないから、普通に魔法が使えるのよ」
「我としたことが、直系だけでなく傍系にも呪いをかけるべきだったか…」
熱くはないが体積が徐々に大きくなるファーセリアを床に下ろす。
「私までも使えなくなるから止めて頂戴。貴方のお陰でアルベルトが、托卵された子だと判明したことは感謝しているわ。アルベルトが私に決闘を挑んだ時に魔法を使ってくれたものだから、一部の人間には魔法が跳ね返らないことがバレてるの。今は、内包している魔力を吸い上げて城の結界の動力にしている」
「それはそれで愉快なことだが、話の本題は違うのではないか?」
「順を追って説明しないと話が繋がらないでしょう。本題は、これから話すわ。アルベルトは、魔法を使えば跳ね返ることを知らないのよ。伝える前に使われてしまったのは私の落ち度よ。アルベルトが魔法を使おうとした時に、同じ魔法をアルベルトにぶつけて欲しいのよ」
「それは燃えたゴミの愚息がファイアボールを望んだら、ファイアボールをぶつけても良いということか?」
「端的に言えばそうなるわね。私の魔力を使って良いから、下級精霊達にやらせて欲しいのよ」
暗にお前は手を出すんじゃねぇぞと釘を刺すと、ファーセリアが不愉快そうに睨んできた。
「火の魔法に関しては、我でも問題ないと思うが?」
「今、焼死体を作られたら困るのよ。アレの命は、この国の物よ。搾れるだけ搾り取って寿命が来る時には、ファーセリアにあげるから、その時にでも燃やしなさい」
卒業までは虫よけをして貰わねば、直ぐに次の婚約者を宛がわれてしまうのは避けたい。
「軽く炙る程度なら文句はなかろう」
食い下がってくるファーセリアに、私は頭の中でメリットとデメリットを天秤にかける。
「ヒールで綺麗に治せる程度であれば良いわ」
「聊か不満ではあるが、まあ良かろう。下級精霊には、我から伝えておく」
「じゃあ、お願いね」
ファーセリアは、話は済んだとばかりに机の上に飛び乗って本の続きを読んでいる。
これで一応、魔法に関する偽装工作の段取りは取りつけた。
魔法の実技訓練を誤魔化してやらせなかったから、ここらでガス抜きする必要があるだろう。
ちゃんと神言の勉強をしていたなら、訓練場に連れて行っても良いかもしれない。
机の上に詰まれた未決済の書類に目を通しながら、仕事を片付けていく。
仕事に没頭していたら、ユリアが私を呼びに来た。
「お嬢様、アルベルト様がお呼びです」
「今、仕事中なんだけど。要件は?」
「渡された本を解読したから、さっさと添削しろと仰られ護衛達も困っております」
面倒臭いと思ったが、ここで拒否をしたらアルベルトの癇癪が起こるのは必至だ。
私は、大きな溜息を吐いて書類を机の引き出しに仕舞い席を立った。
「ユリア、向かうから付いてきなさい」
「はい」
私は、ユリアを連れてアルベルトが滞在する客室へと足を運んだ。
部屋に近付くにつれてアルベルトの罵倒が聞こえてくる。
本当に私が傍に居ないと、家人に好き勝手暴言を吐くのだから質が悪い。
ドアを勢いよく開けると、アルベルトの暴言が止んだ。
「殿下、わたくしの使用人達にそのような暴言を吐くのはお止めになってと何回言わせるのかしら? 品位が疑われましてよ」
「初級の神言文字も分からない無能を叱責していただけだ」
「彼らは教職者ではありません。普通に従事していれば、神言文字とは殆ど無縁なのですよ。神言文字を使うのは、魔法省の者達か魔法の研究者だけですわ」
「なら、俺が学ぶ必要はないだろう!」
「魔力を持った者の義務ですわ。そして、貴族は魔力があろうが無かろうが学ぶ義務があります。知らなかったでは済まないのですよ」
魔法は使い方次第で国を繁栄させることも、滅亡させてしまうことも出来る。
扱い方次第では、希望にも絶望にもなる代物だということに何故気付かない。
「わたくしの家に仕える者達へ暴言は一切お止め下さいませ。精霊達が苛立っておりますの。これ以上は、流石のわたくしも止められませんわ。わたくしが、添削致しますので少しお待ちくださいませ」
下級精霊達は、アルベルトを囲んで物騒なことを言っている。
主に『殺っちゃう?』『水攻め』『火炙り』『切り刻む』『埋める』の五つだ。
殺る前にどれで制裁を下すか喧嘩している。
殺したらダメよと念を送ると、ブーイングが起きた。
気持ちは分かるが、ここで死なれたら色々と問題があるから止めてくれ。
アルベルトの解いた答えを添削し終えて返すと、顔を真っ赤にしている。
「何だこれは! 殆ど修正されているぞ」
「間違った答えを書かれてましたので直しました。ちゃんと先生の話を聞いてないから間違えるんですよ。実技が出来れば問題ないとふざけたことを宣うなら教育的指導をしなければなりませんわね」
グッと拳を握りしめて見せると、サッと顔を逸らされた。
多分思ってたんだろうな。
口に出さないだけでも、ちょっとは成長したようだ。
「まずは、文字を覚えるところからですよ」
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