お前は、ヒロインではなくビッチです!

もっけさん

文字の大きさ
68 / 181
幼少期

馬鹿王子の魔法対策

しおりを挟む
 自室に戻りファーセリアを呼んだ。
「ファーセリア、少し話がしたいんだけど」
「何だ愛し子。我は本を読むのに忙しいのだ」
 ファーセリアは、ベッドの上で器用に足を使ってページを捲っている。
「大事な話だから、本から離れて頂戴。うっかり燃やされたら困るのよ」
 私の言葉に何か不穏なものを感じたのか、私のところまで飛んできた。
 私の頭を足場にしてくる辺り、確実に下に見られているな。
「頭に乗るのは辞めて頂戴。火傷したらどうするのよ」
「我の意思で燃やそうと思わぬ限り燃えぬわ」
「良いから降りろ」
 むずんとファーセリアの胴を掴んで頭から降ろす。
「それで要件は何だ?」
「結論から言うわ。アルベルトは陛下の実子ではないから、普通に魔法が使えるのよ」
「我としたことが、直系だけでなく傍系にも呪いをかけるべきだったか…」
 熱くはないが体積が徐々に大きくなるファーセリアを床に下ろす。
「私までも使えなくなるから止めて頂戴。貴方のお陰でアルベルトが、托卵された子だと判明したことは感謝しているわ。アルベルトが私に決闘を挑んだ時に魔法を使ってくれたものだから、一部の人間には魔法が跳ね返らないことがバレてるの。今は、内包している魔力を吸い上げて城の結界の動力にしている」
「それはそれで愉快なことだが、話の本題は違うのではないか?」
「順を追って説明しないと話が繋がらないでしょう。本題は、これから話すわ。アルベルトは、魔法を使えば跳ね返ることを知らないのよ。伝える前に使われてしまったのは私の落ち度よ。アルベルトが魔法を使おうとした時に、同じ魔法をアルベルトにぶつけて欲しいのよ」
「それは燃えたゴミの愚息がファイアボールを望んだら、ファイアボールをぶつけても良いということか?」
「端的に言えばそうなるわね。私の魔力を使って良いから、下級精霊達にやらせて欲しいのよ」
 暗にお前は手を出すんじゃねぇぞと釘を刺すと、ファーセリアが不愉快そうに睨んできた。
「火の魔法に関しては、我でも問題ないと思うが?」
「今、焼死体を作られたら困るのよ。アレの命は、この国の物よ。搾れるだけ搾り取って寿命が来る時には、ファーセリアにあげるから、その時にでも燃やしなさい」
 卒業までは虫よけをして貰わねば、直ぐに次の婚約者を宛がわれてしまうのは避けたい。
「軽く炙る程度なら文句はなかろう」
 食い下がってくるファーセリアに、私は頭の中でメリットとデメリットを天秤にかける。
「ヒールで綺麗に治せる程度であれば良いわ」
「聊か不満ではあるが、まあ良かろう。下級精霊には、我から伝えておく」
「じゃあ、お願いね」
 ファーセリアは、話は済んだとばかりに机の上に飛び乗って本の続きを読んでいる。
 これで一応、魔法に関する偽装工作の段取りは取りつけた。
 魔法の実技訓練を誤魔化してやらせなかったから、ここらでガス抜きする必要があるだろう。
 ちゃんと神言しんごんの勉強をしていたなら、訓練場に連れて行っても良いかもしれない。
 机の上に詰まれた未決済の書類に目を通しながら、仕事を片付けていく。
 仕事に没頭していたら、ユリアが私を呼びに来た。
「お嬢様、アルベルト様がお呼びです」
「今、仕事中なんだけど。要件は?」
「渡された本を解読したから、さっさと添削しろと仰られ護衛達も困っております」
 面倒臭いと思ったが、ここで拒否をしたらアルベルトの癇癪が起こるのは必至だ。
 私は、大きな溜息を吐いて書類を机の引き出しに仕舞い席を立った。
「ユリア、向かうから付いてきなさい」
「はい」
 私は、ユリアを連れてアルベルトが滞在する客室へと足を運んだ。
 部屋に近付くにつれてアルベルトの罵倒が聞こえてくる。
 本当に私が傍に居ないと、家人に好き勝手暴言を吐くのだから質が悪い。
 ドアを勢いよく開けると、アルベルトの暴言が止んだ。
「殿下、わたくしの使用人達にそのような暴言を吐くのはお止めになってと何回言わせるのかしら? 品位が疑われましてよ」
「初級の神言しんごん文字も分からない無能を叱責していただけだ」
「彼らは教職者ではありません。普通に従事していれば、神言しんごん文字とは殆ど無縁なのですよ。神言しんごん文字を使うのは、魔法省の者達か魔法の研究者だけですわ」
「なら、俺が学ぶ必要はないだろう!」
「魔力を持った者の義務ですわ。そして、貴族は魔力があろうが無かろうが学ぶ義務があります。知らなかったでは済まないのですよ」
 魔法は使い方次第で国を繁栄させることも、滅亡させてしまうことも出来る。
 扱い方次第では、希望にも絶望にもなる代物だということに何故気付かない。
「わたくしの家に仕える者達へ暴言は一切お止め下さいませ。精霊達が苛立っておりますの。これ以上は、流石のわたくしも止められませんわ。わたくしが、添削致しますので少しお待ちくださいませ」
 下級精霊達は、アルベルトを囲んで物騒なことを言っている。
 主に『殺っちゃう?』『水攻め』『火炙り』『切り刻む』『埋める』の五つだ。
 殺る前にどれで制裁を下すか喧嘩している。
 殺したらダメよと念を送ると、ブーイングが起きた。
 気持ちは分かるが、ここで死なれたら色々と問題があるから止めてくれ。
 アルベルトの解いた答えを添削し終えて返すと、顔を真っ赤にしている。
「何だこれは! 殆ど修正されているぞ」
「間違った答えを書かれてましたので直しました。ちゃんと先生の話を聞いてないから間違えるんですよ。実技が出来れば問題ないとふざけたことを宣うなら教育的指導をしなければなりませんわね」
 グッと拳を握りしめて見せると、サッと顔を逸らされた。
 多分思ってたんだろうな。
 口に出さないだけでも、ちょっとは成長したようだ。
「まずは、文字を覚えるところからですよ」
 平仮名の書き取りを夕飯まで延々とやらせた。
 手が痛いとほざいていたが、腱鞘炎になるまでやれと言うと黙った。
 先が思いやられるなと大きなため息が漏れた。
しおりを挟む
感想 98

あなたにおすすめの小説

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

【完結】16わたしも愛人を作ります。

華蓮
恋愛
公爵令嬢のマリカは、皇太子であるアイランに冷たくされていた。側妃を持ち、子供も側妃と持つと、、 惨めで生きているのが疲れたマリカ。 第二王子のカイランがお見舞いに来てくれた、、、、

【完結】結婚して12年一度も会った事ありませんけど? それでも旦那様は全てが欲しいそうです

との
恋愛
結婚して12年目のシエナは白い結婚継続中。 白い結婚を理由に離婚したら、全てを失うシエナは漸く離婚に向けて動けるチャンスを見つけ・・  沈黙を続けていたルカが、 「新しく商会を作って、その先は?」 ーーーーーー 題名 少し改変しました

【完結】お飾りではなかった王妃の実力

鏑木 うりこ
恋愛
 王妃アイリーンは国王エルファードに離婚を告げられる。 「お前のような醜い女はいらん!今すぐに出て行け!」  しかしアイリーンは追い出していい人物ではなかった。アイリーンが去った国と迎え入れた国の明暗。    完結致しました(2022/06/28完結表記) GWだから見切り発車した作品ですが、完結まで辿り着きました。 ★お礼★  たくさんのご感想、お気に入り登録、しおり等ありがとうございます! 中々、感想にお返事を書くことが出来なくてとても心苦しく思っています(;´Д`)全部読ませていただいており、とても嬉しいです!!内容に反映したりしなかったりあると思います。ありがとうございます~!

断罪前に“悪役"令嬢は、姿を消した。

パリパリかぷちーの
恋愛
高貴な公爵令嬢ティアラ。 将来の王妃候補とされてきたが、ある日、学園で「悪役令嬢」と呼ばれるようになり、理不尽な噂に追いつめられる。 平民出身のヒロインに嫉妬して、陥れようとしている。 根も葉もない悪評が広まる中、ティアラは学園から姿を消してしまう。 その突然の失踪に、大騒ぎ。

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

処理中です...